第二章 歪(ゆがみ) 壱
どうしようもないほど疲れきった身体を引き摺りながら、わたしは店内に入った。
ーーーーかなり大きなレストランだ。
高級感はないが、ゆっくりできそうな雰囲気はある。
まず、店内の入り口に近いところに支払いコーナーがある。その近くにはフリードリンクコーナーがある。
飲み物の種類はかなり多い。しかもソフトクリームとそれにかけるソース(数種類)まで完備されている。
幸運なことに今のところ店内にいる客はわたしたちを除けば数人程度。
真人(シント)は適当なテーブルにつく。わたしもそれに従い、同じテーブルに向かい合うように座る。
ーーーーこの状況、個人的には有難い話だがそれでいいのだろうか?
自分自身に問いかけてしまう。だけど、口には出さなかった。
「そう言えば、何故こっちに来た?」
わたしと一緒にレストランに入った目付きの悪い少年・・・真人(シント)は改めてずっと思っていたであろうという疑問を口にした。
ーーーーただ、彼の場合少年というにはちょっとガタイがいい身体つきであることは認める。
「・・・あぁ、その話ね」
わたしは忘れていたというより、今までそこまで考えていなかったのだ。
「なんかこっちの方に用事があったんだろう?」
わたしは何も言わずにバッグから厳重に包まれた何かを出すと彼に渡した。
ーーーー保険はかけといて正解である。
「委員長たちから頼まれたお届けものよ。今渡したからこれで用事はなくなったわ」
「・・・物好きだな」
・・・・そこについてはこれ以上何も言うなと言いたい。
「多分だけど、それ、スケベ写真の束だからここで開けるのは勘弁してね」
真人(シント)は眉を動かすことなく言い放った。
「では、トイレのついでに中身を確認させていただこう」
彼は立ち上がった。そして、テーブルの角に設置されている端末を指差していった。
「その間、好きなものを頼むといい。安心しろ、金はある」
·····そして、そのままトイレにいってしまったのだ。
ーーーーいくらなんでも、流石に気が引けるわよ?
難しい問題だが、とにかく欲しいものを頼むとしよう。考えたところで空腹は酷くなるばかりだ。
わたしは端末を手に取ると操作した。
ーーーーまずはフリードリンクのセットを登録してっと・・・・・
・・・・・
わたしは固まった。いきなり異常事態が発生した。当然の事だが、頭が混乱したのだ。
ーーーーなんで、アルコールなしのフリードリンクのコースが3種類もあるのよ!!!??
危うく声に出すところだった。
とりあえずここは一旦落ち着いて、一番安いのにしておこう。
問題があるなら勝手に変更するだろうし。
わたしはフリードリンクのコースを設定し、そのまま端末を操作し始めた。
オススメメニューをみるがそんな気分になれない。
そもそもオススメメニューがハンバーグのセットメニューばかりで気が乗らなかったは認めよう。
しかし、ここはハンバーグレストランである。
そして、本日のイチオシメニューはキノコがたっぷり入ったクリームソースハンバーグセットであろう。
5種類のチーズがブレンドされた濃厚なソースと言う説明を読むだけでお腹の虫がソプラノ調でオペラを歌いそうになる。
息を整え、心を平穏に保つ。
ーーーー落ち着けわたし。それより食べるべきものがあるんじゃないかな。
そして、他のメニューを開いた。心踊るものが目に入った。
ーーーー魚介のパエリア!これだ!わたしは
これを食べたい!
