第2話 運命の再開
エリスと師弟関係になり、魔法を基礎から教えてだし早半年が過ぎた。
エリスは飲み込みや元からの素質も良く、教えた事は直ぐに出来るようになり、今では基本的な内容はほぼ身に付けていた。
その成長ぶりは、同年代の子よりも凄くどんどんと知識や技術を吸収していた。
「(いや~こんな直ぐに色々と出来るようになるとは思いもしなかったな。これってもしや、物凄い子に魔法とか教えちゃったんじゃないのか?)」
それ以降は、エリスに暫く魔法を教える事をセーブし体術面を中心に適当な理由を付けて身体作りへと方向性を変えた。
その理由も師匠からの教えである。
強大な力はいずれ自分以外の脅威になりえ、知らぬうちに魅了されて制御すら出来なくなる時が必ず来るというのが師匠の教えだ。
それは魔法に関して一番言える事であり、術者の年、体格、性格に合った教え方をしないと必ず教え子が後悔する様な結果になる。
教えるというのは簡単であるが、どれをどの量どのように教えるかは全ては教える側に責任があり、教え子の将来を簡単に左右してしまうものである。
だから、勝手に出来るからといきなり全て教えてはダメではないかと自分なりに師匠の教えを勝手にそう理解し実践している。
エリスはまだ六歳であり、下級以上の魔法を教える必要は今はないと判断し体作りの方へと教えの舵を取ったのだ。その事にエリスは少しケチを言っていたが、今後もっと凄い魔法を使える様にする為と説得すると渋々と指示に従ってくれた。
それから更に三カ月が過ぎたある日の事だ。
特訓終わりにエリスから思いもしない言葉が出て来て、ハルトは一瞬固まってしまう。
「ハルトさん、明後日私のお母さんと会ってくれませんか?」
「……えっ?」
「ですから、私のお母さんに会ってくれませんか?」
「(な、何故急にエリスの母親と会う事に……いや、失念してたけどよく考えれば両親からすればいきなり娘が魔法を物凄く使えるようになってる訳だし、当然の疑問を追求してどこで誰に教わったかの話になり、必然的に俺に辿り着くよな)」
ハルトは腕を組み片手で口元を隠し、考え事を続けた。
「(てか、逆に今までそう言う話にならなかった方が不自然じゃないか? 普通なら直ぐにでもこう言う事が起こるはず。何にしろ、この展開はたぶん俺は色々と問い詰められた挙句エリスの母親から怒られる展開だよな……あ~そうだよな~そうなるよな~……)」
ハルトは深くため息をつくと、エリスは「どうしたんですか?」と純粋無垢な目で見つめて来ていた。
さすがに断って話がややこしくなるのは避けたいし、この機会にエリスの両親にも挨拶しておくのが無難だと思い、ハルトはエリスからの問いかけに首を縦に振った。
そして次の日、早速エリスの家に行くことが決まった。
ハルトはその日の夜、さすがに身だしなみはしっかりしなければと学院服が一番身だしなみ的にはいいといきつき、明日のシュミレーションを頭の中で何度も繰り返してながら就寝した。
「はぁ~不安だ……」
「どうしたんですか師匠? さっきからため息ばかりついて」
ハルトはエリスの後を付いてきながら母親が待つ家へと向かっていた。
その道中、ハルトはどんなきつい言葉を浴びされたり、問い詰められたりするのだろうかとネガティブな想像しか出来ずにいたのだった。
「(あーやばい、マジでネガティブな想像しか出来ないわ……絶対にポジティブな事が起こるわけないよな。辛い辛い辛い辛い……帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい……)」
「師匠?」
「いや、ちょっとな。エリスのお母さんが怖そうだな~って思ってさ」
「お母さんがですか? う~ん、確かによくお父さんに怒ったりしますし、私が悪い事したらすごく怒って怖いですね」
エリスはそれを笑顔で語り、ハルトはより一層行きたくなくなっていた。
