第11話 担当生徒
「な、何を言ってるんですかレナード学院長……」
ミイナが恐る恐るもう一度確認する様に問いかけるが、レナードは変わらず同じ事を言い返して来た。
「教育方針を壊すなんて、この学院を潰す気ですか?」
「いや、作り替えるんだよ。潰してどうする? 私もそこまで悪魔じゃない」
いやいや、言っている事が悪魔だよ。
こんな事他の誰かに聞かれたら、直ぐにでも他の教員達が突っ込んで来て大事になる。
下手したら、教育界で大問題だ。
しかもその中心にいるのが、教育界で有名なレナード先生と来たら余計に大事だ。
レナード先生は気にしてないかもしれないけど、意外とレナード先生に嫉妬している人は多く陥れたいと思っている人も数少なくいる。
そんな人から見たら、この件は物凄いチャンスになってしまう。
「レナード学院長、さすがにそれは無理じゃないですか? 貴方の立場もありますし、その学院長としての立場としてそう言うのはどうかと……」
「ハルト先生、だからこそ貴方達に協力をお願いしてるんですよ。私だって、自分一人で動いた所で自分が追放とかひどい目に遭うだけだと分かっています」
「分かっているのでしたら」
「でも、このままではこの学院を卒業した生徒達は、ただ力だけで全てを解決出来ると思ったまま育ち、いずれは世界を担う存在になるでしょう。そうしたら、世界は今より更にひどくなるでしょう」
「っ……」
レナードの言葉に、俺もミイナも言い返す事が出来なかった。
現に、今の世界は魔法によって大抵の事は解決が出来ておりそこに権力も関わってくる事から、上に立つ者が力を振るい自分に対して不条理な事は揉み消したりと言う事が起こり始めている。
まだその言う事件は少ないが、いずれは増えて行くものだと誰もが理解している事でもある。
レナードはそれを少しでも変える為に、まずは未来を担う若者を育てる学院から変えて行こうと行動を起こそうとしているのだと俺は理解した。
そしてミイナもその事に気付いたのか、俺に目配せをして来た。
俺はそれが本当かをレナードに改めて確認すると、レナードは首を縦に振った。
「レナード学院長、やりたい事は分かりますけどこの3人で何が出来ると言うんですか? 俺だって考えなかった訳じゃないですけど、現実的に難しい問題ですよ……」
「誰がこの3人だけだと言いましたか?」
「えっ?」
「他に誰か協力者がいるんですか?」
ミイナがそう聞くと、レナードは俺達の方を指さして来た。
「貴方達は教員でしょう? 貴方達が育て上げるんですよ、私達に共感してくれる未来ある若者達を!」
「!?」
「言いましたよね、貴方達に協力して欲しいと」
そう言事か、この人は何て言う方法で実現させようとしてるんだ。
「だからこそ、貴方達に新入生を任せているのですよ。貴方達ならこの学院の教育方針に縛られずに、新たな生徒を育て上げる事が出来ると信じているのですよ」
「なるほど、私達が新しいこの学院の生徒像を創り出し、その生徒を世に送り出す事で世界を良い方へと変えて行こうという事ですか」
「必ず上手く行く保証はありませんし、立ちはだかる壁は多く高いです。他の教員達ともぶつかるでしょうし、孤立するかもしれません。私も精一杯貴方達を守りますが、絶対ではないです。そんな保証もない中でのお願いを、貴方達は受けてくれますか?」
俺とミイナは暫く考えた後、俺が先に口を開いた。
「俺は引き受けますよ。生徒に色んな可能性を示せるなら、大変な道だろうが進みますよ。覚悟を決めましたよ!」
「私もやりますよ、レナード学院長! 生徒により良い未来を選択してもらう為に、教員になったんですから」
「ありがとう2人共。それじゃ、2人にはまずこの新入生達を改めて担当してもらいたい」
そう言って、レナードは俺達にそれぞれ3人ずつの資料を出して来た。
俺とミイナはそれぞれ突き出された3枚の新入生資料を取り、全員に目を通し始める。
「ミイナ先生には、新入生の中でも優秀だが欠点や悩みを抱えている生徒3名を担当してもらいたい。一応入学試験ではトップ10入りしている生徒達ではある」
「能力的には十分ですが、各個人が抱える物がありベテランの先生方は担当したがらない生徒ですね」
