第147話 日常
俺は人間だからそんなに寿命も続かないだろう、と思ったところでゼフィールさんも人間だということを思い出した。
魔法使いは魔力で見た目を維持出来るし、寿命も延ばせるというのは聞いた。
そうなると、俺って本当に普通の人間と同じような寿命なのか疑問に思ってしまう。
――まあいいか。
わからないことを考えても仕方ないし。
「さて、そうすると次はアーク殿かな」
「え⁉」
突然ゼフィールさんに話を振られたアークは戸惑った様子。
「もちろん、俺たちも話したんだからアークも話すよね?」
「え、えーと……」
「セレスさんとエリーさん。どっちと付き合ってるのかな?」
「アラタ殿。大陸では重婚は普通に認められております。つまり……」
「なるほど……」
俺たちはにんまりと笑う。
「ふ、二人は仲間ですから! 邪な感情なんて抱いてません!」
「「へぇー」」
「なんですかその顔は! だって、そんな……」
「まあまあ、まずはこれを飲んで」
俺は収納魔法から酒を取り出すと、小さなお猪口に入れてアークに渡す。
ついでの自分とゼフィールさんの分も用意して、三人で温泉酒だ。
「はぁ……最高ですなぁ」
「ですねぇ……」
「……僕だって男なんです!」
突然、アークがそんなことを言い出した。
顔を見れば真っ赤に染まり、たった一口で酔ってしまったらしい。
「お? なんか良い感じになってますね」
「うむ、話ならワシらがいくらでも聞くぞ」
「聞いて下さい!」
そう言った瞬間、お猪口の酒を一気に飲み、アークは語り出した。
二人はまるで自分が男ということも意識せずに着替えたり、無防備な姿をさらすことが多いらしい。
過酷な旅をしていたときは仕方ないにしても、ここ最近は魔物も近づいて来ないし平和な日々だ。
だからこそ余計に男女間の関係には気を付けようとしていたのに、二人はまるで注意をしないとのこと。
「ゼフィールさん、これって……」
「しっ! 丁度面白くなってきたところです!」
「なんでお風呂上がりに下着で歩くんですか⁉ 寝ぼけて同じベッドで寝るんですか⁉ あんなことされたら僕だって勘違いをしてしまうじゃないですか!」
お猪口を差し出してくるので、追加でお酒を入れる。
また一気飲みをして、結構目が据わってきた。
「エリーは可愛いんですよ。ツンツンしてるけどいつも僕たちのことを心配してくれてですねぇ……」
「「うんうん」」
「セレスも優しくて、聖女とか関係なく彼女は人に愛される女の子なんです」
「「うんうん」」
「そんな二人に無防備な姿を見せられて、僕は……」
急にスイッチが切れたように言葉が止まった。
気を失って寝ているわけではないし動けないわけではないが、これ以上は喋れなさそうだ。
良いところだったのになぁ……。
「さすがにこのまま放置するわけにはいきませんし、そろそろ出ますか」
「そうですね」
アークに声をかけ、持ってきたタオルを使って自分で拭いて貰う。
酔っ払い特有の動きだが、なんとか自分で着替えてくれた。
「さて、それじゃあ帰りましょうか」
「そうですな。今日の話はもちろん男だけの秘密ということで」
「もちろんですよ」
俺たちは少し悪い顔をしつつ、アークを支えながら家に戻るのであった。
男三人で温泉から家に帰ると、降った覚えがないのに雪が積もっている。
その中心ではエディンバラさんがスノウと遊んでいて、どうやら雪だるまを作っているみたいだ。
小さい方をスノウ、大きい方をエディンバラさんが転がし、そして二人で出来上がった二つの玉を一緒に重ね合わせていた。
「遠目で見る分には完全にお姉ちゃんと妹ですね」
「ですなぁ」
隣でその姿を見るゼフィールさんの瞳も心なしか柔らかい。
「ぱぱだ!」
「ああ、父だな」
一度作業の手を止め、二人で並んで嬉しそうに近づいてきた。
こうして俺のことを慕ってくれるのはやっぱり嬉しいな。
「二人で遊んでたの?」
「うん! エディお姉ちゃんが遊んでくれた!」
「そっかー」
俺が手を伸ばすと反射的に両手を挙げる。
そのまま脇を持って持ち上げてあげると、楽しそうな声。
「エディンバラさんもありがとうございます」
「父よ、以前も言ったがエディでいい」
「いやぁ……」
ヴィーさんと再開してエディと呼ばれるようになり、俺たちにもそう呼ぶように言うんだけど……
なんというか、エディンバラさんには貫禄的があって、あんまり気安く出来ない雰囲気なんだよなぁ。
子どもは順応が早いというか、スノウはエディお姉ちゃんと呼ぶようになってる。
「あ、まだ途中だった!」
俺に抱き上げられたスノウが下ろしてと叩いてくるので、地面に下ろしてあげる。
「エディお姉ちゃん、続き!」
「ああ、そうだな」
スノウに引っ張られ、エディンバラさんも作成途中の雪だるまの方へと走っていく。
「あんなに穏やかなエディンバラ様は、ここに来るまで見たことがありません」
「記憶を失ってる状態なんですけど、ゼフィールさんとしてはいいんですか?」
「ええ。それがあの方の望みでしょうからね」
迷いなくそう言い切るのは、彼女の傍でずっと見てきたからだろうか。
千年以上生きてきた彼女にとって初めての穏やかな生活。
「もし本当に記憶を戻したいと思っていたら、あの方でしたら自分でなんとか出来ますよ」
「そうなんですね」
「ええ」
「僕も以前の彼女を少しだけ知っていますが、今の方がとても穏やかで幸せそうですね」
「そっか」
――俺は、記憶を失う以前のエディンバラさんを知らないからな。
少しだけ歪に思ってしまうのは、俺が彼女のことを理解していないからか。
今こうして記憶がないのが彼女自身の意思だというのであれば、それを尊重するべきだろう。
雪だるまで遊んでいるスノウたちを見る。
木で出来たバケツを帽子にしたり、枝を腕にしたり、二人でああでもない、こうでもないと相談しながら作り込んでいる。
その姿はたしかにとても穏やかで、楽しそうだ。
「たしかにあれを見ると、別に記憶を無理に戻す必要なんてないのかもな」
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