第一章 醒(めざめ) 後編

 この夢はここで終わった。


「・・・・くるにゃーん」



 それと目に入ったのは毛がふわふわしている大きな黒い猫。



-----え?猫???



 わたしは身体を起こした。



----か、かわいい!!!



 猫と言う生き物を生まれて初めて見るが、

すごくかわいい!

 触りたい!

 ーーーー触らせてくれるのだろうか?



「・・・・ねこちゃん、おいでー」



「ぷるにゃー」



 可愛く鳴きながらわたしの近くに寄ってくる。

 思わず手を伸ばし、頭を撫でる。

 なんかふわふわして落ち着くが気持ちが高揚する。



「くんくん・・・ご主人の臭いがするんですにゃん」



「そっかそっか、ご主人の臭いがするのね」



----ご主人って誰だろう?



 かく言うわたしと同じ空間にいた真人は、少し離れたところでうつらうつらしていた。

 彼もなんだかんだで疲れたのだろう、多分。



「ねこちゃん、あなたはどこから来たの?」



「企業秘密ですにゃん」



「内緒なのねー」



 わたしはそのまま猫ちゃんと戯れることにした。



「なんでこんなところにいるの?」



「ご主人に頼まれたからですにゃ」



「そっかそっか。んで、そのご主人って・・・・」


わたしがまさかと言いかけた、その時


「おいおい、優等生サマ、死にかけで倒れてた割に元気だな?」



 不機嫌そうな男の声が聞こえる。

 ふと振り向くと怒りに溢れた真人(シント)の表情が見えた。

 あまりにも見たくないものなのでわたしはすぐにねこちゃんの方を向く。


----あぁ、怒ってるな、間違いなく。当たり前だけど。



「ケッ。ケダモノと称したオレ様の横で無防備に寝てくれるとは見上げた根性だな。

 お陰様でたつものもたたなかったぜ?」



 ここまで来ると感情が一周して自棄になっているのがわかる。

 ーーーーその言葉が冗談なのかどうかはとにかくだ。



 今、わたしの頭の中では真人の存在は全力無視である

(ますます彼の怒りを買うのは間違いないのはわかっている)。



「このご主人、嘘が下手くそですにゃん」



 目をぱちくりさせながら、ねこちゃんはいった。

 うん、さすがねこちゃん、冷静である。

ーーーーちょっと待った。このご主人ってことは、ねこちゃんのご主人は複数いるのだろうか?



「ねこちゃん」



「なんですにゃん?」



「ねこちゃんのご主人って複数いるの?」



「ですにゃん。一人はあの人ですにゃ」



ねこちゃんは真人(シント)の方に身体を向けると、

近くに寄ってお腹を見せてゴロゴロ寝転び始める。


----大丈夫なのか?それ?

わたしはその不思議な光景を静かに見守っていた。




「ご主人ー、頼まれものをしたんですにゃん。褒め称えるんですにゃん」



 ねこちゃんは真人の足にくねくねと身体をすりすりしている。ちょっと真人が羨ましい。



「なんだ?媚売っているのか?」



 わたしの心配をよそに彼自身はただ悪くは思ってないのか、

ねこちゃんのお腹の辺りをわしゃわしゃ荒っぽく撫でている。




「違うと思う。なんか頼まれものをしたって」



「・・・・」



 真人(シント)は周りを見て箱のようなものを見つけ、それの中身を確認し始める。



「・・・あのご主人、こっちの言っていることわからないから助かったですにゃ」



「いやいや、ねこちゃんだから、気にしてないよ。もしかして、言って欲しいこととかあるの?」



「いいのかにゃ!?じゃ、次ご飯くれる時は

 ミルクに鰹節をかけたものをいいって言って欲しいですにゃ!!!」


ねこちゃんは興奮しながら訴えた。



「わかった!言っておくわ」



「そろそろお家に帰って寝るんですにゃん。おいとまするんですにゃん」



「バイバイー!ねこちゃん、またね!」



 ねこちゃんは身体を起こし、そのまま姿を消した。



 わたしはねこちゃんの姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 ねこちゃんを見送った後、わたしは現実と向き合わなければならなかった。