わたしは注文リストタブ2に真っ先にそれを登録した。
ーーーー後悔しないコツの一つに自分の心に正直であれとある。
何故タブの2番にしたかと言うとわたしは飽くまでおまけだからである。
さて、このパエリアだけではわたしのお腹は満たされないだろう。
ーーーーこういう時はサラダである。
頼むのはバジルのマカロニサラダ。
トッピングはトマト・粉チーズ・チキンとしよう。
わたしは今の時刻を確認したくなった。制服の胸ポケットに入っていた自分のデバイスを手に取った。
デバイスの画面は真っ暗。どうやら電池切れを起こしたみたいである。
ーーーーこれは困ったぞ。
わたしはテーブルの上を確認した。
そこにはデバイスを入れるだけで、デバイスの充電ができるチャージスポットがある。
ーーーーおおっ!これはありがたい。充電させていただこう。
わたしは中くらいコップと同じ大きさのチャージスポットにデバイスを入れる。
カランと言う音ともに充電が開始される。
ーーーーー真人(シント)が言っていたスペシャルプリンパフェが気になるからみようっと。
わたしは端末を操作し、デザートメニューを画面に出す。
ショートケーキやチーズケーキ、プリンタルトにフルーツパンケーキ・・・いろいろ美味しそうなデザートが載っている。
ーーーーこうなるとスペシャルプリンパフェに対して期待してしまう。
顔をにやけさせながら次の画面を呼び出そうとした次の瞬間ーーーー
「エマンジェンシー!!エマンジェンシー!!エマンジェンシー!!」
わたしのデバイスから大きな声が店内に響く。
ーーーーエマンジェンシーコールだ。誰だろうか?
わたしはエマンジェンシーコールを切りながら自分のデバイスの画面を確認する。
ーーーーあれ?委員長の前澤君だ。何事だろうか?エマンジェンシーコールを使うほどの事態がおきたのだろうか?
わたしはデバイスを操作し、前澤君とコーリングする。
「あれ?委員長。わざわざエマンジェンシーコールを使うなんてどうかしたの?」
『ごめん。なかなか繋がらなくて・・・』
ーーーーわたしのデバイスは電池切れを起こしていた。全く連絡がつかなかったんだ。当然慌てるであろう。何の用事かわたしはわからないけど。
「そうそう。例のブツはわたしたわよ」
『・・・・今なんて?』
「例のスケベ写真、言われた通り届けたわよ」
『ーーーーー!!!!!』
デバイスから凄い叫び声が聞こえた。
『・・・・どうしよう。金城君がおしっこ漏らして気絶しちゃった・・・』
ーーーーまずは言いたい。金城君、何をやったんだ?いや、何をわたしに届けさせた?
「余程趣味が悪かったのね」
わたしは冷たく言い放った。
ーーーー言っておく。わたしはこれ以上この事に関して首を突っ込む気はない。
去年の遠足、遊園地で嫌がるわたしをお化け屋敷に連れ込んだ罰だ。慎んで受けていただこう。
「おーい、誰と話している?」
よく知っている声がした。真人がトイレから戻ってきたのだ。
ーーーーナイスタイミングである。
「委員長。代わりに話してくれる?わたしもトイレ行きたいから」
わたしは彼に自分のデバイスをわたした。そして立ち上がり、行った。
「・・・・わたしのデバイス、壊さないでね」
彼ににっこりその言葉を告げると足早にトイレに向かった。
・・・・・・
ーーーーあースッキリした。
わたしも行きたかったんだよね。
わたしは用を済ませて、個室を出て、手洗い場で手を洗った。そして、備えつけられたペーパータオルで手を拭き、使用済みのペーパータオルを近くに設置されたゴミ箱に捨てる。
・・・・そう言えばさっきから何かが焦げた臭いがするが気のせいだろうか。
わたしがさっきペーパータオルを捨てたゴミ箱からその臭いがしていた。
ーーーーわたしは思わず、祈ってしまった。
あの3人が真人に殺されないことを。
わたしはトイレから店内に戻るとまずは自分が座っていたテーブルの様子を確認する。
ーーーー真人はまだ話をしているな。
とりあえず、わたしは先にフリードリンクの注文を飛ばしていたのでフリードリンクコーナーに向かい、二人分の飲み物を取ってくる事にした。
ーーーー流石コースが三種類あることあって種類が多い。
よし!ここは麦茶だ!麦茶にしよう。
わたしはグラスを2つ取り氷をそれぞれに何個かずつ入れる。
そして、機械にセットし麦茶をグラスに注ぐ。
おぼんを手に取り、麦茶が入ったグラスを2つ乗せた。そして、それを自分が座っていたテーブルに持っていく。
持っていこうとした時、ちらっと見たら話は終わったようだった。
「戻ってきたよ。ついでにお茶も持ってきた」
「あぁ、わりぃな」
わたしは麦茶の入ったグラスを真人の前に置いた。おそらく交換と言いたいのだろう。その流れでわたしのデバイスを渡した。わたしはそれを受け取り、もう一つのグラスをテーブルの上に置くとそのまま席についた。
そして、グラスに入った麦茶を少し口に含み、口の中を湿らせる。
このまま飲み干してしまいたいが、少ししたら料理が来るだろうから我慢した。
「・・・気にならないのか?」
「聞いても仕方ないもん。まぁ、ご飯が美味しくなくなるだけだから、今は聞かないー」
「・・・そうだな。そろそろ料理が来るしな」
真人の後ろの方を見ると店員が料理を持っている姿が見えた。
ーーー真人の言う通り、ホントに料理がきた。
テーブルの上に並べられた料理の数々・・・10は満たないが。
まず、目につくのはハンバーグステーキ。しかも5皿もある。
そのうちのひとつ、キノコクリームソースがかかったものがわたしの前に置かれた。
ーーーー待った。頼んでないぞ。好きとか嫌いとかそれ以前の問題だ。
なんで、頼んでないものがわたしの目の前におかれてる?
そして、残りの4皿は真人の前に置かれた。それぞれ、トマトソース、デミグラスソース、照り焼きソース、後の一つは大根おろしがかかっているからおろしポン酢か。それぞれかかっているソースが違う。
ちなみに申し訳ないと言いたくなるサイズの野菜サラダとスープ、そしてちょっとしたガーリックライス。サラダにはおそらく青じそドレッシングがかかっている。
真人の方は問題ないと言いたいところ。問題はわたしの方だ。
魚介のパエリアとバジルのマカロニサラダはわたしが頼んだものだからあるのは当然。
ーーーーなんでキノコクリームソースがかかった結構サイズがあるハンバーグステーキがあるの!?
「お客様、デザートのスペシャルプリンパフェは食後にお持ちしましょうか?」
店員さんがわたしに向かって聞いてきた。
「お願いします!」
わたしは思わず返事してしまった。
ーーーーだから頼んだ覚えないって!!
わたしはひたすら心の声を押さえ込み、飲み込んだ。
おそらくわたしは真人にしてやられたのだろう。
ーーーーここまできたら、やけになるしかない!!わたしの前にきた料理はわたしのものだ!全部食べてやる!謝ったところでわたしは知らないぞ!!!
「・・・さて、腹がふくれたところで話をしよう」
真人は、テーブルに備えつけられた紙ナプキンで口の周りを拭いながら言った。
「・・・そうね。どこからにしようかしら」
わたしは巨大なプリンパフェに悪戦苦闘していた。
「・・・少し待つぞ」
わたしの様子を見て彼は言った。
「結構カロリー使うからいい!」
わたしははっきり言い返した。ムキになっていたのは認める。
「そう言えばわたしのことを半端者って言ってたよね?じゃあなたは、一体何なの?完成者?それとも完遂者?」
わたしはその言葉に対して覚えた怒りを言葉に変え、そのままぶつけた。
「・・・能力者」
彼はわたしが放った嫌みに近い怒りの言葉に動じる事なく応えた。
「何?それ?」
「・・・オレみたいなヤツの事だ」
「そんな説明でわかるか!?」
彼はわたしの抗議の声にフンと笑う。
「・・・どうやら、天下の優等生サマには理解し難い話のようだな。オレに説明を求めたところで欲しい説明をしてくれるとでも?」
ーーーーハメられた。変に何なのか説明を求めたのがそもそも間違いだったのだ。
・・・・そうだ。プリンパフェをつつきながら考えろ、わたし。
・・・・まずはあの男とわたしの違いだ。
「つまり、お化けをなんとかできる力を持っているってこと?」
「その認識で問題ない」
真人は表情変えずに応えた。
ーーーーそういうことか。
「となると、わたしも・・・」
「これ以上は言わない方がいい」
「なにかあるの?」
「いろいろとな。場合によっては・・・になる」
ーーーー隠していることはまちがいないが言いたくないのだろう。
「ひとつ聞くとするなら、なりたいかなりたくないかだ」
真人の言葉は表情の重たさからかなり重たいものであることはわかる。
選択肢を間違えるな・・・というよりオレの望まない選択を選ぶなとも言っているようにも感じる。
「いきなり言われても・・・」
我ながらにごもっともな回答だ。ただ、このまま目の前の男に頼りっぱなしなのは自分でもどうかと思う。
ーーーー純粋にわたしは知りたいのだ。何を隠しているのか?何故隠すのか?
