第6話 新たな門出
ハルトは息を切らしながら、足早にエリス家へと向かった。
到着し息を整えず、すぐさま扉をノックする。
その場で膝に両手を付き、肩で息をし続けて呼吸を整え始めた。
すると扉が開きシーマが現れた。
「ハルトか」
「師匠、エリスは、いますか?」
まだ息が上がり、途切れ途切れに言葉を口にした状態を見てシーマは家の中へと入れさせられる。
そのまま椅子に座らされたため、ハルトはゆっくりと深呼吸をし息を整える。
するとシーマが飲み物を机の上に出し飲むように勧められ、ハルトは一口飲んで再度口を開く。
「飲み物までありがとうございます師匠。それで、エリスはまだいますか?」
「急いで来たのだろうけど、エリスはもういないわ」
「……そう、ですか。もう行ってしまいましたか」
それを聞き、ハルトは肩を落とした。
エリスが家に居ないのは、薄々分かっていた。
春から通う初等学院寮へと既に向かったのである。
最終試験は、その日とハルト自身の進学試験を基に数日前に設定し日程を組んでいたのだ。その後の準備や合格パーティーなどをしようと計画していたためだ。
だが、最終試験後予期せぬ嵐のせいで会う事が叶わなくなり、更にはまさかあんな終わり方でエリスと別れてしまった。
ハルトは、ため息を漏らし後悔をし始める。
最終試験を別の課題にしていれば、嵐の中でも無理して会いに行ければ、進学試験の合間に無理にでも時間を作って来ていれば……
今さら終わった事をタラレバで後悔しつつも、それは何の意味はないと分かっていた。だが、そうしなければこのどうしようもない気持ちに飲み込まれおかしくなってしまいそうだった。
そうやって分かりやすく落ち込んでいるハルトに向かってシーマが声を掛けて来た。
「いつまでそうしてるんだ、ハルト? 後悔は何も生み出さないと教えたろ?」
「はい……覚えています。でも、こればかりは後悔せずにはいられないです。あの試験後に、彼女の師匠として何も言葉を掛けてやれないまま別れてしまうなんて、最低じゃないですか。あんなに乱していたのに、変に苦手意識を付けるつもりはなかったのに、あれが彼女の苦になってしまったと思うとやらなければ良かったのではないかとまで思ってしまうんですよ……」
ハルトはこみあげて来る感情をそのまま口にだしていた。
するとシーマは大きなため息をつく。
「お前、少し真面目すぎるな」
「真面目って……何言ってるんですか師匠! 普通こうなりますよ! 俺のせいでエリスに嫌な思いまでさせて、何にもしてやれなかったんですよ……」
「何もしてやれない? ハルト、お前は一年間何をしていたんだ? 誰を見ていたんだ? 仮にも師匠とあろうものが、エリスの事を分かってないとはな」
「えっ、どう言う事ですか?」
戸惑いつつハルトが首を傾げていると、シーマは戸棚の上に置いてあった封筒を持ってきてハルトに手渡した。
その封筒にはハルトの名前が書かれていた。
「師匠、これは?」
「あれこれ私に聞くより、開けて中身を見た方が早いぞ」
シーマはそう告げると椅子に座り、自分の飲み物を飲み始め口を閉ざした。
ハルトは言われるがまま渡された封筒を開け、中に入っていた一枚の折りたたまれた紙を取り出し開いた。
そこには、エリスがハルトに宛てた文字が書かれていた。
「(エリスから!?)」
ハルトは目を丸くして手紙を直ぐに読み始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――
先生いや師匠、お久しぶりです。エリスです。
こうやって師匠に向けて文章を書くのが初めてで、上手く伝わるか不安だけど、師匠なら分かってくれると信じています。
えっと、最終試験後あれから少しお母さんとケンカをしちゃったけど、あの時はお母さんも師匠も私の事を思って止めようとしたんだと今なら分かります。
お母さんにはしっかりとごめんなさいして、仲直りしたので、大丈夫です。
それと、師匠の課題を最後まで達成できずにごめんなさい。
あれは私の力不足なので、師匠が落ちこむ必要はないです。
お母さんは絶対に師匠は落ち込むからと言うので書きましたが、師匠はそんな事ないですよね?
