第18話 人間と魔族をどうするかの答えが出てやばい

「それで魔王様。勇者を連れて、魔王城に来るとは、どういうことですか」


 ケバブがまじめに言う。

 魔族たちも、そんなふうに思っているだろう。


「ええと、まあ、いろいろ理由はあるんだ」

「魔王城に勇者が来たということは、我々には選択肢はひとつしかありませんよ」


 ケバブがマジ顔。

 他の魔族もマジ顔。略してマゾマジ。


 また俺は、バタバタと、説明をしながらこの場をなんとかおさめないと。


 と思ったんだけど。


 …………。

 ………・。


 なんか、これ、おかしくない?


 勇者学校と、魔王城と、行き来してて、俺は普段考えないことで頭がパンクしそうなんだけど。

 だけど、なんかおかしい。


 なにかがおかしい。


 なにがおかしい?


 えっと……。


 俺は、ちゃんと、いま考えるべきことを考えてるのかな?


 ええと……。

 なんていうか……。


「魔王様」

「ちょっと待ってだまって」


 俺、気づいた。

 いや、気づきかけた。

 これは完全に気づきかけてるね。

 気づきかけた感じからいったら最高のレベルだよ。

 最高に気づきかけてる。


 完全に、なにか、大事なことに気づきかけてますよ俺。


「魔王様」

「ちょっと待った」

「待ったではありません。我々は」

「ちょっと待った!」


 しー!

 というポーズをして、待ってもらう。


 この状況ってなんだ?


 えーっと。


「……魔王様、我々は」

「待った!」

「待てません」

「待てって!」

「待てません!」

「うるさい待て!」

「待てませんよ!」

「あ」


 わかった!

 わかったぞ!

 違和感の鎌足。

 いや、かたまりが!


「わかった!」

「……魔王様?」

「俺の仮説が正しいとしたら、もう、俺たちの問題は解決してるぞ! 全部」


 え?

 という顔、顔、顔。

 でも誰ひとりとして、俺の話を聞いてみよう、という顔のやつはいなかった。


「まず、お前ら魔族って、話聞いてるとけっこう平和だよな」

「平和ですか?」

「見た目とかは知らないけどさ。だって、人間に攻めていく気がないんだろ? へたに攻めたら勇者を覚醒させてめんどうだ、とか言ってたし」

「それはそうですが」

「最後に攻めたのはいつだよ」

「十年以上前ですね」


 ほーらきたきた。


 なんか、キュール翁? がやばい目にあってたときは、魔族もいろいろごちゃごちゃしてたっぽいけど。

 いいじゃんいいじゃん!



「攻めない理由は?」

「ひとつは勇者を刺激したくないこと。もうひとつは、攻めるまでもなく、人間は魔王城近辺、いえ、かなり離れた区域にも近づけないことです」


「世界に大陸は4つあり、そのうち二つは人間が、ひとつは魔族と魔物と動物、そしてこの魔王城がある大陸です。人間は、魔族のいる大陸に上陸するのも困難ですし、我々のいる大陸は、上陸以前に、海流によって近づくことすらできないでしょう。原始的な移動方法の人間には、それが限界です」



「ほらー。魔族、大して戦ってないじゃーん。平和じゃ~ん」

「そう言われると攻めたくなりますが」

「いや攻めんなよ」


「お前らが俺を見つけたかったのってさ。俺を使って人間を攻めるわけじゃなくて、俺を確保したいだけだろ。人間の戦争をバカにするくらい、魔族内の戦いもないんだろ? だったら、めちゃくちゃ平和じゃん」

