第75話 病気
スザクさんを家に招いて話を聞くと、どうやら獣人たちの間で病気が流行っているとのこと。
神獣族などこの島に住んでいる最強種たちは病気などほとんどしないのだが、普通の獣人たちは違う。
外界の生物よりずっと強くても、病などにはかかることは普通にあるそうだ。
「つっても、普通なら休ませればそれで治るんだが……」
そう言いながらもスザクさんが不安そうにしているのは、獣人たちの様子がいつもとは大きく異なっていたから。
かなり症状も重く、身動きが出来ない者もいるほどらしい。
「俺らはそもそも病気にならねぇからよ。こういうとき、どうしたらいいかわかんねぇんだわ」
「なるほど」
とはいえ、当たり前だが俺だって病気に関しては全然詳しくない。
せいぜい栄養を良く取って寝るくらいしか対処法が思い浮かばないのだが……。
「レイナはどうにか出来る?」
「とりあえず症状を見ないとなんとも言えないわね。ただ、私も医療に関しては勉強してないから力になれるとはとても……」
「そっか」
俺から見たらなんでも知ってるレイナだが、さすがに駄目らしい。
「こういうのに詳しそうなのは……ヴィーさんかな」
「……アイツかぁ」
俺の言葉にスザクさんが少し嫌そうな顔をする。
どうやら二人は知り合いらしいが、過去になにかあったらしい。
「仲悪いんですか?」
「いんや、昔はよく殺し合った仲だぜ」
……それは仲が悪いのでは?
そんな俺の視線で言いたいことを理解したのか、スザクさんが苦笑しながら答えてくれる。
「俺たちはこの島のやつらの中でも飛びっきり死ににくかったからな。いい感じに力の調整もいらずに殺し合えて、むしろ仲良かったくらいだぜ」
「なるほど」
真祖の吸血鬼と不死鳥。
不死者同士で有り余った力をぶつけ合っていたみたいだけど、そのときの被害は大変そうだ。
「ってあれ? 仲がいいなら診て貰えばいいんじゃないですか?」
「そりゃ無理だ。あいつから見たら、俺たちは裏切り者みたいなもんだからよ」
「裏切り者って……」
ヴィーさんの普段の様子を見ていると、そんな風に思うタイプには思えなかったけど……。
「あいつは一人なんだよ。俺たちと違って」
「一人?」
「ああ。昔、まだ俺たちが力を振るってた頃ってのは酷いもんで――」
スザクさんは遠い目をしながら、語り始める。
「どいつもこいつも馬鹿みたいに強いもんだから、最強を決めるだのなんだので殺し合ってた……まあそれも年を重ねて、守るもんが増えると自然に戦うのも止めていったんだが……」
「……」
「寿命とかもあったし、単純に負けて死んだやつもいる……なんにせよ、みんな時間の流れと一緒に大人しくなったもんだ。ヴィルヘルミナのやつを除いてな」
スザクさんや神獣たちには神獣族や獣人が、古代龍族や鬼神族も仲間が、大精霊たちはエルフやアールヴが。
それぞれ守るべき者が出来て、力を振るう以外にもすることが出来て、そうして争いはなくなっていった。
ただ一人、真祖の吸血鬼という孤独な存在を置いて――。
「結局ヴィルヘルミナのやつだけが、最後の最後まで殺し合いをしたがったが……誰もあいつを相手にしなくなった」
スザクさんは少し寂しそうな顔をしながら、溜息を吐く。
「ま、散々殺し合ってきた身としては、あいつの気持ちもわかるし裏切り者扱いされたって仕方ねぇとも思ってるんだよ」
「ヴィーさんには眷属はいなかったんですか?」
「この島に来る前に、一人だけ眷属にしたって昔聞いたが……それ以来眷属は作らないんだってよ」
「……そうなんですね」
「おう。まあそんなんだから、あいつから俺らを手助けするような真似はしてくれねぇだろうさ」
その割にはエルガの恋路を手伝ったり、ルナの面倒を見たりと結構絡んでいるような気もするけど……。
