第143話 興味
「ひゃぁ⁉ あああ、アラタ様⁉ いったいなにをされているのですか⁉」
「いや、さすがにこのままにはしてられないでしょ」
気絶しているアークさんは、怪我や状態異常こそ治っているとはいえ、粘液でベチョベチョだ。
この状態の彼をあまり触りたくはないが、さすがに人命救助が優先。
汚れるのを覚悟で、服を脱がさざるを得ないのだ。
「あ、ははは……そうですよね。ええ、わかっていましたとも!」
「……まさか、俺が男に欲情して脱がしにかかったとでも思った?」
「ま、まさかぁ……だってアラタ様には、レイナ様がいますから……」
セレスさんはそう言いながらも、俺の目線がよっぽど気まずかったのか全力で視線を逸らす。
思えば、過去にレイナを助けるために同じ感じで服を脱がしたことがあったっけ。
あのときのことは出来るだけ思い出さないようにしていたのだが、まさかこんなタイミングで思い出す切っ掛けになるとは思わなかった。
「とりあえずこれで……と」
俺はアークさんの服を全部脱がすと、自分の着替えを収納魔法から取り出して着せていく。
自分の下着を着せるのは気持ちの良いものではないが、さすがにパンツ無しでズボンを履かせるわけにもいかないしなぁ……。
洗ったものだから大丈夫、と言い聞かせて俺の服を着せ、元々着ていた服は水魔法で綺麗に洗浄してしまう。
後ほど落ち着いたところで乾かすため、収納魔法に放り込んで次はセティさんを見る。
自分のやるべきことを理解しているのか、順番に鎧を脱いでいき、同じように水で洗ってしまった。
こういう生活魔法はレイナが得意で色々と教えて貰ったから、俺も結構出来るのだ。
「これ、俺の着替えなんでとりあえず使ってください」
「……助かる」
もう一着俺の着替えを渡して、セティさんは立ち上がった。
「ところで、なぜ彼女はじっとこちらを見ていたのだろうか……」
「興味があったんじゃないですかね?」
さすがにこの危険な森の中で一人にするわけにもいかず、ここに残って貰ったわけだが、掌で顔を隠しながらも指の隙間は普通に空いていた。
まあ教会育ちだった、ということもあって男の裸など中々見る機会も無かったのかもしれない。
――いや、でも普通怪我した人とかの裸は見るよな?
となれば、そういう状況でもほとんど見ない部分に興味があった?
「……これはもう彼女の名誉のためにも考えないでおこうか」
とりあえずセティさんは一人で動けるので、俺がアークさんを背負って森を出ようとしたところで、先ほどのカエルの仲間が現れた。
「ちょっと、邪魔しないでくれるかな?」
倒すのは簡単だが、狩りをしているわけでもないので、ただ睨む。
それだけで実力差がわかったのか、カエルは必死の形相で逃げ出してしまった。
「災厄級の魔物を……お前はいったい何者なんだ?」
「俺はアラタ。この島に住んでいる人間ですよ」
「……人間?」
ついに初対面の人にまでこんな反応をされるようになってしまい、地味にショックを受けた。
「お互いの事情についてはまた歩きながらでも話しましょう。まずはこの森を出て、俺たちの家に案内しますから」
「そう……だな」
まずはスノウたちを迎えにいかないと。
多分エディンバラさんを見て驚くだろうが、記憶喪失だと説明するのも合流してからで良いだろう。
――今ここで話しても実感がわかないだろうし……。
決して、いきなり人外扱いしてきたことに対して、ちょっとした意趣返しをしようだなんて思っていないのだ。
まあ結果的に、無表情に近いセティさんの顔が全力で崩れてちょっと面白かったのも、ただの結果でしかないのである。
家までの道中で、暗くなってしまったので一泊することになった。
俺は収納魔法からテントを取り出して、野営の用意。
アークさんはまだ起きないので、セティさんとコミュニケーションを取ってみる。
そして彼らの事情はだいたい把握出来た。
やはりエディンバラさんたちと同じように遭難して、アークさんと二人で森にいたらしい。
元々敵対関係の二人。
だがアークさんはそういうことを気にしない性格らしく、協力を申し込んできた。
そして一気に探索をしてしまおうと思っていた二人だが、その行動はすぐに頓挫する。
この島の魔物一体一体が、大陸でいうところの災厄級であり、戦い始めれば命がいくつあっても足りないと気付いたからだ。
「幸い俺もアークもサバイバル術には長けていたからな。魔物から身を隠しながら生活すること事態はそこまで苦ではなかった」
そうして拠点を作って約一週間過ごし、少しずつ森を探索していたところで、カエルの襲来。
拠点を捨てて逃げ出したはいいが捕まってしまい、あとは俺たちが見た光景のままだった。
「あの魔物には俺の風魔術もまるで通用しなかったのだが……」
「あはは、まあ魔力には結構自信があるから」
「……どうやら俺は、七天大魔導になってうぬぼれていたらしい」
少し凹んでいるようにも見えるし、どうしよう……。
そう思っていると、スノウとともに枝を拾い集めてくれていたエディンバラさんが近づいてくる。
話を聞いていたらしく、セティさんの肩に手を置いた。
「セティ、気にするな。アラタがおかしいだけでお前は一流の魔法使いだよ」
「……」
エディンバラさんが慰めるような言葉を言うと、セティさんの無表情が崩れる。
どうやら彼からしたらよほどあり得ない行動らしい。
「まあこの島の魔物はおかしいから……」
「あれを当たり前に倒せることのおかしさを自覚しながら言っているだけだろう?」
「うぐ……」
この島全部がおかしいんだ、と言い訳をしたらばっさり切られてしまう。
「スノウもたおせるよー」
「ほら、俺だけじゃない」
「その言い訳が本当に通じると思っているのなら,認めてやってもいいが?」
「すみません」
そんな会話をしているうちに野営の準備は整った。
テントではセレスさんがアークさんを看病しているので、俺たちは外で焚き火に当たる。
セティさんは自分から話題を振るタイプではないらしく、しかしこの島のことについてもっと知りたい気配は感じた。
なので俺はとりあえず、自分がこの島に来てからの出来事を順番に語っていく。
――最近、同じ話ばかりしてるからだいぶ慣れたな。
あと、その反応にも。
「信じられん……だが、ただの野生動物と同じ頻度で災厄級の魔物が現れるのだから、信じるしかない、か……」
「慣れたら自然も豊かで綺麗だし、いい島ですよ」
「俺には地獄にしか見えんが……?」
「慣れますよ」
最近はマーリンさんやゼロスだって自分たちで交流の和を広げてるみたいで楽しそうにやってるみたいだ。
ゼフィールさんなどもはや故郷はここだと言わんばかりに、鬼神族の里に馴染んでいる。
さすがに他の面々はまだこれからだろうけど、それもすぐに慣れる気がする。
「とりあえず、一人も死者がいなくて良かったです」
「カーラたちも見つかっていると言っていたな」
「はい。元気にやってますよ」
もっとも一番メンタルがやられてるのはなんだかんだであの人な気がするけど。
多分何度凹んでも立ち直るタイプだから大丈夫だろう。
「明日には家に着くので、そしたらこの島の事情をもう少し詳しく説明しますね」
「ああ、頼む」
どちらにしてもアークさんが目を覚まさないと、また同じ説明をしないといけないからなぁ。
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