第136話 脱出
俺たちが闇の牢獄から出られたのは、あれから二時間後のことだった。
「ぱぱぁ。おかえりぃ」
「うん、ずいぶんお寝むだったねぇ」
「えへへー」
ああ、可愛いなぁ。
ちょっと照れたこの顔を見れたなら、二時間くらい待たされるのも全然へっちゃらだ。
「「……」」
まあ、精神的ストレスを多大に感じた二人もいるわけだけど……。
エリーさんとカーラさんは魂が抜けたようにぐったりと座り込んでいる。
「ほら、もう邪魔だからさっさとそれ持って帰りなさい」
「持って帰れって言われてもですねですね……」
よく考えたら、ここから家まで結構な距離がある。
俺とスノウだけだったら抱っこして飛んで帰ればそれでいいんだけど、二人を連れてだと大変――。
「あ、シェリル様のやつ使えばいいのか」
この人が俺たちの家に遊びに来るとき、なんか闇のゲートっぽいやつ使って来てるのを思い出した。
多分あれならこの人数でも一気に行けるはず。
「えーと、多分こんな感じで……あれ?」
なぜか収納魔法が出てきた。
今までなんとなく見よう見まねで出来たのに、なんでだろ?
「アンタ、なにしてんのよ」
「いや、シェリル様がよく俺とかを飛ばすやつあるじゃないですか。あの魔法使おうかと思ったんですけど上手くいかなくて……」
「……はぁ」
うわ、すっごい呆れた目でため息吐いた。
「その凄く馬鹿を目で見るのは止めて欲しいなぁって思うんですけど」
「そりゃ馬鹿を見る目で見てるから。なんで真似出来ると思ってるのよ」
神様印のチートがあるからです。
とは言えず、とりあえず曖昧に笑っておく。
「ほら、俺って見たら大体の魔法使えるから」
「ぱぱ凄いんだよぉ」
「……まあそれはいいけど、ゲートは無理よ。あれはアストラル体の私たちだから通れるもので、肉体がある生物は通れないから」
シェリル様曰く、精霊や幽霊だけが通れる道を使っているらしい。
ちなみに近距離で飛ばしてるやつはまた別の魔術だそうだ。
「あ、本当だ。こっちは使える」
テレポートみたいな感じだろう。
ぴょんぴょんと空間を跳んで移動していると、エリーさんたちからなんか凄い目で見られていた。
――ヤバい、これはまた俺が人間扱いしてもらえなくなるやつだ……。
テレポートを止めて、誤魔化すようにその場で喉を鳴らす。
「ん、んんっ。ということは歩いて帰るしかないんですかね」
「その二人抱えて飛べば?」
「それは……」
エリーさんを見て、カーラさんを見る。
スノウとエリーさんだけならともかく、こっちはなぁ……。
「ちょっと今どこを見比べたか言ってみなさい。怒らないから」
「ノーコメントで」
俺知ってるんだ。
この時点ですでに怒っている雰囲気を出しているエリーさんに対して正直に言ったら、絶対に怒られるって。
ちなみに、追求されるより早くカーラさんがエリーさんを揶揄ったので、怒りの矛先はそちらに行ってくれて助かった。
「今から歩いて帰るのぉ……?」
「うーん、そうだねぇ……」
なにか良い方法はないかな、と思っていると気付けば神殿の外に飛ばされていた。
「「はっ――⁉」」
魔法使いの二人は驚いた顔をしているが、やったのはシェリル様だろう。
予兆もなく、本当に気付けば目の前の光景が変わるので驚くのはよくわかる。
「こういうのは、技量の差が出るよなぁ」
魔法をコピーは出来るが、レイナほど上手にコントロールが出来るかと言われるとそう上手くはいかない。
シェリル様のこれは、もはや一般の魔法使いからしたら神業みたいなものだろう。
「しかしいきなり放り出さなくても……ん?」
ばさばさと羽ばたく音がするので見上げると、黒い小柄のドラゴンがこちらに降りてくるのが見えた。
「ティルテュちゃんだー!」
「な、なによあれー⁉」
「ひぃぃぃぃぃ⁉ なんて魔力ですかぁぁぁぁ⁉」
――迎えは呼んどいたから、さっさと帰りなさい。
頭の中でシェリル様の声。
隣では嬉しそうなスノウの声。
そしてこれまで感じたことのないほど強い力を持ったドラゴンの存在に怯える二人の声。
色々と混ざり合ってはいるが、とりあえず――。
「あと二人かぁ」
後でレイナと合流したら、改めて探す場所を考えてみよう。
いちおう闇の牢獄でこの島については色々と説明したんだけど、やっぱり百聞は一見にしかずというか、見て貰うのが一番早かったな。
ティルテュの背中でブルブル震えている二人もだいぶこの島のことがわかってきたらしい。
「わかってきたもなにも……こんなの言葉で言われて信じられるはずがないじゃないですかー」
「そ、そうよそうよ!」
「俺に言われてなぁ」
とりあえず、ティルテュが危害を加えない優しい子、というのはわかって貰えたので良かった。
どうやらエリーさんの持つ魔力は特別なものらしく、シェリル様から見てもちょっと厄介みたいで、もし振るわれてたら怒って消し炭にしてたかも、というレベルだそうだ。
カーラさんの方はなにをしても危害を加えることは出来ないらしいけど、闇の魔力を雑に使ってるのがちょっと苛立った、とのこと。
なんにせよ、二人とも生きた心地はしなかっただろうし、こうして無事に外に出られて良かったな。
「それで、えと……アラタ様は」
「様付けじゃなくていいよ。神様云々はセレスさんの勘違いで、俺は普通の人間だからさ」
「「……人間?」」
なんで疑問形なのかなぁ?
「まあちょっと変わってるかもしれないけど、人間だよ。いちおう……」
「ぱぱはぱぱ!」
「そうそう。俺は俺だから、そんなにかしこまらなくてもいいかな」
「そう……だったらアラタさんって呼ばせて貰うわ」
「私もー、アラタさんって呼ばせて貰いますねー」
「うん、よろしくね二人とも」
ティルテュの背中でようやく打ち解け始めてきて、俺としてもホッとしていた。
なにせ女性ばかりに男一人だ。
レイナとかルナとかならともかく、こうしてほぼ初対面の人たちとの交流は結構緊張するのだ。
「あ、ティルテュごめん。先にアールヴの村に寄ってくれる?」
『うむ……』
「ティルテュ? どうしたの?」
なんだか歯切れの悪い返事で気になったので聞くと、彼女は悩みながら小さく言葉にする。
『また旦那様の周りに女が……いやしかし正妻としてはこうどんと構えておいた方が……』
「……」
とりあえず聞かなかったことにしよう。
少なくとも、この二人と俺がどうにかなる未来なんてものはきっと存在しないから。
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