第4話 そのドキドキは恋じゃなくて魔王を察知してるだけでやばい
俺は学校の屋上に来ていた。
学校の敷地はめっちゃ広いけど、それが全部高い塀に囲まれてる。
それが見える。
村、くらいはある。
町くらいある?
ってくらい広い。
なんでそんな感じかっていえば、勇者学校の目的は、そこで勇者っぽいやつらを育成すること。
でも勇者が誰かっていうのは、わからないものらしい。
いわゆる、勇者の降臨っていうの?
だから、世界の誰かが勇者になる可能性があるんだけど。
こうして鍛えることで、次の勇者に、運命に選ばれる可能性を上げちゃおう、みたいな。
俺らは、勇者になる確率を上げるために、ここにいるわけ。
だからぶっちゃけ、ここにいる人が選ばれない可能性もあるんだよね。
でもまあ、先代の勇者も、先々代の勇者もここ出身らしいから、その計画はうまくいってるっぽいと。
次もそうだろうと。
そういうわけで、ここにいる勇者候補生は大事だから、外から変なやつが入ってこないように、たっかい塀があるし、魔法の壁みたいなののもあるしで、安全なわけ。
で。
今回も勇者がちゃーんと、この中に誕生!
リンセスちゃん!
計画成功!
イエス!
みたいな感じ。
めでたしめでたし。
とはなんないんだな!
俺が!!
いやいやいやいや。
百歩ゆずってだよ。
千の風になってだよ(死んだ)。
なんで俺が魔王?
なんでいま覚醒?
せめてさあ。
勇者学校に入る前とかさ。
あるじゃん? タイミング。
こんな敵だらけの中で覚醒しなくてもいいじゃん!
いずれ、リンセスが完全に勇者になったら、魔王の位置とかわかるってうわさあるよ!
俺、バレるじゃん!
おたがいさまらしいから、俺も勇者の位置がわかるみたいだけどそれは意味ないし!
知ってるし!
ぶち殺されるじゃん!?
「うおおおお!!」
なんで、勇者学校の人が勇者に選ばれるのに、魔王城の近くの人が魔王にならないんだよー!
せっかく先代の勇者に勝ったのになんで魔王なんだよー!
って叫びたいけど叫んだらいますぐ先生が来そうだよー!
殺されるよー!
やーい、やーい、勇者の中に魔王がひっとりー!
なんだと! ぶっとばすぞ!!
終わったー!
「いや」
と言いつつさ。
一個、気づいてるわけよ。
魔王視点で考えるとだよ。
だってさ。
俺、まだ魔王って気づかれてないわけじゃん?
ここ、勇者候補生が、うじゃうじゃいるわけじゃん?
全員殺して、リンセスも殺せば、俺の勝ち確定じゃん?
史上最速勝利の魔王じゃん?
……ってそんなことできるかーい!
そんなことしなきゃならないなら、そっちの方がきついわ!
まともな倫理観の人が大量殺人鬼になれって言われてるわけだぜ?
最悪じゃー!
くそったれがー!
……とりあえずだ。
来月になったら、二週間、休みをとってもいい期間に入る。
ふつうは休まないし、俺もそういうの全然休んで来なかったけど、今回は別だ。
とりあえず、旅行に行く。
という表面上の計画。
どこか遠くへ行こう。
二度と帰ってこないぞ。
どうせ、リンセスと恋人になれることはなさそうだという結論はすでに出ている。
それ以上に、勇者と魔王という最悪の結果が出ている!
もうだめだ!
俺はだめだ!
絶望!
絶が望してノーフューチャー!
「さっきから、なにをしてるの」
「はっ」
屋上に立っていたのはリンセスだった。
「ひとりで叫んだり、もだえたり、うつむいたり、暴れたり。だいじょうぶ?」
この、だいじょうぶ? は俺を心配しているものではなく、雑にバカにしているということは知っている。
けれどもしかし、それすらうれしいということが、恋は盲目ということです、まる。
「だだだだだだだっだだっだだいじょうぶ」
「そう」
リンセスはいつものように鋭い視線で言ってから、ちょっと表情がやわらかくなった。
「あのね」
「え?」
「ちょっと、いい?」
「はあ」
なんだ?
俺、なにかしたか?
変なタイミングの告白以外は、問題ないはず。
その件も、うやむやになったはず(希望)。
それとも聖剣のとき、俺が聖剣にあんまりさわりたがらなかったことを、不審に思われた?
すでに勇者リンセスの大敵として俺、ターゲッティング?
死すべし?
死すべし?
ってそんなことはないよねー。
「聖剣のときのことだけど」
うおおおおおお!
ぎゃあああああ!
死ぬううううう!
