第151話 人間は見た
「エルフの喜んで貰えるものってなになのかしら?」
さっそく先ほどの件をレイナに相談したら、彼女も乗り気で考えてくれる。
とはいえエルフの生態系など俺はもちろん、レイナもあまり知らないようで困っていた。
「エルガに聞いてみよっか。たしか前に、神獣族とエルフは交流があると言っていた気がするし」
「種族によっては全然だめな物とかもあるかもしれないものね」
外を見るとまだ太陽は高く、神獣族の里まで往復してもだいぶ余裕がある。
スノウは遊びに来たカティマと一緒にいるから、今のうちに行ってしまおう。
「レイナはどうする?」
「最近来て貰ってばっかりだったし、久しぶりに行こうかしら」
「なら決まりだね」
外に出てまた雪だるまにされているカティマに事情を説明すると、彼女は絶望的な顔をした。
「お前……この状況が見えないのか⁉ これ以上スノウ様と遊んだら、カティマ死んじゃうぞ!」
「カティマは頑丈だから大丈夫でしょ」
「お前がそれ言う⁉ 見ろ、もうカティマは顔以外雪まみれなんだぞ!」
カティマの足辺りに大きな雪玉。上半身にもう少しだけ小さな雪玉。
そしてその上に小さなカティマの顔がついていて、雪だるまと言うより串団子みたいになっていた。
「カティマ、遊んでくれないの?」
「ああ、違うのですスノウ様! カティマもまだまだ遊び足りないと思っていたので、もっともっと遊びましょう! 出来れば体力を使わないやつで……」
「やったー! じゃあもっと雪降らせるね!」
「ちょっ――⁉」
このままでは顔まで雪玉にされそうなカティマに、せめて頭の上に置くように伝え、レイナと共に神獣族の里に出て行った。
俺たちの住んでいる場所と神獣族の里は道の開拓が終わっているので、面倒な山道を歩く必要も無くスムーズに進むことが出来る。
神獣族が何度も往復をしているおかげか、道に匂いが染みつき魔物も近づかないので、安全なルートでもあった。
「アラタの魔力が残っているのも理由の一つだけどね」
「でもこの道、作ったの結構前だよ。そんなに残るかなぁ?」
「まあ貴方の力ってだいぶおかしいから」
ごくごく自然に言われてしまった。
まあさすがに俺もこの島に来たときに比べて、自分の力のおかしさとか、周りの目とか色々と理解しているから気にしないけどね。
「あ、お兄ちゃんたちだ! どうしたの?」
神獣族の里に近づくと、クルルたちと遊んでいるルナがこちらに気付いてやってくる。
「今日はエルガいる?」
「さっき狩りから戻ってきたから、今は家にいると思うよー」
「そっか、ありがと」
ルナやエルガが一緒に住んでいる家は知っているので、そのまま向かって行く。
里の中はもう見知った人だらけで、歩くだけで色んな人に挨拶されながら進んで行くと、不意にレイナが疑問の声を上げた。
「そういえば、なんでルナは一人で遊んでたのかしら?」
「え? でもクルルたちがいたよ」
「そうだけど……普段あの子、遊ぶなら私たちの家に来るじゃない」
「たしかに……」
基本的にルナはなにか用事が無い限りほぼ毎日家にやってくる。
そこでスノウと遊んだり、ゼロスたちと狩りに出かけたり、合流したティルテュと遊んだりしていたので、たしかに珍しいといえば珍しいが……。
「まあでも、そういう日もあるんじゃないかな?」
階段を上って鳥居を超えると神獣族が住む区域に入る。
奥には長老であるスザクさんの住む屋敷が大きく広がっていて、それ以外の家にはそれぞれ神獣族が住んでいた。
中央の広場でよく宴会をしているが、普通の日である今は閑散としていて誰もいない。
どうやら狩りに出かけている人が多いみたいだ。
「あそこね」
何度もこの里にはやってきているので、迷いなくエルガの家に向かう。
今日は太陽がしっかり出ていて暑いからか扉が開けっぱなしだ。
防犯的にどうなんだろうと思ったが、この里に住んでいるのは神獣族と獣人だけだし、みんな家族みたいなものってことかな?
「エルガー……」
ちょっと聞きたい事があって来たんだけど――と言おうと思った俺は、入口から中を覗いた瞬間、言葉を止めてしまう。
なぜならリビアさんの膝に頭を乗せて、手は頬に当てながらイチャイチャしている二人が見えたからだ。
「……」
レイナも驚いたのか、唖然とした顔をしている。
普段の凜々しく男らしいエルガとは同一人物とは思えないほど穏やかな顔をしていた。
リビアさんの顔も幸せそうで、おしどり夫婦といった印象。
俺たちが来たことにも気付かないほど、二人の世界に入ってしまっている。
「ちょっとだけ、時間を潰しておこうか」
「そうね」
エルガの家から少し離れて、入口で遊んでいるルナのところに戻る。
クルルとガルルと追いかけっこをしていたので、俺たちは木を背もたれにしてながら座り、見守っていると、こちらにやってきた。
「お兄ちゃん、エルガに会えた?」
「いや、なんというか……またあとにしようかなって」
どうしてルナが一人でいたのかがわかった。
「狩りが終わったあとはねぇ、いつもあんな感じなんだよー」
「そうなんだ」
「だからルナは家から離れてるんだ」
二人の間にはハートマークが飛び交うような雰囲気。
さすがにあの状態の二人に声をかける勇気は無かったし、ルナも気遣っていたらしい。
普段の兄貴肌が嘘のように甘い感じで、エルガの見ちゃいけない部分を見てしまった気持ちだ。
「あれってどれくらい続くのかしら?」
「うーん、日によるけど多分もうちょっとかなぁ」
「じゃあ少し遊ぼっか」
「いいの⁉ やったー!」
普段は俺たちの家で遊んでいるからか、神獣族の里で遊ぶとなってルナのテンションも一気に上がる。
「じゃあね、ルナが普段遊んでる場所とか案内してあげる!」
「ええ、よろしくね」
クルルとガルルも一緒の喜び、楽しそうに俺たちを先導するように歩き出す。
こんなことならスノウも連れてきてあげれば良かったなと思いつつ、俺とレイナはついていくのであった。
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