第38話 家族のようなもの
家を作るというのは当然だが決して簡単なものではない。
前世の地球でさえ、細かい設計図を基にたくさんのデータや機械、道具を駆使して何カ月もかけて作るものだ。
だから……。
「ふう、まあこんなものかしら」
「……意外とあっさり出来ちゃったね」
「そう? 魔法を使えばこんなものだと思うけど」
レイナと一緒に家づくりを始めてから一週間。当初の予定よりもずっと大きな家が完成した。
木材だけで作ったその家は、規模こそ違えど神獣族の里で訪れたスザクさんの屋敷に少し似ている。
少し豪華な和風の家、というのはどこか俺の心をホッとさせる感じだ。
「良い感じだね」
「ええ、ちゃんとルナやティルテュの部屋も作ったからちょっと大きくなっちゃったけど、概ね設計通りだわ」
「ほんと、レイナはなんでも出来るなぁ……」
俺も素人ながら結構頑張ったと思う。だがしかし、今回に関しては完全にレイナの独壇場だったと言ってもいいだろう。
神獣族から紙を貰ってくると、パパッと設計図を書き上げて、必要な材料の選定。そして魔法を効率的に使うことで製作時間の大幅な短縮をさせてみせたのだ。
本人曰くこういうことも師匠に叩き込まれたという話だが、実は自分よりもずっと神様から色々貰っているんじゃないかという気がしていた。
ふと少し離れたところで同じく家つくりをしていた二人を見ると、彼らの家はまだ半分ほど出来上がっているくらい。
明らかにこっちの進捗ペースがおかしい。
「俺らの家の方が複雑だし大きいのに、ゼロスやマーリンさんより早いって……」
「人には得意不得意ってものがあるのよ。というか、こっちにはアラタがいるんだからこれくらい当然よね」
「俺、そんなに活躍したかなぁ?」
やったことと言えば、レイナの指示に従って木材を集めたり、魔法を使ったくらいだ。
普段使っている魔法だけでは家を作るのは難しいなと思っていたら、レイナが色々魔法を教えてくれた。
おかげで色んな魔法を使えるようになったが、だいたいこうした生活を豊かにするものばかりだ。
大陸最強の魔法使いという割には、レイナの魔法はそういう生活に直結するものが多い気がする。
別に冒険ファンタジーで出てくるような強い攻撃魔法が使いたいと思っているわけではないので、便利になる魔法を教えてもらえるのはありがたい話だ。
「あのね、あんまり自覚がないのも考えものよ? アラタが活躍してないなんて、言えるわけないじゃない」
「そう? でもレイナの方が頑張ってたよね?」
「……この壁」
不意に、レイナが家の壁に手を触れる。杭の形にした木材を地面に突き立てて、その前後を土魔法でコーティングしたものだ。
これはすぐにお風呂の柵を壊してラブコメにしようとするヴィーさん対策を、そのまま家に応用した形。
「力仕事とか、魔力仕事とか、全部アラタに任せちゃったじゃない」
「そりゃ俺の魔力はなんか使ってもなくならないし。あと細かいコントロールならともかく、魔力任せで強引に強化するのは俺でも出来るからさ」
「そうね。とんでもない魔力だもんね」
おかげで最初のころは一発で破壊されていたお風呂の柵も、最近はヴィーさんの攻撃だって何発も耐えられるようになっている。
自分の攻撃をただの柵に防がれたときのヴィーさんの驚いた顔は中々面白いものだったが、そのあとめちゃくちゃ全力で壊されたのは悔しい思い出だ。
「この家は、絶対に壊させない」
「アラタがその意気で作ったせいで、王国で難攻不落って言われるような砦よりもずっと頑丈な柵が出来ちゃった……」
「ティルテュたちが突撃してきても倒れないからね」
耐久性は抜群。ティルテュやベヒモスを祖とするガイアスにも協力を依頼して、強度を増していったのだ。
何度も柵に突撃し、そして壊れないくらいの強度にしたとき、彼らはまるでその壁を化物のように見ていた。
正直自分でもやり過ぎたかもしれないと思ったが、それくらいやらないとあの真祖の吸血鬼は絶対なにか嫌がらせをしてくるに決まってる。
「それに、ヴィーさんは置いておくとしても、この島の魔獣たちがもしこっちで暴れた時、止められるくらいは頑丈じゃないとさ」
