第三章 海(わだつみ) 壱

「今日も綺麗なお月さんね」


 わたしは空に大きく光る満月を見て漏らした。


 ーーーー今日の実験は成功ね。これなら問題ないわ。


 わたしは背中の大きな羽根を羽ばたかせ、目的地へ飛ぶ。


 ーーーーまぁ、今のところただの帰り道だけど



 わたしは確かにこの背中の羽根のおかげで昔、天使と呼ばれたことはあった。

 だけど、この羽根は天使の羽根と呼ぶにはあまりにも無骨過ぎるわ。


 ふと、地上を見下ろす。

 火柱が満月と同様弧を描き、闇を照らしている。

 ----今宵もこれが見られるのね。


 わたしはフフッと笑った。

 そのまま火柱の近くにある高い建物の屋根に降りた。




 踊る踊る。男は踊る。

 その炎を纏った刃を持って。


 踊る踊る。男は踊る。

 そして、その手に持った刃で魔を狩る。


 踊る踊る。男は踊る。

 知らない故の純粋さをその瞳に宿して。


 フフフッ。情熱的で美しいショーなのかしら。



 ----あの男は知らない。

 その刃が自分を裏切ることを・・・。



『・・・裏切り者はだあれ?』



 ーーーーずっと前から潜んでいる存在⦅ヤツ⦆がそうなの。

 後、アイツも裏切るわよ。


『アイツって?』


 ーーーー友達だと思っていたアイツ。






 ーーーーーーーーーーーーーーーー





『・・・昨晩、名台市鈴城町(めいだいしすずしろちょう)で火災が発生。

 借用倉庫が3棟全焼。

 なお、火災発生時、無人だったため、死傷者はいないとのことです』



 ーーーーブッ!!?ケホケホ!!!!



 朝ご飯食べた後、BGM代わりに流していたリードニュースの内容に思わずむせた。


 ーーーー鈴城町って近所じゃん!!!




 人は思わぬことを耳にした瞬間、自身の探究心を満たす行動を起こしてしまうかもしれない。

(要約 自分の部屋に駆け込んで大型端末にスイッチを入れた)


 意気揚々と昨日の事件について調べる。

 真人(シント)に聞かれたらたまたまニュースを知って近所だから気になったと言えば解決!

 ・・・・・・と思いたい。


 案の定、引っ掛かった。

 こないだ見つけたのら犬掲示板である。


 ーーーーさて、ここの書き込みが楽しみである。



『グロウプラントの連中、何やったんだ?お犬様がブチ切れていたぞ』


 ーーーー早速だ!!!見つけちゃった。


 わたしはその書き込みの続きを追う。


『あの雰囲気、ヤバいどころじゃないぞ』


『そうそう。珍しくお犬様の声が聞こえたぞ。地獄に堕ちるか地獄を見るか選ばせてやるって言ってた』


『変わんねぇぞ』


『むしろ違いを教えてくれ』


『どう違うかわからないが怒っていたのは間違いない』



 ーーーーどうやら話をまとめるとグロウプラントって言う新興宗教団体が何かをやらかしたらしい。


『アイツら、去年の冬にお犬様の親戚の女性に手を出して締められたばっかりじゃ?』


 ーーーー親戚の女性??誰だろ?



『だよな』



『アイツら、もしかして・・・』


『あっ(御察)』


『あっ(御察)』


『あっ(御察)』


『あっ(御察)』



『残党見つけたらお犬様に報告だな』



『手を出しちゃいけない人に手を出した。その罪は重いぞ。』



 ーーーー前も思ったんだけど、この人たち、何者なんだろう?

 えーと多分シントに見つかってない能力者って言うやつかな(多分気付いているけど知らない振りしてたりして)


 わたしは大型端末の画面をこのままにしておこうかと思ったが念のため、お気に入りのブランドの新作紹介のページを開く命令をして部屋を離れた。


 そして、思う所があったので片付けが終わった後、もう一度大型端末の画面を見た。

 わたしは魅入ってしまったのだ。



 ーーーー今年の新作の水着!!!!