「ただ、オレ個人としてはオススメしない」
わたしが悩んでいる姿を見て彼は話を始めた。
「互いに殺伐としている。おそらくなにもかもが信じられなくなる。場合によってはこのオレですらも」
・・・そこまでいうならそうなのだろう。ただ実を言うと個人的に気になる話がある。
「・・・ところでさ、なるにはどうすればいいの?」
これ次第とは言いたくはない。しかし、気になるには変わりない。
「そうだな・・・適当なところに放り込むのも一つの手段だが・・・」
ーーーーおそらくだが、怖い想いをしろと言いたいのだろう。その理屈は間違ってない。
「一番早い方法はオレみたいなのとまぐわえばいい」
・・・・・却下。
今の話はなかったことにしよう。
わたしは何も聞いていない。そうだ、何も聞いていない。
「・・・やめておく」
「・・・・なんか気に入らんが、それがいいだろう」
「まぁ、仕方がないよね・・・」
わたしはまだ少し悩んでいるのだ。
「そこまで気にする必要はない」
「どういうこと?」
わたしは真人の言葉に思わず反応した。
「ここに入るとき見ただろ?」
「封筒を持ってきたカラスのこと?」
「そうだ」
大災害で人類どころか地上の生物の大半が死んだご時世、ペットとして飼われていた犬や猫どころかカラスのような野生の鳥を間近で見る機会などそうそうにない。
ましてや、足が三本あるカラスだ。しばらく頭に焼き付いている。
「・・・つまりだ。ああいうやつに狙われてくれる方がオレ個人としてありがたい。あっちから来てくれるからな」
わたしはなんとも言えない顔でこの男を見ているだろう。
ーーーー話をまとめるとだ。
わたしは特異体質(ということにしておこう)でお化けの類いが寄って来やすい。ただ、お化けをやっつける力は持ってないのでお化けやっつける力を持っている人間に頼らざるおえない。
ぶっちゃけ言うとやっつける力を手に入れるにはいろいろ嫌なことをしないといけないのでしない・・・正直に言えばしたくない。
ただ、やっつける側の人間から言うとやっつけたらやっつけた分だけお金が入る。どうやら登録とか必要みたいだけど。寄ってくるお化け次第では一攫千金も夢ではないだろう。
・・・・・・という事なので別に問題ないらしい。
さてここからが問題。わたしはどうすればいいのか?
言わせてもらえば気にしなくてもいいのだが、なんか怖い気がするのだ。
「このままそういうやつらの処理をオレに頼めば今まで通り暮らせるって訳だ。多少のおこぼれももらえるおまけ付きでな」
「・・・お願いして大丈夫なの?」
「オレは構わん」
彼は続けた。
「最終的にはそれなりのものをお支払いしていただくつもりだが」
そして小さくはっきりした言葉が耳に突き刺さった。
背筋が凍った。おそらく能力者特有の冷血さだろうか。
ーーーーそれなりのものをってなんだ!!?考えるだけでも身の毛がよだつ!
「さて、優等生サマ、どうする?断ればどうなるのと思う?」
ーーーーそうか。わたしは追い詰められたのだ。断れば最悪の事態になる。了承すれば今は最悪を免れる。
「・・・聞きたいんだけどそれなりってなんなの?」
「それなりはそれなりだ」
真人ははっきり応えた。本人はかなり決めているつもりの顔だろう。
ーーーーもしや、これは何も考えてない?運が良ければホントに最悪の最悪は避けれるんじゃないだろうか?
わたしは確実に勝てないギャンブルはしない主義だが、ここは思い切ってのるとしよう。
「まぁ気になること多いけどいいわ」
「・・・そうか。まぁ、安心しろ。それについてはオレの方は問題ない。ただ、確認したいことがいくつかある」
ーーーーなんだろうか?
「まずはな・・・」
彼は言葉を選んでいるのだろうか?
かなり考えている。相当考えている。
ーーーー実はオーバーヒート寸前まで行ってたりして。
「・・・まずは迷惑じゃないか?オレがこういう事を引き受けた以上、オレが近くにいる頻度が上がる」
「いやぁ、別に。むしろ大歓迎。必要なら合鍵渡すし」
「・・・」
真人は固まった。
わたしの反応が彼が思っていたよりあっさりし過ぎたせいだろう。
「・・・仮にだ。ノースユーロからいきなり両親が来たらどうするんだ?」
「大丈夫。取って置きの秘策がある。その時はわたしの言う通りにしてね。取って置きの秘策だから直前までは内緒だけど」
わたしは笑顔で返した。
顔に出てないが真人は焦っている。
「・・・秘策?」
「うん、直前までは秘密。わたしには取って置きがあるから」
ーーーーもしや、オレはハメられたのではないだろうか?と言いたい顔になってる。
我ながらに最高級の笑顔をしているのにちょっと心外である。
「まぁいい。よくわからんが問題ないのだろう。感情的にはどうなんだ?」
ーーーー感情的?どういう事だろうか?
つまりわたしの事だろうか?
「そこら辺は問題ないよ。別に一人だから住民が増えたってかまわないし」
「・・・・」
真人は黙っていた。
なんか、オレ不味いことを言ったか?と言う顔になってる。
「・・・うん。大丈夫。全く問題ないわ。ということで合鍵いる?」
「・・・やっぱり何を考えているのかわからん」
わたしは彼の様子を見て話を変えることにした。
「さっきからずっと思っていたんだけどほかにもいるの?」
わたしは敢えて能力者とは言わなかった。
「あぁ。オレの弟もそうだ。他にもいると思うが実際はわからん」
「そうなんだ。ホントはたくさんいるけど、みんなあなたをみて隠れていたりして」
「・・・失礼な!と言いたいが、実際は登録を嫌がる連中が多いのは確かだ」
ーーーーそういう意味ね。確かに誰かに管理とか監視されるのは嫌な気持ちはある。
「そうなんだ。見たらそういうのはわかるの?」
「まぁ、なんとなくだがな」
「やっぱり雰囲気が違うの?」
「何となくとしか言えん。おそらく、一クラスに二人か三人はいるだろう。大半は優等生サマと同じようなヤツだが」
「なるほど。他にそういう人には会ったことはあるの?」
ーーーークラスメイトにもいるんだ。いてもわたしと変わらない感じなのね。
「いろいろあって関わり合いになってる人物もいる。ただ、一人だけ妙なやつがいる」
ーーーー妙なやつ?
「なにそれ?」
「裸同然の格好して羽根生やしているやつだ。オレはオズと呼んでいる」
彼は端からみたらすごく変な話をしているが顔は真顔だ。
ーーーーずっと思うんだけど、真人。あなた、さっきから笑ってないけど疲れないの?
