第三章 海(わだつみ) 弐

「ーーーー!!」


 わたしは声の主の方を向いた。

 凛華と同じ黒髪のセミロングの少女。

 ーーーー双子の姉、秋穂(あきほ)だ!!


 ここまで来るとさてと考える。

 ーーーーこの場をどうやって切り抜けるか!!


「やーね、聖羅さん。ここは何の用かしら?」


「いや〜、問題集を少々・・・・・・・」


 わたしは後ろに下がる。


「ならいいけど・・・・」


 秋穂の言葉に二人は離れようとした。


「そう言えば、くなちゃん。今年こそ海に行かないの?」


 その瞬間、思わぬ爆弾が落ちた。


 ーーーーイノリン、なんて言うタイミング!!?


「ごめん。今そんな気分じゃないの」


 わたしは断った。

 いや、断ったつもりだった。


「へぇ~。海に行きたいの?」


 秋穂がこっちを覗いてきた。


 ーーーーうぅ・・・・・。こっちに来るな〜。

 もし行くならイノリンと二人で行くつっーの!!


 ふと頭の中に真人(シント)の顔が過ったが

 今はそういう場合じゃない。


「ちょうどよかった。相談があるの」


 秋穂は唐突に話をしだした。

 彼女の話をまとめるとこうだ。

 秋穂たち二人で海に行こうとすると

 学校の謎ルールによって行けなかったらしい。

 複数人のグループならOKなのでイノリンに声かけた。

 今、わたしにもその声がかかった訳だ。


 ーーーーよし!!断ろう!!


わたしは意を決して言葉を返した。


「ごめん、無理。わたし、水着ないもん」


 水泳の授業なんて二年前以来受けてない。

 そのときに使っていた水着は言うまでもなく

 サイズが合わなくなったので着れない。


 なので、わたしはきっぱり断った。


「水着があれば行くのね?」


 ーーーー仮にあってもあなた達と行きたくないわよ。


 わたしは当然だが、言葉を飲み込んだ。


「はい、どうぞ」


 秋穂は何かが入った紙袋を押し付けた。


「え?」


「決まっているじゃない。水着よ。

 サイズは大丈夫。問題は無いわ」


「はぁ???」


 わたしは驚きと混乱が止まらなかった。


ーーーーいやいや、いきなり水着渡してくるとか

 どういう神経!!?


「交通費と宿泊代はこっちが出すわ」


 ーーーーだから、来いって事なの!?


「これであいつらはきますね」


「そうね」


 二人はなんかブツブツ言うと去って行った。

ーーーーあいつらって、まさか??





「ところでよ?優等生サマ、せっかくのトロピカルだぜ?

 なんで、不機嫌そうなんだ?」


 わたしはイノリンと別れ、手早く真人(シント)と合流した。

 そして、真人(シント)が買ってくれたパーカーを羽織り、フードをかぶって

 こそこそとプリンパフェを食べているのだ。

 見ている真人(シント)は何事だ?ってなる。


「・・・・あなたには関係ないわよ」


 わたしはバツ悪そうに返した。


「・・・仕方あるまい。ここは取引をしよう」


 真人(シント)は何か思いついたのか、思わぬことを言ってきた。


「取引?」


「ああ、簡単な取引だ」


 真人(シント)はにやりと笑い、注文用の小型端末を手に取った。

 そして、わたしにあるものを見せた。




 ーーーー15分後。


「・・・・と言うわけなのよ。つまり、わたしは

 謎ルールの被害者なのよ」


 わたしは生クリームたっぷりかかったパンケーキに

 トッピングされている大きくカットされた洋梨を

 口に運んだあと、言った。


「ふむ。そういうことか。それで困っていたわけか」


 ーーーーまさか試作メニューの秋のフルーツと生クリームたっぷりパンケーキを出してくるとは・・・・。

 うぅ・・・・真人(シント)にしてやられた。


「まぁ、どうにかして逃げるから気にしないで」


 ーーーー少なくとも一線は越えない。

 これがわたしのマナーである。

 問題はいろいろあるが、それは諦めよう。

 うん、それがいい。


 真人(シント)はわたしの気持ちを理解しているのかしてないのか、

 少し考え込んだ。

 そして、自分のデバイスを取り出し、コーリングした。


「あぁ、相河か?」


 どうやらクラスメイト相河くんとコーリングしているようだ。


「金城くんのダイレクトIDを教えて欲しい。

 これは取引・・・いやむしろ共同戦線だ」


 ーーーーなんの話をしているのだろう?

    共同戦線ってどういうこと??