 かわいい!!欲しい!!

 なんというか有り得ない組み合わせっていうのがいい!!

 今一番欲しいものと言われたら、これ一択である。


 •••欲しかったら言えばいい。


 いつぞやの真人に言われた言葉がフラッシュバックする。

 心がクラッと傾く。




 ーーーーちょっと待ったぁぁ!!



 昨日の夜のこと、わたしは忘れたのか!?

 いや、今思い出した。あの後、何もなかったから・・・


 わたしは机の上に置いてあるデバイスの画面を覗いた。


 ーーーー画面にはこう表示されていた。


『ーーーー音声データのダウンロードが完了しました』



 しばらくわたしの絶叫が響き渡った。



 ーーーー昼間でよかった。いや、まっ昼間からなんつーことをしていると言いたい。



 まさかわたしが落としたフクロウのお人形さんを使ってこんなエグい!いやひどいと言っても・・・

 まだその上の言葉があるならそれを使いたいくらいの悪戯をするなんて。

 ただ、フクロウの人形の事は相談なしでやったことだから、それについては反省である。



 ーーーーだけど今のは音速で記憶を消したい。わたしは何も聞いてない!!


 さて、この状況で、もしコレが欲しいとか言ったら、どうなることやら・・・


 背筋に寒気が走る。



 ーーーー絶対言わないぞ!言わないぞ!言うものか!


 心の中で強く決心した。




 時間が過ぎ、夜になった。

 夜になったら誰もがおそらくすること。

 それは自身の寝床に入り、眠りにつく事である。


 もちろんわたしも例外なく眠りについた。




 暗闇の中、わたしはゆらゆらと揺れていた。

 ーーーー夢なんだろうな、多分。


 暗闇と言えどもある程度のものを認識できる明るさはある。

 わたしはボヤけた頭で自分の手を見てみた。

 ーーーー肉球?これは何かの動物の前足だ。

 前に変えさせられたウサギと違い、毛が多い。指の間からも毛がたっぷり生えている。そして爪は自分で出し入れ可能。

 さりげなく自分の顔とその周りも触ってみる。

 ーーーーおおっ!!毛むくじゃら!!そしてウサギより耳は小さい。

 何の生き物だ?ちなみに尻尾は長くてフサフサしている。


「にゃーん。にゃにゃーん?」


 ーーーーしゃべれない!!?


 うーん、ここはどこ?と言おうとしたが、

 すべてにゃーんになってしまった。

 えーと、にゃーんってことは猫?


【・・・静かにしろ】


 頭の中で声が響いた。


【大人しくすれば何もしない。そのままじっとしてろ】


 そしてその言葉が頭に響くとわたしはとりあえず大人しくした。


 ーーーー騒いだところで事態は悪化するだけ。ここは指示に従った方がいいかな。



 しばらくぶらーんぶらーんとした状態だったが、おそらく目的地に着いたのかわたしは降ろされた。


 座布団なんのかクッションなのかよくわからない何かよくわからないものの上に座らされた。

 わたしを連れてきた存在と言えばいいのだろうか?わたしの前に黒くて大きな犬がいた。

 狼にしては目付きが優しいので多分犬だ。

 ーーーーそれで判断する方も変だけど。


 その犬はしばらくわたしの顔を覗き込んだ。

 そして自分のお腹をみせてゴロゴロしだした。


 ・・・・・えーとどうすればいいの?これ?



【いいからそこで大人しくしてるんだ。オレがこうしたいからこうしているだけだ。悪いか?】


 頭の中で声が響いた。

 ーーーーもしかして、この犬・・・!?