そこら辺はあなたの自由だけどちょっと笑ってくれないとわたし、疲れちゃうよ。
わたしは口にしたい言葉を我慢して言葉を返した。
「呼んでいる?正式な名前があるの?」
「あぁ。たぶん偽名かなにかだと思うが覚えてない」
「・・・・そんなやつがいるんだ」
ーーーーしかしそんな変態的なやつ、いやむしろ変態そのものみたいなやつがいたら多分なんかの話題になりそうだけどなってない。
「オレもいいか?」
「いいわよ」
「それ、いつからだ?」
ーーーー多分お化けみえるのはいつからだと言いたいだろう。これについて嘘つく必要なんかないから正直に言うか。
「ごめん。いつからなんか覚えてない。かなり小さいころからだったのは間違いないけど」
「そうか」
「で、あなたはどうなの?」
「オレか?オレは赤子の頃からだ」
「・・・・」
わたしはいろいろ想像した。
ーーーーなんか大変だったんだろうな。彼の両親は。そもそも生まれて間もない赤ちゃんの手から火とか出てたらパニック映画も真っ青の大混乱である。
「驚く必要はない。そういう家系だ」
「そうなの?」
ーーーーこの男、わたしのなんかいろいろ思う顔見て言葉を発したな。一般論から言えばどこから驚けばいいのかわからないくらい理解しにくい話ばかりだけど。
「そのうち慣れる。そうだ。誰かに話したことはあるのか?」
ーーーー思わぬ質問がきた。
「基本的には話すことはないわよ。もし口の軽い人に話したら・・・・」
「おそらく大騒ぎどころか今の今までオレが気付かないってことはないだろう」
「ただね、ここ日本に来てから一回だけ、一回だけあるのよ」
ーーーー当の本人は覚えているかどうか知らない。いや、推して知るべしであろう。
「一回だけ?」
「まぁ、その時はやれ気の迷いだとかなんとか言われて全力で気のせいみたいな言い方されたんだよね。まぁずっと見えてましたって言わなかったからそう言われたかもしれないけど」
ただでさえ難しい真人の表情がますます難しくなった。むしろ驚きに近いとも言えよう。
「まさか」
ーーーーそのまさかだ。
「お化け屋敷にいるお化けに追いかけられてとか言い出して。全力で走って、たまたまオレのほぼ真後でずっこけて、後を振り向いたら何もいないとか言われたら・・・気のせいと言うしかないだろう」
ーーーーギャグみたいな話だが事実である。
「まぁ、その時はパニックになってたから仕方ないでしょ」
わたしは落ち着いて器に残っていたプリンパフェの残骸を口に入れる。
「・・・オレには理解できない不可解な行動の理由はこれだったのか」
ーーーー変なところで納得するな!
って口に出しても疲れるだけだから言うのはやめた。
「だってさ、近くにいたらお化けが見えなくなるもん」
ーーーー利用しているわけではない。何故かそういう現象が起きるからついついである。
もちろんテストに出るところを周りにバレないように教えたりしているときもある。今回のテストはそれができなかったけど。
「・・・これで理解した。何かあれば正々堂々とオレに頼れ。大抵のことはなんとかする」
真人は続けた、これは念押しだろう。
「先に言っておく。変なことを考えるな。自分一人の力でなんとかしようとかな」
「わかった。これでいろいろ相談できるようになったと考える」
「それでいい」
「でもあなたではどうにもできないこともあるんじゃないの?」
「今回のこともそうだ。オレより強いのがわかっているだけでも二人・・・いや一人いる」
ーーーーなんか怪しい。何故わざわざ訂正した?
