第160話 親
状況は先にエルガが話してくれていたらしく、集まったみんなは状況をある程度把握してくれていた。
あとはヴィーさんが言っていたラタトスクについて語ると、レイナが凄まじい怒りを見せる。
「そう……そいつのせいでスノウが……」
まるで料理をしているときのような険しい気配。
最初はレイナと一緒に怒りを見せていたティルテュとカティマが、涙目で助けを求めるように俺を見る。
「まあラタトスクに関してはヴィーさんに任せて、俺たちはスノウが戻ってきたときに寂しくないように、待って上げよう」
「そう、ね。スノウ、泣いてないかしら……」
「大丈夫なのだ! ああ見えてスノウは結構強いからな!」
「うん……スノウ様は大精霊様だし、それに一緒に他の大精霊様たちも一緒だから大丈夫」
レイナを慰めるようティルテュとカティマ。
「ありがとう」
そんな気持ちが伝わったのか、レイナも優しく微笑んだ。
「そういえば、カティマってハイアールヴだけど、ハイエルフの里に来てもいいの?」
「……まあ、あんまりいい気はしないしされないだろうけど、スノウ様の一大事だからな」
「そっか」
とはいえ、先ほどの言葉を聞く限り大精霊様に思うことがあるわけではないみたいだ。
どちらかというとハイエルフに対して気まずさがあったりするんだろうな。
それも不快感とは違う、ずっと会っていなかった親戚と会うような、そんな気分か。
なんて思っていると、ブリュンヒルデさんがハイエルフを引き連れてやって来る。
「お父上、そろそろ大精霊様たちが……なぜそいつがいるのですか?」
「「あっ……」」
そいつら、と複数形で呼ばれて反応したのはカティマとティルテュ。
しかし実際にブリュンヒルデさんが睨んでいるのはティルテュだけで、カティマのことはそこまで意識していないようにも感じる。
関係が良くないというだけあって、他のハイエルフたちが少し気まずそうな顔をしたくらい。
ティルテュに関しては……。
以前世界樹の蜜をハイエルフから奪い取ったというだけあって、やはり見つかりたくなかったっぽい。
ブリュンヒルデさんや他のハイエルフの人たちの瞳も、カティマよりティルテュに向いていて、やっぱりかなりお互い気にしてたんだ。
「す、スノウを迎えに来ただけだぞ! なんだ! 文句があるならかかってくればいいじゃないか!」
「ティルテュ。言わなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
「世界樹の密を奪ってごめんなさいなのだ!」
俺の一言で流れるように謝れるのは偉い。
ブリュンヒルデさんもあまりに自然な掌返しにキョトンとしたあと、怒りの行き場を失ってちょっと困った顔をしている。
他のハイエルフたちも同じような顔だ。
謝った相手にこれ以上追求するような人たちでもないようで、小さく溜め息を吐くと視線をカティマに移した。
「そちらのハイアールヴもですか?」
「うん。スノウ様はカティマの大切な人だから」
「……我らが交じることはもうないと思っていましたが……こういうこともあるんですね。いいでしょう。ここでお父上とともにスノウ様を待つことを許可します」
「ありがとう」
カティマの言葉が固い。まるで出会ったときのようだ。
逆にブリュンヒルデさんの声は普段より熱を帯びているようで、やはりお互いなんとなく溝があるのは間違いないらしい。
両方と関わっている俺としては、二人とも良い人だし本当は仲良くして欲しいけど……きっと色々とあったのだろうな。
今すぐじゃなくても、いずれみんなでお酒を持ちながら騒げたらいいな。
「それに、そちらは……」
彼女は一瞬、エディさんを見て反応する。
以前会ったときは世界樹の件で焦ったりもしていたからちゃんと見れていなかったのだろう。
「私のことは気にしなくて良い。レイナの付き添いだからな」
ブリュンヒルデさんはその言葉になにかを言いかけ、言葉を止める。今言うべきことじゃないと判断したみたいだ。
「それで、そろそろスノウが戻ってきそうなですか?」
「あ、失礼しました。はい、世界樹の魔力がだいぶ回復しているので、おそらくあと少しで――」
そう言った瞬間、凄まじい魔力が辺り一帯を包み込んだ。
その発生源は世界樹で、見ると神々しく黄金の粒子に包まれて発光している。
「綺麗……」
「うん。凄いね」
レイナが見惚れるように呟き、俺がそれに同意する。
空に浮かぶ星々だけが光だったこの森の中で、世界樹の輝きが世界に広がっていく。
それはこの世の物じゃないくらい美しく、そして神々しい。
光は徐々に世界樹に集約され――。
「行きましょう!」
ブリュンヒルデさんが声を上げ、ハイエルフたちが一斉に走り出した。
俺たちもそれに続くようにして、世界樹の麓に辿り着くと、四つの光球が並んでいた。
その内の一つが徐々に形作っていき……。
「スノウ!」
最初に飛び出したのはレイナ。
脇目も振らず、一目散にスノウに抱きついた。
「あぁ……よかった……本当に良かった!」
「ままぁ?」
「ええ。一人にしちゃってごめんなさい」
「んーん」
スノウはまだ夢心地な雰囲気で、ただ温かい気持ちが伝わるようにぎゅっと抱き返した。
俺もそれに続いて二人を抱きしめる。
「無事で良かった……」
「ぱぱだぁ……」
しばらくそうしていると、スノウは眠ってしまう。
呼吸は落ち着いているので、ただ疲れて寝てしまっただけみたいだ。
いつものように、コアラみたいにレイナの胸に抱きついたスノウの姿を見ると、ホッとする。
「我らも心配してたのになぁ」
「カティマはスノウ様が無事ならそれでいい」
「む、我だってそうだし!」
「まあいいじゃねぇか。とにかくこれで一時的にしても、問題は全部解決したんだしよ」
離れたところではそんな風に会話をしている三人。
みんなスノウのことを心配してくれていたんだよな。
「あとで改めてお礼をしようね」
「ええ」
「ぱぱ、ままぁ……」
寝言で俺たちのこと口にして、いったいどんな夢を見ているのだろうか。
俺が頬を突くと、また楽しそうに笑った。
幸せそうな顔をしているので、きっと楽しい夢なのだろう。
「……」
「アラタ?」
思わず、スノウとレイナを纏めて抱きしめる。
あのときはレイナに不安を見せないように必死だったし、焦っても事態は良い方向には行かないと思っていたから我慢していたけど……。
もしこの子がいなくなってしまっていたらと思うと、今更になって怖さがこみ上げてきた。
――ヴィーさんとかと戦ったって怖いとは思わないのにな。
だがそれが不思議とは思わなかった。
俺は絶対に怪我をしない頑丈な身体を持っているからというわけではない。多分、親というのがそういうものなのだ。
「みんな一緒に、帰りましょう」
「うん……」
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