第35話 新たな友人
ゼロスとマーリンの歓迎会を兼ねた朝食が終わり、二人ともルナとはだいぶ打ち解けた様子だった。
元々人懐っこい性格の少女なので時間の問題だとはわかっていたが、こうして改めて仲良くする姿を見れてホッとする。
ただ、カティマとは上手く会話が繋がらないのか、二人とも苦戦している様子だった。
そもそも、カティマは俺から見ても少し天然だ。
彼女自身、積極的にゼロスたちと仲良くしようという感じもなく、かといって邪険にするでもなく、マイペースなので掴みづらい性格をしている。
俺やルナに関わってきたのは、命の恩人だったりご飯を無償て提供したことが切っ掛けだろう。
まあ、悪い子ではないので、これからなにかがあれば仲良くなるとは思う。
「あれだけ騒がしかったのに、人がいなくなると一気に寂しくなるもんだね」
「そうね。でも、いつもあんな状態だったら疲れてしまうわ」
「はは、そうかも」
俺とレイナは二人で朝食は片付けをしていた。すでにここには誰もいない。
カティマとルナはそれぞれ自分たちの家に戻っていた。
アールヴの里はかなり遠いとエルガが言っていたが、大丈夫なのだろうかと少し不安に思うが、本人はぼーっとした態度で、飄々としたものだったから大丈夫か。
それに、ゼロスたちはすでにテントから離れていたので、今はレイナと二人きりだ。
「大陸にいるときはまさか、こんな風になるとは思わなかったわ」
「ゼロスとマーリンさんのこと?」
「ええ……会議とかで顔を合わせても、ほとんど話すことなんてなかったもの」
「まあ、人の縁ってのはどこでどうなるかわからないからね」
二人はこれからどうするかを話し合うらしい。
元々、七天大魔導としてのプライドがあったのか、それとも仲の良くなかったレイナと一緒にいること自体に問題があったのか、そんな理由だったはずだ。
だがすでにレイナとのわだかまりも溶けているだろうし、そこにこだわる必要もない。
となれば、俺たちの近くで住むことも、問題ないはずだ。
「まあ実際、あの二人が近くにいると色々と便利なこともあるから、ありがたいかも」
「へぇ……たとえば?」
「ゼロスは『滅炎』なんて二つ名がついてるじゃない?」
「うん……男としてはちょっと心がくすぐられる二つ名かな」
別に厨二的な思考を持っていたつもりはないが、やはりこうしてファンタジーの世界に生まれたからにはそういうことにも少し憧れる。
とはいえ、それでもこの島でスローライフをすることに比べたら優先度ははるかに低いが。
「火加減、私よりも上手だから肉とか焼くときに便利だと思うのよね」
「……うん?」
「それに、マーリンは『水聖』の二つ名があるくらい水魔法が上手だから、掃除とか洗濯とか、水回り関係で色々と生活の質が上がるはず」
「……」
それはどうなんだろう、と思ったが俺たちの生活を思い出す。
基本的にレイナが簡単な魔法はだいたい使えるので、俺はそれを真似させてもらっている感じだ。
大魔力でぶっ放せ、と言われたら結構簡単なのだが、細かいコントロールはまだまだ苦手だった。
そのせいで、生活関係でレイナには結構面倒をかけているところが多い。
「どうかしら? もしあの二人が近くに住むようになるなら、その辺りを任せようと思うんだけど?」
「……うん、いいんじゃないかな」
レイナの自慢げな提案に、俺は笑顔で頷いた。
七天大魔導? そんな称号は残念ながらこの島では役に立たない。
それよりも、色々と生活水準を高める方がよほど重要なのである。
決して自分が責められないようにするため、彼ら二人を生贄に捧げたわけではないのだ。
昼を過ぎ、夜が近づき始めたころ、ゼロスたちは自分たちのテントを持ってやって来た。
どうやら決意は固まったらしい。
俺とレイナが一緒に住んでいるテントは軍用のためかなり大きいが、彼らのテントは二、三人が住める程度の大きさだ。
二人は俺たちのテントから少し離れて、しかしある程度視界には入る範囲の場所に住むことを決めて準備をする。
そうして夜食を一緒に食べて、女性陣は一緒に風呂に、男性陣は見張り番をすることになった。
「って話をお昼にレイナとしたんだ」