それでもやはり、彼女たちにしかわからない線引きのようなものがあるのかもしれない。
「しっかし、お前たちでもわからないとなると、どうしたもんかねぇ」
「病気に詳しい種族っていないんですか?」
「この島の化物たちを舐めんなよ。簡単に病気になんてならねぇんだ」
そもそも医療っていうのは病気や怪我があって初めて発展するもの。
怪我も病気とも無縁の生活を送ってきたであろうこの島の人たちからは、ある意味で最も遠いものなのかもしれない。
「……マーリンならわかるかも」
「あ……」
レイナがぽつりと呟いたのは、レイナと同じく七天大魔導の一人であり水聖の二つ名を持つ女性。
「マーリンは医療が専門ってわけじゃないけど……水魔法はそっちの分野でも活躍する場面が多いし、あのレベルの水魔法使いなら多少心得があるはずよ」
「そっか。じゃあ一回聞いてみよう」
俺が立ち上がると、スザクさんも一緒に立つ。
「呼んでくるので、待っててくれたらいいですよ」
「いんや、こっちから頼みごとをするんだ。だったら俺様が行くのが筋ってもんだろ」
「……そうですね」
凄い力を持ってるし、神獣族の里でも一番偉いのに、こうしたことをきっちりするのは尊敬出来る。
「ぱぱ、どっか行くの?」
家の探検をしていたスノウが、俺が出掛けることに気付いて近づいて来る。
「ちょっと友達のところに頼みごとしに行くから、ままと待っててくれる?」
「……うん」
目線をスノウに合わせるためにしゃがみ込み、頭を撫でていると隣で立っていたスザクさんが不思議な顔をしていた。
「さっきから気になってたんだけどよ、こいつ大精霊だよな?」
「あ、やっぱりそういうのわかります?」
「持ってる魔力考えたらそれしかないからな。だが、へぇ……」
面白そうに俺とレイナを見て、ちょっと悪い笑みを浮かべている。
「パパと、ママねぇ」
「ちょっと、今はそういう風にからかう場合じゃないでしょ」
「ま、それもそうだな。この件はまた、落ち着いたらだな。色々聞きたいことも多いし」
良い酒用意するぜ、と言いながら外に出ていくので、俺もついて行く。
マーリンさんの家はすぐ近く。彼女らしい白い壁で出来た、ちょっとおしゃれな雰囲気だ。
「あれ、留守かな?」
「みたいだな。中に誰もいねぇみたいだ」
玄関のベルを鳴らしてみたが、出てくる気配はない。
スザクさんも気配を感じられないとのことなので、出掛けているらしい。
「おうアラタ、帰ってきてたのか。どうしたんだ?」
「あ、ゼロス。実はマーリンさんに用があったんだけど……」
「マーリン? あいつなら朝早くに来たティルテュのやつと一緒に出掛けて行った……ぞ」
ゼロスの視線がスザクさんに固定される。
どうやら怯えているようだが、なんで今更怯えてるんだろう?
最近はティルテュやエルガと一緒に狩りとか修行とかしてて、結構慣れてきたイメージだったんだけど。
「……おいアラタ、その人」
「そういえばお前らと話すのは初めてだったな! 俺様はスザク! 神獣族の長をやってるもんだ!」
彼らも個別で神獣族の里には行くことがあっても、スザクさんと話す機会はなかったらしい。
個人個人でそれぞれ人間関係を築いているのは知っていたが、細かい部分までは知らなかった。
「……俺の名はゼロス」
「おう、テメェ炎使いだな? わざわざ炎を選ぶとかいいじゃねえか。気に入ったぜ!」
「うす……」
ガタイのいいゼロスに対して、小柄なスザクさんが高圧的に絡んでいるのは少し見た目的にシュールだ。
「なんか、極道の娘とそのボディーガードみたいだな」
もしくは番長と舎弟。
もちろん、笑いながらバシバシと背中を叩くスザクさんが番長で、大きな身体を少し縮こませているのがゼロスである。
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