第11話 魔王城に連れていかれてやばい

 翌日。


「魔王様、お迎えにあがりました」


 といきなり部屋に現れたケバブ。


 一方の俺。

 ちょっとひまだったので、ついつい全裸ダンスを踊っていた俺。


 そういうことってあるじゃん?

 冷静になればそんなことしないけど、なんかこう、体のチェックとかしてるときにさ。

 気づいたら変な踊りをおどってた、みたいな。

 あるじゃん?

 あるよね?

 いやある決定。


 と力強く宣言してみたものの、誰かに見られたらさすがに止まるじゃん。


 ケバブが俺を見ている。

 俺もケバブを見ている。

 

 見つめ合う二人。


 そっと服を着る俺。


「なにかの儀式のおじゃまをしてしまったようで……」


「急に来るな!」

 半泣きの俺。


「人間にはノックという制度があるんだ!」

「ノック、ですか」

「そうだ!」


「部屋に入る前にドアを軽く、コンコン……、とたたいて、ドアを開けてもいいですか? とおうかがいを立てるんだよ!」

「なるほど」

「特に、目上の人間が相手なら、必須だ!」

「! なるほど!」


「それがなんだお前は!」

「もうしわけない!」

 ケバブはひざをついた。


「いきなり突入して、他人の恥ずかしいところを見て喜ぶのはよくないぞ!」

「先ほどの、舞い、のことでしょうか。あれはすばらしいものでした。まるで、魔王様の心深くより湧き出たる無限の衝動に形をつけたかのような……」

「やめて!」


 もうやめて!

 あたしのことをいたぶるのは!


「お前、いま見たこと、絶対他で言うなよ!」

「絶対に、ですか?」

「絶対だぞ! 絶対言うなよ! 絶対に他で言うなよ!」

「……なるほど」

 なぜかにやりと笑うケバブ。


「絶対、ですね? わかっています。昨日、あれから人間のことを、すこしだけですが学んできました」

 念を押すケバブ。


 なんだ……?


 こいつ、なんか変なお約束を学んできてないよな?

 だいじょうぶだよな?


 絶対にやるな、は絶対にやるな、だからな?


「で?」

「で、とは」

「なにしに来たんだよ、お前!」

「はっ。魔王様を、魔王城へとご案内いたします」

「魔王城に?」

「はい」

「行かないけど」


「は?」

「は?」


 は?


 ケバブぽかーん。

 俺もぽかーん。


「ですから、魔王城へご案内いたします」

 何事もなかったようにやり直すケバブ。


「俺、これから勇者学校の授業があるから無理」

「ご冗談を」

「冗談じゃねえんだよ。あと俺、別に魔王になりたくないし」

「ご冗談を」

「冗談じゃねえんだって」

「昨日はあれほど、魔王になれるとおっしゃっていたではありませんか」

「あれは言葉の勢い、プラス気の迷い、イコール気のせいだ」

「そんな……」


 ケバブは両手を床についた。


「そんな……。魔王様のいない魔王城など、家主のいない家のようなものではないですか!」

「たとえるのがへただな!」


「だいたい、俺は自分で言うのもなんだけど、勇者候補のトップ、みたいなもんだぞ? それが急に、なんの理由もなく授業を休んだら目立つんだよ」

「ではそれをきっかけに魔王城へ」

「うるせえ! 俺は授業に行く!」


「では、こういうのはいかがでしょうか」


 ケバブはなんかモニョモニョ唱えた。

 ぽんっ!


