第137話 再会

 アールヴの村を経由してカティマたちには事情を話し、そして家まで戻ってきた。

 すでにレイナたちは先に戻ってきていたらしく、しかしそこに新しく誰かが増えたということはなさそうだ。


「セレス!」

「ああ、エリー!」

「わっ⁉」


 地上に降りたエリーさんが声をかけた瞬間、セレスさんは駆けだして抱きついた。

 その勢いに押されて二人揃って倒れてしまうが、感情が高ぶっている彼女は止まらない。

 

「無事で良かった! 本当に良かった!」

「あったり前じゃない! 私を誰だと思ってるのよ!」

「でも、でもぉ……」

「あーもう……その、心配かけてごめんってば」


 まるで心配性の姉を慰める妹のように、エリーさんは優しくその背をさする。 

 

 良かった良かった、とそんな優しい光景を眺めつつ、俺は視線を横にずらす。

 そこにはカーラさんが嫌そうな、困ったような、複雑な顔でエディンバラさんやレイナたちを見ていた。


 レイナとマーリンは若干警戒した様子。

 そしてエディンバラさんはちょっと気になるのか、じっと見つめるだけ。


 ただその無言で見つめる様は妙にプレッシャーがあるというか、カーラさんも額から汗を流している。


 おかしいな、同じ仲間を迎え入れる場面のはずなのに、なんでこんなに真逆な光景になるんだろう?


「あ、はははー。カーラ・マルグリッド、ただいま戻りましたー」

「……」

「……」


 無言が続く中、エディンバラさんがレイナとマーリンさんを見たあと、ようやく気付いたように目を丸くする。


「ああ、私に言ったのか」

「そうですよ! 他に誰がいるんですかー!」

「すまんな。記憶が無いからちょっとテンポが遅れてしまった」

 

 エディンバラさんは特に感情の籠もっていない声のまま、ゆっくりとカーラさんに近づいていく。


「な、なんですかー?」


 警戒するカーラさんの身体を、先ほどセレスさんがしたように抱きしめた。


「ふぇ⁉」

「怖かったのだろう? こうしたら落ち着くらしいから、この身に委ねるといい」

「ふぁ⁉ ふぇ⁉ ふぉっ⁉」


 カーラさんの表情が凄いことに変化していく。

 完全にテンパったようで、もう自分がどういう言葉を使っているのかすらわかっていないような状況だ。


「心配するな。なにかあっても私が守ってやろう」

「……」


 もはや理解不能の事態に脳がパンクしてしまったのか、カーラさんは抱きしめられて顔を真っ赤にしたまま動かなくなる。

 なんか、男の俺から見ても格好良かったな……。




 いつまでも外で話をすることもないと、一度俺たちの家に入って状況を共有することになった。


 エリーさんとカーラさんは二人一緒に行動していて、シェリル様に捕まっていたこと。

 神獣族の里の方には人間は来ていないとのこと。


 他の面々はスノウと遊んだり、それぞれ自分たちの情報を共有している中、俺とレイナはそれぞれの成果を話し合い、これからどうするかを悩む。


「あと見つかってないのはアークさんと、セティの二人だけね」

「うん。いちおう順番に潰してきたわけだけど……」


 神獣族の里、鬼神族の里、アールヴの村に古代龍族の住処。

 俺たちの住んでいる家の北から東まで、だいたい確認が終わっている。


 あとはヴィーさんの住む城があった場所くらいだけど、今泊まり込みで修復しているはずだがなんの連絡もない。

 俺たちが島に迷い込んだときも気付いていたくらいだから、もしそっちにいたら気付くだろう。


 それに、念のためティルテュが伝えに行ってくれたので、問題無いはずだ。


「ヴィルヘルミナさん、帰ってこなくなったわね。変なこと考えてなければいいけど……」

「あはは……まあ多分大丈夫だよ」


 悪戯はするけど、本気で誰かが死ぬようなことはしないはずだから、もしそちらに遭難していたらきっと助けてくれるはず。

 まあその前に、この島の魔物に襲われているところを見て笑ってるかもしれないけど……。


「というわけで、明日はこっちを探してみようと思う」


 俺が指さしたのは、先日レイナと散歩に出かけたハイエルフや大精霊たちが住んでいるという森の中。

 その奥には大きな湖が広がっていて、さらに南に進むとまた海岸が広がっている。


「……前に行ったときはなにも無かったわよね」

「結界が張ってあって見えないらしいよ」


 あの時の違和感はそれだったらしい。

 闇の牢獄と一緒で吹き飛ばすのはそんなに難しくはなさそうだけど、別に喧嘩を売りに行くわけじゃないから……。


「で、シェリル様が言うには、スノウを連れていったら歓迎されるだろうって」

「そう……」


 レイナはちらりとみんなに遊んで貰っているスノウを見る。

 危険があるかもしれないのに、と心配になっているのだろう。


 単純な強さだけで言えばスノウは大精霊でこの島でもトップクラスだけど……。


 ――母親としてはそんなの関係ないんだよね、きっと。


「大丈夫だよ。スノウのことはなにが合っても俺が守るからさ」

「……うん」


 元々地図を見ていたため肩が触れ合うくらいの距離だったが、さらに身体を寄せてくる。

 少し甘えるような仕草を受け入れると、そのまま頭を肩に乗せてきた。


「……」

「……」


 しばらくそうして無言でいると、二人だけの時間のような気がして――。


「……」


 七天大魔導の面々やセレスさんたち、それにスノウがじーとこちらを見ていた。

 そしてレイナはそれに気付いていない。


 ――ど、どうしよう……。


 セレスさんなどは顔を赤くして嬉しそうにしているし、エリーさんとカーラさんはちょっと呆れ気味だ。

 マーリンさんは困ったような顔をしているし、エディンバラさんは……。


 ――なんだか、妙に優しそうな顔してるな。


 まるで母親のような笑み。

 いったいどうしたんだろう? と思っているとそれぞれに声をかけて、順番に外に連れていく。


 どうやら気を利かせてくれたらしい。

 レイナが気付いたときにはもう誰も家からいなくなっていて、その理由まで勘づき顔を髪のように赤くする。


 昔ならそれで恥ずかしくなって身体を離していただろう。

 だがどうも今日はもう開き直ったのか、そのままさらに密着させて身体を預けてくる。


 こうなったレイナは意外と積極的というか、もう俺も開き直った方が良いなと思って腕を肩に回す。

 そして窓の外から聞こえてくる風のせせらぎを聞きながら、まったりとした時間を過ごすのであった。

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