第24話

「もう1度、1から説明しましょう」


 『マスク』は滔々と声を響かせ、事の起こりを話し始める。


 初めはドラガルド王国に大きな違法奴隷市場があることに気付いたのが発端だった。


 レインダー伯爵が残した顧客リストには、多くの貴族や王国に関連する大商人が名を連ねていた。


 『マスク』はその1つ1つの顧客を吊し上げるとともに、主だった取引場所を強襲した。その中には、ほとんど名義だけとなった貴族の屋敷も含まれていたが、その元締めに至る痕跡も取引場所も発見できない。当然、裏で手を引く人間もわからなかった。


 だが、顧客に事情を聞いても、綺麗さっぱり記憶が消されており、唯一記憶処理がされていなかったレインダー伯爵も、ほとんど事情を聞かず処刑台に立たされ、処断されている。


「ほとんど手詰まりな状態の中で、唯一手がかりと思えたのが、違法奴隷のほとんどがガル族だったこと……。それも年間にして、2万人!」


「2万人……」


 テテューパは静かに言葉を絞り出した。


 どこか仏像を彷彿とさせる彼女の眉間に皺が寄る。


「そんな奴隷の数……」


「あり得ない……。そうです。2万人という数は、1年で取引される奴隷の総量に匹敵する数です。それを違法に売買するなんてあり得ない。それもガル族や、その出身者に集中していること自体おかしい」


「いや、もっとおかしいことがありますよ」


 テテューパは顎に手を置き、呟いた。


「輸送方法です。年間とはいえ、2万人の数の奴隷を王都に運び込むなんて不可能でしょう。衛兵の目もあるのに……。それほどドラ族の衛兵は無能なのですか?」


 やや挑発気味にテテューパは振り返る。後ろでフェンブルシェンと共に黙っていたエニクランドは、渋い顔で睨み返すのみであった。


「しかし、1つだけ方法がこの国にそれだけの奴隷を運ぶ方法があるのです、テテューパ殿」


「なるほど。……徐々に見えてきましたよ、あたくしにも」


 テテューパは扇子を開き、顔を半分隠しながら、不敵に微笑む。


 『マスク』の表情はわからなかったが、同じく笑ったような気がした。


「そうです。三族会議です」


 三族会議には多くの従者や兵士、さらには土産などを載せた馬車が王都を通り、やってくる。その場合、書類のみのチェックだけで、中の確認はしない決まりになっていた。


「思えばその決まりですら、奴隷を運ぶためのものだったかもしれないですね」


「そうです。事実、この近くで早速違法奴隷の取引が行われている」


「じゃあ、あの煙は……」


「私の仲間が、奴隷たちを解放するために動いているところです」


「なるほど。だからこそ、あなたは彼らに真を問うために、予告状まで出して現れたと」


「一国の王に会うのです。アポイントメントぐらいは最低限必要でしょ」


「思っていた以上に興味深い方ですね、あなたは。是非北にある我が城でゆるりと語り明かしたいものですわ」


「恐れ入ります」


 仮面の騎士は恭しく頭を下げた。


 それを見て、テテューパの視線がフェンブルシェンとエニクランドに向く。


「……さて、陛下、そしてフェンブルシェン。何か申し開くことはありませんか? 確かに向こうは罪人……。しかし、今言ったことには一定の筋は通っているとあたくしは感じました。そうやって苦虫かみつぶしているところも……。『マスク』に変わって聞かせてもらいましょう。今言ったことは、本当でしょうか? 真実であるというなら、フェンブルシェン――あなたの国の荷を改めてさせてもらいますけど……」


 沈黙が降りる。


 『マスク』を交え、それぞれの部族の長たちは、互いに睨みを利かせた。


「ふん……」


 鼻を鳴らしたのは、エニクランドである。


 さらに、その手が横に薙いだ。


 次の瞬間、『マスク』の下の地面が光る。


「魔法陣……! トラップか!!」


 『マスク』は離脱を試みようとした1歩遅かった。魔法陣から伸びてきたのは、硬い石でできた鎖だ。


 仮面の騎士の足に巻き付くと、一気にその身体を絡め取る。


 さらに――――。


「ぐああああああああああああ!!」


 電撃が放たれた。


 強烈な雷属性魔法が『マスク』の全身を駆け抜ける。膝を突いた『マスク』は、そのまま石畳に這いつくばった。


「陛下、これは?」


 テテューパが動く。だが、その前に白い首元に魔法でできた刃が突きつけられていた。


「どういうことですか、フェンブルシェン。あたくしに武器を向けるのは、ルドー族全体に向けることを意味するのですよ。それとも、そんなに戦争をしたいのですか?」


「別にわしはいつだって構わんよ。だが、テテューパ今は黙って見てろ」


「まさか……。今、この者が言ったことは――――」


 テテューパの疑問に、エニクランドもフェンブルシェンも答えない。


 後者は淡々とテテューパを脅し、エニクランドは倒れた『マスク』に近づいていく。


 エニクランドの手が、ついに『マスク』の仮面にかかった。


「やれやれ……。下町の正義の味方でおれば良かったのものの。まさか国王を恫喝するとはな」


「陛下! エニクランド、お答えいただきたい。その者が言ったことの真偽や如何に?」


「テテューパ、お前もまだまだ青いの。こんな正体不明の男の言葉を信じるのか?」


「先ほども言いましたが、その者が言う話には筋が――――」


「もっともらしく聞こえるだけじゃ。都市伝説と言う言葉を聞いたことがあるか? 情報を集めた時に、見えてくる架空の真実のことを差すらしいぞ」


 エニクランドは『マスク』の顔を覆った仮面の留め金を外していく。


「いずれにしろ、その正体を暴けば、この者が何を考え、ここに至ったかはわかるじゃろう」


 パチッ……。


 最後の留め金が外される。


 エニクランドは慎重に『マスク』の頭部を多う仮面を外していく。


 そして現れた黄金のブロンドと、見たことのある青い瞳を見た時、その場にいる全員が固まった。


 特にショックを受けていたのは、エニクランドだ。


「馬鹿な!!」


 カッと瞼を広げて息を飲む。


 他の2人も同様に、仮面の下から露わになった者の姿に目を見張った。


「ら、ライハルト……」


 エニクランドは必死に言葉を吐き出す。


 桟橋の石畳みに這いつくばっていたのは、この国の第3王子――ライハルト・ヴィクトール・ドラガルドであった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ちょっと原稿が行き詰まったので、

明日はお休みさせていただきます。

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