「でもお母さんに師匠の話をしたら」
「したら?」
「うちの娘に勝手に色々と教えているのは、どこの馬の骨だって言ってました」
ハルトは少しでも良い展開になるのではと希望を持ったが、エリスが笑顔で語った言葉で一瞬で底へと叩き落とされた。
「(あー! もうこれは怒られるの確定じゃないかー!)」
そんなやり取りをしているうちにエリスの家に到着した。
エリス家は村から少し離れた森の中の開けた場所に建てられた一軒家であった。
「(こんな所にエリスの家があるのか、にしても森の中とは珍しい。やはりエリスの髪の色もあるし、両親もそういう関係であまり人と積極的には関わらないタイプなのか?)」
そんなことを考えているとエリスから「待っていてください」と声を掛けられ、家の中へと行ってしまう。
待っている間に少しでも恐怖を紛らわそうと大きく深呼吸をした。
すると家の扉が開きエリスが出て来て、手招きされる。
ハルトは最後に大きく深呼吸し恐る恐るエリス家へと入って行く。
「お、お邪魔します……」
ハルトは腰を低くしてエリス家へと入るが、そこには誰もおらず机と椅子があり、いくつか家具が揃っているリビング部屋であった。
「(誰もいないのか? いや、そんな事はないよな)」
すると直後に、隣の部屋から声が聞こえて来た。
「よく来てくれました。扉越しですいません、今ちょっと手が離せない所で。直ぐに行くので椅子に座っていて下さい」
「あっ、は、はい」
母親と思われるその声に返事をするとエリスにも引っ張られ椅子へと座らされる。
その後、奥の部屋からエリスの母親が現れ、その顔を見た瞬間ハルトは自分の目を疑った。
「起こしいただいたのに、いきなり扉越しですいませんでした。初めまして、エリスの母のシーマ・アーネストです。今日はお呼びだてしてごめんなさい。エリスから貴方の話を聞いて、一度話をしたくてね」
「……」
「? どうかしたの? 何か変ですかね、私?」
ハルトは黙ったままシーマの顔を見つめていると、エリスとシーマは首を傾げた。
「(ど、どうしてここにシーマ師匠がいるんだ? いや、待て待て。普通に考えて同一人物なはずないだろ! もうあれから300年は経ってるんだぞ! 名前だって完全一致じゃないし、それに子供って……でも、あの頃から普通に年を取った師匠にしか見えないんだよな……)」
エリスの母親として目の前に現れたのが、300年前育ての親でもある師匠のシーマであった。
ハルトは直ぐにエリスの母親が師匠のシーマと同一人物なのかというの全てのモヤモヤを後回しにし、改めて挨拶をしたのだった。
その後質問されたことには丁寧に答え、エリスと出会った経緯やどういう関係であるか、また現在の自身の素性も包み隠さずに全て答えた。
シーマはハルトの話を遮る事はせずに、最後まで聞き入れていた。またエリスも母親に対しハルトがどういう人なのかを改めて話してくれたのだった。
「エリスとの関係や、ハルト君の事はよく分かりました。改めてエリスを助けてくれたり、色々と教えてくれたのには感謝しています。ですが、魔法まで教える必要は本当にあったのでしょうか?」
ハルトはその質問をされ、心の中で「やっぱりそう来るよな」と呟いた。
親からすればどこぞの赤の他人が、自分の子供に勝手に魔法を教えているのだからそういう反応になるのは当然だ。
「うちの娘は六歳です。貴方が誰かを助ける事に責任を持つのは良き考えですが、貴方もまだ十五歳。ここまでやる必要はないと思いますよ。師弟関係もその為に組む必要もなかったのではと私は思います」
「……確かに貴方の言う通りかもしれません」
「師匠……お母さん……」
エリスはハルトとシーマの会話をただそっと見守るだけであった。
「ごめんなさい。少しきつく言い過ぎたかもしれないわ。でもこれからは、魔法などは教えずただの良きお兄さんとして、これからも娘と接してくれるとありがたいのだけど」
