④討伐

 僕が冒険者ギルドに登録してから7年が経った。20歳になった僕は無事にA級冒険者の地位を手に入れている。立場に見合うだけの実績と信頼は、これまで影の薄かった【魔力感知】スキルによるものだ。このスキルは周囲にある魔力を感知するものだが、強化を重ねるうちに感知範囲が格段に広がり、特に強大な魔物を遠距離から探知できるようになっていた。それだけ街にとっての脅威を早い段階で摘めるということで、僕が滞在する街では魔物の被害が半減するらしいなどと歌物語で語られるようにまでなってしまった。

 そんなヴェンデリン・ヘールツ20歳のステータスがこれだ。


―――――


Hard:ヴェンデリン・ヘールツ

固有能力:【ガイド】

肉体能力:【魔力操作VII】【生活魔法VI】【身体強化V】【エメレンス語IV】【魔力感知VI】【剣術IV】【重心移動VI】【火魔法IV】【土魔法V】【回復魔法V】【耕作IV】【持久走VI】【毒耐性II】【病気耐性II】【気配察知II】【野営術II】【解体II】【水魔法I】【風魔法I】【盾術III】【槍術I】【気絶耐性I】【交渉I】【視覚強化I】【聴覚強化I】【麻痺耐性III】


Lv:131

MP:C

STR:C

VIT:B

DEX:D

AGI:D

CAL:A


―――――


 あれ以来、必要に駆られない限りは積極的にスキルを取得しては来なかった。どちらかと言えば取得済みのスキルを磨く方を優先してきたと言っていい。特に生命線たる【魔力操作】、【魔力感知】による遠距離魔法戦闘と、【剣術】、【重心移動】、【持久走】、【回復魔法】を軸とした長時間近接戦闘が僕のウリだ。

 高いMP・CAL・VITのおかげでどちらを軸にしても長時間戦闘ができるので、3年ほど前からは魔物大氾濫スタンピードの予兆が見られるとまず僕に指名依頼が来るようになった。多種多様な魔物と長時間戦闘ができる魔物大氾濫は、より多くの経験値を得られるボーナスステージだ。


 そんな単騎に向いた性能を持つ僕だが、実のところソロではない。正確にはパーティーとしてはソロ扱いなのだが、必ず同行するパーティー……、もとい冒険者がいるのだ。

 妹――マルヨレイン・ヘールツである。

 マルヨレインが極めて優秀な【回復魔法】の使い手であることは前に語った通りだが、それと同時に極めて珍しい【雷魔法】の使い手でもあった。魔導学校にて極めて優秀な成績を収め、閲覧を許可された古代文献から【雷魔法】の使い方を体系的に整理したらしい。整理した使い方はその大半を彼女が保管しているらしく、魔導学校のお歴々は彼女に頭が上がらないという。

 そんな【雷魔法】だが、正直なところ基本四属性たる【火魔法】【水魔法】【土魔法】【風魔法】よりも殺傷力が極めて高く、MPの高い僕でさえ迂闊に触れれば行動不能に陥ってしまう。【麻痺耐性III】を取得しているのはマルヨレインとの模擬戦を繰り返したからに他ならない。【野営術】を取りながら【調理】を取得していないのも、彼女が率先して野営食の調理を行うからだ。

 斥候職スカウト壁職タンクの僕と回復職ヒーラー攻撃職アタッカーの妹のペアは相性が極めてよく、<ヘールツの機動鎧リビングアーマー>などと呼ばれているとかいないとか。


 いくつもの街を救い、このままいけば英雄と呼ばれるのもそう遠くない未来である僕たちだが、幸か不幸か未だゴブリンキングとは遭遇できていない。それよりも強力なオークキング最高級焼肉セットオーガキング報奨金詰め合わせは幾度か遭遇しているので、単に巡り合わせが悪いだけだろうと思っている。

 魔物大氾濫ガチャを引き続ければいつかは引けるだろうと、淡々と指名依頼をこなしていた時。冒険者としていっぱしになってからはほとんど雑談相手としてしか活躍していなかった【ガイド】が終わりを告げるメッセージを告げた。


 ――ゴブリンキングを含む魔物大氾濫がこの街の近くで発生しました。






 今回の魔物大氾濫は街に比較的近い場所で発生していた。とはいえ街にたどり着くまでには2日ほどかかるようで、接敵までにいかに敵を減らすかが問題だった。

 よって、長時間高パフォーマンスで戦闘継続が可能な<ヘールツの機動鎧僕とマルヨレイン>は速やかに接敵して街まで引きながら戦うことを求められる。メンバーは他にC級の冒険者が10名ほど、主に近接戦闘がそこまで得意ではないマルヨレインの護衛役だ。魔物の大半はD級害魔種のゴブリンなので、突出した雑魚を狩り続ける程度なら問題ないだろう。


