Act.1 ゴブリンキング討伐

①出生

 ――異世界安定化プログラムの起動を確認。

 ――ソウルスタビライザーを起動します。

 ――初回起動を確認、プレイモードを変更します。

 ――プレイモード:ソロプレイ。

 ――難易度設定:チュートリアルを選択。

 ――異世界安定化プログラムの起動が完了しました。

 ――よい異世界探訪を。


―――――


レギュレーション

世界設定:剣と魔法の世界

人生設計:冒険者

最終目標:ゴブリンキング討伐

固有能力:【ガイド】


―――――


 いつからか、長い間暗闇の中でじっとしていた。

 狭い。まるでドラム缶の中に押し込められているかのような狭さだ。

 僕は時折手足を伸ばそうとする。水中のような手ごたえのなさと、弾力のある膜のような壁。じたばたと動くとへそから紐のような何かがついていることがわかる。それが僕の世界。

 これが医者の言っていた「異世界」なのだろうか。それよりはむしろ……。

 ああ、たぶんそうだ。僕は今胎児になっているという方が自然な気がする。となると数か月間、僕はこの母体の中で暮らすことになるのだろうか。戻るタイミングはいつになるのだろう。


 ――このまま数か月間、胎児として暮らすことになります。また、こちらの世界での人生の長さ次第ですが、およそ10年を睡眠時間1時間として経験することが可能です。すなわち、こちらの世界で30年生きたとしても3時間程度の睡眠で済ますことが可能です。


 どこからか僕の疑問に対する答えが返ってきた。一体誰が胎児の僕に答えを返してくれるんだろう。


 ――失礼しました。私初回ログイン時固有能力の【ガイド】と申します。説明を兼ねて自己紹介させていただきたいと思いますので、「ステータス」と念じてみてください。


 疑問を投げかければ【ガイド】と名乗る女性の声はすぐに答えを返してくれる。

 彼女(?)が何者かはわからないけれど、どうせやることもないしと「ステータス」と念じる。目をつぶったままにも関わらず、視界には2枚のウィンドウが開かれた。


―――――


Soul:依光倫よりみつ・りん

位階:I


魂魄能力ソウルスキル:【学習能力I】

精神能力ソフトスキル:【算術II】【礼儀作法I】

機械能力アプリスキル:【異世界常識I】


KNW知識量:I

INU順応度:I

SWL所持ソウル:0


―――――


Hard:未設定

固有能力チートスキル:【ガイド】

肉体能力ハードスキル:【胎児】


Lv:1

MP魔力量:I

STR筋肉量:I

VIT頑健さ:I

DEX器用さ:I

AGI俊敏さ:I

CAL演算力:I


―――――


 見えた瞬間、思わず呻いてしまいそうになるほど項目が多かった。僕は迷わず【ガイド】に質問する。これはどうやって見ればよいのかと。


 ――お答えします。まず2枚のステータス画面ですが、Sowlから始まっているのは「睡眠時異世界探訪プログラム」使用者のステータス、Hardから始まっているのは異世界であなたが動かしているこの体のステータスになります。基本的には異世界にいる間はHard画面のみ参照すればよいでしょう。

 ――また、Hard画面は探訪先の異世界によって異なるステータスが表示されることがありますので、探訪時はできるだけ速やかに落ち着ける場所を探したのち、ステータスを確認することをお勧めいたします。


 何日かかけて【ガイド】から聞き出したステータス画面の見方は以下の通りだ。時間がかかったのは胎児ゆえ意識のある時間が相当に限られていたためである。


■Sowl画面

位階:魂の位階。詳細不明。以下スキルを除く全ての項目で評価値はS、A~Iの10段階評価。


魂魄能力ソウルスキル:魂が獲得したスキル。方法論など他のあらゆるスキルの取得・成長効率に関わるスキルが表示される。【学習能力I】はあらゆる知識習得能力がわずかに上昇する。学校教育の恩恵らしい。


精神能力ソフトスキル:精神が獲得したスキル。主に知識として得られたスキルが表示される。【算術II】は四則演算の他中学校前半程度の数学能力、【礼儀作法I】は失礼にならない程度の言動を行う能力らしい。


機械能力アプリスキル:「睡眠時異世界探訪プログラム」によって付与されたスキル。デフォルト付与されているのが【異世界常識I】で、これによって異世界ごとの常識を違和感なく整理することができるらしい。


