第二章 歪(ゆがみ) 伍

 わたしは晩御飯を食べた後を片付けると自分の部屋に戻った。

 端末に電源を入れ、メッセージの確認をする。

ーーーーまさか午前中の大半を片付けに使う羽目になるとは・・・


 予定が狂ったが、アクシデントは仕方ない。

 予想より進行が遅れなかったのが幸いと言えよう。

 ーーーーしかし、この男の科目の好き嫌いはどうにかならないのだろうか?他のはまだ耐えれる。


 コンコン。

 わたしの部屋をノックする音。イヤな予感しかしない。


 部屋のドアを開けると真人(シント)がいた。


「すまんな。気分転換も兼ねて見回りしてくる」


 真人(シント)はわたしに例の刀を渡した。

 振り向いて少し歩くと、


「大丈夫だ。しばらくすれば戻ってくる」


 ーーーーわかってる。だからといって、わたしにあなたの禍々しい刀を押し付けないで。


 わたしは頷くとドアを閉めた。


 実を言うとこっちの方が問題だったということに今気がついた。


 ーーーー大体、自律機能付きの刀、どうすればいいのよ?




 ・・・ちょっと待った。わたし、いいことに気がついたんじゃない?


 まず、低いテーブルに向かい合うようにクッションを置いた。


 片方のクッションの上に刀を置く。

 クッションの柄は水色のハート模様だ。しかしおそらくだが、ピンクよりはマシだ。

 ・・・・ということにしたい。


 そして、テーブルの右側と左側にそれぞれ小さいリングノートで作ったイエス、ノーの札を置いた。


「これでよし」


 わたしは例の刀と向かい合った。

そう、わたしは今からこの刀と対談するのだ。

 しかし、我ながら、なかなかなんとも言い難い光景である。


「まず、自分で動けるよね?」


 わたしは刀に問う。

 そして刀はその場でぴょんぴょん跳ねた。


 この光景は事実なのだ。

 わたしは現在その刀には触れてない。

 この光景になにか言うこと事態、間違いのような気がする。


 考えてもきりがないのでわたしは次の質問をした。


「まず、真人(シント)のことをよく知っているよね?家族と同じかそれ以上ならイエスの方、違うならノーの方へ、動いて」


 刀はさっとイエスの札のある方へ動いた。

 ーーーーつまり、家族かそれ以上によく知っているってことね。

 そして、刀はもとの位置に戻った。

 わたしは意を決し、刀の前にある写真を提示した。

 昔撮った大事な写真の一つだ。

 この写真にはわたしとシンが写っている。

 わたしはシンの方を指差し、刀に問う。


「この写真の男の子は・・・真人(シント)なの?」


 普通なら刀は止まるであろう。

 しかし、予想と違った。

 凄い勢いでイエスの方へ行き、ぴょんぴょん跳ねた。


ーーーーあっさり言っていいものか。

 わたしは疑問を一つ口にした。


「・・・実は夢の中のシンも真人(シント)だったりして」


 ポロっと言った言葉にたいして刀は反応した。そのまま、イエスの札の前で跳ねた。

ーーーーこの刀、言うこと聞く気、ないよね?

 まぁ、そもそも言わない方が悪いとか愛すべきバカとか言っている時点で、真人(シント)の言うこと聞かなくても問題ないとか思っているんだろうな。


 刀は少ししてわたしの目の前に戻った。


「これからもいろいろ教えてくれたりする?」


 ・・・・それはイエスの方へ動いた。

 どうやら教えてくれるようだ。


 ーーーーコンコン。


 真人がドアをノックする音が聞こえた。


「戻ったぞ」


 真人(シント)の声だ。


「おかえりー」


 わたしはドアを開けると真人に刀を渡した。

少しだけわたしは上機嫌だった。


 まず、シンは真人でわたしを忘れてなかった。

 でも、自分がシンであることを秘密にしている。理由は多分能力者関係だと思う。

ーーーー実は最近になって気が付いた!

 でも言うのは恥ずかしい!!とかならいいんだけど・・・

 本質は違うみたいだ。

 わたしは少し考えたが、やっぱりまとまらなかった。

 これ以上考えても仕方がないのでシャワーを浴びることにした。


ーーーーだけどあの狼、あまり言うことを聞くつもりはないなら、何故真人(シント)と一緒にいるのだろう?


 あの刀自体かなり強い力を持っている。話の感じからしてあの刀は、真人より強い。

 つまり一緒にいる必要性はないとも言える。

 あの刀は何か目的があって、真人と一緒にいるとしか考えられない。


 ・・・・その目的とはなんだろうか?

 なぞは深まるばかりだ。

 纏まらない考えを頭に巡らせながらわたしはシャワーを浴びた。

 身体と髪の毛を流し終わるとわたしは鏡で自分の身体を確認した。


 ・・・・そういえば、こないだの火傷の痕は・・・・?

 ーーーーあれ?治ってない。


 わたしはその火傷に薬を塗り絆創膏を貼った。

 そして、部屋着を着ると何食わぬ顔でリビングを通り、部屋に戻った。



 ーーーーこのまま考えても仕方ない。ここは素直に寝よう。

わたしはベッドに入り、そのまま横になった。


 ・・・・お嬢・・・・お嬢。


 おそらくわたしを呼ぶ声がした。

 目を開けると黒い目付きがめちゃくちゃ悪い狼がいた。

 ーーーー真人(シント)の刀だ。


「どうやらオレサマに聞きたいことがあるようだな。何用だ?」


「え?」


 わたしは思わず驚きの声をあげた。

 わたしは明るい空間にいた。どうやら夢の中にいるようだ。


「・・・の前にちょっとこの場を借りたい」


「あっちだと大将とか他の怨嗟の連中にも知られるからね」


 よく見ると黒い狼の横に黒い影のような男が立っていた。


「おい、相棒。そのままだとお嬢が怖がるだろ。姿を変えろ」


「わかった。そうする」


 男の周りに煙がたち、男を包み込む。そして、煙の塊は少し小さくなった。

ーーーーこないだ会ったねこちゃんと同じくらいの大きさだ。

 しばらくすると煙は晴れた。そこにあるのは猫ではなかった。


「コモドドラゴンだ!!ガォー!!」


 おそらくあのねこちゃんと同じくらいの大きさだろう。変な顔のトカゲは火を噴きながら言った。


「おお!!凄い!」


 火を吐くなんてなかなか出来ない芸当である。


「ふむ。その姿の方がお嬢に馴染みがあると判断したわけか」


「まぁね」


 変な顔のトカゲはさらりと応えた。


「さて、相棒。話はなんだ」


 狼さんはコモドドラゴンさん(とりあえずこう呼ぶことにした)に言った。

 端から見たら変としか言えない光景だが、気にしてはいけない。


「実は怨嗟の連中に一体だけ変なのがいる。どうやらそいつが主にいろいろ吹き込んでいるみたいなんだ」


ーーーーどういうことだろうか???


「なるほど。ふぅ、それは困った話だ」


「これは飽くまで報告みたいなものだ。後、念のためオイラ達だけの秘密にしたい」


「相棒はそいつに消えられると困るのか?」


ーーーー消える?消される存在ってこと??


「困るというより・・・そいつ、いいやつなんだ。だから消えて欲しくないんだ」


「・・・・相棒らしいな」


 狼さんは鼻で笑った。


「相棒はそいつが悪さをしないように監視してくれ」


「わかった。今度見かけたら、あまりごちゃごちゃすると大将に消されるぞと脅しておく」


ーーーー話の内容はわからないが、なんとなくまとまったようだ。


 コモドドラゴンさんはわたしの方を向いて頭を下げた。


「ごめん。お嬢には悪いけど詳しいこと話せない」


 ーーーーまぁ、そうだわな。あの刀、秘密が多そうだし。


「うん。わかった」


 わたしはコモドドラゴンさんの言葉に納得するしかなかった。


「さて、お嬢。オレサマに聞きたいことがあるようだな。なんだ?」


「え?」


 わたしはいきなりのことで混乱したが、すぐに冷静になれた。


「いくつかあるわよ。まずはこのコモドドラゴンさんに聞かれてもいい話かどうかそこからよ。わたしには判断できない」


「まぁ、なんとなく察しはつく。相棒にはあまり隠し事はしたくない。今言っても構わんぞ」


  わたしはその言葉に困惑を覚えたが、冷静に口を開いた。


「じゃあ、一つ目、あれの意図を教えて」


「そうだな。オレサマは欲しいものがあれば、手に入れるため手段を選ばない。あの場合逆らってはいないからな」


 ーーーー確かに。



「・・・・その欲しいものって何よ?」


 わたしは少し厳しく言った。


「それは、あのバカに対するお嬢の信用だ。オレサマの野望を達成させるには必要なものだ」


 ・・・・何を言ってるだろ?話が見えない。


「・・・その野望って何?」


「ほう・・・聞きたいか?」


「当たり前よ!!」


 わたしは強く言い放った。



 狼さんは頷くと話を始めた。

 内容については特別驚くようなものではなかった。ある意味、らしいといえばらしい。

 その話をしていた狼さんはすごく優しい目をしていた。


「いつ聞いても思うんだけど、やっぱり主のこと、大好きなんだね。オイラもそうだけど」


 コモドドラゴンさんの言葉にわたしも思わず笑った。


「あれ?認識されてないって言ってたのに?」


「まぁね。これでもいろいろとオイラは主と関われるからいろいろわかるよ。主、超イイヤツ。オイラ、お嬢の知らない顔も、知ってる」


 コモドドラゴンさんははっきり言った。


「・・・そういえば、ああいうこと言ってるのになんで狼さんは凄く禍々しいオーラを出しているの?」


「人の殺し過ぎじゃないかな?オイラの見てないところで結構いろいろしていたみたいだし」


「そうなんだ。手段は選ばないって言ってたもんね」


ーーーーなんか力が抜けた。悪い意味でたくらんでいるって考えていたから余計だ。


「オイラ、ずっと一緒に過ごしてきたんだ。でも、気がついたらオイラと同じ途(みち)を辿っていたんだ。理由はオイラにはわからない」


 コモドドラゴンさんは漏らした。その声は悲しそうな声だった。


ーーーー気がついたら?どういうことだろう?もしかして狼さんも元々は人間?


「さて、他に聞きたい事はないか?」


「・・・今のところ、ないかな。仮に聞いても答えてくれるかどうかわからないし」


わたしの言葉に狼さんは静かに応えた。


「なら、構わぬ」


「ね!お嬢、またオイラと話してくれる?」


「えーと、いろいろ教えてくれるなら・・・」


「よし!取り引き成立だぁ!」


 コモドドラゴンさんは楽しそうに遊んでいる子犬のようにしっぽを振りながら言った。


「そろそろ戻るぞ」


「あいあいさー」


二人・・・二匹の方が正しいのかな?とにかく去っていった。


 ーーーーわたしは気付いていた。もう一人の訪問者の存在に。


 二人が消えて一息ついた後、わたしは言った。


「さっきの人たちは知らないけど、わたしは気付いていたよ。心配で、きてたの?」


 わたしの言葉の途中でその気配は消えていた。


 ーーーー多分、仲間みたいな感じなのに仲良くできないのかな?




 同じことは繰り返される。

ーーーーつまり昨日あったことは今日もあるってことだ。


 晩御飯の片付けを終わらせた後、わたしは部屋に戻った。

 まず、読みかけていた本を手に取り、椅子に座りかけた。


 ーーーーコンコン。


 真人(シント)がドアをノックする音がした。


 ーーーー言わんこっちゃない。


 わたしはドアを開けると真人(シント)から刀を受け取り、とりあえず水色のハート模様のクッションの上に置く。


 わたしはしばらくすると机の引き出しに隠していたパンを三個取り出した。

 部屋に戻る時に持ち込んだリサイクルボトルのミルクティーと一緒に低いテーブルの上に置くと刀と向かい合うように座る。


「・・・これはね、その足りないのよ。真人の前だとすぐにお腹いっぱいになっちゃうのよ。だから、今お腹空いちゃってさ・・・」


 刀はあきれているのだろうか。沈黙していた。


ーーーー恥ずかしながらそういう問題なのだ。


 わたしは無言でパンにかじりつき、ほうばる。



三個目のパンを二口ほど噛った時、空気が一変した。

 バッと扉の開く音がすると男の叫び声と言うのかとにかく声が響いた。


「くなせ!オレの知らないところで変なヤツに言い寄られているってホントか!!?」


「・・・・え?」


わたしは食べていたピザパンをテーブルの上に置いた(厳密に言えば入っていたビニール袋の上だが)。


「・・・・は?」


「きゃああああああ!!!!」


 突然飛び込んできた真人(シント)の存在に対してパニックに陥ったわたしは、クッションの上に置いていた刀を容赦なく投げつけ、真人を部屋の外に追い出した。

 そして部屋の扉を閉め、内側から鍵をかけた。


 わたしは荒げた息を落ち着かせるため、リサイクルボトルに手を伸ばした。

 残ったピザパンが目についたのでそれを一気に口の中に押し込んだ。

 そして、リサイクルボトルの中に入っていたミルクティーを一気に飲み干す。

 その後、手で口元を拭うと恐ろしい事態に気付いてしまった。


ーーーー口元にピザソースが付いてた!

 わたしとしたことが・・・

後悔しても仕方ない。

問題はこの後のことだ。




 ーーーーしかし、なんてタイミングが悪いのよ!!?

と、叫びたい気持ちは抑えた。


 わたしは部屋の扉に耳を当て、外の音を聞いていた。

 しばらくすると真人の足音が聞こえた。音の感じから、この部屋の周りから離れたようだった。


 わたしはこっそり扉を開け、周りを確認した。静かに部屋を出てそのままお手洗いに向かった。


 出すものを出してスッキリした後、こっそりと部屋に戻る道を辿る。


「・・・まだ怒ってるのか?」


「当然よ!」


 いきなりのことに対する驚きを隠すべく、わたしは語気を強めた。


「なるほど。一昨日の昼間、冷蔵庫で見かけた複数のシュークリームが次の朝には消えていた訳だ」


ーーーーまさか・・・。


「何が言いたいの?」


「狙っていたとかそんなんじゃないぞ・・・・フフッ」


 いきなり真人は鼻で笑った。そのあと放たれた言葉はわたしの理解を越えていた。


「優等生サマの大食いの話なぞ、オレが知らないとでも思ってたか?」


 わたしは静かに問いかけた。


「・・・・それ、誰から聞いた?」


「確か、和泉 照(アキラ)っていう他のクラスのやつだが・・・ちなみにその話には裏付けの証拠が・・・」


ーーーーへぇ・・・・和泉くんね・・・。


「・・・ちょっとリビングで待ってもらっていい?」


「あ・・・あぁ構わない。さっきの話について話してくれるなら・・・」


 真人(シント)はわたしから漂う空気からなんとなく察したのだろう。静かにリビングに向かった。


 わたしは自分の部屋に戻ると自分のデバイスを取り出し、とあるIDにコールする。


『・・・はいはーい。あれ?くなせ?お久しー』


 わたしは声の主の女の子に対して明るく応えた。


「マヤちゃん、久しぶりー。ところで今、和泉くん、大丈夫?」


ーーーーわたしを侮ることなかれ。


 今は夏の長期休暇真っ盛り。

 和泉くんが自分の家にいるとは思えない。

 わたし自身、和泉くんのダイレクトIDは知っているが、ここは敢えて彼女であるマヤちゃんにコールしたわけだ。

 仮に和泉くんにコールしても応じない可能性もある。


『え?アキラ?アキラくんならもう寝たよ。私たち、明日からちょっとした旅行に行くの』


「・・・そう。まぁ、仕方ないわね。また終わった頃に連絡するわ」


 ーーーー薄々そんな気がしていたが仕方ない。真人から詳しい話を聞くとしよう。


 わたしは大事な写真のうち一枚を手に持つと真人(シント)の待つリビングに向かった。

ーーーーその写真はこの春撮影したもの。写っているのはよく集まっていたゲーム仲間のグループ。

・・・・あの頃、わたし達は仲良しグループだと思ってた。


「ごめん。待った?」


 わたしはソファに座って待っている真人に声かけた。


「言うほど待ってない。オレはさっき聞いた話の方が気にかかる」


「・・・まぁ、基本わたしは自分の身は自分で守るタイプだし」


「たまに無茶するのはどうにかならんのか?」


「・・・・それは十中八九気のせい!」


 わたしは言葉を強めた。


「それはとにかく、その男について教えて欲しい」


 わたしは真人が座っているソファーの前に置いてある低いテーブルに写真を置く。


「えーと、これはこの春取った写真」


「うちの学校では見ないヤツが二人いるな」


「うん。この二人は学校違うもの。ネットの集まりよ」


「で、その困ったヤツはどいつだ?」


 わたしは違う学校の男の子のうち、一人を指し、言った。


「こっちの茶髪の男の子。わたしたちはアラジンさんって呼んでいる」


「なるほど、ネットの集まりだから、本名はわからないってことか」


「そういうこと」


 真人は写真をじっと見つめるとあることを聞いてきた。


「・・・ところでこの金髪の方も知り合いか?」


「うん、そうだよ。ただ、この春から行方不明なの」


「行方不明?」


「この写真を撮った日に行方がわからなくなったのよ」


 わたしは続けた。


「ただ、わたし達が解散したあと、彼はアラジンさんと話していたのは見たっていう証言はあるわ。その後の事はよくわからないけど」


「なるほど。そのただでさえ疑わしいやつだ。しかもその言い寄りっぷりは尋常ではない。余計にあやしいだろうな」


「で、その話。誰から聞いたの?」


「あぁ。こないだ言ってたオズっていうやつだ」


「そうなの?」


ーーーー真人の(シント)言ってたことは事実だ。

しかし、このことを知っているのは一人だけだ。


ーーーーさて誰なのか?わたしはよく知っている。

まぁ、追及するのは真人がいないときにしよう。少なくとも悪いやつではないことくらいわたしは知っている。


「・・・そうだが、問題あるのか?」


「大丈夫。何でもない」


 わたしは平静さを取り戻した。


「・・・ならいい」


 真人は言った。


 ーーーーなんか隠しているな。いつもと言葉の感じが違う。


「言っておくけど、なんかあったら大変だからといって、部屋に飛び込むのは・・・・ちょっと勘弁」


「・・・スマン。それは気を付ける」


 わたしはいつも通りに振舞い、釘をさした。それに対し、真人(シント)はばつ悪そうに返した。


ーーーーそして、時間は過ぎていく。




「・・・ここで一旦休むか・・・」


 真人は身体を伸ばしながら言った。

 大量にあったプリントの山も減ってきた。最初に用意した五分の1くらいまで減っていた。


「じつは言いわすれていたことがあるの。聞きたい?」


「なんだ?言ってみろ?」


 わたしは再テストが終わった後に用意しているイベントの話を始めた。


「こないだ、民族学のテストの点数がよかったっていう話をしていたのは覚えてる?」


「あぁ。あれは予想外だったな。おかげで助かったが・・・」


 わたしは今からこの男が驚く発言をするだろう。

 わたし個人としてはどんなリアクションをするのか楽しみである。


