第21話 最後の裏切り

 午後の授業と夕方のHRも終わり、俺は急いで、真央と待ち合わせしている教室に向かう。日生の方はまだ教室に居たが、珍しく女子達と話していた。

 真央と相談する時に使っている空き教室に向かいながら、俺は色々考えながら向かっている。


(どうしよう。まさかいきなり、お互いが好きだと言いだしたら…)

(俺は観覧車で日生とキスが出来なかったから、その悶々もんもんが解消出来てない…)

(誰も来ない教室を幸いに、真央を押し倒して、階段を一気に駆け上がって仕舞うかも!?)


 そんな都合の良い展開は起き無いはずだが、さっきの真央からのメッセージを改めて見る。


(うん……。やはり、普段の真央が送るメッセージでは無いな)

(良い事は有っても、これ以上悪い事は起きないだろう…)


 まさかの展開もよぎったが真央からの性格上、そんな事が出来る子では無い!!

 俺はそう信じて、空き教室に向かった。


 空き教室に入るが、真央はまだ来ていないようだ。

 真央とは、これで3回目の相談(密会)に成る。

 俺は何時ものように、窓辺から見える景色を眺めていると、教室の扉が開く音がする。


『ガララ~~』


 何時もより、勢いが無い状態で教室の扉が開く。

 一瞬、誰か知らない人が来たかと思ったが真央だった。

 真央は静かに扉を閉める……


「良輔、待った…」


「いや、今来たところ…」


「そう…」


 真央の口調からして何時もの覇気が無い。どうしたのだろう?

 真央はゆっくりと俺の所に近づいて来る。

 俺は本当にまさかの展開だと感じて、心臓の鼓動が急に早くなるが……


「日生から全部聞いたよ…」

「良輔よりも、元彼の方が好きだって事も」


 同情を感じさせる口調で、真央は話し出す。


「非道いよな、真央!」

「日生があそこまで、自分勝手な女だとは知らなかったよ!」


 真央は俺の味方に成ってくれると思い込んで、日生の事を悪く言う。


「日生はやり過ぎだね…」


「本当だよ!」

「俺さ、今までずっと日生ばかり見ていたけど……真央の方が、俺との相性が良いのでは無いかと感じて―――」


 俺は真央に好意の気持ちを伝えようとするが、真央はその言葉をさえぎるように割り込んでくる。


「それでね、良輔!」

「私、良輔に伝えたい事があるんだ!!」


「えっ、それって、もしかして……」

(俺の心の中では『キタ―――』の状態がきた)

(まさか、真央も俺の事を意識していた!?)


 俺の脳は、快楽物質を出す準備を始めるが……


「良輔と日生との縁が切れるみたいだし」


「うっ、うん」


「私との縁も切って欲しいの!」


「喜んで!!……!?」

「てっ…えっ、なっ…何で……」


 俺の中では『私と付き合って欲しい!』の言葉が来る物だと思っていたのに『私との縁も切って欲しいの!』が来た。何がどうなっているんだ!?


