第67話 事情説明

 グエン様とジアース様の二人と和解した俺は、大精霊の少女を抱っこした状態で二人と向き合う。


「……」

『……』


 羨ましそうに見られているとちょっと気まずいので、いい加減疑問に思っていたことを口にする。

 

「ところで、ここからどうやって出たらいいですか?」

「ん? あー……」

『ワレらも、シェリルの闇の牢獄から抜け出す手段を持ってオラヌ』

「なるほど……」


 ――じゃあ力づくしかないか。

 ――アンタ、次それしたら本気で殺すわよ。


 まるで俺の考えに呼応するように脳裏に響くシェリル様の声。

 それと同時に周囲を覆っている魔力が消えていく。


「お? こりゃシェリルか」

『今回は早イナ。数年はココに閉じ込められるカト思ったガ……』


 闇が晴れると、俺たちはコロシアムの中心に座っていた。

 観客席を見上げれば、怯えた様子のカティマと呆れた様子のシェリル様の姿がある。


 どうやら彼女たちからは、外からでもこっちの状況を把握できていたらしい。


「……とりあえずアンタたち、全員こっち来なさい」

「あ、はい」


 少女を抱っこしたままシェリル様について行くと、豪華なテーブルや椅子が並ぶ、まるで貴族の食卓のような場所に案内された。


「えーと……?」


 俺とカティマが困惑しているうちに、グエン様とジアースがテーブルにつく。


「ぼーとしてないで、アンタたちもさっさと座る」

「あ、はい」


 シェリル様に促されてテーブルに座る。

 すると黒くて丸い幽霊みたいな精霊たちが必死にカップや料理を持ってきた。


 あわあわしている姿はちょっと可愛く、ついほのぼのしてしまう。

 一匹持ち帰ったら、ルナとティルテュが喜びそうだ。


「おいアラタ……お前今なに考えてる?」

「いや、なんにも」

「……嘘だ」

「嘘じゃないよ?」


 隣に座っているカティマは生きた心地がしない、という言葉を体現しているほどに怯えながら俺を疑ってくる。


「なんでお前はそんなにトラブルばかり起こそうとするんだ?」

「……一つ言わせて欲しい」

「いいだろう」

「俺は決して、トラブルを起こそうと思ったことは一度もない」


 いや本当に、トラブルを起こそうなんて思ったことないんだ。

 だからそんな目で俺を見ないでくれ。


「俺は俺なりに、今回のトラブルを解決しようと思ってたんだ。そしたら色々と、その、流されちゃって、結局……」

「まあアラタの担当はレイナだからな。あとで存分に問題児として扱われるといい」

「……」

「言っとくけど、カティマは絶対に助けてやらないからな。ぜ、絶対だぞ! だからそんな目で見るんじゃない!」


 だってレイナに怒られるの怖いし。

 だからカティマ、ちゃんと一緒に言い訳考えるの手伝ってね、という視線を向けると俺の想いはちゃんと届いたようだ。


「カティマは助けないって言ってるだろ!」

「はいはい、アンタたちそこまで」


 シェリル様が呆れた視線を向けながら、俺たちの漫才みたいなやり取りを止める。


 気づけばテーブルの上には暖かそうな料理が並んでいる。

 どうやら闇の精霊たちが頑張ってくれたらしい。


「ん?」


 黒い球体みたいな闇の精霊たちが集まり、まるで空中に浮かぶベッドのような形を作る。


「その子はとりあえずそこに寝かせればいいわ」

「ああ、なるほど」


 特に起きる気配はないので、ずっと抱きかかえていた少女を闇のベッドに寝転がすと、そのまま精霊たちはユラユラさせながら離れていく。

 

 上下左右に動く様はなんだかシュールでちょっと面白い。


「さて、それじゃあ話を進めましょうか……」


 もっとも、シェリル様の視線は全然面白くなかったが……。



 料理を食べながら、闇の牢獄内で話した内容を改めて整理する。


 新しい大精霊が生まれる気配がしたため、三人がどうするか集まったこと。

 グエン様とジアース様がお爺ちゃんになりたくて暴走したこと。

 そしてどっちが真のお爺ちゃんか決めるために大喧嘩を始めようとしたため、シェリル様が闇の牢獄に捕らえたこと。


「あれ? 俺が聞いた話とちょっと違うくないですか?」


 具体的には二人が闇の牢獄にいた理由。

 生まれてくる大精霊の面倒を見るためと聞いていたが……大喧嘩?


 俺が疑問に首をかしげると、シェリル様はため息を吐きながら二人を順番に指さした。


「このアホ二人」

「アホじゃねえし」

『アホではナイ』

「あのままだったらこの辺り一帯が全部吹き飛んでたんだけど?」

「……なるほど」


 俺とシェリル様が視線を向けると、二人はそっと逸らす。

 たしかにこの二人が手加減なしに暴れたら、大変なことになってしまいそうだ。


「ねえカティマ……」

「やめろアラタ。今ここでカティマに話を振るな」

「大精霊様って、ちょっと天然だね」

「だからそれに答えたらカティマは大変なことになるって言ってるだろ! そういうのやめろよ本当に!」


 涙目で反論するカティマがちょっと面白くて、つい弄ってしまう。


 前まではこんな風に感情を表に出すことも少なかったけど、アールヴの村に着いてからは結構いろいろな彼女の一面を知れて楽しくなってしまうのだ。


「とりあえず事情はわかりました」


 今までの会話からだいたいの人となりも知ることが出来た。

 あと、一番怖いって教えられたシェリル様が、実は一番の常識人だということも。 


「それで、これからどうしたらいいですか?」


 俺の視線は、闇の精霊たちでできたベッドで眠る少女。

 新しく生まれた大精霊、と言われても見た目はただの少女だ。


「それはもちろん、アンタが責任もって守りなさいよ」

「……やっぱりそういう話になるんですよね?」

「当たり前じゃない。もしアンタと引き離したら、泣いて暴れるかもしれないんだから」


 シェリル様の言葉に、俺はもう一度小さな少女を見る。

 こう見えて、グエン様とジアース様を吹き飛ばしたんだよなぁ……。


「とりあえず、家で相談してもいいですか?」


 特にレイナにはちゃんと説明しないと、怒られる。

 あと絶対にまたアラタは、って視線を向けられる。


「いいけど、それでもこの子は連れて行きなさいよ」

「ですよね」


 まあ、こうして懐いてくれてる子を引き離して泣かれたら可哀そうだし。


 すやすや寝ている彼女の髪の毛を軽く撫でると、ひんやりして気持ちが良かった。


 

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