「それで、民族学の先生がさ、あなたに花園美学のソフトクリームパフェをご馳走したいって・・・・」


「そりゃ、勘弁願いたい話だな」


 真人は苦笑しながら言葉を返した。


「で、わたしも一緒にご馳走してもらう話になっているんだけど」


「・・・ちょっと待った。何が悲しくて先公と茶しないといけないんだ」


「まぁ、減るもんじゃないし、そのテストが終わった後、身体能力検査もするからもしもの保険としてどう?」


「そいつはどういうことだ?詳しく聞かせてもらおうか?」


 わたしはかいつまんで話をした。

ーーーー自分の身は自分で守るがやはり保険は必要である。


「おっ!わかる男は違う」


「それとこれは違うぞ。それより、こっちの方を説明してくれ」


 真人は問題を指差した。


「わかった。ここは・・・」


 わたしは指差した問題について説明をし始めた。


 そして何事もなく時間は過ぎた。


 その間、気になったことと言えば、行方不明になった男の子の話を聞かれた事とわたしに無断で、わたしも滅多に行かない地下室に入ったことくらい。


ーーーー後、何故か大量のお風呂掃除の道具と一緒に土下座されたことくらいかな。


 わたしの家のシャワールームの横には雨の時に洗濯物を干すスペースがあって、なんでも使った後、掃除をするからそこを使わせて欲しいらしいとかなんとか。

 よくわからないけど掃除するならいいやと思って了承した。


他に、不可解と言えばそうだがファインファインの会員IDを教えろと言われた時は・・・・。

 流石にキリがなさ過ぎるのでこのくらいにしよう。


 そして、再テストの前の日になった。真人は一旦自分の家に戻った。

 彼の着替えのうち、1セットはわたしの家においておくことになった。

 再テストは2日に分けて行われ、2日目の昼から身体能力検査を受けることになっていた。

 テスト2日目、わたしは制服を着て学校に向かった。


 身体能力検査は体育館で行われているためわたしは体育館に入った。

 部活動に汗を流している人たちの横で身体能力検査を受けている真人がいた。

 今回再検査を受けるのは真人だけだった。わたしが行ったときは受ける項目があと二つになっていた。


「あぁ。きたのか」


「うん。このあとのこともあるし~」


「物好きだな」


「誉めても何も出ないわよ」


 わたしはにこやかに言葉をかえすと真人はあきれた顔でわたしを見た。


 そして、なにも言わずに彼はそのまま検査の続きを受けた。

 わたしはその間に民族学の先生を捕まえに行った。ちなみに話は粗方つけてある。

 民族学の先生に会うと来たか!と感心された。

 ーーーー感心するほどのことだろうか?花園美学のパフェが食べれるならこの程度苦ではない。

 そして、わたしは検査を終えて教室で待っている真人と合流した。


 その時間は楽しかった。

 少し暗くて落ち着いた雰囲気の店内で美味しいパフェに舌鼓を打ちながらあれこれ話をする。

 ほぼなにも言わない不満そうな顔をしたのがいたが気にしなかった。

 わたしが楽しく話をするのを見ながらブラックコーヒーを飲んでいる。

 わたしは気付いた。ホントは悪くないと思っているってことに。

 わたしの頼んだ抹茶パフェの器が空になると真人は自分の頼んだソフト白玉パフェを静かに差し出した。


「食えよ」


 小さい声で耳打ちした。


「ありがと」


 わたしは礼をいうと有り難く頂戴した。


 時間があまりにも遅くなりすぎたのでわたしたちは先生の車で家まで送って貰うことになった。


 真人は助手席、わたしは後ろの席に座った。

 しばらく車を走らせるとわたしは口を開いた。


「先生、今日はご馳走さまでした」


「いやいや」


 夜道は暗い。

 わたしは小さなふくろうのマスコット人形を取り出すとわたしの横に座らせた。


ーーーーそろそろかな。


窓から外の景色を確認するとわたしの家が見えてきた。


「そろそろです」


「そうか!」


 先生は車を止めた。


「今日はありがとうございました」


 わたしは降りて車の方に向いて軽く会釈をした。

 そして、車は真人を乗せたまま走り出した。



 わたしは家に入り、シャワーを浴びる準備をした。


ーーーーまさか晩御飯までご馳走になるとは思わなかった。いろいろ話をしたんだから楽しかったのだろう。


 わたしはシャワーを浴び、部屋着を纏い、自分の部屋に戻った。

 ふとデバイスを見てみると通知が表示されていた。


『音声データのダウンロードが完了しました』


わたしは音声を再生させた。


『そう言えば担任から聞いたぞ。舞月、あの事を話したのか』


『まだです』


『自分から言うって言ってたからもう話したかと思ったぞ』


『・・・秘密は守ってください。それについては自分でなんとかしますので』


ーーーー何の話をしているのだろう?


『早く言ってやれよ』


『そのうち言うつもりなのでご心配なく・・・ではオレはそろそろ失礼します』


『そうか。まだかかるけどいいのか?』


『この辺りで用事がありますので大丈夫です』


ガタッと言う音が聞こえた。


『わかった。ところでその手に持っている人形はなんだ?』


『これですか?おそらく忘れ物でしょう。さっきオレの足元に転がって来ました』


ーーーーやな予感。


『なるほど。そいつを届けてやるわけだな』


『そういうことです。今日はご馳走さまでした。失礼します』


ーーーーヤバい。落ち着け。落ち着くんだ。うっかりとかそういうことにしておくんだ


 少し足音だけが流れた後、声が聞こえた。


『わりぃな。今からゴミ掃除をしなくちゃならねぇ。終わったらゆっくり遊んでやる。それまでおうちでいい子にしてろよ』


音声はここで終わっていた。

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