「そうだ。どんな太陽より眩しい太陽がかかっていると

 言えば話が早いだろう」


 相河くんは真人(シント)が言った『どんな太陽より眩しい太陽』

 と言う言葉の意味がわかっているのか、話は早かった。


「次は金城くんだな」


 真人(シント)はブラックコーヒーを口に含み、息を整えると

 デバイスを操作した。


「オレだ。さて、金城くん、話があるのだが」


 多分、真人(シント)にしかちゃんと聞こえてないであろう金城くんの騒ぐ声が聞こえる。


「落ち着いてくれ。今回は取引だ。どんな太陽より眩しい太陽といったらわかるかと言ったらわかるか?」


「ーーーー!!!!」


 真人(シント)の言葉の意味がわかるのか

 金城くんの歓喜の声が聞こえた気がする。


 ーーーーって金城くんも意味わかるんかーい!!!!


「さて、問題の一つをオレが解決した」


 真人(シント)は、デバイスをしまうとわたしの方を見た。


「はい?」


「つまり、オレも行くことになった!」


「ちょっと待って!?どういうこと!!?」


 ーーーー話が理解できない。何をした!?


「せっかくだから行った方がいいかと。

 そっちの方がいいだろう?」


 ーーーー心なしか真人(シント)が少し嬉しそうに

 見えるのは気のせいだろうか?


「そうだけど・・・・やっぱり、

 水着の問題が・・・・」


「あぁ、そっちか。そういえば、こないだのアレ。

 まだ余っているか?」


 こないだのアレとは、いつぞやハンバーグレストランの帰り道に押し付けられるように

渡された滞在必要経費のことだ。


「まぁ、いうほど使ってないし」


 ーーーーあの後、いろいろがあったからなぁ。

 例の臨時収入とか大量の冷凍食品が届いたりとか。

 それに渡されたお金は必要経費だからあまり使いたくない。


「それを使って買えばいい。オレは構わん」


 ーーーー悪魔の囁きだ。


 わたしはドキッとした。


「いいの?」


「ああ」


「ホントに?」


「そこまで言うならオレが選ぶが?」


「それくらい自分で選びます〜〜」


 わたしは頭に来た勢いで自分のデバイスを操作した。

 そして買ってしまった。

 昨日見ていたブランドの新作を。

 ーーーーなんか真人(シント)に乗せられたような気はするが気のせいと信じたい。

 いいって言ってるんだからいいか。

 そういうことにしよう。


「これで水着の問題は解決したな」


「あれ?そう言えば真人(シント)は?」


 真人(シント)も水着を買わないといけない人物の一人である。

 理由はわたしと一緒。


「あぁ、オレか」


 真人(シント)はわたしと合流したときから持っていた紙袋を見せた。


「・・・・ちょうど新調したところだ」


 ーーーーナイスタイミングってわけね。


「ところでなんか寂しそうなのは気のせい?」


「・・・・あぁ、気のせいだ。問題ない」


 ーーーーなんかあっただろうな、うん。

    ここは追求するのはやめよう。



 その日の夜、わたしは記事の更新をした。

 今日食べたトロピカルプリンパフェや季節のスペシャルパンケーキの話を書きたかった。

 そして、それより海行く話を書きたかった。


 思わず全部書いた。

 書きたい事を全部書いたからスッキリした。


 その勢いでお風呂入ったあと、

 わたしはある人物から来たメッセージを読んだ。

 そして、意気揚々と返事を送った。




 海に行く日の朝。

 わたしは大きな荷物を引きずりながら集合場所に来た。


 ーーーーしかも、すごく眠い。

 眠れなかったのだ、昨日の夜。

 当然の話だが、真人(シント)の水着姿が気になるのだ。

 大体、男の水着は原則海パンと相場が決まっている。



 ーーーーでも!!それでも!!

 どういうのを着てくるとか・・・・・・・

 その前にその上が裸なわけなんだから、

 その普段着の下が・・・・・

 いや!!見たことないってわけじゃないのよ!!