「オメェ、見た事ないヤツだな?猫神様の親戚か?」



 黒くてめちゃくちゃ目付きが悪い犬科の生き物はわたしの後ろに現れた。


「にゃーん?」


 わたしはその姿のまま後ろを向く。


 ーーーーうん、でかい。



「何用だ!?」


 さっきまでお腹を出してゴロゴロしていた犬は身体を起こし、狼さんを睨みつけた。


【オレの身体の下に隠れろ!!】


 わたしは走って黒い犬のところに駆け寄り、とりあえず隠れそうなところに飛び込む。


「単に通りかかっただけだが?」


「・・・いいか。こいつに手を出してみろ」


 単に興味本位で近くに来たオオカミさんに対し、犬の方は明らかに敵意を示していた。

 多分離れてもわかるくらい怒りのオーラみたいなのが出ている。


「わかった。そいつに手は出さねえよ。お楽しみを邪魔してすみませんでしたねぇ、ご主人サマ」


 そして、オオカミさんはそのまま去っていった。

 案の定、オオカミさんの言う通りわたしを連れて来たあの犬の正体は真人(シント)であった。


「にゃー」


 わたしはねぇーって言う感じで声をかけてみる。だが口から出るのは当然にゃーになる。


【しばらくしたら戻してやる。オレは少し寝る。敢えて意思疎通はできなくしている。騒いだり、この辺りを探検とかせずにオレの近くにいれば大丈夫だ】


 ーーーーワザとなの!?


 そして、そのまま丸くなって(犬の姿だし)寝始めた。


 ーーーー夢の中でも寝るんかい!


 とツッコミたいが何を言ってもにゃーなので、とりあえずにゃーと鳴いてみる。


 ・・・夢の中なのにこの男、ぐーぐーと寝てる。


 わたしは困ったので大きい犬(真人)の胸の辺りの毛がふわふわしているところに潜り込み、そのまま寝た。いうより居心地がいいのでそのままそこにいることにした。


 ーーーー状況がおかしいことくらいわかるが、この場合郷に入ったら郷に従えである。




「・・・うっ・・・くっ・・・」


 息苦しそうな声が聞こえる。


 わたしは今いた空間を抜け出し、真人の顔を覗き込んだ。

 なんか苦しそうにしている。

 ーーーー息がすごく荒い。


「・・・ニャニャー。ニャニャーン」


 話し掛けるがやはりにゃーんになる。起こしてみようと思い、犬の顔の頬に手を当て爪を立てる。

 うなされてばかりで起きない。

 ーーーーこれは困ったぞ。


「ニャー・・・ニャー・・・ニャァー」


 爪を立てたまま、頬の辺りを何回か叩いてみるが真人は起きない。

 結構痛いと思うけどそれでも起きない。


「ニャー・・・」


 わたしは悲痛の声を上げながら頬の辺りを何回も叩いた。



 ーーーーどうしたの!?ねえ!起きてよ!!!もしかして、このまま死んじゃうの!!?

 誰か!!誰か助けて!!

 真人を起こして!!!!


 黒い影がすごい速さで現れた。

 ----オオカミさんだ!


 オオカミさんは真人の後頭部に噛み付いた。



「起きろ!!馬鹿野郎!ちっこいのが心配してるだろう!?」


「あ?」


 真人は目を開けるとゆっくり起き上がった。


「ニャー!!ニャー!!」


 わたしは真人に駆け寄ると前足(犬の姿なので)に頬を擦り寄せた。


「ニャー!ニャニャー!!!」


「よかったな、ちっこいの」


「ニャニャッ!」


 わたしはうんうん言いながら応えた。


「何を言ってるのか、わかるのか?」


 真人はオオカミさんに言った。


「あ?わからんに決まってるだろう?」


 オオカミさんはいつも通り返した。


「でも、見てみろよ。そいつ嬉しそうにしてるだろ?」


「ニャーニャーン!!」


 わたしは言葉が通じない以上頑張って感情表現に勤しんでいる。

 オオカミさん、多分そこについてつっこむ気はないのだろう。

 ただ、優しい瞳で観ていた。


「そろそろ、こいつを元の場所に戻すわ」


 真人はわたしの首根っこを咥えて持ち上げた。


「おいおい、そいつはないんじゃねぇのか?ご主人サマ?」


 オオカミさんはある提案をした。




「ニャーニャー!ニャー!!」


 わたしは座った位置から見える眺めにテンションが上がった。

 わたしは犬(真人)の頭の後ろ辺りに座らされた。



「よかったな、小さいの。いいところに乗せてもらえて」



「ニャニャ〜ン!」


 わたしは元気よく応えた。


「・・・オレは乗り物か何かか?」


 真人は犬の姿のまま漏らした。


「そもそもその大きさにしたのは何処の誰だ?」


 真人もオオカミさんの言葉にぐうの字が出ない。



「へいへい。わかったわかった」


 真人は渋々今の状況を受け入れた。


「大人しくしていろよ。変なところに落ちたら大変だからな」


 そう、わたしに語りかけると目的地に向かって、歩き出した。

 楽しく周りを見ていたら、目的地に着いた。



 ーーーーなんか薄々そんな気がしてた。



 そして着いた後どうなったかというと、何処かに続く穴の投げ込まれた。

 そして、わたしは叫び声を上げていた。




 ーーーーボンッ。




 わたしは気がつくと椅子に座っていた。


 ーーーー多分、座るように着地したんだろうな。


 周りはさっきとは違い、明るい空間。

 例えるなら森のお茶会会場である。


「お嬢!」


 このお茶会に不釣り合い・・・だと思う存在の声がした。

 ーーーーファンシーと言えばファンシーだが。

 変な顔のトカゲさんのこと、コモドドラゴンさんである。


「あ、コモドドラゴンさん」


 コモドドラゴンさんは木の隙間から姿を現すと、すごい勢いでわたしの前に駆け込んできた。


 わたしの目の前には少し大きい白いテーブルがあった。そして、その上にちょこんと乗るコモドドラゴンさん。


「お嬢。さっきは羊羹(ようかん)ありがとな」


 コモドドラゴンさんは頭を下げた。


 ーーーー何の話だろう?そもそもようかんってなんだ?


「え?」


 わたしは思わず戸惑った。


「で、お嬢。聞いてくれ」


「何かしら?」


 わたしは話を合わせた。


「褒めてくれ。オイラ、とっても悪いことをしたんだ」


 ーーーーそもそも褒めていい話なの!?それ。


「なんなのかしら?」


 わたしはコモドドラゴンさんの話を聞くことにした。


「実はさっきさ、主がスッゲー疲れていたんだ」


 コモドドラゴンさんは続けた。


「んで、一仕事終わったから主が好きにしていいぞって言われたんだ」


「それで?」


「主のところに猫神様を持っていったんだ」


 ーーーーそれは癒されるしかない!


「想像したらうらやましいんだけど」


「なっ。悪いことだろ?」


「うーん。悪い奴にとっては悪いことかもね」


「だろ〜!」


 コモドドラゴンさんは笑顔で返した。




「お嬢〜〜!!!!!」




 叫び声と共に誰かが飛び込んできた。

 ーーーー黒くて目付きがすごく悪いオオカミだ!!


「お嬢!大丈夫か!?スマン。うちのバカ主がとんでもないことをしちまったみたいで」


 いきなり飛び込んでくるなり頭を下げるオオカミさん。

 わたしにはなんのことやらわからない。


「え?どういうこと??」


「さっきの話だ。勝手なことをするなと言っていたんだが・・・」


 その瞬間ーーーー



 ビカーーーーーー!!



 何かが派手に光った。

 見てみるとコモドドラゴンさんの両目と口から光線が出ていた。


 ーーーー何これ!!!?


「きゃぁ!」


「相棒!大丈夫か!?」


 コモドドラゴンさんは光線を出した状態で何かを言い出した。


「・・・どういうことだ?なんなんだ?」


 ーーーー夢の世界と言え、いつものコモドドラゴンさんの声じゃない?



「・・・フッ。このオレもとうとうヤキが入ったようだな。まさか尻尾を巻いて逃げる羽目になるとは・・・」



 ーーーーどこかで??


「最後まで聞いてみるか」


 オオカミさんはフンと笑いながら聞いている。


「・・・ここはずらかるとするか。ん?これは・・・」


 ーーーーどうやら何かあったようだ。


「怪我の功名ってヤツか。持って帰るか・・・」



 ・・・・・・この言葉を発した後、コモドドラゴンさんはいつもの感じに戻った。




「よ!お前もきたのか?」


「まぁな。あのバカがやらかした」


 いつもの感じでコモドドラゴンさんはオオカミさんに声かけた。


「えーと、覚えてないの?」


「何を???」


 コモドドラゴンさんは首を傾げた。


「なんかあったの?」


「相棒、お前騙されていたぞ」


「・・・え?まぁ騙すよりいいや!」


 コモドドラゴンさんは驚いていたものの、明るく応えた。

 どうやらコモドドラゴンさんは何者かに

 どこか録音した声を再生するものとして

 利用されていた。

 ーーーーけど、本人は気にしてないみたい。



 わたしは呆れた。


「相棒らしいな」


 わたしは一息置くと口を開いた。


「それで、さっきのことは大丈夫。それより気になることがあるの」


「あぁ、うなされていたことか」


「しかもなかなか起きなかった。いくら夢の中と言ってもおかしいわよ」


 わたしがさっきの事をオオカミさんに話をしていると

 コモドドラゴンさんは思わぬ事を言った。



「そー言えば、主、お嬢のところで泊まっている時も何回かうなされていたな。オイラ、びっくりして黒狼くんで主の横で座っちゃったぞ」


「え?コクロウくん?」


「主が作ったオオカミの人形だよ。普通は低級妖魔を取り付かせて動かすんだけど、たまにオイラが入っていろいろやるんだ〜」


 ーーーーいろいろって何だろう?ネコちゃんを運んだりすることかな?


 わたしはある事に気付いた。



 ーーーーん?オオカミの人形?

    そう言えばそんなものを前リビングで拾ったような・・・


「わかりやすくいうとこないだ穴に落ちた時、お嬢を助けたアレ」


 コモドドラゴンさんは言った。



「え?あの時コモドドラゴンさんがわたしを助けたの?」


「流石にそこまで、やってないよ。たまにそれでウロウロすることはあるけどね」


「そうなのね」


「お嬢、そろそろ起きた方がいいぞ。あのバカが活動開始した」


 そして、目が覚めた。

 時計を見るとわたし、ちょっと寝過ぎちゃったみたい。



 ーーーー♪♪♪♪♪♪ーーーー



 突如流れるメロディ。

 なんか嫌な予感しかしない。


 わたしはメロディが鳴っているデバイスを手に取った。


 画面には真人(シント)の文字。


 溜め息しか出ない。

 このコーリングに応えなければ、後が厄介だ。出よう。


「あら、真人。どうしたの?」


「スマンな。ちょっと用事があってな」


 ーーーー用事!?この男の用事ってなんだ!?

 今のわたしは考えること自体拒否している。


「そうなの。わたし、まだ長期休みの課題が終わってなくて・・・ごめん」


 ーーーーとりあえずここは誤魔化すぞ!

 と意気込んでいたら思わぬ言葉が返ってきた。


「そう言えば、オレがテストの問題を解いている横で課題をすべて終わったぞ!とか言っていたのは・・・?」



 ーーーーしっかり覚えているのがここにいた!


