第144話 空気を読める人たち

 レイナから借りている軍用テントは全員が雑魚寝をしても十分な広さがある。

 とはいえ年頃の男女が一緒に寝るのも気が引けるので、俺は外で見張りをしていた。


 同じことを思ったのか、セティさんも外に出てきて、今は寝袋を使って眠っている。

 如何に歴戦の戦士とはいえ、最大級のプレッシャーをその身に受け続けて一週間。

 さすがに体力の限界だったのだろう。


「とりあえず、誰も死ななくて良かった」


 レイナやゼロスたちの話だと、一緒に船に乗ってきた人たちはみんなこの島には辿り着けなかったらしい。

 おそらく結界に阻まれて、そのまま海に放り出されてしまったのだろう。


 そういう意味では、今回の面々は自分たちで船を出したらしく、他の人たちは乗っていないのでこれで全員無事に救出出来たと言える。


「あとは家に帰るだけだ」


 帰ったらゆっくりしよう、と思っていると背後のテントから誰かが出てくる気配がした。

 振り向くと、アークさんが困惑した顔でこちらを見ている。


「あ、起きたんですね」

「貴方は……アラタ様?」

「様付けは止めて欲しいかなぁ……普通にしてくれたらいいよ」


 起きたばかりで状況が理解出来ていないのだろう。

 近くにはセレスさんも眠っていたはずだし、とりあえず自分が助けられたらことは理解出来ているみたいだ。


「こっち来ますか?」

「はい……正直なにがなにやら、という感じなので……」


 それはそうだろう。

 彼を助けたとき、すでに気を失っていた。


 目が覚めたら知らないテントに仲間のセレスさん、エディンバラさんと知らない子どもがいる状況。

 これで状況把握をしろというのは無理というものだ。


 アークさんは正面に座ると、すぐに頭を下げてきた。


「助けてくださってありがとうございます」

「うん。タイミング的には結構ギリギリだったけど、無事で良かったよ」


 俺がそう言うと、アークさんはカエルにやられたことを思い出したのか少し顔を青ざめる。

 正直あれは、トラウマになってもおかしくないと思う。


 以前一度だけ会ったことがあるとはいえ、ほぼ初対面の相手。

 

「さて、なにから話そうか……」


 パチパチと火の音が響く中、星空を見上げる。

 太陽が昇るまでは、まだ時間も結構ありそうだ。

 とりあえずいつも通り、この島のこと、俺のこと、そしてセレスさんと出会ったあとのことなどを順番に話すとしようか。




「おはよぉぉぉぉぉー!」


 朝になり、元気いっぱいのスノウがテントから飛び出して俺の背中に飛びついてきた。 

 最近力もだいぶ強くなってきたので、手加減なしのタックルは危ないから俺以外にはしないように言わないとなぁ。


「おはようスノウ。相変わらず早いね」

「うん! 昨日ぱぱと寝れなかったからはそのぶん今からあそぶんだ!」

「そっかぁ」


 さすが子どもというか、まったく理屈がなってない。

 まあセレスさんたちもまだ出てくる気配がないので、ちょっとくらいは大丈夫だろう。


 ちなみにセティさんは先ほどのスノウの声を襲撃と勘違いしたのか、臨戦態勢を取っている。


「とりあえず、顔でも洗います?」

「……そうさせてもらおう」


 俺が水を取り出すと、少しだけ離れた場所で顔を洗い始める。

 本当は川とか水辺まで行けたらいいのだが、あまり遠くに行き過ぎると魔物に襲われたときに対応出来ないので今はこれで我慢してもらおう。


「ぱぱ! ぱぱ! なにしてあそぶ⁉」


 もはや彼女の中では俺と遊ぶことが確定事項になっているらしい。

 とはいえ、焚き火を片付けたりと、出発する前に色々とやらないといけないことは多いんだけど……。


「片付けとかは俺がしておきますよ」

「いいの?」

「はい。助けて頂いてここまで運んで貰ったんだから、これくらいはやらせてください」


 病み上がりで申し訳ないが、なにか役割があった方が助かる場合もあるよな。


「それじゃあアーク、お願いするね」


 夜に話している間、セレスさん同様敬語は必要ないとのことだったので気軽に頼む。


「よいしょ……」


 俺の背中をよじ登ったスノウは、そのまま肩車の体勢に。

 そして頭をポンポンと叩くので立ち上がり、テントから見える範囲で軽く走ってみる。


「あはははははー!」

「よっと」


 そしてそのまま垂直にジャンプすると、力加減を間違えて空高くを飛んでしまった。


『っ――⁉』


 目の前には鳥の親子がいて、いきなり現れた俺たちに驚いている。


「おおー」


 ビックリして固まっている鳥をスノウは手を伸ばして捕まえようとしているので、その小さな腕を掴んで止める。


「駄目だよ」

「えー、なんでー?」

「危ないからね。よっと」


 着地のときの衝撃を減らすために浮遊魔法を使ってゆっくり降りると、ちょうど着地先にセティさんがいて驚いた顔をしていた。


「ぱぱ、もう一回!」

「はいはい」


 どうやら先ほどのジャンプが気に入ったらしく、それから何度もやらされてしまった。

 なんで子どもは同じことをやっても飽きないんだろうか? 永遠の謎かもしれない。


 そうしてしばらくスノウと遊んでいると、テントからセレスさんたちが出てくるのが見えた。


「はい、それじゃあここまで」

「ええぇぇぇぇ!」

「あとは帰ってから……」


 どうやら彼女はアークが起きたことに喜び、涙ながらに抱きついている。

 セレスさんたちの関係がただの仲間なのか、それとも男女の恋愛ごとが絡んでいるのか、それはわからないけど、もう少しだけ二人っきりにしてあげた方がいいかな?


「それじゃあスノウ、あと三回だけね」

「やぁったぁぁぁぁ!」


 よっぽど嬉しいのか凄くテンションが高い。

 なんだか最近、感情表現がすごいことになってきたなぁ。


 これはレイナも大変になるかも。

 出来るだけ俺も一緒になって育てないと。

 そんなことを思いながら、スノウとの遊びを延長するのであった。


 ちなみに後で聞いた話だが、この間エディンバラさんはテントから出られず、少し遠目で見ていたセティさんも近づくに近づけなかったらしい。


 みんな空気が読める人だなぁ、なんて思った。


――――――――――――

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