KNW知識量:様々な世界で得ることができた知識の総量。

INU順応度:様々な世界でどれだけ順応することができたかを表す。

SWL所持ソウル:異世界探訪を繰り返すことで手に入れたソウルの力。探訪終了起床時に払われ、機械能力を購入することができるらしい。


■Hard画面

固有能力チートスキル:異世界探訪の度に1つだけ与えられる固有能力。今回の【ガイド】はあらゆる状況・質問に対して適切な答えを返してくれるらしい。


肉体能力ハードスキル:異世界での肉体の持つスキル。【胎児】はあらゆるステータス・耐性が大幅にダウンするらしい。出産を経て【乳児】に変更されるという。


Lv:RPGと言えばレベル。敵を倒すほか普段行わないことを行っても経験値が溜まって上昇するらしい。

MP魔力量:保有している魔力量。魔法の行使回数や魔法への耐性を表す。

STR筋肉量:肉体の力強さを表す。身体能力補助系の魔法を使えるとマッチョになりにくいとか。

VIT頑健さ:肉体の頑丈さを示す。

DEX器用さ:器用さを表す。手先だけでなく魔力操作や人間関係などにも影響がある。

AGI俊敏さ:肉体の俊敏さを表す。

CAL演算力:頭の良さや魔力操作能力を表す。魔法の威力や精密操作にも影響する。


 ……聞くだけで長かった。

 その上でじゃあ生まれるまで僕が何をすればよいかを考える。Sowl画面のステータスに関しては今は――というよりもこの世界では――できることがないので、Hard画面の各項目を検討する。


「んー……(とは言っても動けないもんなぁ……)」


 結局、MPを増やすかCALをつけるか……って話になるんだけど、どちらがおすすめとかあるんだろうか?


 ――CALを増やすのがおすすめです。MPを増やすためにはMPの消費を行う必要がありますが、現状ではMPは母体から供給されている量が一番多いです。不用意に消費すると母体ともども消耗する恐れがあります。

 ――一方体内の魔力操作によるCALの増加はMP効率を良質化するほか、思考可能な時間を延長することにもつながります。


 なるほど。じゃあその方針で。魔力操作の方法も教えてもらえる?


 ――もちろんです。まずは……






 初めて魔力操作をした日から3か月、母子ともども健康に生まれることができた。僕は存分に魔力操作の練習をしてCALの評価をFランクまで上げることに成功した。

 これは成人のCAL評価値と比べても遜色ない値らしいと聞いて少しばかりやりすぎた気がするけれど、なかったことにはできないので仕方がない。おかげで【魔力操作I】を習得した上【魔力操作II】まで成長できたのでよしとする。魔力操作自体も経験値を得られるのか、気づけばLvも4まで上がっていた。


 そして出生と言えばその後に来るのは命名だ。僕はヴェンデリンと命名された。もとの世界の名前が倫なので少しばかり被っているのが嬉しい。なお姓はヘールツ。姓があるので貴族の末席に加わることになる。

 とは言ってもヘールツ家は田舎の騎士爵だ。領地も持たないし、持っているのは屋敷と畑だけ。父母は昔冒険者だったらしく、周辺の治安維持と農業を営んで暮らしている。

 僕はそんなヘールツ家の長男として、いずれは屋敷を継ぐらしい。手柄を挙げて出世することもできるらしいが、【ガイド】曰くゴブリンキングを討伐した段階で異世界探訪は終了となるため難しいだろうとのことだった。

 何にせよ、ここから僕の異世界生活が始まるのだ。


―――――


Hard:ヴェンデリン・ヘールツ

固有能力:【ガイド】

肉体能力:【乳児】【魔力操作II】


Lv:4

MP:I

STR:I

VIT:I

DEX:I

AGI:I

CAL:F


―――――


【学習能力I】:学習を効率的に進めることができる技術を表すスキル。与えられた情報の整理などが上手くできるようになる。スキルの取得・成長にわずかに補正がかかる。


【算術II】:四則演算の他中学校前半程度の数学能力を持っていることを表すスキル。今回の世界では【算術I】を持っていれば商人として食っていけるレベル。


【礼儀作法I】:失礼にならない程度の言動を行うことができるスキル。II以上に上げるには上流社会での専門教育が必要。


【異世界常識I】:異世界での常識を理解・判断できるようになるスキル。【○○語】のスキルがなくてもあらゆる会話を聞き取ることができる。


【ガイド】:あらゆる状況・質問に対して適切な答えを返してくれるチートスキル。初回探索時限定。チュートリアルの案内役である。機械能力にも【ガイド】は存在し、ソウルを溜めれば購入可能だが、高い。


【胎児】:出生前の胎児であることを表すスキル。ステータス・耐性の大幅ダウン、母体の健康状態が自身の発育に影響、行動不可と大きなデメリットを抱える。出産を経ることで【乳児】に変化するスキル。


【乳児】:乳飲み子であることを表すスキル。ステータス・耐性が大幅ダウンする。離乳食のみで行動できるようになると【幼児】に変化するスキル。


【魔力操作II】:魔力の扱いに長けることを表すスキル。スキルレベルによって魔法を効率的かつ精密に扱うことができるようになり、その威力も増大する。

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