第9話 追憶と決意
帰国してからもふと留学時代のことを思い出した。
それは、学校祭での出来事だ。
これはビジネスコースだけではなく、正規の生徒も混ざる為、
年齢も十八歳位からいる。
僕と比較してもとても若い。
同じ国の出身の生徒でグループになり、
自分の国の出し物をやるというのが伝統だった。
シャンは同じ国の出身者はいなかった為、
日本のグループに合流することになった。
出し物に関してはすんなり決まると僕は思っていたが、
若い生徒が揉めに揉めてしまい中には泣き出す生徒もいた。
社会人の僕がリードしてみんなをまとめないとと、考えていたけれど、
なかなか上手くいかず……。
そんな時、シャンがみんなの中に上手に入り込んでくれた。
彼女は日本の事に本当に興味があった為、
色々な生徒の話を聞いていた。
「お好み焼き? それ美味しそうね! 作りましょうよ! 食べてみたい!
すき焼き? 聞いたことあるわよ! それも食べたい!
けん玉、是非やりましょうよ! あと浴衣着てみたいな!」
シャンはとても日本に興味を示し、
日本を知りたいということをみんなに分かるように伝えることで
全員を一つにまとめていった。
学校祭に来る人はシャンのような気持ちで来るということが理解出来て、
どうすればもっと日本の良さを来場者に伝えることが出来るのかという視点を
皆で得ていった。
最初は『私はこれやりたい』『これは絶対に嫌』という話で
喧嘩ばかりだったものがここまでまとまるとは本当に凄いなと感じたし、
自分には上手く出来ないことをシャンは出来て、とても頼もしく思った。
こういった留学での一つひとつの思い出のかけらが
ふとした瞬間思い出される。
そして、ある日、僕は決心した。
僕は、たった一度の人生、
もう一度シャンに会って自分の気持ちを直接伝えようと決めた。
彼女から聞いていた住所を頼りに彼女の誕生日、
いわゆる僕の誕生日に会いに行こうと考えた。
手紙に書かれていたシャンの気持ちに対して、
男としてきちんと伝えたい。
このまま人生が終わっては後悔しかない。
僕は、日本から彼女の国へ向かった。
到着し、空港から出ると風景を見て少し僕は驚いた。
何故なら、彼女の国はアスファルトの道も少なく
まだインフラが整っているとは言えない状況だった。
水もそのままでは飲める状況ではなく、
やはりミネラルウォーターを購入するか高級ホテルなどで飲むのが無難だった。
住所を頼りに彼女の家に向かっていった。
上り坂を歩き、どんどん上に上がっていく。
気温は日本と比べものにならないくらいの熱さだった。
五十度近くあるのではないだろうか。
ゆっくり、ゆっくりと歩きながら上っていく。
この辺りだろうか。
住所の位置まで来て、大量の汗をタオルで拭いた後、
インターフォンを押す。
しかし誰も出てこない。
もう一度鳴らす。
僕の胸がドクドクしている。
緊張からか口の中が物凄く渇いていた。
出てこない。
ドアをノックするが出てこなかった。
もしかすると出かけているかも知れないと考え、夜まで待ったが、
誰も帰ってくる様子が無かった。
次の日も行くがやはり誰もおらず、
近所の人につたない英語で聞いてみるが通じず、
現地の言葉で話しても誰も彼女が今どこにいるのか知らなかった。
「確かにここのはずなのに……」
僕は帰国まで残り一日となり、明日もまた来ることにした。
そして、最終日、もう一度彼女の家と思われる場所に行くが
やはり会う事が出来ず、飛行機の時間ギリギリまで待ったが駄目だった。
そうして僕は、悔しい気持ちを抱えながら帰国した。
誕生日に彼女はいなかった。
もしかすると、家族とお祝いにでも出かけていたのか、
それとも恋人が出来て誕生日祝いに旅行でも行っていたのか。
それとも彼女の身に何かあったのか。
でも警察が来ている様子も無かったし……。
色々な事を想像してみた。
結局、僕は会えなかった。
僕と、彼女の誕生日を共に祝う事は出来なかった。
そんな時良く昔から言われてきた言葉を思い出した。
『人生そんなに甘く無い、そんなドラマのように物事は上手くいかないよ』
確かにそうだった。
認めたくなかったけれど、これが現実だ。
悔しいけれど。
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