「一泊なのに、すごい荷物ね・・・・」


 秋穂がいきなり声掛けてきた。


「まぁ、シュノーケリングの道具もあるし。

 いろいろあるのよ、わたしは」


 わたしは正々堂々と言い返した。


「あっそ・・・・・」



 秋穂はわたしをあきれた顔でみた。


「おいおい、言ってくれたら持ったのに」


 ーーーー真人(シント)の言葉はありがたい。

 しかし、これはわたしの問題だ。

 わたし自身の手で解決したいのだ。


「いいわよ。このくらい自分で運ぶから」


 わたしはやんわり断った。


「はい、コレ。あなたのチケット」


 わたしは少し離れた所にいた秋穂から自分のチケットを受け取った。

 そして、自分の荷物を置いてあった場所に戻ろうとした。


「・・・・あれ?」


 わたしは戸惑った。


 ーーーーないのだ。ここにおいてあったはずのバッグが。それも二個とも。

 片方には借り物機材。

 もう片方には、バスタオルや着替え等の必要品が入っている。


 ふと周りを見ると、それはあった。


「・・・・・え〜と・・・」


 言葉が出なかった。


「あのさ、二人ともズルくない?」


 金城くんは口を開いた。


「なにがぁ?」


 相河くんはとぼけた顔で答えた。



 ーーーーあのぅ、相河くん、わたしの探しているバッグのうち一つを肩にかけているんだけど。


「おい、ぐだぐだ言っている場合か?

 さっさと行くぞ」


 真人(シント)の声がしたので見てみると、


 ーーーーちょっとぉぉぉ!!真人ぉぉ!!?

    なんで、わたしの探しているバッグの片割れを持ってるのぉぉぉ!!??


 真人(シント)はそのまま乗り場の方へ向かおうとしていた。


「あのぅ、それ、持ってくれるのはいいけど。

 中身は借り物だから、壊さないで」


 わたしは真人(シント)の方を見ながら苦笑いをした。


「・・・・ゔっ」


 真人(シント)は苦虫を噛み潰したような顔をした。


 ーーーーなんかおかしいんだけど。どうしたんだろう?


 誰かにこのことを相談したいんだけど

 今は難しい。


 まず、仲がいいイノリンは機嫌が悪そうだ。

 変に話しかけると気まずい。

 双子はそれ以前の問題だ。

 委員長に至っては真人(シント)の方を睨んでいる。

 どうなってるんだろう?


 ーーーー先が思いやられそうだ。


 時間が来たので特急のライナーに乗り込んだ。

 このライナーに乗って目的地までざっと3時間近くかかる。


 わたしは割り当てられたシートに座ると猛烈な睡魔に襲われた。

 ーーーーこのあともこの状況は続くと考えたら

 目的地まで寝かせてもらった方がいいかな。


 幸い周りは身内で固められてくれている。

 ここは安心してもいいだろう。


 わたしはそう判断した。





 わたし達は目的地に着くとすぐに海水浴場に向かった。

 そして、各々が持ってきた水着に着替える。


 水着に着替え終わったわたしは太陽が照りける砂浜を歩き出した。



 眼の前にあるのは砂浜と眩しい太陽。

 そして蒼く広い海。

 ここで水平線がはっきり見えればいいのだが

 海水浴シーズン真只中なので

 人が多い。


 ーーーーまっ当然か。


 わたしはこの水平線を見に来たわけではない。

 海洋生物の調査に来たわけではない。


 ーーーー遊びに来たのだ。全力で。


 わたしは白い耳が生えたニャウガールハットで

 強い陽射しから身を守る。

 レザーベストを彷彿させる上半身部分。

 そして、デニムスカートをイメージしたパレオで水着のパンツ部分を隠す。

 そして、パレオはガンマンベルトで固定。

 おしりの辺りから白くて長い尻尾が顔を出している。

 もちろん、ガンマンベルトには水鉄砲(充填済み)がささっている。


 わたし個人はすごく可愛くて気に入っている。

 ーーーーカウガールならぬニャウガールスタイル。


 ・・・・ちなみに同行者三名(女性)には

 すごく不評だった。

 悲しい!!悲し過ぎる!!!!


 わたしが歩いて男性陣のところに向かう。

 そして、当然のことだろう、

 男性陣に衝撃が走る。

 きっとこのニャウガールスタイルの水着が可愛いせいだろう。


 ーーーーどうだ!!このニャウガールスタイル!!かわいいでしょ!!


 という感じでフフンと言っていたら

 早速海パン姿の金城くんが駆け寄ってきた。


「ぼくを捕まえてくださ〜い!!」


 ーーーーへぇ?やってやろうじゃない。


「お望み通りにしてあげるわ!!