「たしかに、人間と比較すれば、平和的かもしれません」


「じゃあ、もう解決じゃん」

「なにがですか?」

「だからさ」


「魔族は戦わない。人間も、魔族に危害を加えられないなら、戦わない。ほら。どっちも、戦う理由がなくなった」



 ケバブが、ん? と考える。

 リンセスも、んん? と考える。

 魔族たちも、んんん? と考える。

 俺も、んんんん? と言ったことを確認する。


 うん、だいじょうぶそう。


「ですが」

「ですがですがって、お前はですがマンか!」

「ですがマン?」

「それは忘れろ」

「ですが」


 また言いやがった。

 本当にですがマンって呼ぶぞ。


「勇者は、魔王を倒すために存在します。世界に勇者が生まれる以上、戦いはさけられません」

「その勇者が俺と戦う気がないとしたらどうだよ」

「は?」

「リンセスは、俺と戦う気なんかない。な?」

「うん」

「え……」


 ケバブがなんか、ひいてる。

 勇者なのに、って小声で言ってる。


「俺とリンセスは、まあ、なんつうの? 恋人同士っていうの? 言わすなよ恥ずかしいな!」

「人の心はうつろいゆくもの。愛が憎しみに変わり、お金をめぐって骨肉の争い。それが人間です」

「お前は人間のなにを知ってるんだよ」


 ここで、決着をつける。


 魔王と勇者の、これまでとはちがう決着のつけ方だ。


「リンセスには、勇者が誰になるかどうか決まったら、俺の告白の返事をもらうことになっている。ということは、もういまは、返事をする段階だ。リンセス」


 俺はリンセスを見る。


 リンセスはだまって俺を見ている。


「ほぼ、オーケーはもらったようなものだったけど、でもそれは、俺が人間だと思ってたときの話。いまはわからない。それに、俺は恋人になってほしいという申し出だけで、それ以上のことは言っていない。でも、それ以上のことを、言うタイミングだろう、と俺は思う。人間と魔族についての決着にもなることだから」


「リンセス。世界の平和のために、結婚してください」

 俺はひざをついて、リンセスに片手を差しだした。


「魔王様。その言い方は、了解せざるをえないというか、卑怯なやり口のような」

「うるさい! どんな手を使っても、俺はリンセスがほしいんだ!」

「魔王様。株が下がっていきますよ。どこまでも……」

「なにも言うな!」


 あらためてリンセスを見る。


「これが世界の命運を決める大切な選択になる、なんて一切考えなくていいから、俺と結婚をしてください」


「はい」

「俺と結婚しなくても、他の平和の道はあると思う。だから無理に悩まなくてもいい」

「はい、結婚します」

「リンセスは自分の思うように選んでくれ。結婚したくなくても、共同経営者っていうか、いやなにも経営してないけど、平和をつくっていこう」

「うん。一生一緒にいましょう」

「平和のために、俺は力を尽くす。それはある意味で俺が目指していた勇者になる、という目標も果たせることだと思う。魔王というのは受け入れつつ、勇者としての側面を出していきたい」

「はい」

「最悪、離婚してくれてもいい。それが結婚という制度だ。だからといって、離婚をしてほしいわけではないんだ俺は」


 俺が話してると、なんだかリンセスが微笑み、笑っている。

 なんだ?


「魔王様!」

 ケバブが叫ぶ。


「なんだよさっきから、いま大事なときだろ。入ってくるな!」

「いえ、それはわかるのですが」

「なんだよ!」

「その勇者が、何度も返事をしていますが」

「は?」

「結婚すると」

「は!?」


 リンセスを見る。


 リンセスはうなずいた。


 そして俺の手を取る。


「え、いいの?」

「はい」

「俺だよ? 魔王だよ?」

「はい」

「マジで?」

「離婚してもいいんでしょう?」

「よくはないけど」

「私、思ったの」


「勇者って、魔王を倒すっていうことしか考えて来なかったから。でも、平和になってからのことこそ、考えるべきだったんだよね。それをベジルが考えてくれたんでしょう? だったら」

「だったら?」

「断る理由なんて、ないと思うの」


「おたがいのこと、まだ知らないことが多いけど、どうにかしていけたらいいな、って思ってます」

 俺は、リンセスの手にふれていてもビリビリしなくなったことに気づいた。



 ということで。

 結婚、ということをよくわかっていないであろう魔族に見られながら、よりによって魔王城の王座の前で、誓った。

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