第150話 狩り

 翌日。


 色々と手探りだったことの多かったこの島での生活も、慣れてくると色んなことがルーティンワーク化されていく。


 食材の管理はレイナがやっているが、減ってきたら狩りに出かけるのは俺の役目だ。


 朝食を食べたあと、レイナから少し肉関係が減ってきたと聞いた俺は、森に入って獲物を探していた。


「最初の頃はエンペラーボアの肉なんて一生無くならないんじゃないかと思ったけど、すぐだったもんなぁ」


 遊びに来た神獣族の面々に振る舞っていたら速攻で無くなってしまい、驚いたものだ。


 定期的に巨大な魔物は狩っているし、穀物は神獣族、山菜などはアールヴの村から貰ったりしてるので、食料に困ることはなかった。


 とはいえ食べ盛りの子どもたちもいるので、食材はあるに越したことがない。

 そう思って森でなにか美味しい魔物がいないか探索中なのだが、今日は運が悪いのか中々見つからなかった。


「肉か……そういえばアルヴ岩塩とかもまた食べたいなぁ」


 以前アールヴの村でカティマが食べていた最高品質の塩。

 あの時は天ぷらを食べたが、肉に振っても絶対美味しいやつだ。


 まあ量も少ない上、俺たちが行くときはカティマも絶対に表に出してこないので、諦めるしかないんだけど……。


 そんなご飯のことを考えながら歩いているが、本当に今日は中々獲物が見つからない。


「うーん、やっぱりもう少し先に進まないと魔物もいないか」


 先日ティルテュも言っていたが、魔物たちの間でもヤバい奴らがいるというのは共通認識なのか、家の周囲にはもう魔物が現れることはほぼない。


 レイナたちが危険に晒されることもないので良いことなんだけど、その代わり狩りをするときは少し離れないと見つからないのが少し不便だった。


「そういえば湖の方にはまだ魔物がいたな」


 南の森を進みながら、以前ハイエルフの里に入ったときを思い出して少し警戒する。

 スノウが妙な反応を見せていたが、大精霊であるあの子があんな反応するということは、なにか厄介なことがあるような気がしたからだ。


「……とはいえ、なにか問題があるんだったら手伝うんだけどなぁ」

 

