第10話 教育方針
「ハ・ル・ト先生~」
「あっ……ミイナ、先生……」
俺は机に前で少したじろいてでしまい、後ろへと一歩下がるとミイナは逃がさないと言わんばかりに一歩踏み込んで来た。
「説明してくれますよね? さっきのこと」
「え~っと、何のことですかね? 俺は用事があったから、近くにいたミイナ先生に頼んだだけですよ」
「それ、嘘よねハルト」
「……そんな事ないですよ」
「はい嘘。今の間がその証拠、ハルトは昔から嘘付いた時は必ず間が空くんだから」
ミイナは教員育成学院時代からの付き合いで、第二の師匠とも言えるほど様々な事を教えてもらった仲なので、嘘などついても直ぐに見破られてしまうのである。
俺は何とか嘘だとバレない様に奮闘するも、最終的には問い詰められてしまい嘘を付いた事を俺は認めてしまう。
その後、他の教員達が見ている前で軽く説教をされてしまい恥ずかしい姿を他の教員達に見られてしまう。
教員達は、軽く笑いながら俺達の方を見ていた。
あ~何でこんな事になるんだ……はぁ~……
「おやおや、今日も仲が良いですねお2人とも」
するとそんな俺達の所に、声を掛けて来た人物がいた。
俺とミイナはその方に視線を向けて、まさか人物に驚いてしまう。
「レナード学院長!」
「な、何でこんな所に?」
そこに居たのは、白髪で眼鏡を掛けているリーベック魔法学院の学院長であるレナードであった。
「そこまで驚かなくてもいいですよ。ハルト先生、ミイナ先生」
「そう今言われましても、教員室にわざわざ足を運ばれる事などあまりまりませんし」
「そうでしたっけ?」
この人、学院長なんだけど、何か少し抜けている感じで近寄りがたい学院長って感じじゃないんだよね。
「まぁそんな事より、私は貴方に用があって来たのですよ」
「私達ですか?」
「はい。と言う訳でなので、私の部屋に一緒に来てくれますか?」
えっ、まさかの呼び出し!?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふ~よかったら2人もソファーに腰かけて、ゆっくりしてください」
「は、はい……」
俺とミイナはレナードと共に学院長室へとやって来た。
レナードは、そのまま学院長の椅子へと腰掛けて一息ついた。
俺達もレナードの言葉に甘えて近くのソファーに腰かけた。
「それでレナード学院長。今日私達を呼び出した理由は何でしょうか?」
「ん、今日君達を呼んだ理由は新しく担当してもらう生徒を伝える為ですよ」
そう言ってレナードは机の引き出しから6枚の書類を取り出すと、俺達の方へとやって来て向かいのソファーに座った。
そして3枚ずつ俺とミイナの前に出して来た。
「ミイナ先生もハルト先生も、ちょうど前3年生を送り出して現在担当している生徒が居ない状況ですので、今年の新入生を各3人ずつ担当してもらいます」
「し、新入生をですか?」
「はい、そうですよミイナ先生」
ミイナは少し動揺していたが、俺はその理由が良く分からなかった。
教員なら担当生徒がいなくなったら、新しい生徒の担当をするのは当たり前じゃないか? 何でそんな動揺してるんだ?
俺はそのまま少し首を傾げていると、レナードがその理由を話し始めた。
「ミイナ先生はまだ新米なのに新入生を任される事に驚いてるんですよね?」
「はい……基本的に新入生を担当するのは、最低でも5年以上の教員経験が必要とこの学院ではなっていましたので」
「そうなんですか?」
俺の問いかけにレナードは首を縦に振る。
ちょっと待てよ、じゃ何で俺まで新入生を担当するんだ? 俺はまだ3年目だぞ? ミイナ先輩は4年目だから、1年早いくらい問題なさそうだけど、俺は3年目何だけど?
