第8話 エリスからの言葉
俺とシーマは魔獣の直前まで、ズレル事無く近付いて行き寸前で左右に分かれて魔獣を挟む様に立った。
「ハルト! 魔力でマゼンダ! そのまま撃ち切りだ」
俺はその言葉だけで、右腕と左腕の核に『赤』と『青』をそれぞれセットして魔力を流す。
そのまま魔法を放つのではなく、その魔力を両手へと発現させて両手を合わせ、マゼンダの魔力を創り出した。
そして、マゼンダの魔力を魔獣目掛けて投げつけた。
一方でシーマも同じ様にマゼンダの魔力を創り出しており、同時に魔獣に向かって投げつけていた。
投げつけられたマゼンダの魔力は、左右から魔獣へと打ち付けられると魔獣の周囲をマゼンダ色の空間が覆う。
魔獣はその空間に閉じ込められると、意識がもうろうとしだし足元がふらつきだす。
するとシーマは、魔獣に向かって突っ込んで行くと右腕に『黄』をセットしたのか雷を右腕に纏い、そのまま魔獣へと突き出し俺に向かって魔獣を吹き飛ばして来た。
俺はその場から動かずに、両手に魔力を集め瞬間的に魔力の剣を創り出した。
そのまま剣を振り上げてから、向かって来る魔獣に向けて一気に振り下ろし、魔獣を真っ二つにした。
俺は魔獣を斬った直後、直ぐに魔力の剣を解除して両手を腰に付けて上を向いた。
「はぁー、はぁー、はぁー、魔力剣とか久々にやった。師匠! 何で魔力剣の流れなんですか」
するとシーマは俺の方へと近付いて来ながら答えた。
「昔何度か失敗した流れを、今じゃ問題なく出来るか見たかったんだよ」
「そうですか。魔力剣を見たかった訳じゃないんですよね?」
「……あぁ、もちろんだろ」
「今の間は何ですか、師匠?」
「細かい事は気にするなよ」
シーマは俺の横に立って、真っ二つになった魔獣を見ていたので俺は息を整え終わった後、同じ方を向いた。
「今更だが、あの程度の魔獣じゃお前の力を見るのは無理だったな。まぁ、最後に少し見れたし良しとするか」
「それで魔獣の死体はどうするんですか? 勢いで魔獣退治しましたけど、こんなの誰かに見られたら一大事じゃないですか?」
「確かにそうだな」
「えぇ……何も考えてなかったんですか?」
シーマは俺の問いかけに、ただ一言「うん」と答えたので俺は片手で頭で抱えてため息をついた。
「とりあえず、俺の倒した魔獣を持ってくるんで、あっちの倒した魔獣をこっちに寄せといてもらっていいですか?」
「分かった。やっぱりこういう時は、昔からハルトが頼りになるな」
「師匠。考えなしで動く癖、直した方が良いですよって昔いいましたよね?」
「怒るなよ。悪かったて」
その後俺が倒した魔獣を家の前まで持ってきて、他の魔獣と一ヵ所に集めた。
そのまま売れそうな場所ははぎ取って、自然と落ちていた様な形に加工した。
他の部分は、シーマと共に上級の炎魔法を使い全てチリになるまで焼却し、魔獣の痕跡を消した。
それから、俺とシーマは家へと戻りローラに終わった事を話して、家の中で一息ついた。
「あの、魔獣の出現数が上がっているのは知っていますけど、この辺はまだ魔獣はほとんど出ないと思ってたんですが、ああ言うのって最近この辺でも出るんですか?」
「複数で出たのは今日が初めてだが、魔獣は小型だがちょくちょく迷い込んで見る事はあるな。今日みたいに完全に敵対して来たのはまれだな」
「だいたいこの辺に出て、敵対して来た魔獣は私が威嚇して追い払っているんだ」
「シーマさん、それを先に言って下さいよ。なら、今日もそれでよかったじゃないですか」
シーマは俺の言葉にそっぽを向いて答えなかった。
全く師匠は……まぁ、何事もなく終えられたから良かったけど、師匠の言葉にそのまま乗った俺も俺か……
その後、飲み物を飲みつつ少し雑談した後、俺は帰る前に少しだけエリスの事について訊き始めた。
「そう言えばエリスは、今初等部の魔法学院は卒業したんですよね?」
「えぇ、そうよ。今は中等部の魔法学院に進学したばかりよ。ハルトと入れ替わりで1年前に帰って来たけど、その後数日過ごした後中等部の寮へと行ってしまったわ」
「そうですか。エリスは元気でしたか?」
「元気だったよ。見ないうちに綺麗になっていて、あの赤髪が凄く綺麗だったよ。なぁ、シーマ」
「そうね。今ハルトがエリスの事を見たら、直ぐにエリスと分からないかもね。髪も伸びたし顔だちも少し変わって綺麗なお姉さんって感じになって来てたし」
俺はシーマとローラの言葉を訊いて、勝手に今のエリスの姿を想像したが、昔のエリスの姿から離れられずそこから髪を伸ばして、大きくしただけのイメージしか浮かばなかった。
ダメだ。
全然いい感じで想像が出来ないな。
昔の状態をただ大きくしたりしただけしか思い浮かばん。
俺は、そこでエリスの成長した姿のイメージをするのを止めて一番聞きたかった事を訊いた。
「それで、エリスは何か俺の事を言ってたりしましたか?」
「あ~ハルトの事ね……」
「ん?」
何故か俺の問いかけに、シーマもローラも口の動きが止まりだす。
何だろ、何か言いずらそうな感じを受けるけど……もしかして……
俺はその時点で何となく、どう言う事を言ったのか想像できてしまった。
なので、俺からその事を口に出した。
「……もしかしてですけど、エリスは特に俺に対して何も言ってなかったんじゃないんですか?」
「あ~え~っと……うん。特に何も言わなかったわ……」
俺はそれを自分で口に出して、凄く悲しくなった。
あ~やっぱりそうか~……まぁ、そうだよな。
6歳の時の事とか、今もまだ覚えている方が少ないし、今更俺に対して言う事もないよな。
何を期待してたんだろうな俺……はぁ~でも、あんなに色々教えた仲だし、一応師弟関係も結んでるから何でもいいから一言くらい欲しかったのが本音かな。
俺は座りながら小さくため息をついたが、直ぐに顔を上げた。
「まぁ、そんなもんですよね。それじゃ、そろそろ俺帰ります」
「分かったわ。今日は色々と巻き込んで悪かったわね、ハルト」
「いえ、300年前から慣れっこですよ。それじゃ、また街を出る際には一言言いに来ますね」
「えぇ。今日はゆっくり休んでね」
そのまま俺は、シーマとローラに挨拶をした後自宅へと戻った。
それから1カ月ほど、久々にゆっくりと故郷で過ごしつつ、たまにシーマの元へと行っては、少し稽古を付けてもらったりをした。
その後、正式に就任学院が決定した通知を受け取り、俺はその学院へと向かう仕度を始めた。
赴任先として決まったのは、俺が高等部を過ごした学院であり、そこには教員育成学院時代に親切にしてくれた先輩も赴任している学院であったので、少し知り合いがいるので気持ちが少しだけ楽になった。
そして学院へ向かう日に、俺は家族や親友達に別れを告げた後シーマの家に向かい別れの言葉や赴任先を伝えてから、学院へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます