第3話 力の証明
ハルトはシーマにエリスとの師弟関係について認めてもらう条件に力を証明する為に、何故かシーマと戦うはめになるのだった。
シーマに言われるまま外に連れ出され、家の前で一定の距離をとるように指示される。それをエリスはただ見つめているだけしか出来ずにいた。
「(えーと……言われるがまま外まで出てしまったが、どうして力を証明するためにエリスの母親と戦わなくちゃいけないんだ!? しかも、パッと見師匠にしか見えないから強そうだけど、実際はどうなんだ?)」
疑問と同時に不安がハルトの頭の中を締め、ぎこちない表情をしていると何の迷いもなく準備運動をしているシーマから強い言葉が飛んで来た。
「手加減なんていらないわよ、全力できなさい。少し歳はとったけど、こう見えても昔は強かったのよ。それとも迷ってるくらいなら、さっきまでの話はなしって事でいいのかしら?」
その言葉にハルトは迷うのを止め、意識を切り替え自身の言葉と行動に責任を持つ為に準備運動をすぐに始める。その後シーマの方から「いつでもどうぞ」と声を掛けられる。
「(どうぞと言われても意外と隙がないぞ……さて、どう攻めるべきか)」
と、ハルトが長考しているとシーマは短期なのかしびれを切らして先に地面を強く踏み蹴り、距離を一気に詰めて的確に顔の正面目掛け殴り掛かって来る。
ハルトは想像以上の速さでの先制攻撃に驚き反応が遅れてしまい、そのまま殴り飛ばされてしまう。
しかし咄嗟にハルトは両腕で防ぎ致命傷を避けていた。
「もしかして、まだ躊躇してたりする? 私に対して言った言葉は所詮言葉に過ぎなかったということなのかしら?」
「いってぇ……ただやりずらいだけですよ。急に貴方と戦えって言われ、はいそうですかって急に魔法ぶっ放せる程、俺は戦闘狂じゃないんですよ」
そう返しつつ防いだ両腕を何事もなく下ろすも、腕には少し痺れが残っていた。
「(スピードもそうだが、一撃も重い。一般人いや、身体能力だけなら師匠と同等の力があるぞこの人。てか、一発目に顔面って容赦なさすぎでは……」
ハルトが軽く分析をしていたが、シーマはそんな時間は与えないと言わんばかりに、氷魔法を放つ。すぐさま回避行動を取るも、回避先へとシーマは次々に氷魔法を放放ち続ける。
「(いやいやいや、魔法攻撃しかも連発も出来るのかよ!? まじで、この人何者なんだ? というよりも、出し惜しみなんてしてたら、この人に勝つなんて無理だぞ)」
ハルトはシーマの魔法攻撃に土魔法で壁を創り出し防戦し始め、その間に作戦をすぐに組み立て始める。
出し惜しみできないと考えつつも、どこまで力を出すかで迷っていた。今出せる全力を出せばシーマには勝てるだろうが、相手もただでは済まない。
ハルトの前世の師匠に似ているからと言って、全てが同じという訳ではないと頭では分かっていてもシーマを師匠と重ねつつあった。
「(……実力はまだ底知れないが、どうしても師匠の動きと似ていて師匠と戦っている気がしてしまう。いや、相手は師匠に似ているだけだ! 変に考え過ぎていると何も出来なくぞ俺。似ているなら昔使った対師匠用での作戦でいけばいいだ――)」
「考え事とは余裕そうだね、ハルト君」
「っ!?」
真上からの声にハルトは視線を向けると、シーマが創り出した壁を飛び越えて来る。そのまま拳を再び振り抜き拳圧が放たれるがハルトは寸前で後方へと飛んで避けた。
避けた先で乱れた息を整えながら着地したシーマへと視線を向けると、何故か驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「驚いたよ。まさか、今の攻撃を避けるとはね完全に隙をついたつもりだったけど。ハルト君、意外と戦闘慣れしているのね」
シーマがそう口にしながら小さく微笑む一方で、ハルトは今相手にしているシーマが本当は300年前の師匠ではないかと完全に疑い始めていた。
「(さっきの壁のかわし方からの隙のない拳圧での攻撃、昔師匠に何度もされた戦法と完全に一致している……それはたまたまかもしれないが、それまでの魔力の使い方や魔法の組み合わせての接近戦、少しの違いはあるにしろ師匠とほぼ同じ。ここまで同じ戦法がとれる人がこの世に居るとは考えられない)」