 魔物大氾濫の開始から6時間ほどで僕たちはゴブリンの大群と接敵した。剣を払えば2体斃れ、火球を投げれば3体が焼け、土の槍で4体を串刺しにしては周りにたかるゴブリンの間を抜けていく。四方をゴブリンに囲まれ敵対心ヘイトをこれでもかと奪っておけば、後ろにいるC級冒険者たちもやりやすいだろう。

 マルヨレインとの連携は考えるまでもない。5年間ともにした冒険者生活は言うに及ばず、僕の剣の戦い方は10年にわたって見てきている筋金入りの妹なのだ。傷を負った次の瞬間には治癒されていても何も驚かない。

 昼食を挟みつつ6時間にわたって戦闘を続け、陽が落ちてゴブリンたちの活動が穏やかになったところで引き返して夜食を摂る。妹の作った野営食はいつもよりやや塩気が濃い。大抵の冒険者は味の濃い食料を好むのでそちらに合わせたのだろうか。

 昼間の戦闘で散々に血を啜った剣は予備としてストックしてあるものだが、それでも2本を使い潰した。事前経費をもらって数打ちを5本ほど買い足してきたのだが、それもどこまで持つだろうか。主兵装メインウエポンたる愛剣は、ゴブリンキング以外には使いたくないのだが……。そうなると明日一杯戦ってしまえば愛剣でゴブリンを斬る羽目になってしまう。それは避けるべきだろう。

 野営の見張りのタイミングを待って、僕はそろりと立ち上がる。あたう限り音を鳴らさぬように5分ほど歩いたとき、「どこに行くんですか、兄さん」と声をかけられた。振り返るまでもなく、マルヨレインだとわかる。


「クエストをこなしに行くんだよ、マルヨレイン」

「……たかがゴブリンキングに、わざわざ夜襲まで仕掛けて?」

「あぁ、今回ばかりはどうしても僕が仕留めなきゃならない。そのためにはちょっと持ってる剣の数が心許なくてね」

「……そう」


 振り向かなくてもわかる。妹の表情は翳っている。僕たちではゴブリンキングに負けることができないと知っているにも関わらず。

 だから、僕はそれに気づかないふりをする。


「じゃあ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、兄さん」


 結局僕は振り向かないままに駆け出した。街からも、マルヨレイン達からも遠い方向に立てば、夜襲を仕掛けたとしても被害が広がる心配はない。後ろを気にする必要もないので、昼間と違って進軍速度を調整する必要もない。今ならゴブリンキングに手が届く。

 装備の最終確認をして、僕はこの集団で最も大きな魔力の元へと駆け出した。






 ゴブリンキングの元へは2時間ほどでたどり着いた。できるだけ不要な戦闘を避けながらではあるが、密集したゴブリンを避けながら進んではどれだけ時間があっても足りない。数打ち1本を鈍に変えながら、僕はゴブリンを斬り捨てて走り抜けたのだ。

 途中でゴブリンたちの統制が乱れたのは、マルヨレインとC級冒険者たちがひきつけてくれたからなのだろう。心の中でこっそり彼女たちに謝りつつ礼を言った。おかげで2本を残してボスの元までたどり着けたのだから。

 初めて会ったゴブリンキングに、威圧感はない。これよりもっと強い相手とも戦ってきた。おそらく火魔法をぶち当てればそれだけで倒せてしまう。ゴブリンでは到底持てない大剣を掲げているが、立ち振る舞いを見れば剣技はマルヨレインにも劣るだろう。<ヘールツの機動鎧>の片割れと顔を合わせた時点で、敗北が確定する程度の実力しかない。

 だが、本当にそれでいいのだろうか。僕の20年をそんなにあっさり終わらせてしまっていいのだろうか。


 ――せっかくですから派手に打ち上げるといいと思います。


「珍しいね、【ガイド】がそんなことを言うなんて」


 ――これで<ヴェンデリン・ヘールツ>との生活も終わりですからね。【ガイド】自体は機械能力アプリスキルでも購入可能ですから、ソウルが溜まったらお試しください。


「おっと、それは良いことを聞いた。20年人生の半分も会話してるから、ないと違和感がすごそうでね」


 ――依存していただくために精一杯尽くさせていただきました。20年間ありがとうございました。それでは、ご武運を。


 ふっ、と【ガイド】が遠くなる感覚。終わりが近いからだろうか。

 僕は襲い掛かってくるゴブリンたちを一刀のもと切り捨てると、【土魔法】で巨大なリングを、【火魔法】で明かりを作る。僕のCALを考えれば、リングを破壊するのはマルヨレインでさえ難しいだろう。

 リングの中にいるのはゴブリンキングと取り巻きのゴブリンが3~40といったところ。壁を破壊しようとするもの、襲い掛かってくるもの様々だが、僕は襲い掛かってくるゴブリンたちを倒していく。壁を破壊しようとしているのは後回しでいいだろう。