 さて、現実と言うのはわたしの目の前にいる男のことである。

 さすがに怒るのは面倒なのか、真人(シント)は至って冷静である。


「言っておくがお前と話していたの、猫じゃないぞ」



「・・・・どういうこと?」



 わたしは首をかしげる。



「そもそも猫って人の言葉をしゃべるか?さっき何も疑いもなく会話してたようだが」



「猫って人の言葉をわかって人の言葉を話できる不思議な生き物じゃないの?」



「どこの漫画の世界だ?それ?よくよく考えてみろ。何を話していた?」



「えーと、まずミルクに鰹節をかけたものが食べたい」



「要望じゃない」




 わたしはねこちゃんが言っていた事を思い出した。



「・・・・あのご主人、こっちの言っていることわからない・・・・」



「それをおかしいと思わなかったのか?」



「全然」



 真人(シント)は片手で額を抑えて息を大きくつく。

 わたしは彼の様子を見て戸惑いを覚えた。



「いや、知らないのは恐ろしい・・・」



 わたしは事態を飲み込めないまま、真人は続ける。



「まずは大事なことを言うと悪いやつじゃない」



 真人(シント)はわたしがとにかくパニックに陥らないように言葉を選び始めた。



「悪いやつじゃない?」



「あぁ、ここの神社の氏神様だ。

 つまり、この神社に本来奉られていた神様だ。オレはねこ神様と呼んでいるが」



「ねこ神様?」



「そうだ。前から気になっていたことだが、まさかオレより見える?聞こえる?」



「・・・・なんの事?」



 わたしは真人の言っていることが理解できなかった。



「鳥人間の話の時からおかしいと思ってたんだ。

 何故、あいつらの言っていることが判るんだ?憶測だったが、今のねこ神様との会話で確信に変わった」



「・・・わかんない」



「わかんないって、まぁ、仕方ないか。

 言っておくが、お前みたいな半端者は

 鳥人間とかここに巣食っている奴等とかにとっては最高級のご馳走だ」



「・・・つまりそれって・・・?」


「優等生サマ、今後の事は後でゆっくり話し合おうか?」


「そうだね、今はここから出る方が大事だし」


ここで真人(シント)は話題を変えた。



「さぁ、まずは勝手ながらだが

 足のやつはオレが丁重に焼いて置いた。もちろん、後処理はしてる」




「焼いた?」




言われた事を理解できないまま、右足の方を見る。

右足のふくらはぎには何か貼られており、その上から包帯が綺麗に巻かれている。

独特の臭いがするがおそらく何かの薬だろう。

かなり多く塗られている気がする。

右足を恐る恐る動かしてみる。

痛みは感じるが、動かせないと言うことはない。



「治るまで最低一週間かかるだろう。後、傷口自体はしばらく見ない方がいい」



わたしは茫然としている。



「・・・痛みはあるけどまぁ、動ける」



わたしは言うべき事は言えたと信じている。



「ごめん。話が跳んで何がなんやら・・・」



「今は無理に理解しなくていい」



真人(シント)はわたしになにかを投げて渡した。



「多少元気になってきているから腹も減ってきていることだろう」



ついでに言わんがばかりにリサイクルボトルの飲み物も差し出す。


「後、紅茶だ。飲むか?」



わたしはこくりと頷いた。


彼にその言葉を言われた瞬間、わたしは数日間続いた寝不足のせいで

感じていなかった空腹感を感じ始めた。



----うーん、そもそもなんで寝不足になっていたんだっけ?



敢えて今は触れないでおこう。

今やるべき事は目の前にある問題を片付けて行く事。

と言うことで、まずわたしはお腹が空いたのでそれを何とかすることにした。

わたしは真人(シント)に渡されたものを確認した。

携帯食の類いだ。変わった生地のクッキーに白いクリームのようなものが挟まれている。

よく聞く食事の置き換えタイプのクッキーがそれに類似するものだろうか。

箱の封を開けて口の中にそれを入れる。

味は悪くないと言うよりちょっと好みだったりする。



「困った事に言いたい事が多過ぎる。まずは聞きたい事はないか?」



わたしは口の中を空にしてから答えた。



「まずはどうやって脱出するの?」



「ややこしいが外に出るための通路はある。そこを行く」



他には?と言いたいような顔をしているので、続いて聞きたい事を口にする。



「ややこしい?なんか問題あるの?」



「そうだ。足手まといにならないようにな」



「足手まとい?」



「あぁ」



真人(シント)は続けた。



「まずここを出るために倒すべきやつらがいるのはわかるよな?

 お前をこんな怖いところに引きずり込んだ奴等だ。

 そいつらに制裁を与えないとオレの気が済まない」




----そっちか!?




「それにだ、ふくらはぎのアレを焼いたと言っても

 聖羅の安全が保証されるとは限らない」



真人(シント)の言葉は止まらない。



「と言うことでここに巣食っている奴等をぶっ潰してから出ることにした」



なんて凄く分かりやすい簡単な説明だろう。

話の内容があまりにも乱暴過ぎるが。

この後、彼の口から飛び出した言葉に度肝を抜かれることになる。



「いいか。ここから脱出するまで何を見ても教科書で見たものだと思え」



余りにもとんでもなさ過ぎるのでなにも出てこない。

・・・・多分、わたしが騒がないようにするための心構えなんだろう。

おそらく真人(シント)なりに頑張って考えただろうなぁ。

----しばらく黙っておこう。まだ食べ終わってないのもあるけど



「後、オレの指示には従えよ。死にたくなければな」



----そうするしかないのはよくわかっているので、

 言わなくて良いような気がするがこれも気が済まないって言うことにしよう。

わたしはどちらかと言えば下手なお化けや悪い人より目の前の真人の方が怖い気がする。


さてさて茫然としても仕方がない。

まずは今まで起こった事を整理しよう。

わたしは何故か廃神社に迷い込み、地下の空洞に引きずり込まれた。

凄い高いところから落ちたようだがなんかわからないけど助かった。

ここからは憶測込みの話だ。

真っ暗なのでわたしはデバイスの灯りを付けた。そして、その近くを真人は通りかかってしまった。

何故彼がここにいるのかは深く考えない。

仮にわたしに何かあったら困るのは彼なので

とにかく細心の注意を払ってわたしをこの空間に連れてきた。

じっとしているときに妙に鈍い音が何回かしたのは何かいたからだろう、多分。

何かって言うのはわたしに危害を加える存在だ。

そして、移動してきた先であるこの明るい空間。ここなら明るいしそれなりに安全だからだ。

それに出入口を今塞いでいるから

彼の中で考えられる最悪の事態はいくつか防げるはずだ。

次にわたしが本物だと解れば後は連れ出すだけだ。

しかし足に変な痣を浸けられたものだからそっちの処理に追われたのだ。



・・・・ん?今思った。

ーーーー呪いを焼く?コケに熱を与える?