「つまりそうそうにないから安心しろって言いたいのね」
「そういうことだ。変に首突っ込んだりはするな」
ーーーー彼なりの警告だな。彼の目的の大半はわたしの危険回避だろう。いろいろ隠している事の理由もそこから来ているだろう。
「で、このあとどうするの?」
「・・・」
彼は黙った。元々口数は多い方ではないがかなり言いにくい内容だろう。
「まぁ、わたしを家まで送ってくれるのは確定で・・・」
「・・・実を言うと頼みがある」
「頼みって?」
「しばらく・・・そっちに・・・」
真人は凄く言いにくいそうだった。なんとなくだが、察した。
ーーーーそういうことか。あの廃神社の辺り、ぶっ壊れたりしているだろうから、しばらく家には帰りにくいのだろう。
「別に構わないわよ。わたしの言う通りにしてくれたらね」
「いいのか?」
「別に構わないわよ。もしもの時の心配なんていらないから」
彼は黙った。考えているのだろう。
「まぁ、こういう時くらいは頼ってほしいわよ」
それでも彼の顔は難しかった。
「・・・そこまで言うなら甘えさせてもらおう」
やっと彼は納得した。
「決まりね」
しばらくフリードリンクを楽しんだ後、わたしたちはレストランを出た。
彼はライナーの駅の近くにある商店に寄りたいと言ったのでその通りにした。
「ほら。しばらくの必要経費だ」
彼はわたしにチャージカードを渡した。
「まぁ、ホントは必要ないんだけど。今はきついから。預かっておくって形で」
彼はわたしを見て思うところがあったのだろう。
「それにオレの着替えは明日モールに行って買えばいい・・・」
「そうだね」
ーーーー今は家に帰ることだけ考えよう
ライナーの駅に着くとチケットを買い、乗り場に向かう。時間が来るとライナーが到着し、わたしと彼はそれに乗り込む。
「ところでさ、断られたらどうするつもりだったの?」
わたしはライナーの中でふとした疑問を口にする。
「アテはある。近所に住んでいるのでもいいが、今回の一件で金城や委員長にも頼みやすくなったからその辺りに頼んだかもな」
「ないわけじゃなかったんだ」
「まぁな」
ーーーー金城君。わたしが引き込まなかったら死んでいたな、多分。
ライナーがわたしの家の近くの駅に着くと降りてそのまま真っ直ぐ向かう。
ーーーー遅くなったがやっと念願の我が家にたどり着いた。
まぁ誰もいないし、オマケがついてるけど気にしない、いや気にしてすらいない。
多少の飲み物は買ってきたのでそれを彼に出しながらわたしは提案した。
「・・・アレ、やりたい?」
「もちろんだ。オレはまだ優等生サマに勝ってないからな」
ーーーーそういうことね。
わたしは機械をセットすると真人にギアデバイスを渡した。
わたしはもう一つのギアデバイスを自分にセットした。
ーーーーたかがゲームで人は思うかもしれないけど、彼はわたしが勝っている事実が許せないだろう。だからと言って手加減するつもりはない。
わたしと真人はほぼ同時にゲームの世界に入り込む。わたしたちの周りに広がる荒野。ゲームの世界だからただの作り物だ。
お互いに距離を取り、対峙する。そして互いに不敵に笑い、勝負が始まる。
互いに繰り出される拳と蹴りが火花を散らし、空間に衝撃の嵐が生じる。
対戦型格闘ゲーム。結構世界に入り込むから脳の負担は大きい。
もちろん時間制限はかけている。
ストレス発散にはいいと思う。
ーーーーもちろん!今回もしっかり勝たせていただくわよ!
わたしの繰り出した拳が彼にヒットし、沈んだ。
ーーーーまず1勝!!
「言っておくけど最初から全力で行くから覚悟しなさい!!」
わたしは叫んだ。
しかし、真人の反応がない。
ーーーーあれ?悔しいとかなんとか叫びそうな気がするんだけどな。
そういえば、少し前から真人は動いてなかった気がする。
わたしは咄嗟に管理機能を使い、強制的にわたしと真人を現実世界で目覚めるようにした。
わたしは自分のギアデバイスをはずした。そして、真人にかけより彼のギアデバイスをはずす。
「真人!しっかり!・・・って?」
あれ?と思っていたが彼はくーくーと寝息をたてて眠っていた。
まるで無邪気な子供のような寝顔。このまま寝かせるのはいいけど風邪ひくだろう。
わたしはリビングに置いている適当なクッションを枕代わりに真人の頭の下に置き、客人用に隠している毛布を取りだし、彼にかけた。
一息はつくとわたしの身体に疲れが振りかかった。
わたしはそのまま自分の部屋にフラフラしながら向かい、ベッドに入った。
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