第132話 合流

 ティルテュの背に乗って家に着くと、外ではレイナたちがこちらを見上げている。

 その中にはグラムもいて、地上に降りると近づいてきた。


「よう兄貴、邪魔してるぜ」

「いらっしゃい。入れ違いにならなくてよかったよ」

「だな。何度も往復するのは勘弁だぜ」


 俺たちがそんなやりとりをしている横では、セレスさんがレイナに挨拶をしている。

 どうやらレイナも事情は聞いているようで、一緒に連れてきたことに驚いている様子は無かった。

 

 ただセレスさんの感激した雰囲気にはレイナもだいぶ押され気味の様子。


「スノウ、ただいま」

「おかえりー……っ⁉」


 家に入るとスノウが一人で遊んでいて、俺に気付いたけど近づいてくる様子は無かった。

 しかし自分の遊びに戻ろうとしたところでティルテュに気付き、ばっと驚いた顔で再度振り向く。


「旦那様……」

「うん、ありがとうね」

「まだ我なにも言ってないが?」


 すでに瞳を輝かせて突撃準備をしているスノウを見れば、この後の出来事など手に取るようにわかる。

 そしてすでにティルテュもその未来が見えているのか、諦めた表情だ。 

 

 俺たちはティルテュを置いてリビングに行き、ソファでこれまでの状況を話す。

 とはいえ俺はセレスさんから、レイナはグラムからこれまでの状況を聞いているので改めて確認しただけだが。


「それで、セレスさんはこれからどうする?」


 結局のところ、話の着地点はそこになる。

 このままグラムのところにお世話になるならそれはそれでありだと思うが、ただの人間があそこで生活をするのは結構大変そうだ。


「そう、ですね。アークたちを探しに行きたいのですが、私一人でこの島を回るのはとても出来そうになくて……」

「ねえアラタ」

「うん。セレスさんの仲間を探すのは手伝うよ」

「俺も仲間たちで人間見つけたら、ここに連れてくるように言っとくわ」

「あ、ありがとうございます!」


 鬼神族の里にはゼフィールさんもいるし、あとで神獣族の里に言ってエルガかスザクさんにも伝えておこう。

 あそこの人たちなら悪いようにもしないだろうし、ちゃんと保護とかしてくれるはず。


「あとはアールヴの村と大精霊様たちにも言っておこうか」


 俺はティルテュにくっついているスノウのところに行くと、周囲に誰かいないか聞いている。


「えーと、じいがいるよ」


 あそこ! と指さした地面にはうっすら緑色の光がある。

 俺はそこに近づくと緑の光が消えたが気配はまだそこにあるので、おそらく目を閉じたのだろう。


「ジアース様、多分聞いてたと思うんですけど、もし見覚えのない人間がいたら保護してあげてくれますか?」

「……」

「あ、シェリル様とグエン様にもお伝えしといて頂けると助かります」

「……」

「よろしくお願いしますね」


 あえて返事は聞かない。

 本人的には自分はいないものとして扱ってくれという態度だが、俺たちのお願いを無碍にするような人でないことはこれまでの付き合いでわかっていた。


「あの、アラタ様。今のは?」」

「えっと、それもまた改めて説明するね」


 俺はエルガからもらった地図を出して、この島の状況をわかる範囲で説明していく。

 普段あまりこういうことに関心がなかったのか、グラムも興味深そうに覗き込んできた。


 本当はサクヤさんのこととか話したいのだが、さすがに人命優先だ。


「とりあえず、俺はアールヴの村と大精霊様の住処に行ってくるね」

「ええ。私は神獣族の里かしら」

「そう、だね……」


 いちおう、神獣族の里と俺たちの住んでいる森は道を作っているので、魔物たちはあまり近づかない。

 安全ではあるのだが、どんなイレギュラーが起きるかわからない以上誰かが護衛に付いて欲しいところだけど……。


「だったら俺が姉貴を守るぜ」

