第117話 捜索
夜になり、しかしレイナたちは誰一人戻ってこなかった。
「ぱぱ……ままは?」
「まだ戻ってこないね。やっぱりなにかあったのかな?」
「うぅ……」
不安そうにしているスノウを抱っこしてあげ、そのまま安心させるように背中をぽんぽんする。
「大丈夫。ママは強いし、ゼロスたちだって凄い魔法使いなんだから」
「……うん」
「もう遅いし、スノウも寝て良いよ。俺が起きて待ってるからさ」
「一緒に寝たいよぉ」
少しぐずるような言葉。
いつも傍にレイナがいたため、ここまで会えない時間が長いのは初めての経験だ。
「戻ってきたら一緒に寝よっか」
「うん……」
「ママが帰ってきたら起こしてあげるから、今は寝てて良いよ」
「……うん」
小さな声。
しばらくすると、小さな寝息が聞こえてくる。
俺はそのままソファに座り、くっついて離れる気のないスノウが寝やすい姿勢を作ってあげる。
「……でもレイナ。本当にどうしたんだろう」
「大丈夫なのか?」
俺の独り言が聞こえたのだろう。
風呂場から戻ってきたナナシさんが少し気になる様子で聞いてきた。
「多分。レイナは大陸でも凄い魔法使いですし、この島に来てからも強くなったので」
「そうか……しかしこの島の魔物たちの強さは……なんというか」
ナナシさんが言葉を濁しているのは、おそらく記憶が混乱しているからだろう。
なんとなく分かる知識と、実際に覚えていることが乖離しすぎて言葉にしづらいらしい。
今も多分、この島の魔物たちの強さは大陸とは比べものにならない、ということはわかっても、そちらの魔物がどんな強さを持っていたかはわからないような、そんな感じのようだ。
「……」
「心配なら探しに行ったら良いと思うぞ」
「でもそしたらスノウが……」
もう俺から離れない、という強い意志を感じる。
それくらいべったりとくっついて寝ているのだ。
「なに、貴方が探している間くらいは私が見ているさ」
ナナシさんは近づくと、スノウの背中を優しく撫でる。
そしてそっと脇に手を入れると、俺に抱きつく力が少し弱まった。
「寝ている子どもは、人の体温に敏感だからな」
「なんだか手慣れてますね」
「……もしかしたら、子どもの世話をしていたのかもしれないのか」
力が抜けたスノウは、そのままナナシさんに引き離されてそちらに抱きつく。
女性特有の温かさに、もしかしたらレイナと勘違いをしているのかもしれない。
「うん、この様子ならしばらくは起きないだろう」
「……お願いしても良いですか?」
「ああ。私は貴方に助けて貰ったんだ。なら私も、助けになるのは当然だろう」
そう微笑んでくれるナナシさんに感謝して、俺は立ち上がる。
「すみませんけど、スノウをよろしくお願いします!」
そうして返事も聞かず、外に出る。
当たり前だがこの島には人工的な光などもなく、月と星の輝きだけでほぼ真っ暗。
魔法で光を灯し、まずは空の上から近場の森をぐるっと回る。
気配がないので、そのまま神獣族の里へ。
レイナたちが俺抜きで島を向かうとしたらここだと思ったけど……。
「……いない、か」
流石に今起きている人はいないし真っ暗だが、集中すれば気配を感じることは出来た。
特にレイナの気配なら必ず分かる。
一番近くのここにいないため、少し北の鬼神族の里を見る。
「あっちに行ってみるか」
以前であれば歩いて行ったため時間がかかったが、こうして空から飛んでいけばすぐだ。
遠目から見ても分かる大きな穴に湯が流れ、中々壮観だ。
今度落ち着いた時に、スノウ達を連れてまた来よう、と思いつつ気配を感じると……。
「あ……」
レイナの気配だ。
近くにはサクヤさんと、他に数人。
おそらくマーリンさんと、ゼロス、それに知らない人がいるけど、とりあえずみんな無事そうだ。
「……良かった」
ホッとして、力が抜ける。
この知らない人が、レイナたちが慌てた要因だろうか?
とはいえ、今同じ屋敷で眠っている事を考えたら、多分もう解決したのだろう。
一瞬行こうかと思ったが、もうこの時間だと迷惑になるかもしれない。
「明日、スノウを連れてまた来よう」
スノウが起きたらまたママは? と聞いてくると思うけど……。
「場所さえ分かっていればあの子も納得してくれるよね」
とりあえず自分の家に戻る。
家に帰ると、奥の部屋でスノウとナナシさんが一緒に寝ている。
どうやら最後までスノウは起きなかったらしい。
「ただいま」
それだけ言ってそっと部屋の扉を閉じる。
明日はなんとか、スノウより早く起きないとなぁ……。
などと思っていたのだが――。
「パパ! ママは⁉」
早朝、丁度太陽が出てきたくらいの時間帯。
寝ている俺のお腹にダイブしてきたスノウが、少し怒ったような顔をしてそう言ってくる。
「すのう……おはよう」
「まま!」
とりあえず、俺のお腹に抱き寄せる。
腕の中でもごもごと動いているが、俺の方が力が強いので逃げ場がない様子。
そしてしばらくして観念した様子で動きを止めたところで、少しだけ力を緩めてあげた。
「ママ、少しお泊まりしてただけみたいだから、一緒に迎えに行こっか」
「ままのところ?」
「うん。この間のサクヤさんのところにいるみたい」
「行く!」
ぴょん、と俺のお腹の上からどいたスノウは、そのまま部屋から出て行った。
どうやらお出かけの準備をしに行ったらしい。
「ふぁ……」
昨日は結構遅くまで起きていたのに、早朝に起きたため大きなあくびが出てしまう。
「眠たそうだな」
「あ、ナナシさん」
「ああ……その様子だと、無事に見つかったらしいな」
「はい。昨日はスノウのこと、見て頂いてありがとうございます」
「一緒に横になって寝ていただけだがな」
苦笑しながら、部屋に入ってくる。
「私はどうしたら良いだろうか?」
「そうですね……」
俺の家は頑丈に作っているとはいえ、ここに一人で置いていくのもまた危険が多い。
それならいっそのこと、一緒に行った方が色々と早いかもしれないと思った。
「今から鬼神族……えっと、この島の住民の住む里に行くんですけど、一緒でもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。道中、貴方には助けて貰わないといけないがな」
ほんの少し、茶目っ気を出したような言葉で、ナナシさんはそう言う。
なんとなく、彼女は最初はとっつきにくい雰囲気もあったのだが、だんだんと柔らかくなっていきたような気がした。
それだけこころを許してくれているということだろう。
「ぱぱ! 準備出来たよ!」
レイナに作って貰ったお気に入りのリュックを背負い、腕にはヴィーさんが城から持ってきたうさぎの人形を持って、出かける準備万端のスノウ。
「早いなぁ」
「それだけママに会いたいのだろう」
そんなスノウの様子に、ナナシさんは笑っている。
でもまずは朝食が先だ。
「ほら、ご飯食べてからね」
「うぅー……」
スノウの両脇に手を入れて、リビングに。
そしてレイナのご飯とは比べものにならない簡単なサラダとパンだけ用意。
それを食べた後、俺たちは鬼神族の里へと向かっていった。
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