「確かに規定はそうですけど、あくまで経験の話ですよ。君達はまだ若いですが、それだけの経験があると私は見ているのですよ。学院時代の事も知っていますしね」
「そう言っていただけるのはありがたいですが、規則は規則ですし、それに周りの教員方の目もありますし」
「そ、そうですよレナード先生。ミイナ先輩ならまだしも、俺にはまだ早いですよ。うん」
そうレナード先生は、俺達の教員育成学院時代の先生でもあり色々と知られている仲であるのだ。
そして厄介な事に、レナード先生には俺が学院時代に隠していた『色操魔法』まで知られてしまっている。
そもそも何故『色操魔法』の事を隠していたかと言うと、現代からしたらあの魔法は最古の魔法に分類され既に伝説的なおとぎ話の様な物になっているからだ。
俺はそれを知ってから表で使う事を隠していたが、学院時代に巻き込まれた事件で仕方なく使った所をたまたま見られてしまったんだ。
その時レナード先生は、その事を秘密にしてくれると約束してくれて今に至るわけだ。
「こらこらハルト先生。私の事は先生ではなく学院長と呼んで下さいね」
「あっ、す、すいません……レナード学院長」
「怒ってる訳じゃないんですから、そこまで萎縮しないで下さいよハルト先生」
そうは言っても、昔のレナード先生の目の奥がそう言ってない感じがして怖いんですよ! あーこの人には物凄く色々と叩き込まれたから、その時の怖さがまだ体が覚えてるんだよな……
レナード・ヨフェルと言う人物は、教育界では物凄く有名な人物である。
今まで育てた中には、ある王族の皇太子や有名冒険者や役人だったりと様々いるらしい。
本人自身も若い時から優秀な成績を残し、多くの魔法研究や教育に関する発表もしている人物である。
しかし、レナード先生の教育方法はかなりのスパルタで教えを受けた者のほぼ全ては途中で逃げ出すと有名でもある。
そんな人に、俺やミイナ先輩は教員育成学院時代に目を付けられてみっちり1年間個別指導をされており、俺はその時の恐怖が未だに体に染みついており少しレナード先生が苦手である。
「少し話は変わりますが、2人は今この学院をどう思いますか?」
「どう思うかですか? そうですね、生徒達は活き活きとして互いに高め合っていると思いますよ。まだ4年しかしませんから、深い事は言えませんけど」
「俺は魔法に対して、絶対の信頼を置き過ぎだと感じました。確かに魔法とは今の世界では己の力を示す事が出来る物ですが、学院生時代から力に執着するのは少し違う気がするんです。基礎を見直したり、他の道に可能性を見いだしたりと、学院と言うのは可能性を広げられる場なのですから……あっ、すいません。少し言い過ぎました」
「いいえ。そんな事ありませんよハルト先生」
俺のこの考え方は、今の学院では少しズレておりこんな事を言うと大抵は変な目で見られる。
だからこそ、その考え方でついこの前教え子として卒業して行った生徒達は、周りからかわいそうな生徒達と言われているのだ。
今の世界では魔法が色々と使えれば、簡単にエリートになれると言われている世界である。
もちろん、勉強が出来る事は必須であるがこの学院に居る時点でその心配はほとんどないので、後は担当教員の指導次第でその生徒の未来が決まる様なものなのである。
教員の基本的な方針としては、生徒の長所を伸ばしつつ平均能力も上げ優秀な生徒を育て上げるだ。
「確かにハルト先生の考えは、今この学院では認められていない事です。ですが、私は貴方の考え方を否定はしません。現に、先日貴方の下から卒業した生徒達は貴方に感謝し、しっかりと将来を見定めて旅立っていきましたしね」
「そうですね。私もハルト先生の生徒達を見てましたが、あの子達とハルト先生は他の生徒と教員にはない信頼関係を築いていましたし、何より生徒達が輝いていましたよ」
「レナード学院長、ミイナ先輩……そう言ってくれるだけで嬉しいです」
俺は少し照れくさくなり目を逸らした。
「少し話が逸れましたけど、2人には2人の教育方針があり、どちらも間違ってはいないともいるともまだ言えません。ですが、この学院全体の方針は昔から変わらず固定化されています。確かに、優秀な生徒は育っていますが、言い方は悪いですけど皆似たり寄ったりの生徒です」
わ~お、そんな事までぶっちゃけちゃんだこの人……まぁ、俺も3年だけだけどそんな風には思ってたけどさ。
口に出す事はなかったよ、さすがにさ。
この発言には、ミイナも少し驚いており声が出ずにいた。
「私もこの学院長になって6年目、現状を理解した今、私はこの現状を変えて行きたいのですよ」
「何を変えるんですか?」
俺はそのまま訊き返すと、レナードは少しだけニッと口角を上げた。
「この学院の教育方針を根底から壊し変えるのですよ」
「っ!?」
「きょ、教育方針を壊す!?」
ミイナが驚きの声を出すと、レナードは何の動揺もなく軽く頷く。
「えぇ、ですからまず初めに貴方達に協力をして欲しいのですよ。私の最後の教え子でもある貴方達にね」
おいおい、何を急に言い出してるんだよ、この人は……
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