 え〜〜い!!」


 わたしは腰に差していた水鉄砲を抜き、

 一発、金城くんに浴びせた。

ちなみにリーズナブルショップで買った一番威力が無い水鉄砲なので実際そんなにダメージはない。



「あふ〜ん」


 金城くんは何故か倒れた。


「さて、次は誰かしら?」


 わたしは水鉄砲を仕舞った。


「はい!!ここに悪い子がいます!!」


 相河くんが手を上げて大声で宣言した。


「フフンッ。お望み通りにしてあげるわ!!」


 わたしはすばやく水鉄砲を抜き、構えた。

 そして、その一発を相河くんに浴びせた。


「はふ〜〜ん!!」


 相河くんは金城くんと同様倒れた。


「さて、次は誰かしら?」


 わたしは周りをしっかり確認した。

 委員長と真人(シント)がまさか!?と言いたい顔が見えた。

 わたしは近くにいた委員長に近づき、


「隙きあり!!」


 一発食らわせた。


「うわーーー!!」


 言うまでもなく委員長は倒れた(なんでかはわからないが)。

ここまで来たらやるしかない!!!



 ーーーー後、一人。真人(シント)だ!!


「真人ぉ!!たまには追われる側になりなさい!!」


 真人(シント)はわたしの顔を見るとえ?って言いたくなっただろう。

 そして、わたしは全力で真人(シント)を追いかけた。

 こっちは三時間ほど寝ているので元気いっぱいである。


「なんで、オレーー!!?」


「うるさーい!!覚悟しなさい!!」


 わたしは叫びながら真人(シント)を追いかけた。


 ーーーー20分後。

 わたしのスタミナが尽きてきた。

 このままでは・・・・・。



 わたしは足がもつれてしまい、こけた。

 幸い、砂浜の上なので怪我することはない。


 真人(シント)は心配になったのか、わたしの近くに寄って顔を覗いてきた。


「大丈夫か?」


「隙きあり!!」


 わたしはすかさず一発を浴びせた。


「え?」


 真人(シント)はポカーンとした。


「フフッ!!引っかかたわね!!これも作戦のうちよ!!」


 わたしは起き上がり、踵を返した。


「では!!これにて失礼!!!!」


 そして、全力で真人(シント)から逃げた。


 このヤロウ・・・・と言いたげな真人(シント)の顔が見えた。


 これで走りまくったのだ。

 準備運動はOK(多分)!!


 少し海に入って泳ぐ。


 ーーーーう〜ん!

  冷たくて気持ちいい!!


 もう少し泳ぎたい気分に駆られたが・・・・・


 ーーーーぐりゅる〜〜〜!!!!


 そう言えば、今日は朝からあまり食べてない。

 そして、ここに着いてから走りまくったのだ。

 お腹すくのは当然だ。

 そして、今は昼食時である。


 という事でお昼ご飯タイム〜〜♪


 海の家のフードコートエリアに向かう。

 軽食が食べれそうな屋台がたくさん並んでいる。

 まず、目についた屋台に向かった。

 そこにいるおじさんに声をかけ、食べたいものを注文する。

 そして、注文したものが出来上がるまで

 わたしはそわそわしながら待っていた。


「ねぇ、君。おれと遊ばない?」


 おそらく大学生だろう。

 如何にも軽そうな男がわたしに声かけた。


「ごめんなさい。わたし、待っているんです」


 わたしは頭を下げた。

 ーーーーここで何をなんて言ってはいけない。

 もし、ここでそれを言ってしまうとこの男は

 問答無用で手を出すであろう。


 そんなことになったらわたしは悲しい。

 今、心から楽しみにしていることを奪われるのだ。

 それだけは避けなければならない。


「誰を待っているんだ?

 君みたいなカワイイ子を待たせるヤツなんか

 ほっといて、おれと遊ばないか?」


 ーーーー困ったぞ。

 ここで叫んでもいいが、騒ぎになる。

 それは少なくとも避けたいと思う。



「アンタ、彼女になにか用か?

 ・・・・あぁ、なるほど。遊びたいのか?」


 気配を消して近づいてきたであろう真人が男の肩を叩いた。

 真人(シント)の方がガタイがいいせいで

わたしより年上に見える。


「え?」


 男は困惑した。


「あの女の子はオレに連れなんだ。

 まぁ、その前にオレと遊ぼうじゃないか?」


 真人(シント)はニヤリと笑うと

そのまま男の腕を掴み、力づくで連れて行った。


 ちなみにこの後、この男の姿を見ることはなかった。


 しばらくするとわたしは屋台のおじさんに呼ばれた。

 そして、大きなおまんじゅうくらいあるたこ焼きが

 いくつか入ったトレーを受け取った。


 ーーーー待ってました!!


 わたしは近くの適当なテーブルに座ると

 舌鼓を打つ。


 ーーーーこのたこ焼き、今ここしか食べれないんだから

 そんなもん、どこでもいいじゃん!!とか

 言われたくなかったの!!


