第153話 ハイエルフの里へ向かう準備
今度こそハイエルフの里に挨拶に行こうと計画して数日。
レイナと相談して、以前神獣族でも好評だった角煮マンみたいに肉を挟んだパンを持っていくことにした。
「これなら持ち運びもしやすいからね」
以前と同じようにレイナが準備した素材を俺が挟んでいく作業。
あのときは俺一人でやっていたが……。
「わーい」
「あ、これ大きいからルナのにしよーと」
「こらルナ! レイナがあとで作ってくれるから今は作業に……む、むむむ、美味そうだな……」
子どもたちも並んで一緒に作業中。
さすがにこの人数だとレイナ一人では下準備が間に合わないので、遊びに来たリビアさん、それにセレスさんとエリーさんが手伝っている。
なんだかあっちはとても華やかだな。
最近よく恋バナで盛り上がっているらしく、女性陣は仲が良い。
なんてことを、微妙に輪には入れてないカーラさんが言っていた。
――まああの人はあの人で、マーリンさんたちと一緒に仲良くやってみたいだけど。
これだけ人が増えてくると、なんとなくグループみたいなものが出来ていて、セティさんとアークも結構上手くやってみたいだ。
すでに鬼神族に馴染んでいるゼフィールさんを除くと、新しく来た人たちと、この島の住民たちの交流はまだ薄い。
けどこれから新しい繋がりも広がっていくんだろうなと思うと、楽しみになってきた。
「おいアラタ……食っちゃダメか?」
「エルガは見てるだけなんだからダメだよー」
「手伝おうとしたらお前がダメって言ったんだろうが!」
ルナが自分たちの作っている角煮マンを守るように両手を広げる。
「まあまあ喧嘩しないで。ほら、エルガもやろうよ」
ルナとエルガが言い合いを始めるが、それを止めるのは俺の役目だ。
「えー、これルナたちの仕事なのにー」
「みんなでやった方が楽しいからね」
ちなみにルナがダメと言った理由は、まだルナが一人での狩りを認められていないからだ。
だから今回自分が活躍出来ることを取っちゃダメだって、エルガに言ったらしい。
「むー……じゃあルナもっとたくさん作るもんねー」
「スノウもー!」
「ぬ、なら我も負けぬぞ!」
と、子どもたちのペースが上がり、それを見た俺とエルガは思わず苦笑してしまう。
熊肉、鹿肉、それにウサギの肉。
他にもカティマが持ってきた山菜を挟んだりと、色んな味が出来ていく。
あとのときはエンペラーボアの肉だけを挟んでいたが、この島に慣れてきて色んな素材を使えるようになってきた。
なんて思っていると、手伝っているエルガが作ったのを食べようとしていた。
「エルガ? レイナに怒られるよ」
「お、う、えと……おう……」
普段のレイナはともかく、料理中のレイナに逆らう人はこの辺りにはいない。
あの自由奔放なスザクさんやヴィーさんですら、本気で警戒しているくらいだ。
エルガは少し未練を残しながらも肉を挟んだパンを置き、次の作業に入る。
「よし、こんなもんかな」
みんなで作ったからか、凄い量のまんじゅうが出来上がった。
ハイエルフの里にどれくらいの人がいるのかわからないが、これだけあればさすがに足りるだろう。
「「「……」」」
子どもたちの目が怖い。
見ればすでに太陽が頂点を超え、昼飯時である。
つまり、この腹を空かせたリトルモンスターたちは今、自分たちで作ったまんじゅうを狙っているのである。
「はいはい、そんな目で見ない。せっかくだから、今からは自分の分を作りましょうね」
そうしてレイナが残った具材を取り分けしやすいように大きめの皿に分けてテーブルに置いた。
自分の好きな組み合わせで食べるというのは、子どもにとってはワクワク感もあって嬉しいものだ。
我先にとテーブルに飛びかかり、自分の分を作り始めた。
「鶏肉ー鹿肉ー熊肉ー」
「ウサギーウサギーウサギー」
「我はどれにしよっかなー」
そんな風に機嫌良く歌いながら、自分の持っているまんじゅうに挟んで行く。
しかしスノウ、ウサギの肉は小さくて結構貴重なのに、ふんだんに使うとは中々やるな。
「アークはどれが好きかしら?」
「前に脂が少ない方がいいって言っていたので、こっちの方が……」
ここにはいない男性のことを想って作ってる女性陣二人の今後も気になるなぁ。
また男だけで温泉に行って、アークを追求しよう。
楽しい昼食会を終えた後は一度解散し、俺とレイナとスノウ、それにルナたち神獣族三人が一緒になって南の森に向かっていく。
「ティルテュちゃんも来れたら良かったのになぁ……」
「ハイエルフたちに恨まれてるらしいからねぇ」
スノウが残念そうな声でそう言うが、過去に世界樹の蜜を無理矢理奪ったことでハイエルフに嫌われてる自覚があるらしく、一緒に来なかったのだ。
まあ巡り巡って大精霊であるスノウの物になったし、ハイエルフ側にとっても悪い結果ではないのだから、説明すればわかってくれるだろう。
そしたら今度こそ、ティルテュを連れて一緒に行けば良い。
「あの時の光景、凄く綺麗だったもんなぁ」
思い出すのはこの島とは異なる雰囲気の幻想的な森。
ぜひみんなでピクニックをしたいところだ。
そんなことを思いながら進んでいくと、エルガたちがいきなり別方向に向かう。
「あれ? そっちだったっけ?」
「おう、神獣族が行くときはこっちから来てくれって道があるからな」
そうして進んだ先には、少し不自然な感じで木々が開けた場所に辿り着く。
ここかな? と思ったらエルガたちはそのまま通り過ぎて再び森に入った。
そしてしばらく歩くと――。
「あれ? また同じ場所に出た……?」
先ほど出てきたひらけた場所に出る。
おかしいな、特に曲がったりせず真っ直ぐ進んだはずなんだけど……。
「気にすんな」
エルガの確信した物言いは、特に迷ったというわけではなさそうだ。
今度はまた別のところから森に入り、そして同じように広場に出る。
それを三回ほど繰り返したあと、再び森を抜けると景色が変わり――。
「よし、これで結界を抜けてハイエルフの里に……は?」
「え、なにあれ……」
以前来たときも思ったが、ハイエルフの里はあまりにも自然な世界だ。
美しさ、という観点で見れば間違いなく俺がこれまで見てきたどんな場所よりも美しい。
自然すぎて不自然、と思ったくらいだが、それがハイエルフの里なのだと思っていた。
そしてそれを象徴しているはずの世界樹が――。
「白い、靄?」
「なにが起きてんだこりゃぁ」
遠く離れた世界樹が白い霧のようなもので覆われて、ほとんど見えなくなっていた。
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▼タイトル
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