第113話 七天大魔導と聖女と勇者と破滅の魔女 後編

 船を求める勇者パーティーと、目的地までの『縁』を求めた七天大魔導。


 本来なら敵同士の彼らだが、それぞれに共通の目的、そしてメリットがあると感じて同じ船に乗ることになった。


 この場にいる面々は、紛れもなく大陸最強の戦力だ。

 たとえどのようなことがあっても、きっとなんとかなるだろうと、船に乗る全員が思っていた。


 しかし、船を出してから数日が経ったころ、突然夜を切り裂く一筋の光が現れると、事態は一変する。


 つい先ほどまで快晴だったはずの天気は見る影もなく、巨大な嵐に巻き込まれたように船を揺らし始めたのだ。


「アーク! セレス! やばいわよ!」

「まずいな……船が、保たない!」


 十人にも満たない数の人間を運ぶために用意された巨大な船は今、海の藻屑となりかけていた。


 元聖女のセレスも、なんとか船体を保たせるために結界を張ろうとするが、なぜか魔法が発動しない。


「そんな……このままでは――」


 慌てているのはセレスたちだけではない。

 七天大魔導として、災厄とまで呼ばれるような魔物たちすら退けてきたカーラも、命の危機を感じて叫ぶ。


「ちょちょちょ! セティなんとか出来ないんですか⁉ 風なら貴方の得意分野でしょう!」

「……やっている、が無理だ。風が言うことを聞かない」

「えぇぇぇ⁉ じゃ、じゃあゼフィール! 雷皇なんて呼ばれてる貴方なら――」


 揺れる船の上で仁王立ちをしながら、空に向けて魔法を放とうとするも、なにも生まれない。


 二百年、魔導を追求し続けた男とっても、この現象は初めてのことだった。


「……これはいったい」

「無駄だゼフィール」


 一言、黒い軍帽を被り、同じく軍服のような服を着た少女が呟く。


「……なにか、知っておられるのですか?」

「これはもはや、人の手でどうにか出来る物ではない」


 彼女の名はエディンバラ・エミール・エーデルハイド。

 七天大魔導『第一位』にして、終焉の怪物、始まりの魔法使いとまで呼ばれた、世界最強の存在である。 


「そ、そんな……さっきまでは全然なんともなかったじゃないですか!」


 最強の魔法使い集団とはいえ、命の危機が迫っても動揺せずにいられる者は少ない。


 少なくとも、カーラは強者でありたいだけであって、いつ死んでも良いとは思っていなかった。

 それぞれが出来ることはないかと行動をしている中で、聖女セレスだけは冷静なエディンバラを見て動きを止めた。


「先ほどの閃光……」

「ほう、気付いたか聖女」

 

 この嵐が発生する直前に見た閃光を思い出したセレスが、恐ろしいモノを語るように口を開く。


「か細い、ですがこれまで感じたことのないほど強大な魔力が空を切り裂き……そしてその後すぐにこの嵐が来ました」


 セレスの言葉を聞いたエディンバラは、愉快そうに笑う。


「ああそうだ。あれが『なにか』を切り裂き、そして今がある。つまり――」


 ――目的地は近い。


 嵐の中、船にいる全員が死に直面して困惑している中、エディンバラは船頭に歩き、そして水平線を見つめながら笑う。


 まるでその先にいる『誰か』が見えているかのように、嬉しそうに……。


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