第12話 10年振りの再会

 炎の様に綺麗な赤い長髪に俺は、一瞬目を奪われてしまった。

 そして俺は、10年振りに成長したエリスの姿を見て直ぐに言葉が出なかった。

 するとそんな俺よりも先に声を掛けたのが、俺にいきなり攻撃して来た男子生徒であった。


「エリス・アーネスト……あ~お前、もしかして『紅の魔女』か」

「……そうよ。それで、貴方は誰なの? 名前も名乗らないつもり?」


 エリスの言葉に、その男子生徒は軽く舌打ちをする。

 一方で、遅刻して来た少し気弱そうな男子生徒は、アワアワとしていた。


「あ、あの~け、喧嘩とかやめて下さいね。僕、そう言うの苦手なので」

「あぁ!」

「ひっ! ご、ごめんさない……」

「……で、貴方の名前は? それと、そこの貴方も名前を教えて」


 その言葉に、気弱そうな男子生徒が先に名前を答えた。


「ぼ、僕の名前はノーラス。ノーラス・スラングです」

「俺はデイビット・リンベルト。よろしくな『紅の魔女』様」

「その名で私を呼ばないで、デイビッド。私の事はエリスと呼んで」

「はいはい。分かりましたよ、エリス」

「分かりました、エリスさん」

「それで、貴方が私達の担当教員ですか? 名前は何と言うんですか?」


 俺はエリス達の会話をただ黙って見ていたので、急にエリスに話を振られて驚き慌ててしまう。


「おほん。やっと全員集まった所で、改めて自己紹介と行こうか。俺はハルト・ヴェント。今日から、お前達の担当教員だ。これからよろしく頼む」


 お~俺にしては、意外とさらっと自己紹介で来たし、接しやすい教員ぽくなかったか? 結構上出来だな。

 と、俺は自分の自己紹介を自画自賛していたが、エリス達の反応は全くなく、ただ黙って俺の方を見つめているだけだった。

 あれ? 何この雰囲気。

 何で黙ってるの? よろしくとか、そう言う一言もなし?

 つうか、何でエリスも他人行儀なんだよ。

 お前は俺の事知ってるだろ!

 俺はそう思いエリスの方を向くと、エリスは分かりやすい様に視線を逸らした。

 えっ、何で目を逸らすんだよエリス……そんな態度取られたら傷つくだろ……

 俺が少し俯いて悲しみに浸っていると、デイビッドが口を開いた。


「まぁ、アンタが俺に相応しい担当教員かはどうかは、これからの行動で見極めさせてもらう。だから、せいぜい俺に見合う行動をとってくれよ先生」

「はぁ?」

「じゃ、今日はどうせ顔合わせだけだろから、俺はもう帰るぞ。お前らもこれからよろしくな」

「おいデイビッド?」


 俺はそのまま背を向けて帰って行くデイビッドを呼び止めようと声を掛けるが、デイビッドは聞く耳を持たずにそのまま帰ってしまう。

 な、何なんだよあの態度! 資料を読んで分かってはいたが、相当な俺様中心タイプで問題児。

 これは思っていた以上に大変な相手だな……

 俺は小さくため息をつき、残ったエリスとノーラスの方を見る。


「デイビッドは帰ってしまったが、あいつも言っていた通り今日は軽い顔合わせ程度だ。お前達が良ければもう少し話したいんだが」

「ぼ、僕はその、あんまり話が得意じゃないので……」

「私も暇ではないので、もう用件がなければ遠慮します。それでは失礼します、ハルト先生」


 そう言ってエリスはその場から立ち去って行くと、ノーラスも俺に一礼して立ち去って行った。

 え、マジで!? 皆帰っちゃうの? ちょっとくらいは話すと思っていたんだけど。

 ノーラスは周りの意見に合わせる性格だし、デイビッドに萎縮してたしそれもあって早く帰りたかったのか? どっちにしろエリスが残らなかった時点で、ノーラスが残る事はないか。

 デイビッドと違って問題児ではないが、気持ちや性格面が悪い方に出る事があるか。

 俺は、ノーラスの後ろ姿を見ながら読んだ資料と初めて会った印象を擦り合わせていた。

 そしてその後にエリスの方に視線を向けた。

 エリス、会わなかった10年で何かあったのか? 容姿は成長しているし、感じられる魔力も昔よりも凄くなっているのは感じる。

 でも、俺への他人行儀な態度……まぁ、昔みたいにとは思ってなかったが、そこまで知らないふりをされると辛いんだよな。

 そう思った俺は、エリスの後を追って声を掛けた。

 エリスは足を止めて、少しだけ体を開ける様にして俺の方を見て来た。

 もしかしたらデイビッドやノーラスの前だから、恥ずかしかったとかかもしれない。

 誰も見てない場所なら、少しは態度も変わるだろ。


「何ですかハルト先生」

「えっ、いや~ほら俺だよ、俺」

「はい? だから何ですか?」

「もしかして分かってないか? 俺だよ、ハルトだよ。ほら昔お前の家庭教師とかやって、師弟関係を結んだ師匠だよ」

「あ~」


 そう言ってエリスは何故か俺に背を向けた。

 何だ、俺が分かっていなかっただけか。

 俺が安堵の息をついた直後、エリスから思いもしていなかった事を口にされた。


「ハルト先生、そんな昔の事をこんな場で持ち出さないでください。それに、それはもう10年も前の話ですので、誰かに言ったりするのも止めて下さい」

「え? な、何だよ急に」

「ハルト先生は、私が今どう言われているか分かっていますか?」


 俺はその問いかけに「あぁ」と答えた。

 そして、事前に貰った資料を思い出した。

 エリス・アーネスト別名『紅の魔女』。

 彼女がそう言われているのは、髪の紅さもあるが知識に技術と言った面で優秀である為だ。

 中等部からその頭角が現れ、試験でもトップの成績で今年の入学試験も主席入学である。

 だが彼女は中等部の同時期から性格が少し変わったとされている。

 その原因までは書かれていなかったが、少し冷たいと言うか周りにあまり関わらない様になり、ほとんどの時間を勉強に費やしているらしい。

 中等部時代の担当教員の内容では、やるべき事が出来たのでその為に努力していると書かれていた。

 だけど、実際に会ったエリスからはそんな風には感じられないんだよな……どこか後ろめたい感じと言うか、何かに怯えている様にも感じるかな。


「私にはやるべき事があるです。こんな所で大切な時間を無駄にしたくないんですよ」

「やる事って勉強か?」

「そうです。いけませんか?」

「いや、悪い事じゃないが、10年振りに会う相手を避ける事ないだろ。雑談くらいはいいだろ」


 するとエリスは、少し顔をそむけて唇を噛みしめた。


「……よくないです。私にそんな事をしている時間はありません」

「おいエリス、そんなに突き放す事ないだろ。これから俺は、お前の担当教員でもあるんだから少しくらいは――」


 俺がそう言いかけた時、背を向けていたエリスが振り返って来て俺の方に体を向けた。


「あの、あまり私に干渉しないで下さい。ここでは、まだ会ったばかりの教員と生徒の関係なんですから。昔の事を引っ張り出さないでくれますか? 後、私は貴方を師匠だとは思っていません」

「っ!?」

「ですから、師弟関係を解消しませんか?」

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