第7話 混色

「そうか、また魔女狩り組織が活性化しているのか。それと、『魔女機関』の上の連中もその対応で動いてるか」

「はい。学院内で魔女狩り組織で事件がありまして、その関係で『魔女機関』の現始まりの魔女の弟子と言われる者が来まして」


 シーマはハルトの話を聞きながら片手を顎に当て小さくため息をつく。

 『魔女機関』――始まりの魔女が創設した『世界三大機関』の一つである。他には『エキスパート機関』『栄誉機関』と存在している。

 その中でも『魔女機関』は、始まりの魔女がトップに立ち、世界の均衡を保つという名目で活動しており、魔法の管理や魔獣・魔物の討伐調査なども行い配下組織には冒険者ギルドが存在している。


 一方で魔女狩りとは、『魔女機関』に対して反抗する者訴えがある者、現制度に不満を持つ者や更には犯罪集団が名乗る名である。

 昔から存在しているが、大きな組織としてある時もあれば、少数の組織であったり、創成者がいるのかいつ作られたのか、未だに不明なことが多いとされている存在であり組織である。

 最近では魔女狩りを名乗る犯罪集団が増えており、ハルトも教員養成学院時代に事件に巻き込まれていたのだった。


「お前も大変だったな。にしても、魔女狩りか。最近ローランから聞いた悪い噂話も、もしかしたら魔女狩り関係かもしれないな」

「ローラン?」


 聞いた事のない人物の名前にハルトは首を傾げる。


「あ、そうか。そういえば、まだお前に言ってなかったな。ローランっていうのは」


 そうシーマが答え始めたのと同時にハルトは何故かある事を思い出した。

 それはシーマは結婚しており、旦那がいるということだ。

 何だかんだ、エリスの件で何度か家に来ていたが一度も会ったことはなく、シーマともエリスの事が中心であったのでその話にあまりなる事がなかった。

 すると、そこで突然入口の扉が開いた。


「ただいま~……って、男がいる、だと!?」

「いや、あの、これは」


 ハルトはすぐさま振り返りこの状況の説明をしようとするも、何からどう説明すればいいのか分からずテンパってしまい、言葉に詰まる。

 その間に男はハルトに近付いて来て勢いよく胸ぐらを掴んだ。


「おいてぇめ! 俺のシーマに何しようとしてるんだ!」

「あ、いや、これはそんな変な事とかじゃなくてですね、ただ話をして」

「そんな言い訳信じられっか! どうせお前が押し切って家の中まで入って来たんだろうが!」

「いや、違いますって! 師匠、見て笑ってないで、どうにかしてくださいよ!」


 掴まれながら横目でシーマの方を見ると、シーマは笑いを堪えた表情でこちらをずっと見ていた。

 ハルトはその表情を見て完全にこの状況を楽しんでいるなと思うのだった。


「勝手に人の家に入って来て、シーマをたぶらかせた奴め! 外に来い!」

「ちょ、師匠!? いつまでも笑って見てないで早く説明して下さいよ!」

「……はぁ~まぁいいか。ローラン、その子は私のお客さんだよ。勝手に部屋に入って来た訳じゃないし、私も何もされてない。その子の言う通りただ話をしてただけ」

「へぇ? ……そうなの?」

「そうなの。だから、離してあげて」


 するとローランはハルトの胸ぐらから手を離してくれ、軽くしわがついた所を払う様に伸ばしてくれた。


「い、いや~すまないね。ちょっとびっくりして、あんな事しちゃって悪かったね。あははは……まさか本当にシーマのお客さんとは」

「い、いえ……分かってくれたならいいです……はぁ~、怖かった」


 互いに苦笑いを交わした後、ハルトはシーマの方を少し睨む様に視線を向けると、シーマはとぼけたようにそっぽを向いた。

 その後、改めてシーマから旦那のローラン・アーネストを紹介され挨拶をする。


「君がハルト君だったか。もうかなり昔になるが、エリスがお世話になったね。話はシーマから聞いているよ」

「いいや、俺こそ挨拶もなく勝手にすいませんでした。それにエリスには俺の方こそ色々と気付かせてもらえて感謝しかないです。こうして目標も決めて進めているのもエリスがあってこそです」


 軽く雑談をした後シーマが話を戻し、ローランが聞いた噂話について改めて問いかけた。


「あ~出張してた時の話だな。その、魔女狩り? て言うのかは分からんが、何か怪しい奴らがうろついて何か儀式でもしてるとか、魔獣が出現して大騒ぎだったとかそんな噂話だったな。でもたしか、冒険者ギルドが派遣した冒険者たちが解決したらしいぞ」