「それなら安心だけど、グラムって神獣族の里に近づいても大丈夫?」

「まあルナとかエルガとかがいるなら、大丈夫だろ。姉貴もいるしな」

「そっか。それじゃあお願いしようかな」


 この島では縄張り争いがあるわけではないが、それでもある程度の線引きはこれまでされてきた。

 俺が来てからは結構曖昧になっている部分でもあるが、それでもいきなり古代龍が現れたら向こうも驚くかもしれない。


 ティルテュが行ければ一番安心だったが、彼女にはスノウと遊ぶという使命がある。

 と思ったところで、アールヴの村に行くならスノウも連れて行ってあげようかなと思った。


「スノウ、スノウー」

「なーにー?」


 玩具の置いてある遊び部屋に声をかけると、スノウがこちらにやってくる。


「この後アールヴの村に行くけど、スノウも行く?」

「んー」

「カティマとかにも会えるよ」

「行く!」


 まあカティマは結構な頻度で遊びに来るから今更かもしれないと思ったが、以外とそうではないらしい。

 もしかしたら、村まで行って会うのはまた別なのかもしれない。


 ――夏休みに祖母の家に遊びに行くわくわく感みたいなものかな?


「ティルテュはどうする?」

「わ、我は一回休む……」


 スノウの遊びに付き合ったからか、すでに満身創痍状態。

 最強種の彼女をこの短期間でここまで消耗させるとは、我が娘とはいえ恐ろしい子だ。


「それじゃあもし誰かが遊びに来たら、事情を伝えておいてくれる?」

「うむ」


 マーリンさんたちにも伝えておこう。

 彼らからしたらセレスさんたちは味方とは言わないが、それでも同郷。

 それにこの島に来たらもうこれまでの身分とかしがらみとか、そういうのはなしで考えて貰いたい。


 マーリンさんの家に入るとゼロスもいたので、丁度いいやと事情を説明する。


「それならついでに、カーラたちも探してもらえるかしら?」

「セティはともかく、カーラは放っておくと面倒だからなぁ……」


 カーラ・マルグリッドとセティ・バルドル。

 七天大魔導の残りの二人で、ペアで動くことが多いそうだ。


 外見年齢はどちらも二十代半ば。

 カーラさんは長い金髪をウェーブにして、修道服を着ている。

 セティさんは緑の短髪だが、普段は白い鎧を纏っているためわからないかもしれない。


 まあこの島で鎧なんて着てる人はいないので、どちらもすぐわかるだろう。 


「それじゃあ見つけ次第保護して、ここに連れてきますね」

「ええ。あんなのでも同僚だし、死なれたら寝覚めが悪いからお願い」

「まあ見つけたらでいいぞ。あいつらだって七天大魔導だ。自分の身くらい自分で守るし、駄目だったらそこまでだったって話だからな」


 セレスさんがアークさんたちを心配するのに比べると、あっさりした反応。

 おそらく仲間というほどでもなく、ドライな関係なのだろう。

 

 ――レイナも最初は、この二人に対してそんな感じだったしなぁ。


 まあそれもこの島で一緒に生活を続けていったら変わるかもしれない。

 七天大魔導のみんなも仲良く出来た方がいいに決まってるし、そうなれるよう協力もしよう。


「ぱぱ、まだ行かないの?」

「ああ、ごめんね」


 抱っこをした状態のスノウがちょっと不満そうな声を出す。

 どうやら俺が思ってた以上にカティマのところに行くのが楽しみらしく、早く行きたいみたいだ。


 ――そういえば、なんだかんだで里帰りって初めてだもんなぁ。


 ついでにシェリル様たちのところに行くか。

 ジアース様には頼んだけど、もしアールヴの村まで行っておいて尋ねなかったのがバレたら後が怖いし……。


 そんなことを思いながら、俺たちは北に向かって飛び出した。

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