「アレはその・・・その日のノルマよ!」


「その後、長期休暇終わるまで遊べるぞ〜!とか言っていたのは気のせいか?」


 ・・・・・まずい!!どうにかしないと。


「そんなことはどうでもいい。質問を変えよう」


 ーーーー今度はどうするつもり!?


「なっ何かしら?」


「盛山コーヒーの期間限定デザートを知ってるか?」


 ーーーーう!!!!!!まさか!!!!!!


「その中にトロピカルプリンパフェと言うのがあってだな・・・」




 ーーーー1時間後。わたしはショッピングモールアライドの中にいた。

 こないだのテスト勉強のお礼としてご馳走したいから来いとか言われたら行くしかないじゃないの〜〜!!もう〜〜!!

 しかも、ただのプリンパフェじゃないのよ!トロピカルだよ!ト・ロ・ピ・カ・ル!!!!

 絶対食べるしかないヤツじゃないの〜〜!!


 わたしが自分の欲望に忠実過ぎるのは認める。

 後、そろそろお人形さん回収しないと第二弾をやられそうって言うのもある。



「待ったか?」


 男の声がした。真人(シント)だ。

 ある意味普段通りの真人に面食らいそうになるがここは気を引き締める。


「大丈夫。さっき来たばっか」


 軽く15分経過しているのは認める。


「・・・まぁいい。先行くとこあるからそれが終わってからでいいか?」


「うん。いいわよ」


 わたしは真人について行った。



 この男の用事のあるフロアは服を売っているところだった。

 建物の中心を突き抜けるように設置されているエスカレーターを降りる。そして、わたしは告げられた。


「少しこの辺りで時間を潰してくれないか?」


 わたしはコクリと頷くと目についた女性服コーナーに足を運んだ。

 気になった服を1枚手に取った。

 蛍光イエローのパーカーだ。

 フードに耳が生えている。

 じっとそれを見つめ、あれこれ悩む。

 買い物の真骨頂とは悩む事だ。

 ーーーーこれはホントに自分に似合うものなのか、手持ちの服との相性について問題ないのか?

 さまざまなことが頭を巡る。

 しばらくして異変が起こった。


「え??」


 手に持っていた服が目の前から消えたのだ。

 驚きの声をあげる。


 わたしが状況を把握しきる前にそれはラッピングした状態で渡された。


「ほい」


「・・・」


 わたしは無言で受け取った。

 なんとも言えない。


「あなたねぇ、侘び寂びとかもののあはれとかそう言うのはないの!?」


「持ち合わせてない」


 真人ははっきり言い切った。


 ーーーーだから、そのぅ違うって・・・


 抗議したって仕方ない。受け取っておこう。

 そして、真人はふと目を離すと姿を消していた。


 わたしは別の売り場に足を運んだ。

 そこには今年流行るであろう女性用の水着を着たマネキンがポーズを決めていた。


 ーーーーそう言えば日本に来てから海行ってないなぁ・・・


 日本に来て今は3年目だ。いい加減に海に一回くらい行きたいと思う。

 ーーーー大好きだったシュノーケリングも全くしてないなぁ。


 考えるだけでわたしは気が重くなった。


「くなちゃーん!」


 わたしは突如声をかけられた。


 ーーーーイノリンだ。日本に帰ってきたんだ。


「びっくりした〜。誰かと思ったわ」


「えへへ。おどろかしてごめん。くなちゃんこそこんなところで何やってるの?」


 ーーーーしまった。こんな時の言い訳考えるのを忘れてた。


「決まっているじゃない。問題集を見にきたの」


 我ながらに白々しい言い訳だ。


「一瞬デートかと思っちゃった」


 ーーーー悪かったわね。お気に入りのミュールで来たからそう見えたのかしら。


「あれ~?聖羅じゃん」


 ーーーーゲッ。クラスメイトの早川律華!?


 つーことは絶対いるのがいる!!


「あら、ほんと。奇遇ね」


その横からもう一つのイヤぁな声がした。

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