第158話 ヴィゾーブニル襲撃
ハイエルフたちが休んでいる森へ戻ってくると、彼らはこちらをチラチラと見てくる。
敵意はない。どちらかというと興味や関心、それに感謝の気持ちがある気がした。
それでもこちらに声かけをしてこないのは、あまり交流を得意じゃないからだそうだ。
「ニーズヘッグは、大丈夫でしょうか……?」
「今のところ闇の牢獄が壊されたりする気配はないですね」
唯一俺たちと一緒に行動をしてくれるブリュンヒルデさんが心配そうな声を出すので、俺は安心させるようにそう言った。
闇の牢獄は脱出不可能だとカティマも言っていたし、多分大丈夫だろう。
実際、火の大精霊様であるグエン様や大地の大精霊様のジアース様ですら脱出は出来なかった。
それにもし破られたら俺もわかるはずなので、そこは安心してもらいたい。
ブリュンヒルデさんはホッとした後、一度ハイエルフたちに事情を伝えるからと離れていった。
「闇の牢獄が通じるなら、あの鹿たちも放り込んでやれば良かったな」
「ただ何カ所も作ったらハイエルフさんたちが巻き込まれるかもしれないから、それだけは気を付けないと」
収納魔法と違って中になにかがいる状態で出したり消したり出来る魔法じゃないので、あちこちに闇の牢獄が出来てしまう。
ニーズヘッグを捕らえた場所は人の入らない世界樹の根元で、念のため空に作ったから大丈夫だと思うけど、もし世界樹の中心あたりに作って、誰かが間違って入ってしまったら大変だ。
個別で助けるということが出来ないので、一度全員解放しないといけなくなってしまう。
「まあ幸いなのは、あの鹿もニーズヘッグもハイエルフに危害を加える魔獣じゃないってことだね」
「だな。そんでまだ残ってるヴィゾーニルも、魔力を吸うだけで動かないって話だから――」
エルガとそんな会話をしていたら、外から叫び声が聞こえてくる。
慌ててテントから出ると、龍よりも巨大な鳥とハイエルフたちが戦っていた。
「なっ――⁉」
「おいアラタ! とりあえず加勢しに行くぞ!」
さすが大戦士として神獣族の里を守っていただけあり、エルガは俺が迷っている間に動き出して飛びかかった。
「おぉぉぉらぁぁぁぁ!」
巨大な鳥はエルガに殴られ、大樹を何本も折りながら遠くに飛んでいく。だがダメージが入っていないのか、すぐまたハイエルフたちに襲いかかろうとして、俺を見る。
そしていきなり方向転換してきてこちらにやって来た。
「アラタ!」
「大丈夫!」
俺とこの巨大な鳥との直線上にいたハイエルフが巻き込まれないよう、俺が飛び出す。
そしてハイエルフと鳥の間に入り、その身体を受け止めた。
「よし!」
エンペラーボアを受け止めたときよりも強い力を感じたけど、それでも止められないほどじゃない。
エルガの攻撃が効かなかったってことは多分、こいつもまたダメージを受けないタイプなのだろう。だったら吹き飛ばすより、このまま押さえ付けて……。
「闇の牢獄!」
先ほどニーズヘッグを放り込んだものと同じ闇を作り、鳥を投げ込んだ。
なんだか変な声を上げているが容赦する気はなく、そのまま消えて行った。
「ふぅ……」
「よう、とりあえずお疲れさん」
「うん。でも結局あいつはいったい……?」
そう思ったが、負傷しているハイエルフさんたちの治療が先だろう。
見た感じ死者はいないようだが、あの鳥の方がハイエルフよりも強い力を感じたので、あのままだったら誰かが死んでしまっていたかも知れない。
「まさか、本当ヴィゾーヴニルまで捕らえてしまうなんて……」
ハイエルフさんたちが助け合っている中、ブリュンヒルデさんが近づいてくる。
今の台詞だと、さっきの鳥が世界樹を困らせる最後の魔獣だったのだろう。
「お父上、ありがとうございます。これでミリエル様たちを助けることが出来ます」
「でもあの鳥って世界樹から離れないんですよね? なのになんで……」
明らかに俺を見た瞬間いきなり方向転換してきたけど、なんだったんだろう?
「それはわかりません……ニーズヘッグを引き離すことも出来ないはずでしたし、かつてない出来事が起きているのは間違いないのですが……」
悪いことが起きてなければいいんだけど、今はそのおかげで世界樹の魔力を奪う存在を捕らえることが出来たのだから良しとしよう。
「それで、大精霊様やスノウたちはどこに?」
「今はまだ世界樹と一体化して魔力を供給しているはずですが、ここからはもう自然回復で追いつくので、一日も経たずに出てくるかと思います」
思わず力が抜けてしまうと、エルガが背中を支えてくれた。
「そっか……」
「良かったな」
「うん。エルガもありがと」
まだ四匹の牡鹿がいるが、それはハイエルフさんたちでなんとか出来るし、いざとなったらまた闇の牢獄に入れてしまえばいい。
とりあえずこれで、世界樹と大精霊を困らせる魔獣はなんとかなった。
「スノウが戻ってくるまで、ここで待ってていいですか?」
「もちろんです。ただ、我々と違って人間であるお父上には寝られる場所がないかもしれませんが……」
「あはは、大丈夫ですよ。以前も野宿しましたし、ここだと草木のおかげで寝やすそうですから」
ハイエルフたちはベッドや布団で寝る習慣がなく、木にもたれかかったり巨大な花の中で寝たりするらしい。
家も雨風を防ぐために木に横穴を掘っているだけで、なんともファンタジーな話だが、よくよく考えたらこちらの方が自然なのかもしれない。
「じゃあ俺は、スノウが無事だったってレイナに伝えてきてやるよ」
「ありがとうエルガ。お願いしていいかな?」
「おう」
そう言ってエルガは離れ、ブリュンヒルデさんも他のハイエルフさんたちに状況を伝えるために離れて行った。
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