だが、ハルトが考えることが本当だとして現在は300年経過している。本当に目の前のシーマが師匠だとしたら300年生き続けていることになるが、いくら魔女と呼ばれる存在だとしてもそんなことは出来るはずがなかった。
不老不死の研究は過去から行われていたが成功例などなく、酷い失敗例ばかりで現代では禁忌とされており、現代では魔法では外見の変化は起こせても命そのものには影響を与えることは出来ないと結論付けられているのだ。
「(あり得ないことだが、ここまでの状況証拠からシーマさんが師匠である確率は高いはず。でもそうすると300年の壁がどうしても立ちはだかるが、そこは考える必要はない。ここで目の前にいるのが師匠であると見抜くには、300年前に教えられたあの力を使って見分ける)」
ハルトはシーマとさらに距離をとった所で大きく息を吐き、右手を胸へと当てる。そして一気に胸を中心に、魔力を体全体へと流し各部位の両脚・両腕の核となる箇所へと魔力を通し、今まで眠らせていたものを目覚めさせる。
異様な魔力の流れにシーマも気付き表情が少し険しくなる。
「(ふー……よし。久しぶりの実践使用だが、問題ないな。あいにく師匠には、未だ俺がグレイであったということは知られてないはず。言葉よりも時には見せつける事も大切だと、師匠も言っていましたよね?)」
ハルトが300年師匠から教えてもらった力は、最古魔法の色操魔法。
それは言葉の通り、色を操る魔法だが、具体的には体の五か所に疑似的に核と呼ばれる魔力溜まり場を作り出し魔力の色と呼ばれる物をセットし、魔力を流す事で身体強化や魔法を発動させる魔法である。
体に作れる疑似核は人それぞれではあるが、ハルトは両脚・両腕・胸の五か所。そして使える魔力の色も五つ『赤』『青』『黄』『緑』『紫』。
魔力にも色という概念があり、それぞれに特徴が存在している。
魔力の色は多彩であり、その色に付随した力を使えるとされいるがそれを知る者は少ない。ハルトも過去に教わった内容も、全体的にみれば初心者が習う箇所であった。
現代に色操魔法は伝わっておらず、歴史にすら残ってはいない。その理由は使える者が限られ、一番は魔力の色を感じ取れる者がいなかったからであった。
ハルトは偶然にも魔力の色を感じ取れる者であった為、師匠から色操魔法を伝授されていたのである。
「(この力を使った所で本当の師匠には勝てないが、この力の対応次第でシーマさんが師匠かどうかすぐに分かる)」
シーマはこれまで通り攻めてくるのではとハルトは考えていたが、距離をとった後から様子を見続けていた。それを見てハルトは直ぐに行動を起こす。
「(両脚の核に『黄』の魔力をセット)」
次の瞬間、ハルトは力強く地面を蹴って雷の様にシーマとの距離を一瞬で詰める。
「(右腕の核に『赤』の魔力をセット)」
直後右腕に炎を纏わせシーマ目掛けて右腕を突き出す。
「っ、これは……」
シーマは小さく驚いた声を出すも、瞬時に身体をズラしハルトの突き出した腕を左手で掴み引っ張り、そのままみぞおち目掛けて右手の掌底打ちを叩き込む。
その一瞬でシーマは、左手だけに炎を相殺する様に水を纏い、右手に与える威力を増す為に自らの腕を加速させる魔法を掛けたのだった。
しかしハルトも掌底を受ける寸前で胸の核に『紫』の魔力をセットし、自らの体を守る魔力の盾を放出し、シーマの攻撃を防ぐ。
「っ!?」
攻撃を防いだことに驚いたのか、ハルトが自身の弟子であると気付いたのか分からないが、シーマに一瞬だけ隙が生まれる。
そこをハルトは見逃さず、左腕の核に『緑』の魔力をセットし腕を振り抜く。
ハルトは前世で一度も出来なかった師匠への一撃を入れられたと思ったが、それは思い違いであったと直ぐに分かる。
シーマは防がれた右手の甲で、ハルトの左突き流す様に弾く。そのまま前へ飛び込む形になったハルトに対し、シーマは体勢を低くしハルトと逆方向に瞬時に移動すると、軽く飛び上がりハルトの腹部へと魔力を込めた鋭い右足蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ばしたハルトは、一直線に大木の幹へと打ち付けられる。
打ち付けられた反動で地面へと倒れると思った次の瞬間、シーマが落ちるハルトの首元を左足で押し付けて再び大木に張り付けたのだ。
