第8話 温もり

日本に帰国してから、

僕は直ぐに部屋に戻った。


半年ぶりの自分の部屋だ。

何だか不思議な感じがした。


自分の部屋なのにホテルに来ているようなそんな感覚だ。


身体は間違いなく日本にいるのに、

心だけはまだシャンの中にいるような不思議な感覚だ。


目の前にいるようで、でも、いない。


二十四時間巻き戻せたら。

またすぐにでも会えるのに。


シャンからは自国の住所とメールを聞いていたから

先ずは無事に帰国したこと、手紙へのメッセージをした。


しかし、返信は無かった。


それから月日が経ち、

僕は日本での日常を少しずつ取り戻していった。

いや、いくしか無かった。


仕事に戻り、僕は無事に課長に昇進することが出来た。


これから新規事業のプロジェクトリーダーとして業務を遂行することになった。


先ずはアジア圏のマーケットを広げることが僕の使命だ。


仕事に集中している時はそれに真っすぐ進むことが出来たが、

自宅にいる時などふとシャンのことを思い出していた。


恐らく、彼女は自国の大学に戻っている頃だろうか。


そんなある日のことシャンからメールが来ていた。


内容はメッセージありがとう、という内容と、

自国に無事帰国して大学で卒業に向けて論文を書いているという内容だった。


また、通信状況が悪く

なかなか連絡が取れなくなると言った内容も書かれていた。


僕は、毎日を忙しくすることでシャンのことを忘れようとしていた。


でも、考えないようにしようとすると、

考えないようにしようとすることを考えるといった矛盾の中で

どうしても、どうしても、先に進むことが出来ない自分がいた。


いや、先に進むというのは何なのか。


諦めることが先に進むことなのか。


それさえ分からなくなっていた。


時間が経過すればするほど、どうすることも出来なく、

そして、会いたくても会いたくても会えない。


触れたくても触れることが出来ない。


温もりを感じることが出来ない。


『会いたい』


その想いが日に日に強くなっていた。

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