 出会ったときそう申し出てみたけど、結局必要ないと言われてしまった。


 当人がそう言う以上、自ら進んで突っ込みすぎるのも良くないとはわかってるんだけど、正直気にはなっていた。


 ハイエルフの里の結界がある場所で立ち止まり、そんなことを考えていると、空から鳴き声が聞こえてくる。


「あ、竜だ……こっち側にいるのは珍しいな」


 竜は島の北側、古代龍族の住処やアールヴの村の近くにいることが多い。


「だけど……うーん、さすがにアラテュのこともあるし、今は竜を狩ろうとは思えないなぁ」


 獣類はこちらの南側が多く、なにを狩るかで向かう場所を変えていた。

 俺がわざわざ南側に来たのも、獣型の魔物を狙ってのこと。


 それに竜は古代龍族の庇護対象になっているのもいる。

 弱肉強食とはいえ、もし間違って庇護対象の竜を狩ってしまったら気まずくなりそうだ。


「竜はまた、ティルテュが一緒のときにしよう」

 以前野生の竜を倒したとき、ティルテュもかなり美味しく食べていたので、竜だから食べちゃ駄目ってことはなさそうだしね。


 そうして南も森を歩いていると、立派な角をもった鹿っぽい魔物と熊っぽい魔物が争いあっているのが目に入った。


 この島だとウサギが強かったりと見た目で強さは判断しづらいが、どうやら今回は見た目通り熊の魔物の方が強いらしい。


 二本の足でしっかり地面を踏みしめ、鹿の角を掴むと、そのまま勢いよくジャイアントスイングみたいに振り回す。


 ――というか、二足歩行なんだ。


 俺の知っている熊は四足歩行が普通なので、あんな風に両足でしっかり立っているのを見るとちょっと違和感がある。


 鹿は思い切り岩に叩きつけられて、自慢の角も片方折られてしまった。

 それでもなんとか立ち向かおうとするが、熊は残虐な笑みを浮かべると、落ちた角を掴んで鹿を叩き始める。


「お、おお……」


 剥き出しの殺気をぶつけて勢いよく何度も叩く姿は、まるでプロレスのヒール役のようだ。


 しばらくすると鹿の方が雄叫びを上げて絶命し、熊が角を捨てる。

 かなり残虐に見えるが、生きるか死ぬかの野生であればこれも仕方ないことだろう。


 そして自らの巣に持ち帰ろうと鹿の足を引き摺りだしたところで、俺はその熊の前に立ち塞がった。


「やあ」

「……」


 俺との力の差はわかっているらしく、恐怖で身体が硬直して全身から汗を流している。


 どうすればこの場から逃げられるか、そんなことを考えているのかもしれない。

 熊はチラっと自分が倒した鹿を見ると、まるで献上するように前に出してきた。


「うん、ありがとう」


 俺の言葉がわかるのか、お礼を言ったから許されたとでも思ったのだろう。

 だけど、この鹿も熊も、どっちもまだ食べたことないんだよね。


「というわけで……」

「っ――⁉」


 俺が見逃す気はないとわかったらしく、熊は慌てて鹿の角を拾うと、殴りかかってきた。


 それを受け止め、反撃に殴ると熊はその場で倒れ込む。


「前はどこか遠くまで殴り飛ばしちゃってたけど……もうちゃんと手加減も出来るんだよね」


 とりあえず外傷の少ない熊と、ボコボコにされた鹿の血抜きをする。


 収納魔法に入れておけば保存した状態で持って帰られるのだが、血を抜いて冷やすのは早めにやらないと後々肉の臭みが取れず、大変なことになるからだ。


「ルナとか結構こういうことに拘りがあるから、ちゃんとやらないと……」


 狩った魔物を美味しく食べる方法は神獣族のみんなから教えて貰っているし、手際もだいぶ良くなってきた。


 この島に来たときはレイナやエルガに任せっきりだったこの作業も、今では一人でささっと進められるのだから、慣れって大事だよなって思う。


 たとえば熊は喉元を斬って斜面に置いて血を流す。

 少し時間がかかるので、その間に鹿の方も血を抜いて、熊の解体。


「皮剥ぎも解体も、昔と比べて綺麗に出来るようになったもんだ」


 そうして解体し終えた肉は、順番に収納魔法の中に放り込んでいく。

 ここなら保存した状態を維持出来るので、冷蔵庫いらずだった。


「とはいえ、保冷庫も作ったから基本はそっちに入れるんだけどね」


 スノウの力で作った保冷庫には、これまで狩った肉とかが結構置いてある。

 シンプルに冷凍庫みたいな場所で、ただ冷やしているだけの食べ物もあれば、凍らせている食材など、様々だ。


「さて、それじゃあ今日はこの辺で帰るか……あ」


 また結界に触れたことに気が付く。

 とはいえエルフ側の干渉がなければ里には入れなさそうだ。


「本当に大丈夫かな?」


 この先で起きていることはわからないが、どうしても心配になってしまう。

 俺の夢、この島に住む全部の種族を巻き込んだ大宴会をするには、ハイエルフや南の大精霊様たちとも交流しておきたいし……。


「……今度、準備して一回行ってみようかな」


 これはあれだ、お隣に引っ越し蕎麦を持っていくような感じ。

 よく考えたらエルフの住む南の森と俺たちの家って隣接しているし、本当はもっと早く挨拶にいかないといけなかったくらいだと思う。


 入る方法は……ヴィーさんか北の大精霊様たちに聞けば教えてくれるよね。


「そうと決めたら、またレイナに相談しよっと」

 全ての肉を収納魔法に放り込み、家に戻るのであった。


――――――――――――

【あとがき】

新年明けましておめでとうございます。

本日よりしばらく毎日更新を続けていきますので、良ければお付き合い頂けたら幸いです。

よろしくお願い致します!

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