真人(シント)の言葉で引っ掛かったものだ。頭の中で反芻(ハンスウ)する。

それとさっきの夢で見た内容、

あれはここで実際あった出来事なのだろう。

これで論理のパズルのピースが一気に揃った。



----彼の言葉に突っ込む気がないだけと言うか突っ込んでも無駄だろうだから、

今の今まで考えてなかったが、これで彼の周りにいて

感じていた不可解な現象についていくつか説明できる。



彼は何か特殊能力の持ち主だ。

これは断定できる。

内容は恐らくだが、何かを燃やす、または熱を与える類いだ。



どんどん論理のパズルが組み上がり、

様々な納得できる仮説がどんどん出来上がる。

この状況は楽しいが、今はこのくらいにしておこう。



「どうした?さっきから何か考え込んでいるようだが」



まぁ、実際問題、何も言ってないから気にかかったのだろう。



「大丈夫。頭の中を整理して状況を七割方理解した」



「流石に2回目になると順応したか」



「この後の事が問題だわ。使い過ぎたんでしょ?」



彼は目を丸くした。

この後の事を考えたろ今確認しないといけない事項だ。



「わたしと言うイレギュラーがなければそういう事はなかったんじゃないの?」



「おいおい、いきなりどうしたんだ?」



「疲弊している?それとも焦ってる?」



----なんとなくだ。彼の様子が少しおかしい。



「・・・ふぅ」



真人(シント)は息を付く。



「ああいったものの、今のオレには自信がない」



「どういう事?」



「実は何回か、ここのやつをなんとかしようかとしてたことがあるのだが、失敗してる」



少なくとも先日鳥人間の大群を片付けた男が言う台詞ではない。

これはないかあるとわたしは踏んだ。



「失敗?」



「倒したはずなんだが何故か復活する。

 しかも酷いときは倒してすぐだ」



「なんかあるわね」



頭の中で一つのピースが填まった。さっきの夢だ!

わたしが気付いたあの変な石だ。

あれも一緒に壊さないと多分復活する。

悲しい事に彼はその石の存在に気づいてない。

指摘できたらいいけどどう伝えるかだ。

と言うか動きを止めてそこをおもいっきり狙ってもらう方が多分早い。


「思い付く限り、手は尽くしてる。流石のオレも手詰まりだ」



「後、他に問題があるんじゃないの?」



「そうだな。後、しばらく優等生サマには捕まったら

 もれなく死ぬ鬼ごっこをしてもらうことになる」



「大問題過ぎる!」



わたしの抗議の声も虚しく彼は続けた。



「安心しろ。したっぱだから撃退できる手段はある」



「撃退?」



「あぁ。幸い、霊晶石でできている空間だ。

 拳大の霊晶石をそいつらの頭にぶつければしばらく消える。

 まぁ、オレとやり合う大物には効果はないが」



---あぁ、良かった。

霊晶石がなんなのか、もうどうでもいい。

とにかく単に逃げるだけで絶対捕まるなとか、

どう考えて無理だ、体力的に。



「それなら多分大丈夫だと思う」


彼にそう応える。



「そろそろ、ここを出るぞ」


「わかった」


わたしはここを離れる準備を始める。

周りを照らすためデバイスを取りだし操作しようとした。



「デバイスよりこっちを使え」



彼はわたしに小さな懐中電灯を渡した。



「いいの?」



「オレは大丈夫だ。それに両手空いてる方がいい」


真人(シント)は刀を抜き、光っている刃をわたしに見せつけた。


----そういうことね。



真人は仕掛けを動かした。

ここの空間に出口ができる。そこは真っ暗な空間だ。

わたしは懐中電灯で中を照らしながら先導し、

彼の指示に従いながら進んでいく。



「そういえば、近代史で習ったろ?数百年前の大災害」



「覚えてる。世界の半分くらいの国が

 海に沈んだやつね。確か、この国も結構沈んだよね?」



「そうだ。日本から近いある国がまるっと沈んだって

 いうのももちろん覚えているな?」



「確か、朝鮮半島でしょ?なんか色んな不幸が度重なって沈んだよね」



ーーーーえーと、台風と隕石とよくわからない地盤沈下だっけ?

今は関係ないけど。



「まぁ、歴史を見ている限り当然の報い受けた

 と言っても過言ではないとおもうが。

 そう、その国の生き残りがこの辺りに流れてきた」


真人(シント)はそのまま続ける。



「当然だが、その生き残りの連中は

 日本政府の方針が気に入らなかった。

 ある術者がそいつらに奇妙な話を持ちかけたんだ。

 この国をひっくり返したくはないか?って」



「そして、みんな騙されて生け贄にされて化け物になっちゃったわけ?」



「おっ流石、優等生サマ。その通りだ」



「この場合、褒められてもあまり嬉しくないわよ」



真人は足を止めた。わたしもほぼ同時に止める。



「さぁて、そろそろ鬼ごっこの時間だ」



「その前にお願いがあるけどいい?」



「聞けるものならな」



「まず、わたしがしたっぱを全部撃退するまで大物倒すのは待って」



わたしは慎重になりながら続けた。



「・・・・取って置きの一撃、

 わたしの言ったタイミングでその大物にぶちかまして」



「へぇ、なんか秘策があるのか?乗ってやるぜ」



彼はニヤッと笑った。




----これでないとか言ったら、殺される

・・・とりあえず逃げながら考えないとなぁ


先ほどよりやや明るい空間。

それなりに走り回れる広さはある。

今、現在わたしの体力を考えると20分くらいが限界。

と言うことはしたっぱを10分以内に撃退して

大物を引き付けながら、そいつの動きを一時的に完全に止める方法を考える・・・・



困った事に奇跡でも起きない限り多分無理だ。

アクシデントと言う名の切り札に期待するしかない。



「・・・・ふぅ」



祈るような気持ちで息を吐き出す。



「なるべく大物に近づくなよ、優等生サマ」



彼は足を踏み出す。

空間の奥の方から不気味な声がした。



「ハハハハハ・・・・諦めの悪いやつだ」



不気味な笑い声と一緒にさっき夢に出てきた

骸骨のお化けが姿を現した。



「ケタケタ不気味に笑いやがって今度こそ、お前を倒す!」



彼は腰に差していた得物を抜いて構える。



----これ、絶対骸骨のお化けが言っていること、わかってないなぁ。



「ほぅ、贄の娘も一緒か」



ぼわぁっと人体模型のような骸骨が、3体現れる。



「あの娘を捕らえろ」



「気を付けろ」



----わかってるわよと言いたいところだが、

あの3体の骸骨の狙いはわたしだ。


何も言わず全力で駆け出した。



骸骨のお化けと彼の攻防の合間をすり抜けながら、

骸骨の3体と鬼ごっこを繰り広げる。



どっかの誰かさんが派手に暴れているお陰で

なんとかの欠片には困らない。

しかも、わたしを追いかけている骸骨の方は頭が悪いときた。



隙を見図り、手早くいい感じのそれを一つ拾い上げる。

そして、颯爽と距離を取り、そのうちの一体に投げつけた。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」



断末魔を上げて一体消えた。

----後、二体!!



「ほぅ、なかなかだ。これはどうかな?」



骸骨のお化けがそれを言った瞬間、

派手に物が壊れる音が響いた。



「好きにはさせないぜ」



----さすが!!

部下を呼ぶ何かを壊したのね!最高!!



わたしは再度走り出す。

今度は同じような欠片を2つ集める。

しばらく走り続け距離を取り、投げつけた。

一体が断末魔を上げている間、じっとしているもう一体の方にも投げつけた。



これでしたっぱは片付いた。問題はここからだ。

走りながら、周りを見たが仕掛けのようなモノはない。

岩とかがちょこちょこ並んでいるだけだ。



「物陰でじっとしていろ!」



彼の声が聞こえる。言われた通り、岩影に隠れた。



・・・・なんか変な音がする。



シュッ!!



思わず身体を寄せる。

見てみると地面から長い骨が生えてきていた。



----これ、じっとしているより、真人(シント)の目の付くところを走った方が賢いぞ!



わたしは真人と対峙している骸骨のお化けが

視界に入るところまで静かに移動した。



ーーーーあぁ、見える。見えるぞ!!

あのお化けの頭の中で変な石がふよふよ動いているのが!!!



戦っている光景から目を離さない様にしながら、

ゆっくり移動する。骸骨のお化けの動向に注意を払い、

近くに仕掛けがないか観察する。



----ダメだ!見つからない。



彼が戦っている光景に視線をやると

表情に焦りと疲れの色が見え始めた。


----しまった!真人の事を考えてなかった。

    悠長にしている場合じゃない!!



わたしはひたすら考えるが、頭の中は焦りの言葉しか出ない。



攻防繰り広げている最中、彼は苦悶の表情を浮かべた。

そしてズボンに下げている小さなポーチに手を伸ばす。

そこから赤い何かを取り出し、口に咥えた。そして、そのまま飲み込んだ。



んで、幸いにもだ、

その赤い何を取り出す際もう一個の赤いそれが地面に転がり、

偶然にも蹴り転がされ、わたしの足元にきた。



----赤い勾玉?



小さいあめ玉より大きい、

わたしの親指くらいはある。何かの宝石の類だろうか?キラキラ光って綺麗。



わたしは閃いた。

この勾玉は丹力とか霊力とかそう言うなんか

よくわからない必要なエネルギーを補給するものだ、多分だけど。


ということはこのエネルギーの塊であるこの勾玉を

あの骸骨のお化けにぶつければ!



わたしは身体を屈め左手を伸ばす。


それが左手に触れた瞬間----



目の景色の色が変わった。

何かに意識を持っていかれそうになる。



----させるか!!!!!



バン!!!



右足のふくらはぎを強く叩いた。



「ッ!!!」



声にならない苦痛の声が出る。

景色の色は瞬く間に戻った。

そしてわたしはそれを拾い上げると握りしめ、ポケットにしまう。



----わたしが触ることによるリスクを考慮することを忘れていた。

いや、今はそれに構っている場合ではない。



これでパズルのピースは揃った。

後は確実に骸骨のお化けを倒すだけだ!



見回すと、攻防は続いてた。

真人(シント)の方が有利と言えば有利だ。

だが相手の方は疲れを知らないのもあって状況を楽しんでる。



攻防から少しいい感じに離れた位置にこれまたいい感じの高さと広さを持った岩がある。

まるでちょっとしたステージいや、お立ち台かしら?


どっかの誰かさんが暴れに暴れてくれているお陰で出来上がった気がするけど、

気にしないでおこう。

ポケットにしまった勾玉を見てみると凄い光を放っている。

このままだと怪しまれて避けられる可能性が高い。



いいこと、思い付いた。



霊晶石の欠片を2つ拾い、勾玉を挟む。

そして、わたしの制服の棒ネクタイを外し、

それをぐるぐる巻き付けて、霊晶石にしか見えないようにする。



運がいいのかそうでないのかわからないけど

棒ネクタイも霊晶石も紺色で端から見たら、判別できない。



----確実に当てにかかる!



そしておもむろにさっき見つけたなんちゃってお立ち台に登る。



----よく見えると感動している場合ではないな。

    ここからが真の正念場だ。



「おじさーん!!最高級のご馳走はこっちよ!」



わたしは叫ぶ。

骸骨のお化けはわたしの方を向き、こっちに飛んでくる。



「何、考えているんだ!戦うな!!そのまま隠れてろ!」



彼の焦りに満ちた声が響く。

今は相手できない。



「とりゃぁぁぁぁ!!!!」



渾身の一発を繰り出す。



何かが崩れる音が聞こえる。見事に当たった!



「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」


絶叫が響き渡る。

骸骨のお化けは光に包まれた。



----頭のあれは動いてない!



「真人ー!今よ!!頭のど真ん中に派手なの一発!!!!」



わたしは全力で叫んだ。



「はぁぁぁぁ!!」



待ってましたと言わんがばかり真人(シント)は、全力の一撃を放った。


彼の渾身の一発を浴びた骸骨のお化けの身体は

瞬く間に崩れ、頭の部分だけとなった。

頭だけになった骸骨のお化けはわたしの方をみて突如笑い出した。



「破滅の力を持つ少女がこんなところにいたとは!!!

 月影様、 破滅の少女はこちらにいましたぞ!!

  野望達成は夢ではないですぞ!!ハハハハハハハ!!!!」



ーーーーガシャン!!!



「ケタケタと!!うるせぇ!!」



真人は骸骨のお化けを踏みつけた。

 そのまま、骸骨のお化けは砂になった。

彼が一撃を放った時にあの変な石が砕けるのを見たから、 おそらく復活する事はないだろう。



ーーーー月影様?一体何者だろうか?



頭の中に疑問が過ったが、わたしは真人には怖くて聞けなかった。



「ふぅ。これで問題の一つは解決したな」



真人(シント)はわたしに言った。



「ええ。これで変な石も一緒に壊したし、復活することはないわ」



「変な石?」



「わたししか見えてなかったと思う変な石」



「・・・あぁ、そういうことか」



よくわからないが納得はしてくれたようだ。



「ところで、何をしたんだ?」



彼は訝しげな顔でわたしを見つめた。



----実を言うと何も考えてないとか言えない。



「えーと・・・・奇跡よ!!奇跡を起こしたのよ!!わたしが」



「はぁ?」



真人は呆れの声をあげる。



「奇跡は起きるものじゃない、起こすものって

 どっかのイケメンが言っていたのよ」



「・・・・奇跡っつーのは滅多に起こらないから奇跡って言うだろ。

 そう簡単にポンポン起こされたらダメだろ。

 って言うかどっかのイケメンって誰だよ?」



凄く冷ややかに論破された。

合理的と言う名の夢がない男である。



真人(シント)は周りを見回し、改めてわたしの方を見る。



「そういえば、優等生サマ、このくらいの大きさの赤い勾玉知らないか?

 なくなったら困るから敢えて優等生サマの近くに跳ばしたのだが」



「ごめん。それ、骸骨のお化けにぶつけた」



ここは正直に言った。

黙っていたところで多分損しかしない。




「・・・・あれ、貴重品なんだけどなぁ」



わたしは固まった。




----まぁ、その手合いのものは基本的に貴重品だから

まぁ仕方ないが命には代えられない。

・・・・・とは言え、言われてしまった以上、




「・・・・あはははは」



ーーーーばつ悪く笑うしかない。



「まぁ、知らなかったから仕方あるまい」



真人(シント)は少し考え込むと



「・・・なるほど、そういうことか。いや、待てよ・・・」



彼は首を傾げる。



「これでここに巣食っている奴を倒したんだから

 後は脱出するだけね」



わたしはさっさと先の事を聞く事にした。



「そうだ。まぁ、次は優等生サマは全力で逃げるだけだから、

 問題ないだろう」



「・・・・どういうこと?」



----さっきも逃げていたんだけど。また逃げろと言うのか。



「さっきのはここに巣食っているやつの本体じゃない。

 むしろ発生源といった方がいいか」



「つまりあの骸骨のお化けは飽くまで前座ってこと!?」


ーーーーローブみたいなのを纏っていたからてっきり大ボスだと思ったじゃないの!!


「まぁ、あいつを倒さないと大元の本体に張られた結界も消えないから

 どうにもならなかった」


彼は至って冷静である。問題はわたしの方だ。


----うわぁ・・・体力、そんなに残ってないわよ!?どうしよう?


と言いたいが動くしかない。

とりあえずお立ち台から降りて歩き出す。案の定、ふらつく。

さっき体力使いすぎたと言うより勾玉を拾った時に

なんか体力を持っていかれたと言う方が正しい。


「大丈夫か?」



真人(シント)はわたしの顔を覗き込む。



「大丈夫、自分でなんとかできる」



身体を動かすがうまく動かない。

右足のふくらはぎも先ほど強く叩いたせいで痛みがひどくなってきている。

勾玉を拾った時の話は絶対黙っておこう。

嫌な予感しかしない。




彼に案内されながら上手く動かない身体を引きずる。



----おんぶなんて情けないのでされたくない。



わたしは意地で自分の足を動かした。

心に募るイライラだけが今のわたしを保っている。

身体は変わらず上手く動かせない。


----この後、どうするの?どうなるの?

考えたくない。でも考えないとダメだ。


頭の中で考えは過るが口には出さない。

今は互いに無言。ただ、暗い道を進んでいくだけ。


真人(シント)は足を止めるとわたしの方に向いた。



「・・・・ぬっ!?」



何かを口の中に突っ込まれた。

口の中に広がる甘い味。チョコの類いだろうか?


思わず、咀嚼して飲み込んだ。



「何、してんのよ!?」



わたしは行動に対する抗議の声を発する。



「ほぅ。なかなか威勢が良いようで?残り半分食べるか?」


半分に割ったそれを見せる。

栄養食の大きなビスケットだ。

しかもチョコでコーティングされている。



「だから、何してるのよ?」



「さっきからご機嫌斜めだったみたいからな。

 ちょっと腹減ってるのかなと思って」



彼は悪戯をした子供の様に笑う。

ーーーー何を考えているのだろう?


「えーと、気遣いってやつ?

