第16話 大観覧車 (2)

「何もしないなら……良いよ」


(いや、いや、カップルで観覧車に乗れば、本当に2人の時間なんだから、何か有るでしょ!! 絶対に!!)

(観覧車に乗って景色楽しみましたじゃ、小学生と同じ、いや、今の早生わせの時代、幼稚園児と同レベルに成るかも知れない…)


「大丈夫! 何もしないよ!!」

「2人で景色を楽しむだけだよ!!」


「分かった…」


 本当に数分前までは、はしゃいでいた彼女の笑顔が急に薄れてゆく……

 そんなにジェットコースターで締めたいのか!?

 何故、俺と観覧車に乗りたく無いのか分からないが、とにかく日生と観覧車に乗る事に成った。


 並んでいた遊具にも乗り終わり、時間的にも大観覧車が最後だろう。

 大観覧車は1周、15分位の時間を掛けて1周する。

 昼間の時間帯だけ有って、大観覧車の待ち時間は殆ど無かった。


 係員に直ぐに搭乗案内されて、俺と日生は観覧車の駕籠かごに乗り込んで、15分間の2人きりの時間が始まる。

 電車やバスの時見たいに、隣り合って座らずに、何故か対面で座って居る。


 俺が先に乗り込んで、日生が後から乗り込んだのだが、日生がその様に座った。

 観覧車の駕籠の扉は係員の手によって閉められて、ゆっくりと観覧車は上に向かって回り出す。


「まだ、昼間だから、周辺の景色が良く見えるね!」


「うん…」


「これが最後の遊具に成りそうだけど、今日は楽しかったね!」


「うん。楽しかった…」


 日生は自ら言葉を発しようとはせずに、俺の相槌あいづちばかりしている。


「日生。日生の隣に行っても良い?」


「……良いよ」


 言葉のニュアンス的に迷う所だが、此処で行かなければ男じゃ無い。俺は日生の横に座る……

 観覧車は後少しで、頂天を迎える場所まで来ていた。


「……」


「……」


 俺が日生の隣に座れたのは良いが、そこからお互いが無言に成ってしまう!?

 凄く声が掛けにくい状態に成ってしまった……

 本来なら、良い雰囲気に普通は成るはずだが、これがまた微妙な空気と成ってしまっている。お互い、恥ずかしいのだろうか!?


 これではとても、キスをする雰囲気では無さそうだ……。それでも俺は思い切って『日生の唇を強行突破するぞ!』と考え抜いた時に、日生がぼそっと喋る。


「何だか疲れた、寝る……。下に着いたら起こして…」


 それだけを言うと、日生は目を閉じて急に寝てしまう。


「日生。もうすぐ頂上だよ。景色見ないの?」


「前見たから、良い……」

「つまんないから…」


「!!!」


 俺はその言葉で感じ取ってしまった。


(やっぱり、日生は元彼と一緒にこの遊園地に来ていて、大観覧車にも乗ったんだ!!)

(景色も見てたみたいだから、元彼と観覧車内で『ピー』※の出来事で有ったのか!?)

(それとも観覧車内で、何か嫌な出来事でも起きたのだろうか!?)


 ※『ピー』自主規制


 嫌な出来事が本当に有ったのなら、観覧車に乗ったのは大失敗で有る。

 しかし、景色は『前見たから、良い……』と言うから、悪い出来事の方では無いはずだ!!


 きっと俺より『元彼との遊園地の方が楽しかった!』と思うと、俺は急に腹の底から怒りが湧いてきた……

 俺が今、日生に詰め寄って、語気の強い言葉を発してしまったら、最初で最後のデートに成るのは目に見えているだろう……


 遊園地のチケット代も決して安くないし、元々、乗り気で無い彼女を誘って、此処まで来たんだ!

 俺は怒りを抑えるために、大観覧車の真上から見える景色を、1人で眺めて心を落ち着かせた……

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