最終試験後に師匠と会えずに学院寮へと出発になった事には、少し落ちこみましたが、師匠にも色々とあるとお母さんから訊いたので私は大丈夫です!
それに私なりにあれから勉強をしたんですよ!
さすがにまだあの時の課題はクリアできないけど、これから学院に入るのでもっと勉強をしてあの課題を絶対にクリアできるようになってみせます!
だから師匠も頑張って、さらにスゴイ先生になってください!
次に会った時には師匠も驚くくらい美人で凄い魔法使いになってますから、覚悟して下さいね。
エリスより
――――――――――――――――――――――――――――――
手紙を読み終わり、ハルトは物凄く自分が情けないと感じてしまう。
シーマの言う通りエリスのことを一年間も見ていたのに、全然彼女の事を分かっていないなと改めて痛感したのだった。
「師匠、貴方の娘は凄いですね」
「そうだろ。なんせ私の娘だからな」
「昔、あんなにも自堕落な師匠からは想像も出来ないくらい凄いです」
「失礼な弟子だなお前は。お前こそ、あの子をいつまでも子供だと思っていると、すぐに抜かされるぞハルト」
「あははは! そうかもしれませんね。俺はまだまだ師匠としても先生としても全然ダメですね。勝手に決めつけて思い込んで落ち込んで……本当に恥ずかしい」
ハルトはエリスからの手紙で顔を隠すように呟いた。
そんな姿を見て、シーマが小さく笑う。
「そんなお前が、この先教員を目指す覚悟できているのか? これに比にはならない程大変らしいぞ」
「今、完全に決まりましたよ。エリスにここまで言われて、引き下がる俺じゃないですよ! 俺は最高で最強の学院教員になります!」
シーマはハルトの宣言に軽く噴き出してしまう。
「な、何で笑うんですか?」
「いやな、最高で最強って少し面白いと思ってな。それに、一応娘とは師弟関係でもあるのに、弟子に背中を押されるとは師匠としての立場も将来的に危ういな~と思ったら、余計に笑えてしまってな」
「うっ……確かに。何も言い返せない」
「まぁ、頑張って師匠としての立場を守れるよう最高で最強の教員になるんだな、ハルト先生」
「あんまりからかわないで下さいよ、師匠」
その後エリスからの手紙を貰い、目標のためにやるべきことを限られた時間で取り組み始めた。そして時間はあっという間に過ぎ、ハルトは十七歳を迎え高等学院で最終学年となった。
将来を学院教員と完全に定め、日々勉学に勤しみつつ様々な書物を読み漁り、自分なりの教育プランを作成したりしていた。もちろん、学院生とし友人たちともかけがえのない日々を過ごし無事に学院を卒業する。
卒業後の進路はもちろん学院教員となる為、教員養成の専門学科がある学院へと進学した。
進学した先の教員養成の学院はその道の有名校であり、学院教員を目指す過半数以上の人が入学する場所である。
ハルトはそこで四年間学院教員としての知識を身につけ、資格取得する為に様々な課題をこなし続けた。
そして遂に学院教員としての資格取得をし、晴れて教育者となり四年間の教員養成の学院を無事に卒業する。
卒業後、ハルトは一度故郷に帰り両親へと改めて報告をした。
両親への報告後は、そのままシーマの家へと向かった。
「一応あれ以来、師匠とは手紙で何度かやり取りはしてたけど、いざ久しぶりに会うとなると緊張するな」
緊張しながらも、シーマの家に辿り着き扉を叩くとシーマが家から出て来た。
「お、お久しぶりです師匠。俺です。ハルトです」
「何緊張してるんだよ、ハルト。言わなくても分かるわよ。にしても、デカくなったわね。今いくつになっの?」
「二十二歳になりましたよ師匠」
「そう。で、わざわざ来たってことは、いい報告を持って来たって事でいいのかしら?」
「はい、もちろんです! それと少し師匠に話しておきたい事がありまして」
急に真面目なトーンで話すハルトにシーマが少し首を傾げる。
「始まりの魔女の事です」
その言葉を聞きシーマの表情が少し硬くなる。
「……分かった。中で話そうか」
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