第83話 真祖も呆れる甘さ
神獣族の里での事件が解決してから一週間。
マーリンさんのおかげで里は、いつもの活気を取り戻していた。
元々神獣族として免疫も高かったからか、ルナももう元気に走り回っているし、他の獣人たちももう元気いっぱいだ。
新たな患者も出ておらず、疫病は完全に終息したと言っていいだろう。
『結局、発生原因はなんだったんでしょうね』
『さあな……まあ俺様としては、こうして里のやつらが無事でいてくれればなんでもいいさ』
という会話をしたのが先日のこと。
スザクさんからお礼を、と言われたがこういう物は持ちつ持たれつ。
そう思ったのだが、それじゃ自分の気が済まないと逆に怒られてしまった。
「さてさて……」
家の庭にセットしたハンモックに寝転がり、一枚の羽根をクルクル回す。
結局、マーリンさんと同じくスザクさんの羽根を一枚貰うことになったのだが、貰ってどうしたらいいんだろうか?
「ぱぱぁ……」
「ああもう、落ちるよ」
寝ているスノウをお腹に乗せながらそんなことを考えていると、空から強い魔力を感じる。
「あ、この魔力……ヴィーさんだ」
「……この時間に来るなんて珍しいわね」
俺と同じくヴィーさんの存在に気付いたレイナが、ちょっと渋い顔をして家から出てくる。
まあ彼女がそんな顔をするのもわかる。
こちらが困った顔をするのを至上の楽しみとしているうえ、レイナは特にお気に入りとして被害が大きいからだ。
「はーはっはっは! 久しぶりだなぁ、二人とも!」
「ヴィーさんいらっしゃい。珍しいですね」
「なぁに、またお前らが面白そうな状態になってると知ってな。太陽が明るいというのに来てしまったぞ!」
普段は月を背にやって来る真祖の吸血鬼。
しかし今日はまだ太陽上る時間帯だというのに、妙にハイテンションだ。
これは、面倒かも……。
「また遠見の魔法で見てたんですか?」
「ああ。お前たちが普段からイチャイチャしてるのも、ちゃんと遠くから見守ってるぞ」
本当にこの人、スマホで延々と動画やSNSを見続ける暇な人みたいにこっちの生活覗いてくるなぁ。
「俺たちにもプライバシーってものがあると思うんですけど」
「そんなの私の知ったことか。私は真祖の吸血鬼だからな」
言外に、人の常識などには縛られるわけがないだろうと言いたげだ。
「さてさて、そいつが噂の大精霊か」
「んー? んー……」
スノウが身動ぎしたので、騒がしさに一瞬起きたのかと思ったが、少し煩わしそうにするだけですぐにまた寝入ってしまう。
そんな状態なので俺は身動きも出来ず、ハンモックに転がったままだ。
「くくく、なるほどなるほど……これはまた、ずいぶんといい感じじゃないか」
「とてもいい感じだって言いたい顔じゃないですよ」
ニヤァと、どこまでも悪意ある顔だ。
まあこの悪意も、迷惑こそかけててくるが、実際に危ないことはしてこないのでまだマシか?
「それで、なにしにきたのよ。ヴィルヘルミナさん、太陽が出てるときは寝てるんでしょ?」
「言っただろう。大精霊を見に来たと」
「……言っとくけど、スノウに手を出したら貴方でも許さないわよ」
珍しく、本気でヴィルヘルミナを威嚇するレイナ。
実力の差はわかっているだろうが、それでもスノウを守ろうと前に立ちはだかる。
「……」
「ヴィーさん?」
レイナの行動に目を丸くして黙り込んだ彼女に、俺はつい不思議な顔をしてしまった。
「ふっ……いやなに、少し懐かしいことを思い出しただけだ」
「……」
「レイナも、ヴィーさんが本気でなんかするとは思えないから、あんまり怒ったら駄目だよ」
「アラタ……」
スノウを起こさないように抱きしめ、ハンモックから降りる。
そのままハンモックに置こうと思ったのだが、がっしりくっついているため抱っこした状態でレイナの横に立った。
「ほら、大丈夫だから」
「……ごめんなさい。ちょっと気が立っちゃって……」
「ん、スノウが大切だもんね」
レイナにスノウを渡すと、さっきまで絶対に離れなかったのが嘘のようにレイナに抱き着いた。
まったく、現金な子だなぁ、と思いつい笑ってしまう。
「貴様ら、それでまだ夫婦じゃないと言い張るとか、それはそれでどうなんだ?」
普段ならニヤニヤ見てくるヴィーさんも、少し呆れ気味。
そうは言うが、俺たちは家族であって夫婦ではないし、それはレイナもわかっていること。
……なんとなく、俺はこの線引きがとても大事なことな気がしていたのだ。
「まあ、その大精霊のことはわかった。氷の大精霊なら私が面倒を見てやろうかと思ったが……」
「……」
「そう睨むなレイナ。別にまだ、お前たちと全力で遊ぼうとは思っていないのだ。今はな」
不穏な言い方をしないで欲しいところである。
ただレイナの態度もちょっと過剰で、これはこれで問題だ。
もしかしたら、母親としての自覚から来るものなのかもしれないが……。
「レイナ、ヴィーさんもただスノウを見に来ただけだから」
「……ええ、そうよね」
俺が彼女の頭を撫でると、徐々に険しい瞳が優しくなる。
こつんと頭を俺の胸に当ててくるのは、もっと撫でろという意思表示だろう。
「堂々と二人の空間を作り始め出したな貴様」
「まあ、もうヴィーさんにはからかわれ慣れたからね」
「そうか……ならまた新しい手段を考えないとなぁ」
そんな手段は考えないで欲しいところである。
とはいえ、俺たちが美味しいものを食べて喜ぶように、彼女は人の羞恥心を糧にしているのだから、止められない。
「んー……」
「あ、スノウが起そうだね」
レイナの腕の中で身動ぎしたスノウは、パチリと目を開く。
「……」
そうして、ヴィーさんのことをじっと見つめるのであった。
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