「ゴギャアアアアアアアア!」


 それを見ていたキングが咆哮し、ゴブリンたちを統制する。先程までとは雲泥の差の連携で襲い掛かってくるゴブリンたちだが、いずれにせよ大した脅威ではない。【重心移動VI】があれば3時間だって回避し続けられるだろう。ゴブリンキングに当たらないように注意しながら10分も戦闘していれば、取り巻きのゴブリンたちは綺麗に塵になっていた。転がしておくと邪魔なので、斬った端から【火魔法】で焼いているのだ。

 これだけの舐めプをしながら息一つ上がっていない僕と、剣の狙いが甘くなり始めているゴブリンキング。どうやっても埋められないステータスの差がそこにはある。


「グギャアアアアアアアアアアアアアア!」


 叫べども叫べども配下は壁を越えられず、既に体力的な限界も近いゴブリンキングを、どうやって倒すか考える。初めてのゲームクリアには、やはり手ごたえが欲しい。剣で切り裂くのがいいだろう。

 幾合か剣を打ち合わせた後、のろのろと剣を振り上げようとするゴブリンキングを置き去りにして、僕は愛剣を振り抜きキングを真っ二つにした。


―――――


Congratulations!

ゴブリンキングを討伐しました!


▽目標達成:+20SWL

▽初回ログインボーナス:+50SWL

▽初回クリアボーナス:+100SWL

▽育成ボーナス:+8SWL

▼累計獲得ソウル:+158SWL

▽獲得ソウル増加:+15SWL

▼獲得ソウル:+173SWL


―――――


Soul:依光倫

位階:I


魂魄能力:【学習能力I】【獲得ソウル増加I】

精神能力:【算術II】【礼儀作法I】

機械能力:【異世界常識I】


KNW:I

INU:G

SWL:173


―――――


Hard:ヴェンデリン・ヘールツ

固有能力:【ガイド】

肉体能力:【魔力操作VII】【生活魔法VI】【身体強化V】【エメレンス語IV】【魔力感知VI】【剣術V】【重心移動VI】【火魔法V】【土魔法V】【回復魔法V】【耕作IV】【持久走VI】【毒耐性II】【病気耐性II】【気配察知II】【野営術II】【解体II】【水魔法I】【風魔法I】【盾術III】【槍術I】【気絶耐性I】【交渉I】【視覚強化I】【聴覚強化I】【麻痺耐性III】


Lv:134

MP:B

STR:C

VIT:B

DEX:D

AGI:D

CAL:A


―――――


【気配察知II】:動物の存在する気配を察知するスキル。視覚・聴覚・嗅覚を使用するのが主だが、空気の振動を感じることで取得するものもいる。ヴェンデリンの場合、【魔力感知】が優秀なため死にスキル。


【野営術II】:野営を行う際に必要な技能の集積スキル。IIもあれば極めて過酷な環境を除きほとんどの場所で快適な野営が可能。


【解体II】:魔物や動物の解体に関するスキル。冒険者として基本的な敵の解体が可能。


【水魔法I】:水に関連する魔法が扱えることを表すスキル。ヴェンデリンには適性がほとんどない。MP量によって前後するため、ヴェンデリンが使用する場合は強引に操作量を増やしている。


【風魔法I】:風に関連する魔法が扱えることを表すスキル。ヴェンデリンには適性がほとんどない。MP量によって前後するため、ヴェンデリンが使用する場合は強引に操作量を増やしている。


【盾術III】:盾に関する扱いを表すスキル。魔物大氾濫の際に連携訓練で習得した。大盾を使用して身を守り、魔法で後列を焼き払う戦術を得意とする。


【槍術I】:槍に関する扱いを表すスキル。魔物大氾濫の際に連携訓練で習得した。騎士見習い試験程度なら余裕で合格する腕前。


【気絶耐性I】:気絶に対する耐性が向上するスキル。ノックバックされにくくなる効果もわずかながら発揮される。


【交渉I】:冒険者として必要最低限の報酬交渉を可能とするスキル。本来であれば騎士爵の子であるヴェンデリンには交渉が必要な機会は訪れないが、大物貴族がやらかした際に諸々あって取得した。


【視覚強化I】:常人よりも視覚で得る情報量が多いことを表すスキル。ヴェンデリンの場合、高い【魔力感知】由来の魔力や温度のゆらぎを感知することができる。


【聴覚強化I】:常人よりも聴覚で得る情報が多いことを表すスキル。ヴェンデリンの場合、高い【魔力操作】を生かして遠方の音を聞き取ることができる。


【麻痺耐性III】:【雷魔法】や自然現象の雷などによる麻痺状態を低減するスキル。IIIであれば20%程度症状が緩和され、静電気に煩わされなくなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る