 心ゆくまでたこ焼きを堪能したあと、

 わたしは日陰で休んでいる真人(シント)を見つけた。

 そして、さっきのお礼代わりに冷たいラムネの瓶を渡した。


「あぁ、スマンな。別に気にすることないぞ」


「いいの!!キチンとお礼しなきゃ

 わたしの気が済まないんだから!」


「なら、ありがたく受け取っておこう」


 真人(シント)はラムネの瓶を開けて、

 飲んでいた。

 その様子を見たあと、わたしは次の屋台のおじさんに声かけた。


「おじょうちゃん、いらっしゃい」


「すみません〜!このわんぱく焼きそばを一つ!!」


「あいよ!」


 屋台のおじさんは威勢よく返事した。

 わたしは一つのことに気付いた。


「この魚肉ソーセージ、変わってる〜!!

 紅しょうがが入っている〜!!」


「おじょうちゃん、よく気づいたね!

 それ、うちの焼きそばのチャームポイントだよ!!」


「うわ〜!美味しそう〜!!!!」


 ーーーーたっぷりソースが絡んだ焼きそばに紅しょうが。

 それは王道以外の何物でもない!!


「フフフッ。そんな素直でかわいいおじょうちゃんには

 サービスしちゃうよ!!」


 わたしはお皿の上で山を形成している焼きそばを渡された。


「いいんですか?」


「もちろん!!」


 ーーーー頼んだのは普通サイズなのになんか悪いなぁ。


「これもサービスしちゃうよ!!」


 おじさんは横で焼いていた鉄板焼きを焼きそばの上に乗せた。


「いいんですか〜!?ありがとうございます〜!!」


 わたしは口からよだれが出そうになるのを

 抑えながら、おじさんに頭を下げた。


 わたしは嬉しくなった。

 そして軽やかな足取りで、

 自分が確保していたスペースに戻った。


「くなちゃん、今度は焼きそば?」


 イノリンの言葉にわたしは嬉しくなって応えた。


「うん!!紅しょうが入りの魚肉ソーセージが

 入っているんだって!!」


 その美味しい物に対して水を指すのがいた。

 あの双子だ。


「魚肉ソーセージ?あの食品添加物の塊みたいなのを

 よく喜んで食べるわね」


「全くですわよ、お姉様」


「ちょっと待った!!

 ぼくの大好きな魚肉ソーセージを

 バカにするのはそのくらいにしろ!!」


 金城くんは抗議の声を上げた。


 ーーーーどうした?金城くん。


「そうだ。子どもたちが大好きな魚肉ソーセージを

 バカにするな」


 ーーーーあれ?相河くん?


「昔見ていたヒーローにおまけ付きのがあって

 それを買ってもらったのが懐かしい」


 しみじみと語る金城くん。


「案外いけるぞ。オレもときどき食べるし」


 ーーーー真人(シント)まで?一体なんだ!?


「そうそう言っておくけど」


 わたしは二人にとどめ刺すのにかかる。


「日本食品添加物に関する規制は凄く厳しいの。

 仮に普段わたし達が使っているペンと同じサイズの

 魚肉ソーセージを1日100本、毎日10年間位

 食べ続けた場合、なにか体調不良が起こる確率は

 商店街の抽選会で一等が当たる確率と同じくらい

 って昔読んだ本に書いてたよ」


『〜〜〜!!?』


 二人は黙った。


 わたしが焼きそばをお腹に片付けた頃、

 イノリンはわたしに声かけた。


「でも、よく食べるよね?魚肉ソーセージ」


「うん。日本に来てしばらくした頃、ある人に

 教えてもらったんだ。その時、すごく困っていて

 お陰で助かったんだ」


「ある人って・・・・・?」


「え?いつもの店員さんだよ!」


 イノリンの言葉にわたしは笑顔で応えた。


「え〜と、いつもの店員さん!?」


 困惑したイノリンに対してわたしは笑顔で

 そう、いつもの店員さんだよと応えた。


 そして、わたしは困惑したイノリンの近くを

 通り過ぎる人影を見た。


 ーーーーアキラくんの彼女のマヤちゃんだ!!


 わたしは嬉しくなって人混みに消えた。


「ヤッホー。マヤちゃん」


「あれ?くなせじゃないの?」


 マヤちゃんはちょっと驚いた顔で応えた。


「ごめ〜ん。ちょっとお願いがあるの」


 わたしは胸の前で手を合わせて頭を下げた。





 

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