第145話 全員集合

「……」

「……」


 すべてを見られていたと知ったセレスさんとアークは二人は、顔を赤くしながら歩いている。

 なんというか初々しくて良いなぁ、なんて思っていると森の出口が見えてきた。

 

「さあ、もうすぐ家ですよ」


 昨日出発して、今日はレイナたちも家づくりなどをしているはずだ。

 エリーさんもだいぶ心配していたし、早く顔を見せてあげた……い?


「おかしいな。俺の知ってる景色とちょっと違うんだけど……」

「あそこまで来ると、もう村だな」


 今まで俺の家と、マーリンさん、ゼロスさんの家があるだけの地域。

 俺の家の裏には温泉もあって、そこは外から見えないようにしっかり壁を作っているが、それ以外は自然がしっかり見えるようになっている場所だ。


 だが今、ぱっと見ただけでもかなりの数の家が建てられている。

 恐らく新たにやってきた人たちの家なんだと思うんだけど……。


「いや、昨日の今日であれはおかしくない?」

「まあ一流どころの魔法使いがあれだけ集まれば、可能なのだろうな」

「そっかぁ」


 たしかゼロスやマーリンさんたちの家を作るときは結構時間がかかったはずだけど、どうやればあんなに早く出来るんだろ?

 そう思って近づいて行くと、凄い人数が集まってることに気が付いた。


 あれ、五十人くらいいないか?


 そう思っていると、エルガとルナもいて、俺に気が付いてやってきた。


「よアラタ、帰ってきたのか」

「あ、本当だ! お兄ちゃんお帰りー!」

「うん、ただいま。ところでこれは……?」


 見ればガイアスなど神獣族の面々も結構集まっている。

 まあそれはレイナの食事を食べに来るので良くあることだけど……。


「神獣族だけじゃなくて、鬼神族と古代龍族のみんなもいない?」

「おう、なんかレイナが声かけたらすげぇ集まってきた」

「そ、そうなんだ……」


 俺の後ろではセレスさんやアークたちがただただ呆然としている。

 幸いみんな力を抑えているから、彼らの気分が悪くなることはなさそうだが、改めて見ると凄い光景だ。


「あそこにいる誰か一人でも本気を出したら一国くらいは簡単に墜ちるんだけど……」


 レイナは現場監督みたいに紙を持ってみんなに指示を出していて、まるで彼女を中心とした軍隊にも見える。

 そんな彼女も、俺たちのことに気が付いて駆けだしてくる。


「お帰りなさい」

「ままだ!」


 スノウは嬉しそうな顔でレイナに抱きつき、彼女もそれを受け入れる。

 そうしていつもの体勢になり、落ち着いた様子。


「なんか凄いことになってるね」

「そうなのよ。ここまで大事にするつもりはなかったんだけど……」


 工事現場を見ると、昨日の今日なのにほとんどの家が完成に近づいていて、明日にはすべて完成しそうな勢いだ。


「それで、これってどういう状況なの?」

「えっと、とりあえず家を作るのに人手があった方が良いからグラムに声かけたら古代龍族が全員来て、偶然やってきたギュエスに声かけたら鬼神族が全員来て……」

「神獣族はねぇ、ルナが呼んだんだよー」

「って感じね」


 元気いっぱいに答えるルナに、レイナは苦笑する。


「これもアラタのおかげかしらね」

「俺の……かな?」


 どちらかと言えばレイナのご飯につられて来たんじゃないだろうか?

 まあどちらにしても、みんな喧嘩をせずに手伝ってくれるのはとてもありがたいことだ。


「レイナか……」

「セティ、貴方も無事だったのね」

「ああ。アラタに助けられた」


 元々仲の良い関係というわけではなかったからか、二人の再会は素っ気ないものだ。


「あの、アラタ様……あそこに私たちが行っても良いのでしょうか?」

「みんないい人ばっかりだから大丈夫だと思うよ」


 恐る恐るといった様子でセレスさんが聞いてくるので軽く答えておく。

 どうやら早くエリーさんにアークの無事を報告したい様子みたいだ。


「とりあえずあっちに行こっか」

「そうね」

 

 ゼロスとかマーリンさんはだいぶこの島の環境に慣れて、もう体調が悪くなることもなくなっている。

 わざわざ力を抑えているのは、あの場に残ったエリーさんとかに気を遣ってだろう。


 それでもあの空間にいきなり行くのは彼女たちにとってハードルは高いので、俺たちが先導するように歩く。


 俺たちが出て行ったときには無かった家が四つほどあり、一番大きな家の前にエリーさんが立っていた。

 彼女は古代龍族の面々と話し込んでいて、こちらには気付いていない。


「エリー!」

「え? あ、セレス。それに……」

「ただいま、エリー」

「アーク!」


 手に持った設計図を放りだし、走り込んできたエリーさんは勢い良くアークに飛びつく。

 しっかり受け止めた彼は、そのまま優しく抱きしめた。


「アンタ! 心配かけるんじゃないわよ!」

「……ごめんね」

「ごめんって言うなら! 私たちから離れるなばかぁ!」

「エリー……っ――⁉」


 感情的になって涙声で叫ぶエリーさんに感化されたのか、セレスさんも同じように涙を浮かべる。

 そしてそのまま二人に抱きつくと、大きく泣き出した。


 アークは女性二人に泣かれて困った顔をしながらもしっかりと受け止める。

 三人の男女が泣く姿は注目の的ととなり、なんとなく微笑ましい空気が辺りを包んだ。


「あーあ、天下の勇者パーティーが大泣きしちゃって恥っずかしいー」

「なんだカーラ。自分が帰ってきたとき誰にも相手をされなかったことに対する嫉妬か?」

「は、はぁー! そんなことありませーん!」


 隣ではエディンバラさんとカーラさんがそんなやりとりをしているが、たしかに彼女は誰からも心配されていなかったことに不満げだったな。

 改めてセティさんを見ると、いつの間にか近くにやってきていたゼロスたちが声をかけている。


 その様子に気付いたカーラさんがちょっとショックを受けているが――。


 ――まあ見なかったことにしておこう……。


 なんにせよ、これで一応全員無事に見つけることが出来た。

 ハイエルフの里など、気になることは残っているけど、きっとそれは。


「しばらくはゆっくり出来そうだな」


 そう思いつつ、家作りを手伝ってくれているみんなのところに顔を出しに行くのであった。


――――――――――――

【あとがき】

いつも応援ありがとうございます。

ここまでを『5巻の前半』にして、書籍版はさらに色々と事件が起こそうかなと思います。

5巻を書き切ったらまた次話を書き始めていきますので、少々お待ち頂けたら幸いです。


また、いつも通りWEB版における次の話は突然キャラ同士の人間関係が変わってると思いますが、WEB読者の方々はあまり気にせず読んで頂けたら幸いです。

※もちろん買って読んでくださったら一番嬉しいです!


もし良かったらこれからも応援よろしくお願い致します!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る