第54話 新たな出会いを求めて
この島に転生してから結構経ち、様々な人と出会い、色々なことに触れてきた。
その甲斐もあってか、この島で生活するうえで不便だと思うことはほぼなく、快適な生活が出来ていると思う。
そうなってくると人というのは新しい欲というものが芽生えてくるもので――
「ようやくアラタたちを招待出来るから、カティマは嬉しいぞ」
「あはは、遅くなっちゃってごめんね」
今はまだ、神獣族くらいしか種族として関わりはない俺たちだが、色々な種族ともっと関わりたい。大勢でワイワイとはしゃぐ光景が見たい。
改めてそう思って、レイナと一緒にカティマが住む村に招待されに行くことにしたのだ。
新たな種族との出会いがどうなるか、今の時点で楽しみだったりする。
今はカティマたちが住む村に向かうため、断崖絶壁とも言えるような山の上を歩いていた。
「それでカティマ、アールヴってどんな種族なの?」
「ん? 改めて聞かれるとちょっと困るな」
むむむ、と唸り声を上げながらたしかに改めて聞くと変な質問だったなぁと思う。だって人間ってどんな種族? と聞かれたら困るし。
それでも真剣に考えてくれるあたり、カティマは真面目な少女だと思う。
「とりあえずアールヴは大精霊様を信仰している」
「ああ、前にそう言ってたね」
「カティマたちハイアールヴはその恩恵を受けてるから、とっても強い」
「恩恵?」
「うん。大精霊様はこの島で一番凄い存在なんだ。その力を分けて貰うことで、この島でも生活出来るんだぞ」
多分、そんな感じのことを言ったから神獣族と喧嘩になったんだろう。そう言う意味ではカティマたちアールヴも神獣族も、お互いの神様のようなものがいて、それが譲れないのは変わらないのかもしれない。
まあそれはお互いに尊重し合えばいいだけの話だ。特に俺に関しては信仰する神様もいないし、レイナにしたってそうだろう。
転生させてくれた神様はまあ、結構残念なところが多くて尊敬できるかと言われると、出来ないんだよなぁ。
「というかハイアールヴってなにかしら?」
「ああ、たしかに」
結構普通に言うからスルーしてしまったが、突然出てきた新しい単語にそういえばと思う。
ニュアンス的にはなんとなくわかるが……。
「ハイアールヴっていうのは、カティマみたいなのだ」
「えーと……」
「つまり、アールヴの偉い人ってことかしら?」
「むふー」
レイナの言葉に満足したような表情で頷く。あんまり表情筋が動かない割、感情豊かな子である。
「いちおうアラタに説明しておくとね、エルフにもハイエルフっていう王族がいるらしいの。だから信仰する精霊が違うだけで、アールヴもエルフも元は同じだっていうなら……」
「カティマが、王族?」
「ん? 何だその顔は? どこからどう見ても偉い感じが出てるだろ?」
腕を腰において不思議そうに首を傾げる彼女を見て、改めてもう一度上から下まで見ていく。
……いやだって、なんか王族って感じの貫禄が全然ないんだもんこの子。
それに前に聞いたとき、たしか長老とか言ってたし、あんまり王国的な雰囲気は感じないんだよなぁ。
「それにしても、凄い場所に住んでるのね」
「そうだね」
「アールヴは火と土と闇の大精霊を敬う山の民だからな」
山、とカティマは言うが、俺からしたら崖というのが正しいような光景だ。まるでオーストラリアにあるエアーズロックのような大絶壁。
たまに空を飛んでいたときに目に入っていたが、どうやら彼女たちが住んでいる場所だったらしい。
今はその崖壁を沿うように歩き続けてそれなりの時間が経っているが、カティマの住む村は相当上層にあるのかまだ着く気配はなかった。
カティマは背中に大きな石斧を背負っているにもかかわらず、その足は衰えるような気配はない。
俺もそうだが、やはりレイナを見ると大変そう――。
「あれ?」
「なに?」
「いや、結構平気そうだなって思って」
少し汗をかいてはいるが、彼女の足取りはいつも通り。この島に来たとき一緒に散策したときは結構疲れとか見せていた気がしたが……。
そう思っていると彼女は少しあきれ顔でため息を吐いた。
「あのね、こんな島で毎日生活をしているのよ? そりゃ体力だってつくし、それに魔力のコントロールも上手くいくわよ」
「あ、そういえば身体強化とかも出来るんだっけ?」
「そういうこと。まあ、アラタには関係ない話だと思うけどね」
たしかに俺に身体強化は必要ない。そんな魔法を使わなくても体力も力も常人より遥かにあるからだ。
だからあまり気にしたことはなかったが、どうやらこの島にやってきてからレイナの魔法も上達しているらしい。
元々世界最強の魔法使いの集団に所属出来るほどの実力者であったにも関わらず、まだ成長の余地があるというのは凄まじい才能だと思う。
俺の神様印のなんちゃって最強パワーと違う、本人の努力。もしかしたら彼女ならいずれ、一人でもこの島で適応できるようになるのかもしれない。
「凄いね」
「まあ人間、環境に適応するためなら嫌でもなんとかするものよね……そういえば師匠のときもそうだったわ」
ちょっと思い出したくないことだったのだろう。珍しく彼女の瞳は少し死んだような色をしていた。
以前レイナから師匠の話を聞いたとき、彼女の子どもの頃の修行はかなり壮絶なものだ。
しかしそれとこの島の生活を一緒にするのはどうなんだろう?
「いや、先に言っておくけどこっちの方がだいぶハードだからね? 災厄級の魔物がこんな風に散歩しているのを見るなんて自分の人生であるとは思わなかったもの」
その感覚、よくわからないんだよなぁ。俺からしたらこの島の魔物ってご飯って感覚の方が強いし。
「それはアラタだけだから」
「まあ、さすがにそれは理解してるけどさ」
「アラタは頭おかしいからなぁ」
ちょっとカティマ? さすがにストレートで言われると俺だって傷付くんだけど。
「おっ、そろそろだぞ」
そう言って彼女が駆け出し、俺たちがそれに付いていくと――。
「うわぁ!」
「凄いわね……」
目の前の光景に、俺たちは感嘆の声を上げるしか出来ない。
「崖一面に、家が……」
山と共に生きる、というのだろうか。崖に沿う形で色んな家が並んでおり、それでいて文明的な形。
村と聞いていたからもっと牧歌的なものをイメージしていたのだが、全然想像とは違っていた。
空には巨大なドラゴンなどが飛び交い、甲高い声を上げている。
昔やったことのあるようなゲームで出てくるような、荒廃的で、それでいてこれぞファンタジーというような幻想的な世界。
「ここが……」
「うん。ここがカティマたちが住んでる、アールヴの村だ」
広大な山々を背景に、満面の笑みでそう告げるカティマは、とても魅力的に輝いていた。
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