「なるほど、怪しい奴らに魔獣ですか。よくある事件とも言えますね」

「あくまで推測でしかないが、ローラン以外にもここ最近変な噂や魔獣の出現も多くなっているらしいから、関係ないとは言い切れないぞ」


 教員育成学院時代、ハルトは世界的に魔獣が出現が増えており、活発的になって来ているという話は聞いており、事件や暴動や失踪など様々な事が同様に多くなっているとも学院では噂になっていた。

 基本的に魔獣の存在は、『魔女機関』が調査や討伐を行うがもっとメインで対処しているのは配下組織の冒険者ギルドである。


 ギルドでは、依頼を達成し金銭を受け取るシステムで成り立っていたが、ここ最近手ごわい魔獣が増えて来たのかその依頼が溜まって来ているらしく『魔女機関』が直々に対処していることが増えているらしい。

 それでも溜まる時は、国の兵士達がカバーしているらしいが、全て対処出来ている訳ではないらしく魔獣の活性化は魔女狩りが関わっているのではと噂されているのだ。


「ともかく魔女狩りには気をつけろよハルト。それと『魔女機関』にも注意はしろよ。私も自分の事は言えないが、お前も同じ位目をつけられたら面倒だからな」

「はい」


 シーマが小声でそう話し掛けて来た事にハルトが返事をした直後だった。

 家の外から、獣の様な雄叫びが聞こえて来て三人は直ぐに椅子から立ち上がり扉近くの窓に駆け寄り、外を見ると家の前に魔獣が三体威嚇する様に構えていた。


「魔獣!? どうしてこんな所に」

「ローランは下がっていて。ハルト」


 ハルトはシーマからの視線で何をするかを直ぐに理解し、ただ頷いて返事をする。


「シーマ、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。それに今はハルトもいる。こう見えてこいつは、私なみに強いんだよ」

「そ、そうなのか?」

「まぁ、一応ですけど」

「ローラン心配しないで、というより貴方は私の強さを知っているでしょ」

「……あぁ、分かった。それにハルト君もシーマが言うのだから強いんだろうけど、気をつけて」


 ローランの言葉にシーマが優しく頷くと先に外に出て行き、ハルトはその後を追う途中でローランに軽く首を縦に振り家の外へと出る。

 家の外に出ると、ハルトはシーマの真横に並び立つ。

 シーマが魔獣を引き寄せる魔法を使い、家から離れた森林地帯へと誘導し始める。


「師匠、ローランさんは師匠の強さを知っているんですか? さっきの雰囲気から、そんな気がしてるですが、あの基本的に力なんて見せない師匠がどういう経緯であの人に力を見せたのか気になるんですが」