「な、なななななにかな」
「ベジル、あのとき、聖剣にあんまりさわりたがらなかったけど、あれって」
「え、ええ、えええええ」
どうするどうする?
リンセスだからって、殺されてもいいとは思えないぞ全然!
まだ生きる!
魔王、についてよく知らない平和な村で、こっそり生きる!
勇者に探知できない遠いところに行く!
そこで、いなかで暮らしているけれども実は美少女、みたいな女の子との出会いを期待して、生きる!
そこでこんな生活をするのだ……!
☆☆☆
勇者学校で鍛えていたことを活かし、山間部からやってくる魔物をバッタバッタと倒す俺。
まあすごい、どうしてそんなにお強いの?
実は、元冒険者でしてね……。
私、たくましい人が、好きなんです……(ぴとっ)。
お嬢さん、いけませんよ。
好き……!
おっとお嬢さん……。
好きなの! 初めて会った、あのときから!
しょうがないお嬢さんだ(ぐっ)。
あ……!
ふふ……、もう俺のものだよ。
はい……!
☆☆☆
これだ!
これみたいなことを期待して生きる!
活力がわいてきた!
世界の平和は乱さない!
だから見逃してくれ!
「私、なんだか、聖剣をさわったときから、あなたのことを考えると、ドキドキするの」
「え?」
リンセスは胸に手をあてていた。
「どうしてだと思う……?」
リンセス。
ほのかに顔が赤い。
そして額に勇者の紋がうっすら浮かんでいる。
「えっと……」
たぶんですけど、勇者として覚醒しつつあるので、魔王に対しての敵意というか。
宿敵に対する興奮かな、と思います。
「こんな気持ち、初めてなの」
でしょうね。
「ベジル。あなたがこの前、私に言ってくれたよね」
「……」
「その気持ちって、こういうことなのかな?」
「……」
たぶんですけど、ちがいますね。
勇者として、魔王を殺りたい気持ちのドキドキですね。
私の見解では。
はい。
「本当はね。私も……。ベジルのことを、素敵だとは思ってたよ」
「ええ!?」
素数じゃなくて?
素敵?
言ってよ!
「でもそれは、すごい成績の人だから、っていう気持ちだけだと思ってた」
「……」
たぶんそれで合ってるよ!
きっと!
「私は、勇者になるのが一番の目標だから。ベジルもそうでしょ?」
「それは、まあ、はい」
「だから、恋愛とか、そういうことは全部無視してきたんだけど……。昨日からは、ちがうみたいなの。止まらないの」
「……」
「私、あなたのことを、特別だと思ってる」
リンセスが強めに言った瞬間、めっちゃ勇者の紋がはっきり出た。
あー!
これ確定ですねー!
勇者リンセスですねー。
当確出ましたねー、はい。
紋がいったん弱まった。
不安定ですけど当確ですはい。
「でも、私も、誰が勇者なのか決まるまでは、努力をしたい」
「そう、だろうね」
もう決定してますよ。
「だから。だから、勇者が決まるそのときまで、ちゃんとした返事はしなくてもいいかな」
「え?」
「この胸のドキドキの決着は、そのときでいい?」
リンセスが上目づかいに俺を見た。
あー!
ふだんの強気が皆無!
100パーセント女の子!
ただただ女の子!
あー!
ギャップの鬼!
マイナスからプラスに振りまわされた俺に抵抗などできませーん!
ドキドキの決着は、そのときでいい? っていう言葉は冷静に考えたらちょっとダサいかもしれないけど、いま俺は冷静でないので最高でーす!
「あ、もちろん」
「ほんとう?」
「勇者候補生のリンセスだけじゃなくて、人間としてのリンセスのことも、尊重したいし」
「……! うれしい……!」
あー!
美女の微笑みー!
審査員、得点は?
10点10点10点10点10点10点10点10点……………………。
出たー!
100億万点だー!!
「好きだ!」
俺がまた暴発したら、リンセスは一回驚いたように目を開き、それから微笑んだ。
「もう」
もう、入りましたー!
恥じらいの、もう、入りましたー!
期待をうらぎらないかわいさどころか、上回ってきましたー!
ほぼ告白の返事ですー!
オッケーですよー!
ほぼ!
ほぼほぼ!
ほぼほぼほぼほぼ!
審査員の点は臨界点突破でーす!
「じゃあね」
リンセスは、トタタ、と屋上を小走りで去っていった。
トタタ……!
いつもはスタタ……!
すばやく油断がない……!
だがいま……!
軽やかさ……!
それだけ……!
死ぬ……!
かわいさで……!
本望……!!
でも勇者……!
殺される……!
やっぱり死にたくはない……!!
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