第9話 リーベック魔法学院

 リーベック魔法学院は、中等部と高等部の一貫学院としても有名であるが、優秀な生徒達が集まる一学院としても有名な魔法学院である。

 俺はその魔法学院の卒業生であり、そこの教員として赴任して来て既に2年が経過し3年目の教員としての春がやって来た。


「う~~っん……良い陽気だな~こういう日はサボってダラダラでもしてたいな~」


 俺は中庭のベンチに背もたれにだらっと寄りかかり、そらを見上げていた。

 もうこの学院の教員として3年目か、意外と早いな。

 1年目の時は右も左も教員として分からなかったけど、教員育成学院時代の先輩であるミイナ先輩が居てくれたおかけで何とかやれた印象だな。

 リーベック魔法学院の高等部では、基本的に生徒が集まって授業と言うのは少なく、基本的には3人1チームがランダムで入学時に決められて、そこに各自担当教員が付いて卒業まで面倒を見て行くという教育方針である。

 俺も1年目から生徒を担当した。

 俺が担当したのは、進級したばかり2年生で初めは新任の教員と言う事で、全く言う事を訊いてくれなかったが学院行事やちょっとした事件を経て、教師と生徒と言う信頼関係を気付き最終学年の最後まで面倒を見て、先日卒業して行った。


「あいつら元気かな~まだ卒業してそんなに経ってないから、元気か」

「あの先生?」


 俺はその言葉に、上を向いていた顔を前に向けた。

 するとそこには2人の女子の学院生徒が立っていた。


「え~と俺のこと呼んだ?」

「はい。あの先生、もしよかったら中級の炎魔法の立ち合いしてくれませんか? 担任の先生が急用で立会できなくなって」

「あ~立ち合いね。いいよ」

「ありがとうございます!」


 この学院では、どの学年関係なく中級以上の魔法を使う際には、必ず教員が立ち会うのがルールとなっている。

 そのルールを破ると処分が言い渡され、最悪退学と言う事もあるので、生徒は必ずそのルールは守る様にしている。

 俺はベンチから立ち上がり、思いっきり背伸びをした後2人の生徒の後を付いて行った。

 その間に、何度か2人の学院生がこちらをチラチラと見ながらこそこそ話をしていた。

 あ~もしかして、まだあの噂されてるのかな?

