第7話 手紙
<手紙>
ノボルへ
手紙をこのように書くのは初めてね。
何だか照れくさいけれど。私の想いを伝えておきたくて。
最初にあなたにあった時、
最先端の日本の通信技術を色々教えてくれてとても、とても勉強になったわ。
私も自国に戻って必ず日本に負けない技術を広めてみせる!
ノボルとは、
一緒に音楽をしたり、キャンプのバレーで泥まみれになったり、
映画館に行ったり出来て本当に本当に嬉しかった。
今まで、私は男性と仲良くなることはあっても
ノボルのように何でも語り合えるような人はいなかったの。
それは、ノボルが社会人だから
私が知らないことをドンドン教えてくれるっていう所が大きかったと思う。
私が、自分の大学に帰ってから次のレベルのクラスに進むのをためらっていると話した時、あなたは言ってくれた。背中を押してくれた。
——完璧に準備が整う事は無いんじゃないかい?
僕から見てシャンは十分に次のレベルのクラスを受講して良いと思うけれど。
僕も昔ね、学生時代、生徒会議長とか、また、お店の店長とかやった時にさ、
それはそれはとても不安だったよ。
不快的領域に足を踏み入れたって思ったよ。
でも、実際に飛び込む事で色々なことをそこで学び克服し、
乗り越えていくことが出来た。
もちろん店長になる前に色々学んだこともあったけれど、
でも学んでいるだけでは永遠に本番は来ない。
それではリハーサルの人生で終わってしまうんだ。
本番を生きよう。
シャンの行動力なら間違いなく出来るよ——
この言葉に本当に救われた。
こんな風に私の人生に真剣に向き合って言ってくれる人は周りにいなかった。
人として尊敬しているのよ。人生の先輩も感じた。
普段こんなことあなたに伝えられなかったから今書いて置かないとね(笑)
また、あなたが言った別の時期に生まれて、別の国で生まれて、別の国で出会って、同じ時に同じ勉強をして、同じ食事をして、同じことを考えて、
同じ音楽を奏でて。それは本当に奇跡だと。
この地球で、いや、この宇宙でこんな奇跡の出会い、
本当に本当に宝物だという言葉、
私も本当にそう思うの。
どれかひとつでも違えば会えなかったもの。
ノボル。生まれてきてくれてありがとう。
そして、こんな私と出会ってくれて、仲良くしてくれてありがとう。
あなたとの出会い絶対に忘れない。
あなたと過ごした一秒一秒を胸に、
同じ空の下これからも前を向いて歩いていく。
本当に、本当にありがとう。
私が心から初めて好きになった、あなたへ。
シャンより。
追伸 褒めて、褒めて! 私、きっと今日は遅刻してない(笑)
僕は、しばらく何も考えることが出来なかった。
そして、
この飛行機はどんどん離れていく。
あの国から、シャンから、日本へ向かって離れていく。
僕の心は僕の心はあそこにあるのに。
身体だけがどんどん離れていく。
まだシャンの温もりと感触が手に残っていた。
今すぐ戻りたくても戻れない。
触れたくても触れることが出来ない。
抱きしめたくても、抱きしめられない。
そう考えているこの瞬間もどんどん離れていく。
つい何十分間前には一緒にいることが出来た。
昨日の今頃は一緒にいた。
一週間前は一緒に夕食を食べに行っていた。
一カ月前は……
走馬灯のようにシャンとの思い出が蘇る。
特別だったけど当たり前だった日常が今自分の手元からゆっくりと剥がれ落ちる。
今すぐ戻りたい。
あの日々に。
あの場所に、シャンのもとに。
僕の半分が消えたこの感触に僕は無力だった。
こんな想いになるくらいなら出会わなければ楽だったのかも知れない。
でも出会わなければもっと悲しかった。
共に奏でた音楽が今も鮮明に聞こえる。
また、あの何事も一生懸命で真っすぐな彼女と共に過ごしたい。
また、何度失敗しても乗り越えていこうとする彼女と一緒にいたい。
また、彼女がいたずらに哲学的な問いを僕にしてくるあの時間をまた過ごしたい。
また、一緒にバレーで泥まみれになりたい。
また、一緒に楽しい会話をしながら食事を楽しみたい。
また、一緒に図書館で勉強をしたい。
また、他愛もない話をしたい。
また、また……
シャン共に過ごした温もりが鮮明に、鮮明に蘇ってくる。
泣きつかれた僕は、そのまま深い眠りについていた。
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