第53話 夢
夜、俺たちの住居と神獣族の道が繋がったことを祝して宴会を始めていた。
中央に作ったキャンプファイヤーを囲うようにそれぞれテーブルを用意して、飲めや歌えやの大騒ぎ。
こうして見ると、人も神獣族もなにも変わらない。
それに神獣族、と一括りにしているが、その実多くの種族がいて特徴がある。
たとえばエルガはフェンリルを祖としているためオオカミのような雰囲気だし、リビアさんはリヴァイアサンということで、着物の奥から尻尾が見え隠れしていた。
ルナはキツネ耳が付いているし、ガイアスは太い二本の角がある。
そんな風にそれぞれ祖先の特徴を受け継いでいる彼らは、多種多様の姿をしていて見ていると少し面白かった。
「うまぁぁぁぁぁぁい!」
少し離れたところでエルガが叫び、それに追従するように他の神獣族たちも叫びだす。どうやらメインディッシュとして用意したドラゴンステーキにかぶりついているらしいが、たしかにあれは美味しかった。
「相変わらずレイナの料理は好評だね」
「……毎度のことだけど、あそこまで大げさに叫ばれると嬉しさよりも困惑するわ」
あちこちで空に向かって叫ぶ神獣族たち。
以前彼らの里で食べた料理は美味しかったと思うのだが、そこまで差があるのだろうか?
たしかにレイナの味付けの方が俺的には好みだ。サバイバル仕様というか、ちょっと濃いめの味はたくさん動くこの身体に取ってありがたい。
「まあ喜んでくれてるならいいんじゃない?」
「そうね……そうよね」
少し離れたところではゼロスが神獣族の一人と酒を飲み交わしていて、別のところではマーリンさんがクルルとガルルに囲まれながら困惑する姿。
そしてそれを見てルナや他の神獣族たちは笑っている。
最初のころはその強大な力に恐れを抱いていた彼らだったが、こうして宴をしながら一緒に飲み明かせばその恐怖も薄れたのだろう。
人と神獣族。お互いがお互いを友として歩み寄った姿を見ると、ちょっとだけ嬉しく思う。
「ねえレイナ、この光景って凄く良いと思わない?」
「ええ。とっても」
神獣族の里までの道を作ることで、なんとなく俺たちの心の距離も近くなったような気がした。
だからこそ、今回の件で俺は新たに強く思うことがある。
それは、神獣族以外の種族とも仲良くなりたいと思う気持ちだ。
「神獣族だけじゃない。古龍族とか、鬼神族とか、精霊とかエルフとか、この島にはまだまだ俺たちの出会ってない種族がたくさんいるよね」
「そうね。ただ、エルガたちみたいに友好的に接してくれるかはわからないわよ?」
「だとしても、出会ってみないとわからない」
俺の言葉に、レイナは少し微笑みながら頷いた。
「エルガだって最初は俺たちのことを警戒していた。だけど言葉を交わして、一緒にご飯を食べて、色んな経験をして仲良くなれた。だからきっと、他の種族たちだって仲良くなれると思うんだ」
だからこそ、これを一つのきっかけに出来たらいいなと思う。
俺たちだけじゃない。この島のあらゆる種族がそれぞれお互いのことを想い合って、仲良く出来るような光景が見たい。
最初はなんの目的もなくこの島に来た。
そのあとは目的らしい目的もなく、ただ快適な生活が出来ればいいなと思った。
ただ今、この光景を見て初めてこの第二の人生で『夢』とも言えるものを見たと思う。
「よし、決めた。俺はこの島の全種族を巻き込んだ宴会を開く!」
「ふふ……」
「あ、笑った」
「だってアラタ、凄い真剣な顔して言うんだもの。なのに言ってることは……宴会って、ふふふ」
あまりにおかしいからか、レイナが我慢できずにクスクスと笑い続ける。
酷い……俺は真剣なのに。
「もう、そんな情けない顔しないでよ。笑ったのは謝るわ……ごめんなさい、ふふふ」
「謝ってるのに顔笑ってるし」
まあ、別にいいんだ。だってレイナの笑い方は決して俺を馬鹿にするようなものじゃないのだから。
「そんな光景が見れたら、とっても素敵よね」
キャンプファイヤーの火の粉が風に乗ってキラキラと輝く。そんな中で微笑むレイナはとても綺麗で、つい見惚れてしまった。
「アラタ?」
「……ううん、なんでもない。きっとそうなったら、もっともっと楽しいから頑張らないと」
「ええ、頑張りましょう」
そんな会話をしていると、遠くからティルテュとルナが呼んでいる声が聞こえてきた。
俺たちはお互いに見合わせながら微笑みあい、そんな彼女たちのところに向かうのであった。
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【イラスト公開中】
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