第52話 完成

 ティルテュの誤解が解けて、いつものように焼肉パーティー。

 ドラゴンの肉はこれまで食べた中でも絶品で、俺個人としてはエンペラーボアを超えていて、思わず唸ってしまったものだ。


 カティマ曰く、中々捕まえられるものではないとのことなので、レイナと話して今後はなにか良いことがあったら出そうということで合意。


 ティルテュやルナはもっと食べたそうにしていたが、本当に美味しいものはご褒美として取っておく方が、美味しく食べられる物だと諭すと納得してくれた。


 涎を垂らしながらではあったが。


 そして、それから一週間。


「終わった……」


 約一月ほどかけて、俺たちの家から神獣族の里まで舗装は、ほぼ完璧と言ってもいい状態だ。

 

 カティマやレイナたちに道を切り開いていてもらい、その木々を俺が収納魔法に入れていく。

 そして歩きながら土魔法で獣道を綺麗に整えていき、今なら馬車が通っても揺れないくらい綺麗な道が出来上がっていた。


 俺は改めて、出来上がった道を見る。


「うん、ばっちりだ」

「そうね……正直、こんなに綺麗な道なんて大陸にもないし、本当にアラタはとんでもないわね」

「いやいや、それ言ったらみんな凄かったと思うけど」


 実際、それぞれが役割分担をしたからこんなに早く終わったのだ。


 たとえばだが、魔法のコントロールがまだまだな未熟な俺が開拓をやっていたとしよう。

 そうすれば早かったかもしれないがその分、ぶっ飛ばしまくって道幅とかがめちゃくちゃになったと思う。


 カティマのように斧で木々をなぎ倒していくか、レイナのような緻密な魔法があったからこそ、文明的な道が出来上がったのだ。


 ふと、俺の服の裾が引っ張られた。見ればカティマが無表情ながらも自信満々な雰囲気でこちらを見上げてくる。


「アラタ、やはりカティマの活躍は凄かったと思う」

「そうだね。カティマはやればできる子だったね」

「ふふふ……」


 自画自賛するカティマそう言ってあげると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 そしてもちろん、レイナやカティマだけの力でもない。今はここにいないが、元々ゼロスさんやマーリンさんの協力もあってこそ、この道が出来たのである。


 実際彼らの魔法操作は、俺なんかとは比べ物にならないほど熟練している。この辺り、コピーして使えるようになるだけの自分と、七天大魔導とまで呼ばれるまで修練を繰り返した者たちとの差だろう。


 ……今度、本格的にレイナに魔法でも教わろうかな?

  

「まあなんにしても、これで神獣族の里との交流もしやすくなったね」


 あとはこの道を他の魔獣とかに荒らされなければいいんだが……。


「大丈夫だ」

「そうなの?」

「うん、この道はアラタの魔力が籠っているからな。ほとんどの魔獣はヤバイと思って近づかないはずだぞ」

「そっか、それなら安心だね」


 この島の魔獣たちは強者の気配には敏感というのは以前から聞いていた

 それは神獣族だったり、古代龍族だったりと圧倒的存在があちこちにいるからこそ覚えた、島での処世術。

 そしてその中でも俺の存在はすでに島中に知れ渡っているらしく、ほとんど近づいてこない。


 来るのはよほど自分の力に自信のあるバカか、警戒心のないバカかどちらからしい。


 おかげでこの道を通れば、レイナたちが一人で歩いていてもほぼ安全というから、神様の力様々というやつだ。


「これで気兼ねなく神獣族の里に遊びに行けるわ。いつもアラタに付いてきてもらってたし」

「別に俺は気にしないけど?」

「私が気にするのよ」


 食材の交換をするために神獣族の里に向かう際は、毎回付いて行っていたが、これからはレイナやゼロスたちが一人で向かっても大丈夫。


 もちろん一緒に行くのが嫌なわけではないし遠慮などしないで欲しいのだが、プライベートまでいつも一緒というのは気を遣うのかもしれない。


「まあなんにしても、良い感じだよね」


 これまでは背の高い木々のせいで太陽の光もわずかしか入らない獣道。

 それがいま、明るい光がしっかりと大地を照らして、心なしか輝いているようにも見える。

 

 この島にやってきてから家を作ったり、川までの道を作ったりと色々してきたが、これほど大規模な開拓は初めてだった。


 とりあえずこれで、一つの区切りになった。

 これであとやることは一つ。




 家まで戻ってきた俺たちは、それぞれが準備に取り掛かる。

 この場所はエンペラーボア襲撃の際に平地になっているため、かなり大きな広場となっていた。


 そのためルナやティルテュ、クルルにガルルなどが走り回り遊んでいても十分過ぎる場所でもある。


「さて、それじゃあ子どもたちが遊んでお腹を空かせる前に、準備を終わらせましょうか」

「うん。材料はたくさんあるからね」


 人族と神獣族までの舗道整備。それを終えた俺たちはお疲れ様パーティーをするために動いていた。


 ゼロスとマーリンさんは水を汲みに。護衛としてカティマが傍に付いているが、川までの道も整備されているのでおそらく危険はないだろう。


 そして俺とレイナは、これからやってくる神獣族の面々を受け入れるための準備をしていた。

 とはいえ、料理に関してはレイナがやるので、俺は会場設営などがメインだが。


 前に神獣族では宴を用意してくれたので、今日は俺たちが頑張ることになっていた。

 

 エルガなどは構わないと言ってくれてたが、やはりここはお互いに相手を尊重しなければならないだろう。


「まあ、さすがに全員分ってわけにはいかなかったけど……」


 いちおう向こうの方で話し合いが済んで、今回やってくるのは神獣族の面々だけ。普通の獣人族たちは遠慮してしまったらしいので、こればかりは仕方がない。


 元々友好的に接してくれていた彼らだが、今回の件でより一層お互いの距離が近くなることだろう。

 そうなれば、俺の持ってる地球の知識なんかも合わせてお互いに遊べたりもするかもしれない。


 何にしても、人数が増えればしがらみが増えるが、その分出来ることも増える。


「楽しみだな」


 実はこの舗装の合間を縫って、エルガから木材で家具の作り方などを教えて貰っていた。

 まだまだ断面などは綺麗に出来ていないが、それでもグラグラすることなく良い感じだと思う。


 形はシンプルなものだが次はもっとオシャレな感じにしたいなと思う。それに、イラストなんかも描いてみて、楽しい感じもいいかもしれない。


 最初のころはとにかく住みやすい方法ばかり考えていた気がするが、最近はもっと楽しいこと楽しいことになることばかり考えている。


「アラタ、準備できた?」

「うん、ばっちし」


 そうして出来た会場を見て、レイナも満足げに笑う。

 少し離れたところではゼロスたちも頑張って動いていた。


「それじゃあ、楽しいパーティーにしようね」

「ええ、もちろんよ!」


 そうして、センターに置かれたキャンプファイヤーに火を灯し、夜がやっても騒げるように準備をするのであった。

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