 生憎だけど今はお断りよ。考えたくないけど考えなくちゃいけない」



「何をだ?優等生サマは逃げるだけだって言っただろ?」



彼は手に持っていた残り半分を口に放り込む。



「・・・あなた、まさか、死ぬつもりなの!?」



どこから取り出したのかはわからないが

リサイクルボトルの飲み物で口を潤した後、彼は続けた。



「おいおい、それは短絡的だぜ?誰が死ぬって言った?」



「だって、言っていることから考えて

 わたしはあなたを置いて逃げろっていいたいんでしょ?」



彼の顔はさっきの笑顔から真面目な顔へと変わる。



「そうだ。近くでチョロチョロされると足手まといだ。

 安全?保証できると思う?ならまだ安全なところに行ってくれた方がマシだ」



・・・残酷だ。でもそれが現実。

何もできない自分に苛立ちを覚えてしまう。



わたしは何も言えなかった。

言葉が出てこなかったのだ。



「さぁ、外にでるための仕掛けのところまで

 走ってもらうぞ?今全力で何分走れる?」



「今だと10分くらいが限界かな」



「上等だ」



彼は振り向いた。



「ここからは、オレの言う通りにしろよ」



彼はポーチからさっきのビスケットと似たようなものを取り出すと

封を開けてそれに食らいついた。



「・・・何やってんの?」



「あ?見りゃわかるだろ?」



不機嫌そうに言う。



----あぁ、なるほど、暴れるとお腹空くのね。

わたしもさっき突っ込まれたところだし、何か飲むか。



わたしは鞄から最後の抹茶ラテを取り出し、啜る。



「確実に持たなさきゃね?」



わたしは笑いかけた。


「言ってくれるじゃないか」



「まぁね」



そう言わずにはいられない。



「オレが合図したら後ろを振り向かず、ただひたすら走れ。

 何も考えるな。全力で走れ。行き止まりがゴールだ。

 そこに外にでるための仕掛けがある」



彼の説明は続く。



「しばらくしてもしもオレが来なかったら仕掛けを動かして外に出ろ」



そして彼は不敵に笑う、ニヤリと。



「まぁ、オレは死なねえから、安心しろ」



確証はないが妙な安心感がある。

だが言い返さずにはいられないのはわたしと言う人間の悲しい性分だ。



「もし、来なかったら一生口聞いてやんないからね」



「ケッ。面白いじゃねーか?その約束、守ってやらあ」


真人(シント)はわたしの言葉を突き返した。



しばらく進むと目的地に着く。

入ると明るく広がる空間。

さっきよりかなり広い。倍くらいありそう。



----うん。暴れるには超最適な空間だな、こりゃ。



空間の奥の方に浮いている石のようなもの。

ぶっちゃけ怪しい。

と言うかどう考えてもこれを壊してどうのこうのである。



「よし、結界は消えているな」



「あのさ、ちょっと思ったんだけど、

 あの浮いている奴を壊すんだよね?」



「あぁ。なんか、あるのか?」



ーーーー予感的中である。



「こういうのって罠だよね?ほらゲームであるじゃん。

 なんか壊したら敵にたくさん囲まれるってやつ」



「あるな」



・・・・・だからどうした?と言いたいだろうが、

わたしから言わせてもらえば大問題だ!



「こういうのは敵に囲まれると大変だから距離とって壊すの!」



「・・・・」



真人(シント)は黙った。

ーーーー囲まれる可能性を考えてなかったな、多分。



「大体密集していると結構戦いにくいものよ?まぁ、ゲームの話だけど」



「そもそも、飛び道具なんてそんな都合のいいもの、持ってると思うか?」



わたしはポケットからさっき拾った霊晶石の欠片を見せる。

いい感じに握り拳大だ。



「一発、こっきりなんだからこれで十分」



わたしは自信満々に言い放った。



「・・・・なんでこういつも都合がいいものを用意できるのかが気になるが、

有り難く使わせていただこう」



「・・・ここまでよ。わたしができることは」



わたしはそれを真人(シント)に手渡した。この先の言葉を発する事はできなかった。

彼は仕掛けを動かして道を用意した。

わたしはその道に足を踏み入れた。

わたしはそこに立ったまま息を整える。



「行け!!!」



真人が叫ぶと同時に走り出した。なんかガタガタと言う岩が動く音がした。



走り出すまではよかった。

しかし、足の感覚がおかしい。足が妙に軽い。

なんと言うか軽いと言うよりブレーキが壊れた自転車に乗っている気分だ。

自分の足がそんな感じなのだ。

油断するとバランスを崩して倒れてしまう。

ひたすらバランスをとりながら進んでいく。


とにかく目の前の道を行くしかない。

バランス崩して転けようが何をしようが進んでいくしかない。

泣いても怒っても悩んでも、進まないといけない。

何も考えてはいけない。



今、走ることだけに集中し過ぎて時間の感覚がない。

足が変に軽すぎて体力が消耗している気がしない。



すごい音がときどき聞こえるが、

なんなのか嫌な予感するが考えたくない。



なんだかんだでゴールにはたどり着いた。

道を塞ぐものはないのだから当然だ。

そして、ガタガタと言うすごい音が聞こえる。



今、わたしの目の前には石の壁。

パッと見た感じ、なにも見当たらない。

わたしは口に懐中電灯をくわえて、照らしながら仕掛けがないか探した。

上の方に手を伸ばしそっちにもないのか感覚を頼りにして探した。



わたしの身長より少し高い、手が届くところに、

何か仕掛けがある。ボタンを押すような仕掛けだ。



----おそらくこの仕掛けを動かせば外に出られるだろう。



空間全体にシャンデリアが壊れるような音が響く。

そして、爆音と何かが燃えるような音。

油の臭い、何かが焦げるような臭いもする。



----押すべきかこのまま待つべきか・・・



このままだとわたしの身の安全も保証できない。



わたしは手を伸ばし、仕掛けを動かそうとした。



・・・・できなかった。手が動かない。

この仕掛けを動かしたくない。

そもそも真人!わたしはあなたを置いて行けるわけがないだろ!!!



手を下ろし、荒げる息を整える。

泣きそうになる感情を抑えながら

再度仕掛けに手を伸ばそうとした。



カチッ



何かがスイッチ入る音が無慈悲に響いた。

ガタガタ揺れる空間。

地面が動くような不思議な感覚。



----何故だ!?

何故仕掛けが動いた?

真人はまだここに来てないのに何故だ!!?