 俺は2人のこそこそ話にバレない様に耳を傾けた。


「ねぇ、あの先生よく見たら、ハルト先生じゃない? 大丈夫なの?」

「え? 先生なんだから、大丈夫でしょ」

「そうじゃなくて、ほら知らないのハルト先生の噂」

「噂?」

「そう。何でも、適当にやったり無理難題を言ったりと無茶苦茶する先生らしくて、更にはだらしないって噂だよ」

「え、そうなの?」


 え? そんな噂に変わってるの? 初耳なんですけど俺が。

 おいおい、マジでどうなったらそんな噂になるんだよ。

 ちょっと前まで、生徒に見下されている新任教員とか、この学院のハズレ教員とか、平凡教員とか、そんなんじゃなかった? まぁ、どれもろくでもない噂なんだけど。

 俺は別に手を抜いてる訳でも、適当にやっている訳でもなく、先日卒業した奴らにあった教育をとっただけだ。

 まぁ、それが結果的には周囲からすればあまり受け入れがたい結果だっただけで、あいつらの意識を尊重してその道を一緒に決めて進んだから、俺からしたら後悔もない。

 その結果、俺が色んな言われようなのは仕方ないけど、あいつらの事は悪く言う奴が居ないから俺としては噂を訂正する気も特にはない。


「えっ、どうしよう。何か急に不安になって来たんだけど。今から断ったら、何か言われるかな?」

「とりあえず適当な理由で、他の先生を探すのがいいでしょ。この先生から何か変なことされる前に早く行こうよ」


 いや、何も嫌な事はしないし、ただ立会人としてその場に木のように立ってますよ俺。

 俺はこのまま目の前の2人が適当な理由から、離れて行くんだなと察し軽く息を吐いて気持ちを整えていると、そこにある先生が俺に声を掛けて来た。


「ハルト先生」

「ん? あっミイナ先輩」

「こら、先輩じゃなくて先生でしょ。で、ハルト先生はこれからどこに行くの?」


 そこに声を掛けて来たのは、教員育成学院時代の先輩でありこの学院でも先輩であるミイナであった。

 ミイナは、この学院では人気があり生徒達からも頼られていたりと、今の俺とじゃ天と地の差ほどあると言える。


「あっ、もしかしてその2人の生徒の立会人? へぇ~ハルト先生も意外と頼られるんだね」

「いや、これはたまたま俺が空いてただ……」


 俺はその瞬間、後ろからのミイナを救世主の様に見つめる視線に気付く。

 そして俺は、小さく息を吐いてからミイナに改めて話し掛けた。


「あっ! そうだった、忘れてたわ。俺学院長から呼び出し受けてたんだった。と言う訳で、ミイナ先輩先生俺の代わりにこの2人の立会人してもらっていいですか?」

「えっ!? 急に」

「本当に申し訳ないんだけどお願いします! それじゃ、俺は急ぐんで」


 俺はそう言って駆け足でその場をミイナに任せて離れた。


「ちょ、ちょっとハルト先生!?」

「ミイナ先生、受けてくれますか?」

「あの先生じゃ不安だったんです、だからミイナ先生お願いします!」


 ミイナは2人の学院生からの頼みを無下に断る事が出来ずに、引き受けるのだった。


「(ハルト、後でしっかりと押し付けた理由を聞かせてもらうからね)」


 そのまま俺は、ミイナに学院生を押し付けて中庭の方へと歩いて行き、休めそうなベンチを改めて探していると中庭で何やら生徒達が集まっている事に気付く。

 俺は遠くからその様子を見つめていた。

 ん? 試合か? 教員も立ち会ってるようだけど、同学年同士じゃないな。

 片方は2年生だが、もう片方は新入生か? おいおい、今年の新入生は血の気が荒い奴がいるのか?

 そのまま中庭で試合が始まると、最初2年生が押していたが徐々に新入生が押し返して行き、最終的に新入生が勝利してしまうのだった。

 まじか、2年生に新入生が勝っちまったよ。

 でも、新入生にしては2年生に勝る程度の技術もあり魔法も数多く使える所を見るとあの新入生が勝つのは普通か。

 とは言っても、まだ荒削りだしあの感じだと担当教員次第で直ぐ落ちたり、上がったりするだろうな。

 その後俺は、近くのベンチでゆっくりした後、学院を散歩する様に歩き始め訓練場へと顔を出した。

 今日は新入生の入学式が行われたので、特に授業などはなく授業の先取り体験などが各所で行われいたりするのだ。


「流石訓練場、色んな機材があるから身に来る新入生が多いな。ん? あそで数値テストやってるな」


 俺は、機材に対して様々魔法や魔力を流したりする場所で新入生達が次々に挑戦しているのを見つけ、移動してこっそりと見始めた。


「うんうん。年相応の数値結果って所だな。だけど、必ず何かしら飛び出ている得意分野は誰にでもあるな。それはそれで凄い事だな」


 そんな事を思いつつ、眺めているとある生徒が今までない結果を出して、俺は少し驚いた。

 その結果に少し会場もざわついていた。


「お~これはある意味凄いな。どれも平均値以上の数値で、どれかが低い訳でも高い訳でもないか。器用貧乏と言うより、ある意味原石的な感じかな。磨けばどんな形にもなりうる可能性を持った生徒って感じだな」


 その後、一通り見た後俺は教員室へと一度戻った。

 いや~何か色んな奴をみれて面白かったな~

 そんな事を思いつつ、自分の席へと戻るとそこには笑顔で少し怒っているエリスが立っていた。

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