 真央は寂しそうな顔をしながら話し出す。


「日生から言われたんだ」

「良輔とは今後、関わらないで欲しいと…」

「ネット上の繋がりも消して欲しいと言われた」


「そんなの断れば、良いじゃ無いか!!」

「真央は真央だろ!!」


「日生とは長い付き合いだし、良輔も見れば分かるけど、日生に親友が少ないのも知っているでしょ!」


「まっ、まあ、そうだけど……」


「私も良輔のこと嫌いじゃ無いよ」

「でね、私も日生の彼氏は、信用出来ないと感じているの!」


「一度別れたのに、どんな手を使ったかは知らないけど、復縁させる位だから、かなりの金品を日生に渡した可能性が有るの……」


「日生あれでも、服やアクセサリーとか結構好きだし、結構な値段がするバックやブランド物をいくつも持っているから」

「まぁ、私も日生に、流行物を教えちゃうから駄目だけど…」


「彼氏。大学生かフリーターだからな。金の自由が一番利く年代だし」

「その男……金品で日生を釣った可能性が有るか?」

「そりゃあ、金が無い高校生なんて、金品で一番釣りやすいからな!」


「そんな彼氏だから、飽きたら日生は捨てられると思うの。良輔の知っての通りの子だから」


「仮に捨てられた時、私と良輔が良い関係を持ってしまっていたら、日生は誰も頼る人が居なくなる」

「私にとって日生は我が儘わがままな妹みたい感じだし、日生も私を一番頼ってくれる」


「日生に新たな親友が恵まれれば別だけど、今の日生が間違った方向に進んでいても、私は日生を見捨てられない……」

「日生と良輔。どちらを取ると言われたら、私は日生を取る!!」


「……」


「だから、本当にごめん良輔!!」

「私は今の日生をほっとけない! 私が日生を捨てたら日生はダメな子に成る!!」


「真央は本当に親友思いなんだね…」

「俺さ…、好きに成る人を間違えたよ、真央を好きに成るべきだった」


「良輔…」


「真央。教室出る前に日生を見たけど、結構仲良く女子達と喋っていたぞ!」

「少しずつだが、日生も交友関係が生まれ出しているし、真央も、そんな極端な要求を飲まなくても良いはずだが」


「ごめん……」

「お昼休みの時間の時に、日生と約束しちゃったから」

「この教室来る直前に、SNSの私のプロフィールも削除したし…」


「えっ、SNSのプロフィール消したの!?」


 俺はスマートフォンを取り出し、SNSアプリを開いて、真央のプロフィールを見ようとするが……。こちらも綺麗に削除されていた。


「日生も真央も仕事が早いね」

「俺が日生に告白しなければ、良かったんだな…」


「良輔は悪くないよ。私が日生の我が儘を受け入れただけ」


「真央。最後に1つ聞いて良いか?」


「うん、良いよ」


「真央は俺の事どう思っている?」


「親友だよ!」

「男子にも沢山の親友が居るけど、良輔と話している時が一番落ち着く」


「そっか~~」

「真央。俺はお前との縁は切るが、それは一時的だ!」


「一時的では困るよ…」


「真央。最後まで聞いてくれ!」

「真央が日生を大事にしているのは、日生が頼って来るからだろ?」

「何かの拍子に、日生が頼って来なく成れば、そんな約束を守る必要は無いはずだ!」


「俺は日生とは二度と関わりたく無いが、逆に真央とは、これからもずっと関わって行きたい!! 一生だ!!」


「良輔……この場で、愛の告白されても、受け止めようが無いよ」

「凄く嬉しいけど…」


 真央もどうしたら良いのか判らないのだろう。

 縁を切りたいと言った割には、嬉し泣きをしている。

 良い意味で捉えれば良いはずだ!!


「俺は待って居るから」

「何時に成るかは分からないけど、良い返事を待っているよ!」


「良輔……本当にごめん!!」


 真央はその言葉を発すると、逃げるように教室から去って行く。

 俺はその時見た。真央は思いっきり泣いていた。

 真央の性格上、直ぐに涙を流す子では無いが、あぁ言った場面を見ると、真央も女性なんだと痛感した。


 こうして俺は、恋人と大親友を一気に失った。

 明日からの学校生活はに成りそうだが、それでは詰まらないから、大谷との距離を少し縮めてみるか。アニメ関連だが、一緒に買物に行った仲だ。

 そう言えばあいつ、PCパソコンにも詳しいと言っていたな。これを機会にPCデビューでもするか!


 真央には愛の告白!? をしてしまったため、異性絡みには手を出さない方が良いに決まっているし、しばらくは恋愛をしたいとは感じなかった。

 俺の新たなパートナーは、当面は2次元がパートナーと成りそうだ。

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