「まあ、それはそうね。いきなりエンペラーボアが突撃してくるかもしれないんだし、これくらいは必要……かしら?」
「うん」
実際、ゼロスたちにも彼らの家を建て終わったら、そのまま外壁を作る約束をしていた。
俺はともかく、寝ているときに不意打ちで魔獣がやって来る可能性があるということは、彼らにとって死活問題だから当然だろう。
「というか、壁だけじゃないからね? この家の作りこみとか、大木の移動とか、色々お願いしたじゃない」
「だけどそれってレイナが一から考えてくれたから出来たことで、俺は言われた通りにやっただけだよ?」
「その言った通りの作業スピードとクオリティが高いんだから、もっと胸を張ってよ」
レイナはそうは言うが、基本的に作業よりもその工程とか内容とか、そういったものを考える方が大変なはずだ。
実際に全体の構図や流れさえ決まってしまえば、あとは人海戦術でなんとでもなる。しかしその流れが決まらなければ、どれだけ人がいても意味がない。
そういう意味で、たまたま何人分の働きが出来る身体を持っていた俺よりも、家のデザインや作るまでの流れをすべて考えてくれたレイナの方が凄いと思うのだ。
「もう……とりあえず、せっかく外装が出来たんだから中も整えましょ」
そんな俺の尊敬の眼差しを受けて、彼女はどこかこそばゆい様子を見せながら、レイナは家に入る。
それについて行き、扉を開けて廊下を進むと、最初にあるのは広い部屋だ。
まだ家具もなにも置いていないため少し寂しいが、ここにダイニングテーブルなどを置いて、みんなでご飯を食べる予定となっている。
そしてその部屋を過ぎると、それぞれの部屋だ。
ティルテュは高い所がいいと言うので、空も飛べるしロフトのような部屋を一つ作ってみた。
その下がルナの部屋になるのだが、ティルテュが上で動いても大丈夫なように魔法で振動を吸収する仕様になっている。
あとは客人がいきなりやってきても大丈夫なように、少し大きめの客間を二つ用意。
「これでアラタが誰か釣ってきても大丈夫よ」
「そんな頻繁に釣っては来ないよ……多分」
からかう様にそう言うレイナに俺は自信なさげに返すことしか出来なかった。
実際に、前科があるからそう言われても仕方がない。
「で、こっちが俺の部屋で、隣がレイナの部屋だね」
「ええ。とりあえず今日はいつも通りテントで寝泊まりして、明日から家具とか色々用意しましょうか」
なんにもない部屋に寝泊まりするのも味気ないし、なによりこれまで長い間住んできたテント生活にも愛着がある。
レイナと隣同士で寝るのも、最初は緊張したが今では慣れたものだ。
逆に、一人で寝て落ち着けるだろうかという懸念すらある。
二人でテントに戻り、少しずつ道具を片付けていく。
思えば、広いとはいえこの仕切り一つすらないテントの中での生活は、どこか穏やかで心地の良いものだった。
こうして一つ一つテントの中を整理していくと、すぐそこの新しい家に住むだけだというのに、なぜか少し寂しい気持ちになる。
「……」
「……」
同じことを思ったのかどうかはわからないが、レイナも少しだけ寂しそうな表情をしていた。
普通に考えれば、恋人でも家族でもない男女が並んで寝るという環境そのものがおかしいはずなのに、俺たちはなぜかそれが自然の形だと思っていたらしい。
「べつに……」
「ん?」
「このテントで寝ちゃ駄目ってわけじゃないものね」
「……うん。そうだね」
基本的には新しく作った家で寝るとしても、たまには今までみたいに二人並んで寝るのいいだろう。
そこにルナやティルテュ、エルガたちが入ってきてもいいし、みんなでワイワイ夜を過ごして、おのおのが自由に寝て、話して、笑えばそれも楽しいはずだ。
別に家が出来て、テントから離れるから俺たちの関係がなにか変わることなどない。
俺たちは友人だが、同時に家族みたいなものなのだから――。
「また、たまには一緒に寝よっか」
俺がそう言うと、レイナは少し恥ずかしそうにコクリと頷くのであった。
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