ここで頷けば全てが丸く収まる。
変に反抗する理由もない、他人の家庭にはその家庭のルールや状況がある。
そこに突っかかる理由は俺にはない。ただ俺の考えで引くに引けなくなっていただけなのだから、向こうが辞めて欲しいと言っているんだからそうすればいいんだよ俺。俺だって面倒なことになったて思っていただろう。
そしてハルトはゆっくりとシーマの問いに答える。
「……すいません、それは出来ません」
「っ……どうしてか聞いてもいいかしら?」
シーマはハルトの答えに一瞬眉がピクリと動くが、答えを直ぐに否定する事無く理由を聞いて来た。ハルトはゆっくりと自分の考えを口にし始めた。
シーマさんはシーマさんなりに娘のエリスを心配しているし、俺の事も何か取り返しがつかない事が起こる前に止めてくれようとしてくれているいい人なのだろう。
だけど、俺はもうエリスに魔法を教え力の使い方を教え始めている。
自分勝手に初めてしまった事をこんな所ですっぽかっしたら、それこそエリスにも申し訳ないし、無責任すぎる。
だからこそ、俺は最後まで責任を持ってエリスを独り立ちさせる必要があるから師弟関係を結んでいる。
例えどんなに年齢が離れていようと、それが師匠としての務めなのだから、誰にどう言われようとも俺は最後までやり遂げるともう決めているんだ。
普通に考えたらここまでする必要などないし、親の言う事に従うべきだが、俺は師匠の言葉に従い関わりを持つと決めたからこそ、中途半端で終わらせたくない。
ハルトは師匠の事は伏せつつも、本音を全てシーマへとぶつけるのだった。
「それはハルト君の両親の教え?」
「いえ、これは……これは俺が尊敬する人の教えであり、考えです」
「そう。……それで君は娘を独り立ちさせてどうさせたいの? 何が出来たら独り立ちと言えるの? 君の自己満足の為に、私の娘がいる訳ではないのよ」
「そ、それは……」
「君はまだ学生であり、教師としての資格があるわけでもない。君の意気込みは凄いけど、何かあった時に責任は取れないでしょ。所詮は少し力が使えるようになった、学生に過ぎないのだから」
それを発した直後、シーマは嫌な言葉を口にしたと気付き咄嗟に口元を隠す。
「(所詮はちょっと力が使える学生か……そうりゃそうだな。もし俺がエリスの親の立場でも同じことを思うよ……でも、力だけの問題なら違う)」
そこでハルトは自分がエリスを守れる、任せられると証明出来ればいいのではと考えある考えを思い付く。
「それは俺に力がある事が証明出来たら、まだエリスとの師弟関係を続けてもいいという事ですか?」
「ハルト君、そう言う事じゃ」
「もし認めてくれれば、エリスに教える際は貴方の前だけでしか行いません。教える内容や期間も貴方と改めて決めます。だから、まだエリスと師弟関係を続けさせて下さい! 俺のわがままなのは承知の上です! 中途半端で終わりにさせないで下さい!」
俺は座りながらシーマに対して頭を下げると、エリスも俺の姿を見てシーマに訴えた。
「お母さん、まだ私師匠に色々と教えてもらいたいの。だからお願い、師匠を辞めさせないで」
「エリスまで……」
エリスと一緒の訴えにシーマは暫く黙ったまま考え込み、ハルトはただ静かにシーマの答えを息を呑んで待っていた。
そしてシーマはある答えを出し口を開く。
「ハルト君、君がそこまで言うなら力を証明してみせなさい。もし、証明出来たらエリスの師弟関係は条件付きで認めます。ですが、君に力がないと分かったら師弟関係は解消、娘に魔法等々を教える事を禁止します」
「分かりました。それで、どう証明すればいいのですか?」
するとシーマが突然立ち上がり、俺の真横へと移動して来た。
「私と戦って勝てば認めます」
「……はい?」
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