「おーい、もういいぞ」



頭が混乱しているわたしの後ろから彼の声がした。



「へ?」



振り向くと真人(シント)はそこにいた。

まぁ、ところどころ怪我しているがかすり傷程度だろう。

しかも割りと元気そうときた。



「おいおい優等生サマ、やっと気付いてくれたのか。

 凄い集中力だな。何回か声かけたんだけど全く気付かなかったぜ」



「・・・生きてるの?」


わたしは絞り出すように言葉を出した。


「失礼な。言っただろ?オレは死なねえって」



彼は得意気に言った。



「なんかいろいろ凄い音したんだけど・・・」



「あぁ、ガソリン蒔いて携帯酸素ボンベぶつけたからな」



わたしは目を丸くした。



「どうした?」


彼はわたしの顔を覗き込む。



「ガソリンに携帯酸素ボンベ?」



----言葉が出ない。



「ほら、炎って神聖なものだから悪いものを浄化するとか太陽と関連するとか」



わたしはただ目を丸くして真人(シント)を見るしかない。



「なぁに。手順はとにかくだ。大事なのは発生源を破壊する事だ」



彼は一息着くと続けた。



「後、言った通りにしてみるもんだ。忠告に従ってよかった」


この様子だとわたしの予想は的中したらしい。


「どうやらお役にたてたみたいで」



わたしは褒められて悪い気はしなかった。

しかし、なんかさっきから嫌な予感がする。



「そうそう。優等生サマ、オレ、一個だけ言い忘れてたことがあるんだ」



「え?」



彼はわたしの身体を軽々しく持ち上げる。

嫌な予感が的中した。



「後、一回だけ怖い想いをしてもらわなきゃいけないって事さ」



彼はニッと笑った。

そして、ガタガタと言う音。

音がしたと同時にわたしは彼の手によってどこかに投げ込まれた。



「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



絶叫が響き渡る。

真っ暗の中身体が滑っている。

うつぶせの状態で滑り台を滑っている感じだ。しかも、凄い勢いで。



瞬く間に真っ暗な空間から明るいところに出た。



----ドスンっ!



わたしは座布団が積まれているところに頭から突っ込んだ。

座布団のお陰で壁にぶつかってないからあまり痛みはない。

頭から突っ込んだので状況がイマイチ理解できない。



「おっ。今日は白か」



なんか、おしりの辺りがスースーする。

彼の声が聞こえたと同時に身体を急いで起こし、座り込む。

言うまでもなく睨み付ける。



「何、見てるのよ?」



「大体、あの状態でしばらくいるのが悪い」



「ぐっ・・・」



怒りは込み上げるが我慢するしかない。

たどり着いた空間は和室だ。

どうやら掛け軸の後ろから出てきたらしい。

ちなみに結構広い庭も見える。

わたしは急いで靴を脱ぎ、畳が汚れないように手に持った。



「ここはどこ?」



「オレの家だ。茶でも飲むか?」



----なんか腑に落ちないけど、いいや。


わたしは返事をしようとしたが彼の顔が青ざめた。

なんか人の足音がする。



「悪いな!!また後で」



彼は凄い勢いで部屋を出る。

そして、そのままどこかへ去っていった。



----なんか、凄い勢いで跳んで行ったぞ。本当に忍者かなんかか?



「真人(シント)の友達か?」



突然耳に入る男の声。

ふと見るとさっき夢に出てきた男の姿があった。

真人の父親だ。当たり前だが夢でみたより老けている。


「あっ、どうも。わたしは真人くんのクラスメイトの聖羅って言います。

 あの、わたし、用事終わったので失礼します!」



わたしはばつ悪く急いでそこを走る去る。



「しかし、あいつも隅に置けないなぁ」



優しい声がわたしの耳を撫でた。



そのまま勢いでバス停に向かい、来ていたバスに乗り込んだ。

ライナー乗り場がある繁華街に向かう。

わたしはバスの中でぐったりしていた。



終点である繁華街に着いた。

そして、バスを降りてライナーの時間を確認する。

わたしが乗るライナーが来るまで半時間はある。



「よう、優等生サマ。こんなところで会うなんて奇遇だな」



ふと、声が聞こえるが無視。

ーーーーもう疲れた。わたしは一刻早くお家に帰ってベッドで寝たいのだ。



「おいおい、連れないなぁ?」



無視を続けていたところ、彼は更に声をかけてくる。

端から見たらちょっと悪い大人が

学校帰りの女の子を口説いているみたいに見える。



ある意味間違ってない気がするが。



「申し訳ない。わたしは疲れているのだ。連れないとか言われても困る」



わたしは冷静に突き放す。



「まぁまぁ。そろそろ時間も遅い。危ない時間だぜ?」



この男は言ってた。

わたしのような半端ものは人在らざるものたちのご馳走だと。



「なるほど・・・それは脅しかしら?」



息を飲み込みながら聞き返す。



「単にオレと一緒の方がいいって言う話なだけだ。

 腹減ったから、そこで飯食いながら話し合おうぜ」



彼の指差した先には大きなレストラン。

全国チェーンで、ハンバーグをメインにしているところだ。

値段は割といくほうである。わたしが空腹かと言えば否定しない。



「ごめん。持ち合わせない」



「出してやるよ。デザートにプリンパフェとかあるぞ」



プリンパフェの誘惑にのせられかけたその時、

空から黒いものが飛んできた。



「・・・あ」



わたしは知っている。

黒いものの正体はカラスだ。

封筒を持っている。なんか分厚い封筒だ。



「お、きたきた」



カラスは真人(シント)に封筒を落とすとそのまま去っていった。

・・・・あのカラス、おかしい。足が三本ある。



「おぉっ!!被害が半端ない割に結構入っているな。

 半分くらいは貯金で・・・今日は贅沢だな」



・・・封筒の中を物色してる。



「それはなんなの?」



「金だ、現金だ」



----見りゃわかる。



真人は封筒をポケットしまうとわたしの腕を掴んだ。



「んじゃ、行こうぜ」



「え?」



わたしは半分引きずられるようにレストランに入った。



----彼との奇妙な関係はしばらく続きそうだ。

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