「ハルト、私にも色々な事があった中でローランに出会ってるんだ」

「秘密って事ですね。分かりました」

「さすが私の弟子。さてと、魔獣は三体よ。ハルト準備はいい?」


 森林地帯の開けた所で止まり、魔獣と一定間隔を空けた状態で準備運動を始めた。

 魔獣もこちらの出かたを伺うように威嚇し続ける。


「俺の方はいつでもいいですよ、師匠」

「それじゃ、六年前の運命的な再開時の決闘からどれだけ成長したか見せてもらうか」

「驚かないでくださいね」

「自信満々ね。それじゃ私が一体、ハルトで一体。最後の一体は久し振りに師弟タッグというのはどう?」

「いいですね、そのプランで行きましょう師匠」


 そして準備運動が終わり、魔獣たちがこちらの異様な魔力に気付き身体中の毛が逆立ち威嚇し始める。


「さて、それじゃ始めようか魔獣退治!」


 シーマのその言葉と共にハルトは一気に正面にいた一体の魔獣へと突っ込む。

 地面を蹴ると同時にハルトは『色操魔法』を発動させ、両脚に『緑』の魔力をセット後発動させ、風魔法を両脚に纏う。

 魔獣に接近した所で、魔獣の顔を強化した状態の右足で蹴り飛ばした。

 そのまま左足で地面を蹴って、蹴り飛ばした魔獣を追いながら両腕にそれぞれ『黄』『紫』の魔力をセットし同時に発動させ両手を合わせた。


「紫電!」


 俺は両手を開き、その間に紫色の雷を創り出して両手に纏い、そのまま吹き飛び木の幹にぶつかった魔獣の腹部目掛けて両手を突き出し、紫電を撃ち放つ。

 魔獣は一瞬だけうめき声を上げて、そのまま力尽き地面に倒れて動かなくなる。


「よし、『混色』も問題なく出来たな。初実践だったか、いい調子だ」


 俺がさっき使った魔法は、俺が使える『色操魔法』の使える色どうしを混ぜて合わせる事で生み出した、魔法である。

 これは師匠から教えてもらったもので、『混色』と呼ばれるもので、自身が使える色を魔力と共に混ぜ合わせる事で魔法を創り出し使えるようにする技術の1つである。

 300年前には出来なかったが、この時代で改めて師匠からアドバイスを貰い練習した結果、2年前にやっと成功する事が出来たものだ。

 たが、今の俺には『混色』は魔力消費が激しくそう何度も使えるものではないので、日々調整しつつ訓練中のものである。


「さて、師匠の方はどうかな? っても、どうせもう終わってるだろうな」


 俺は直ぐに残して来た魔獣がいる方へと、両脚に『緑』をセットから発動までさせて風魔法を纏い、急いで元の場所へと戻った。

 一方でシーマは、俺と共に魔獣に向かった時には魔力での身体強化のみで突っ込んでいた。

 そのままシーマは魔獣の顎下へと潜り込み、そこから強化した足で上空へと蹴り上げた。

 そして隣にいる魔獣を一度睨みつけた後、そこで『色操魔法』を瞬時に発動させ身体強化した状態で上空へと飛び上がった。


「ハルトとの共闘前に、試し打ちさせてもらうぞ」


 そう言ってシーマは宙へと蹴り上げた魔獣の額に右手を押し付けた。

 だが魔獣もそのままじっとしておらず、口を開き何か魔法を放とうとしていたが、シーマは左手で魔力操作で魔獣の口を強制的に閉じる様に操った。


「もう少しじっとしててね。三色セット、そして『三混色』。黒砲」


 直後、シーマが魔獣に押し付けた右手から黒いエネルギー弾が勢いよく放たれ、魔獣の脳天を一瞬で貫いた。

 そのまま魔獣は動かなくなり、落下して行った。

 シーマはその魔獣をクッション代わりにして、地面へと着地した。


「ふぅ。少し色の調整が微妙だったが、威力は十分だったな。たまにしか使わないと、やっぱり感覚が狂うな」


 シーマは右手を握ったり開いたりしながら、ぶつぶつと呟いた後最後に残っている魔獣へと視線を向けた。


「さて、後はあんただけだけど、ハルトの奴どこまで行ったんだ?」


 その場でシーマが周囲を見回していると、最後の魔獣がシーマへと飛び掛かった次の瞬間だった。

 魔獣は上から何かで押し潰される様に、地面へとひれ伏した。


「こらこら、もう少し待てないの? 全く、ハルトー! 早く帰ってきなさい!」


 シーマはひれ伏している魔獣に向けて、左手の人差し指と中指だけを突き出して魔獣を押させつける様な体勢で声を出していた。


「ハルトー!」

「はいはーい! ここにいますよ!」


 俺はそこに急ぎ足で戻って来て、状況を見て一瞬理解出来ずにいたが、直ぐにどう言う状況か理解した。


「遅いぞハルト。お前のせいで、この魔獣が待ちきれず襲って来たんだぞ」

「え~と……すいません?」


 何で俺が攻められてるんだ? てか、普通の人は魔力操作で魔獣を抑えつけてたりしないから、あり得ない状況なんだけど師匠からしたら、これくらいは普通か。

 それにあの倒れてる魔獣も、あのままこの辺で仕留めたのか。

 やっぱり直ぐに終わらせたよ。

 俺が小さくをため息をつくと、シーマは「何のため息だ?」と訊いて来た。


「何でもないですよ。で、タッグやるんですよね?」

「もちろんだ」


 そうシーマが言うと、押さえつけていた魔獣を離し中級の風魔法で魔獣を吹き飛ばし、距離を強制的にとらせた。

 魔獣も完全に戦闘態勢をとって、俺達の様子を伺っていた。

 俺はシーマの横へと移動し、背中合わせをする様に真横で構えると、シーマも同じ様に俺と背中合わせする様に構えた。


「久しぶりだが、合わせられるかトウマ?」

「もちろんですよ。師匠こそ、なまってないですよね?」

「私の心配するのは、300年早いよ!」


 そのまま俺達は同時に地面を蹴って魔獣へと突っ込んで行った。

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