「……お前ら、七天大魔導をなんだと思ってんだよ」
「そんなこと言われても俺、その辺り全然知らないから」
ゼロスと二人で焚き火の前に座り、軽く雑談をする。
レイナ曰くすでに五十を超えているらしいが、見た目は俺と同じくらいにしか見えないので、魔法使いというのは凄いと思った。
やはりこの島にやって来たときは緊張と興奮状態が続いていて、精神的に参っていたのだろう。
こうして話してみると、彼は意外と気さくで話しやすい。
「はぁ……まあいいけどよ。正直、この島でこれからどうやって生きてくか悩んでたところだし、とりあえずでも役割もらえるならありがてぇ」
「そういえば、二人はこれからどうするつもりだったの?」
俺とレイナはすでにこの島で生きていくことを決めている。
それゆえに島外に出るという選択肢がないため、いかに快適に、楽しく過ごせるかを考える日々だった。
だが彼らは違う。まだこの島に迷い込んで日も浅く、なんとか島から脱出しようと考えていることだろう。
「とりあえず生き延びることだけを考えてたよ……んで、あとはなんとか大陸に戻る方法を考えねぇと……」
「だよね。って言っても、この島から出る方法はエルガとかも知らないって言ってたけど」
「エルガ……つったらあのオオカミっぽい獣人のやつだよな?」
「うん。いつも色々と気を使ってくれる良い人だよ。あ、それからエルガは神獣族だから、獣人っていうのは止めた方がいいかも」
神獣族の里に出向いたときは特に獣人と神獣族の差について気にしていなかった彼だが、だからといって自分の種族と違う名で呼ばれるのはあまり気分のいい話ではないだろう。
「そうだな。気を付けるわ」
「まあ、そんなことじゃ怒らないと思うけど、いちおうね」
少し顔が引き攣っているのは、エルガの強さを肌で感じたからだと思う。
レイナも最初、エルガを見たときにだいぶ表情を曇らせていたので、魔法使いというのはそういう感覚が鋭いのかもしれない。
そう思って尋ねてみると――。
「いや、お前の感覚がおかしいだけだから。普通の人間なら、絶対に勝てない相手にはビビるもんだから」
「……なるほど」
そういえばこの神様チートボディは無敵っぽいので、今のところこの島で出会った相手で怖いと思ったことはなかった。
「スザクさんやヴィーさんなんかは、もしかしたらって感覚があったけど……」
「……なあ、聞くの怖いんだが、お前が怖いって思ったやつらがいんのか?」
「え? まあ怖いとは思わなかったけど、他とは違うなって感じの人たちはいたよ?」
改めて思うと、彼女たち二人はこれまで出会ってきた中でも別格な気がする。
やはり大本の神獣であったり、歴史ある真祖というのはエルガやティルテュたち子孫とは少し違うのかもしれない。
「マジかよ……とりあえずそいつらには近づかねえようにするわ」
「悪い人たちではないけどね。ただちょっと人をからかうのが好きというか――」
『ほう……私のことをそう評価してくれていたのか。化物以上のお前にそう言ってもらえると、まだまだ私も捨てたもんじゃないな』
囁くような小さいはずなのに、不思議と耳に残る声。
見上げると、いつものように黒いマントにとんがり帽子を被った魔女スタイルの美しい少女が浮かんでいた。
ヴィルヘルミナ・ヴァーミリオン・ヴォーハイム。
この島に住む最古参の一人にして、最強種である真祖の吸血鬼。
金色の髪をなびかせて、見た目は可憐な少女といった雰囲気だが、その実力は神獣族一の大戦士であるエルガでさえ戦いたくないと言わしめるほど突出しているらしい。
そんな彼女のこちらを見る目は、新しい玩具を見つけたような瞳だ。
ヴィーさんの視線を追って隣を見ると、ゼロスが怯えたように空に浮かぶ彼女を見上げていた。
「あ……ぁ……」
「……とりあえず、あれがヴィーさんです」
多分聞いていないだろうなと思うが、紹介だけしておこうと思う。
そして、ヴィーさんの興味の対象になってしまったであろう、この新しい友人に合掌するのであった。
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