睡眠時異世界探訪黙示録
談儀祀
ソロプレイ編
プロローグ
診断結果 睡眠時異世界探訪症候群
「もしかしたら、君は睡眠時異世界探訪症候群かもしれませんね」
それが始まったのは僕が
次第に病状が悪化して、起床するたび滝のような汗が流れ、動悸息切れに苦しみ、遅刻しようと起きることができなくなった。学校でうたた寝でもしようものなら、3時間は起きれないまま気づけば保健室に寝かされていることも多かった。
そんなある日、起こしに来た母親が僕の呼吸と脈拍が薄いのを見て、死んだと誤解して救急車を呼ぶ騒ぎになった。毎朝のようにこんな騒ぎになっては受験どころではない。高校受験前になんとかしようと、僕はあちこちの病院をめぐることになった。
睡眠に関する専門医を中心に半年近くにわたって病院をたらいまわしにされたが、結局のところ僕がどういった状況なのかはまるで分からなかった。
だからその医者に仮とはいえ病名を宣告されたときは嬉しかったし、その直後で頭を埋め尽くしたのはクエスチョンマークの山だ。
「……異世界、ですか?」
「ええ、異世界です。睡眠時異世界探訪症候群。世界でもまだ2例しか確認されていない、謎の多い病気ですね。いえ、これが本当に疾患なのかさえ、私にはまだ判断ができないのですが」
医者曰く、睡眠時異世界探訪症候群とは人間を構成する3要素、肉体・精神・魂のうち精神と魂が遊離して異世界を訪ね歩く病気であるという。残された肉体の方はその活動を急激に休止し、脈拍や鼓動といった生命維持に必要な活動を最小限しか行わなくなってしまう。そのため、起床時には動悸や息切れが起こり、激しい発汗を伴ってしばらくの間動けなくなる症状が出るという。
また、精神と魂が異世界にあるために外的要因によって起床することが難しく、災害などの緊急時に難をきたす恐れがあるという。
「もっとも、これを調べたのは私ではないし、細かい部分については専門医から聞きかじっただけだ。もしも話を聞きたいというのならここに行くといい」
「ありがとうございます」
医者は机から名刺と紹介状を手に取り、僕に渡す。それから慌てたように、机の中から金属製のリングを取り出した。「そうそう、これを忘れちゃいけないんだった」と説明書のようなものと共に紹介状の上に乗せる。
「これはその専門医から預けられた治療補助具でね。夜寝る前に付けてほしい。もしそれが効果的なら、きっとその紹介状は役に立つだろう」
「はぁ……」
正直なところかなり胡散臭い。胡散臭いが、治療代金もまるで請求されなかった。これまでの通院の中で、不要なものを売りつけて稼ごうという詐欺みたいな医者も複数いたので、そのあたりは慎重に見極めている。
一応今日のところはお試しとして使ってみることにしよう。薬物が塗り込まれていて使ってると依存症が発生するとか恐ろしい展開も考慮に入れて、使うのは一晩だけ、両親にも話して了承を得る。明日の朝は目が覚めたら預かってもらうことにした。今までの闘病履歴もあるので、しばらくは様子見をすることになるだろう。
こうしてこの日、僕はこの珍妙なる腕輪をしたまま眠りに就くことになったのだ。
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