「誰!」


 急に誰か増えた。

 と思ったら俺だった。


「俺だ」


 俺そっくりの人がいた。


『わたしは、魔王です』


 しゃべった。

 ぎこちないけど、俺の声だ。


「授業など、これを代わりに行かせればよろしいでしょう」

「え、すげー。でも見た目だけじゃ意味ないぞ?」

『そんなことないって』

「いきなりなれなれしいな」

『まあな』

「でも動きが悪いとバレるぞ」

『こんな感じだ』


 ニセ俺が動く。

 フットワークも軽いし、パンチ、キックもそれなりに重そうだ。


「魔王様の力には及びませんが、それなりの性能は持っています」

「おお。結構同じじゃん。すげえ」

「すごいですか? いやあ」


 ケバブが照れている。


「でも魔王って言うなよ。俺、ベジルだから」

『ベジル? はいはいわかった』

 なれなれしいんだよなコイツ。


「いかがです?」

「すごいけど、俺が行かないと意味ないからさ」


 ケバブは不思議そうにする。

「すでに、魔王様はこの学校の一番なのでは?」

「それでももっと強くならないと」

「ああ、すばらしいですねえ。すばらしい向上心です。魔王城に来ていただけたらもっとすばらしい!」

「うるせえ!」


「魔王様に来ていただかなければ、始まらないのです!」

「俺は勇者になるんだよ。魔王は関係ねえから」

「昨日は魔王になると!」

「うるさい! 知らない!」

「……」


 ケバブは、なんかモニョモニョ唱える。


 すると俺の上着が勝手にするする落ちて、胸の魔王紋があらわになった。


「魔王様。これを授業中にやってもいいんですよ?」

 ケバブがニッコリ。


「おい魔王を脅迫してんじゃねえよ!」


「魔王様。授業など、その人形に覚えさせれば、あとからどうとでもなります。それよりもいま、魔王城に来ていただきたい!」

「いやだ。俺は勇者になる」

「魔王様に来ていただかなければ、この学校を、これから魔族を呼んで攻撃し、皆殺しにするかもしれませんよ?」

 ケバブがニッコリ。


「本格的な脅迫やめろ!」

「いえ、たとえば、ということです。それにですね。人間をいたずらに傷つけると、勇者が覚醒してややこしいことになるかもしれませんし、魔族にとっても不利益です」

「じゃあやめろ」

「わたしも不本意位です。不本意ですが……? 皆殺しに? するかも? しれませんよ?」

「うっとうしいな! 敬意ゼロじゃねえか!」


「どうされますか? ではいったん、今日だけ、魔王城に行きますか? それとも一緒に行きますか?」

 一択じゃねえか。


「わかった、行けばいいんだろ? 行けば!」

「はい!」


 ケバブが描いた丸い印が降りてきて、俺たちはどこかへ飛ぶ。




「うわ……」


 俺の十倍以上の高さのでかい椅子が目の前に。


 振り返って、うしろを見たら、すっごい広いホールに、ずらーーーーーーー、っと魔物だか、魔族だかがならんでいた。


 死んだ。


 確定。


 そういう感じ。


「魔王様をお連れした」


 ケバブが、どっしりと、低い声で言った。


「……その人間が、ですかな?」

 なんかじいさんぽいやつが言った。

 じいさんなんだけどめっちゃくちゃ筋肉すごいからよくわかんない。

 こういうのってだいたい強キャラだよね。


「そうだ」

「証明できるものは、おありですかな?」


「魔王様」


 ケバブは、バリッ、と俺の上着を引き裂いた。


 おおおおお、と声。


 いや破くなよもったいない。

 さっきみたいに下ろせばいいだろうが。


「たしかに、魔王様の紋のようですな」

「キュール翁、これで納得していただけたかな」

 キュール翁。


 翁、って書いて、おう、って呼ばれてるじいさん、めっちゃ強そうじゃない?


「しかし残念ですな。人間でなければよかったのですがな」

 そう言うと、翁はなんか、腕を動かし始めた。


 ムキムキだと思ってた腕がさらに太くなる。


「どういうことだ、翁」

「勇者と同様、魔王も、死ねば新たな対象に転生するそうですな? 一度死んでいただいて、ふさわしい魔族に生まれ変わってほしいと思いましてな」


 ざわっ。

 となるかと思ったらそうでもない。


 えっと、これってわりと総意?

 みなさんの意見ですか?


「……翁、冗談ではすまされないぞ」

「ほっほっほ。わしに殺されるようでは、魔王を名乗る資格などありませんな? ケバブ殿」

「彼はまだ、魔王に目覚めたばかりで」

「それではいけませんな。おそらく、あの王座についたところで、魔王たる姿を見せることはできないでしょう」


 なんかそれっぽい話をしてるけど。

 完全に興味ない。


「魔王様」

 ケバブがこっち見た。


「帰っていい?」

「魔王様! 王座へ! さすれば証明となりましょう!」


 なんかテンション上がってるケバブが言った。


「俺が学校に帰ればよくね?」

「王座へ!」

「……はあ」


 座ればいいんすか?


 めちゃくちゃでかい椅子に近づいていく。


 いや、でか。


 椅子じゃねえよ。

 家だよ。

 座面が俺の頭の上なんだよ。

 下、住めるよ。


 こんなのに似合うわけがないじゃん。


 ケバブを見たら、乗れ、という顔をしてたので、しょうがなく飛び乗ってみた。


「うお!!」


 座ったとたん、椅子がギュニョンギュニョン、って動き始めた。

 生き物みたいにギュニョンギュニョン。

 ギュニョンギュニョン。

 ギュニョン。

 ニョン。


『おおおおお!!』 


 魔族たちの叫び、プラス俺の叫び。


 マジかよ。


 あの巨大だった椅子が、俺にジャストサイズになった。


 マジかよ。


 と同時に、なんか俺の体が。

 魔王紋が黒く光る。

 闇が光ってる。


 いや、意味がわからないと言われても困る。

 俺もよくわからない。

 でも闇が光ってる。


 そして力がみなぎる。

 ここにいるかぎり、誰にも負けない自信。


「魔王城は、あなたを魔王と認めたようですな。数々のご無礼、お許しを」


 そう言って翁さんがひざまずいた。


 すると他の魔族も続々とひざまずいていた。

 ひざがなさそうな魔族も、すっ、と姿勢を低くしていた。


「魔王様。ようこそ、魔王城へ!」


 ケバブがキメ顔で言った。


 いや知らんがな。

 帰るぞ俺は。


「では歓迎会を始めます!」

『うおおおー!』


 いや知らんがな。

 帰るぞ俺は。


「では手始めに、魔王様の舞を、まずはわたくしがお見せし、それから魔王様に」


 ケバブが服を脱ぎ始める。


「やめろって言っただろうが!」


 変なお約束覚えるひまがあったら、魔王なしでやっていける方法でも考えろ!

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