「がぁぁっ……」
ハルトは首元をシーマの左足で押し潰されている為、声も出せず苦しい状態に陥る。何とか両手で首元の左足をどかそうとするが、全くびくともしなかった。
そんな状態のハルトにシーマは顔を少し近付け小声で訊ねる。
「君、さっきの魔法はどこで覚えたの? それとも誰かから教わったの? いや、それはあり得ないわね。もう使える人間はいないのだから」
想像以上の展開にハルトは驚きつつも、対応や問いかけてくる内容からシーマが師匠であることは確定的であった。しかしながら、何故ここまで怒りを前面に出して来ているのかが分からずにいた。
もがきながらもハルトは答えようにも、上手く声が出せずシーマに全く伝わらずにいた。一方でシーマも、左足を下ろそうとはせずそのまま問いかけ続ける。
「もしかして君は、他の奴らの手の者なのかしら? それならさっきの魔法を使えるのも納得出来るけど……それならこんな回りくどいことはしないだろうし、正直に君は何者なの?」
「っ、俺は……グレイ……ですよ、師匠……グレイ……メイスキーで……す……」
かすれながらハルトが伝えると、突然シーマの力が緩み首元に突き出していた左足を下ろす。同時にハルトは地面へと倒れて、何度か咳込みをしつつ苦しさから解放された為ゆっくりと息を整える。
四つん這いの状態で息を整えたハルトは、その場で見上げるとシーマは動揺した表情でこちらを見下ろし、少し震えながら口を開いた。
「今、何て言ったの?」
「俺の前世での名前ですよ、忘れたんですか師匠。グレイ・メイスキー、メイス・メイスキー唯一の弟子かつ養子とも言える存在。まぁ、もう300年前の話ですけどね」
「……」
シーマはその言葉を聞いて完全に黙ってしまった。
その間にハルトは立ち上がりシーマと目線を合わせ、ゆっくりと頭を下げた。
「300年振りです、師匠。あの時は、本当にすいませんでした。でも、まさかこの世界で再び師匠と会えるとは思ってもいませんでした」
「……信じられないが、そうであればさっきの魔法も納得いく。頭を上げろグレイ。いや、ハルト君」
その言葉を聞き、ハルトは下げた頭を上げシーマの顔を見た直後だった。
突然頬目掛けてビンタが飛んで来て、頬を強く叩かれた。
ハルトは何が起こったのか理解出来ずに、ただ叩かれた頬を片手で抑えシーマの方へとすぐに視線を向けた。
「な、何でビンタ!?」
とハルトが動揺していると、シーマはその後両腕でギュッと目の前のハルトを抱きしめ、耳元で小さく呟いた。
「何してるんだよグレイ……私より先に死ぬんじゃないよ……」
そう呟きながらシーマは少し震えていた。
ハルトはただそれに対して「すいません」と謝る事しか出来なかった。そのまま暫く抱きしめられた状態が続いた所に、エリスがやって来た。
「お母さん、何で師匠の事を抱きしめてるの? もしかして、浮気ってやつ?」
「エ、エリス!? そんな言葉をどこで知ったの?」
シーマはエリスの言葉に驚き、ハルトを突き飛ばすとエリスへと駆け寄った。
突き飛ばされたハルトは、背後の大木の幹に再び後頭部をぶつけその場で後頭部を抑えながらうずくまった。
「いってぇぇ……ひでぇ~扱い……」
「師匠大丈夫? お母さん、あんまり師匠をいじめないでよ」
「いや、あれはあいつの自業自得ってやつだから私のせいではないんだよ、エリス」
「何言ってるんですか師匠、今のは完全に貴方が突き飛ば――」
そう反論しようとしたがシーマが物凄い目で睨んで来たため、ハルトはそこで口を止め「自分が悪かったです」と渋々口にするのだった。
「それでお母さん、師匠はまだ私の師匠を続けてくれるでいいの? お母さんも強かったけど、師匠も強かったよね」
「エリス……」
エリスの言葉を聞き、シーマはハルトの方へ体を向けにこやかな表情をする。
「グレイ、いやハルト……君。君の力は認めますが、勝負は私の勝ちです。ですが、状況が変わったので再度詳しく話し合いましょうか、ハルト君」
シーマの笑顔にハルトは昔のことを思い出し少し震えたが、断る理由もないため、頷き了承をする。
その後、改めて家の中へと招かれ話し合いが始まった。
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