「あぁ、教員にもキャリアがありベテランになるにつれ、今更キャリアに傷を付けたくないんだろう。はぁ~キャリア制度も良い所悪い所があって何とも言えないな」
キャリア制度は、教員のみのもので担当した生徒がその後どうなりどう言う人になったかが分かるものである。
それりより、その人の教員として凄さや素晴らしさが一目で分かるものとなっており、優秀な生徒を育てた者は称賛され好待遇を受ける事も可能となっているのだ。
だから教員は生徒を選び優秀な生徒で、特に問題も起こさなそうな相手や指示に従ってくれそうな相手を選ぶ傾向になっている。
「それでハルト先生には、少し一筋縄ではいかない生徒達を担当してもらいます。もしかしたら、既にその姿を見たり知っていたりするかもしれないが、ハルト先生の腕次第でとてつもなく輝く事もあれば、くすむ事もある生徒達ですよ」
「でしょうね。ふふふ……」
「ん? どうしたんです、急に笑ったりして」
俺はレナードに指摘され、直ぐに「すいません」と言って笑いを止めたが、ニヤケが止まらなかった。
「どうやら気にってくれたようですね。ミイナ先生よりもハルト先生の方が大変と心配していましたが、そんな心配はいりませんでしたね」
「はい、今から顔合わせが楽しみでしょうがないですよ」
「ハルト先生がそこまで張り切るなんて珍しいわね」
「張り切っているか……そうだな、楽しい3年間になりそうだ」
その後俺とミイナは担当する生徒の資料を持ち、学院長室を後にした。
そして次の日、各教員と生徒達に新入生達の担当教員が発表されると教員室では、俺やミイナが新入生を担当する事に少しざわつくが、レナード学院長がそこは上手く収めてくれた。
「ミイナ先生はまだ分かるが、何であいつが新入生担当なんだ? 少し納得いかないが」
「そう言うなよ。あいつの担当生徒見たか? あれはハズレだぜ。何つっても、例の問題児に長所なしの2人がいるんだぞ」
「でも、入学試験主席の子がいるんだろ? 確か『紅の魔女』って呼ばれて有名な子がさ」
「あぁ。でも、どうせ途中で入れ替えだろう。最初だけ一応ハズレ担当してもう為に、入れ込んだんだろ。ほら、その方が自分がハズレを引いたと思わないだろ」
「なるほどな。確かに」
はぁ~また懲りずに陰口ですか。
よくも色んなこじつけでそこまで話せるもんだ。
教員からの陰口など今に始まった事ではない、最初の頃は仲良くしていたりも今もそこまで波風立てる様な事はしていないが、やはり一番は俺の教育方針について受け入れられないと思っている奴がそう言う事を言ったりする。
後は、キャリアにしか興味がなくただ自分以下の相手を見下したい奴くらいだな。
俺はそんな奴らなどに見向きも言い返しもせずに、直ぐに教員室を出て担当生徒との待ち合わせ場所へと向かった。
そして俺が待ち合わせ場所について驚愕した。
「な、何で誰も居ねぇーんだよ! ……はぁ~たっくよ、どうなってるんだよ」
俺はそうボヤキながら、階段へと腰を掛けてうなだれていると急に真横から下級の炎魔法が飛んで来た。
咄嗟に俺は、相殺する魔法を展開し相殺させた。
「おい、急に魔法攻撃とは穏やかじゃないんじゃないか? しかも担当教員に」
「何言ってんだ、俺はまず俺に相応しい担当教員かを見定めただけじゃねぇか」
そう言って出て来たのは、いかにも俺様一番って感じの男子生徒であった。
何で上から目線で話してるんだよコイツは……
俺がその生徒とにらみ合いを続けていると、遅れて1人の生徒がやって来た。
「す、すいません。遅れました! ちょっと道に迷いまして」
「おいおい、初日から遅刻とかそんな奴がメンバーかよ。勘弁してくれよ」
「ごめんなさい!」
そう言って頭を下げたのは、どこか臆病な感じの男子生徒であった。
「貴方、さっきから見ていたけど何様のつもりなの?」
「あぁ? 誰だお前?」
すると俺の右側の方へと続く通路から赤い長髪が特徴的な女子生徒が現れた。
「私は、エリス・アーネスト。貴方と同じチームメンバーよ」
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