第7話 彼女の策略 (3)

 日生と話をし出してから、結構な時間が過ぎているなと俺は感じたので、スマートフォンをズボンのポケットから取り出し時刻を見る。後15分位で『情報』の授業が終わる。

 このままの状態では俺はもちろん、日生も真央も不幸になってしまう。

 やはり、ここは強く出るべきか……


「日生ちゃん」

「日生ちゃんは俺の事好きなんだよね?」


「うん。好きだよ!」


 日生は素直に言ってくれる。嬉しいが……

 しかし、逆に言えば『他の男と気軽に付き合うな!』と言いたかった。


「好きなら、俺のお願い聞いてくれるよね?」


「……聞くだけなら」


 フェイントをしかけてくる彼女。

 初心うぶじゃないこの女。何者なんだ!

 羊の皮を被ったオオカミか!! それでも言うしかない。


「その彼氏と別れてくれ! そして、きちんと俺と付き合おう!!」

「その方が、日生にも良いと思うし、真央も裏切らなくて済む!」


「う~ん…、?」


 ここで日生は予想外な手を出してきた。

 余裕な顔つきで悩む振りをする彼女。もはや遊ばれている!?


 まさかとは思いたくないが、日生は意外にも、異性に対するの経験値が高いのか!?

 いや、しかし…日生がクラス内でも、男子と話している場面は殆ど見た事がない。

 たまに陽キャラが日生にちょっかい出しても、彼女は作り笑いをして、その場を終わっているのが殆どだ。


(外と内(学校)で、顔を使い分けられていたら、判りようがない…)

(それでも、俺は日生が好きだし……)


「良輔はさ、私の事…悪い女と思っているでしょ!」


 日生は突然言い出す。


「へっ、まぁ……その、どうなんだろう?」


「良輔の顔見れば分かるよ!」

「こいつ、何者なんだの顔してるよ!」


 事実そうだが……。しかし、日生はそのまま話を続ける。


「みんな、やってるんだけどね…」

「でも、良輔には知られたく無かった。二股を知ったら、怒るのは分りきっていたし…」


「それは当然だよ。怒らない奇特な人なんて居ないよ。じゃあ、なんで……」


「さっき、言った通りだよ。みんながやっているから、私も良いかなと思った!」


「私の親。仕事の関係で休日通りの休みでは無いんだ……。でもさ、クラスの子達がどっか行ったとか聞いたら、私も行きたいじゃん!」

「でも、親の休日と私の休日が合う日は少ない……」


「私の自由で、何処か連れて行って欲しいなと思った時に、偶然、車持ちの今の彼氏が告白してきたの」


「良輔とは、仲の良い親友で居たかった……。親友なら誤魔化しが利く。でも、良輔は1つ上を求めてきた」

「良輔を彼氏にしたら、今の便利な彼氏とは別れなければ成らない。だから、思い切って振ったの……」


(思い切って俺を振るなよ……。そんなに便利なのか今の彼氏は?)

(みんなって言うのも主体性が無いし、ただの日生の我が儘わがままでは無いか!)


「私も人並み以上…ううん、それよりもっと沢山遊びたいし、楽しみたいよ!!」


「日生…」


 日生の言い分は分かった。たしかに一利は有るが、理解はしがたい……。俺が一途過ぎるのか……


「良輔」

「別れても良いけど、私の事大切にしてくれる?」


 日生は真顔で聞いてくる。俺は直ぐに即答する。


「もちろんだよ。日生」


「そっかぁ~。じゃあ、別れる…」

「勿体ないけど……」 (小声)


 真顔から、少しため息混じりの顔をしながらそう言う彼女。

 別れたくない素振りを見せつつ、別れてと強く言ったら、あっさり別れる宣言をする。本当に彼女の心の中が良く分からん……

 機会が有ったら、カウンセリングを受けさせた方が将来のためかも知れない。


 最後の方は小声で上手く聞き取れなかったけど、聞かなかった方が良い感じがした。


「でも、そんなに簡単に別れられる物なの?」


「うん、大丈夫じゃない?」


 あっけに取られる俺。今の恋愛ってこんなにドライなんだ。

 自分が逆の立場なら……いや考えるのは止そう。

 日生の現彼氏には、多少同情はするが、やはり日生を俺の彼女にしたい!


「別れられたら、連絡するね。だから、それまでは…」


「分かっているよ。彼氏から見たら俺は間男だからな!」


 俺は笑いながら言う。日生もそれにつられて笑う。


「あはは! 間男w 受けるwww」


「笑い事じゃないけどね……」


「でも、でも、たしかに良輔は間男だわw」

「ばれたら、修羅場だねwww」


 普段の大人しい彼女とは思えないほどのと、甲高い喋りをする。この子はどんな過去を背負って、ここまで生きて来たのだろうか?


 その後は、終業チャイムが鳴るまで、適当な話をしながら時間を潰して教室に戻った。

 3時間目の授業は当然欠課で、クラスのみんなに気づかれない様に、別々で教室に戻って来たつもりだが、クラスの連中はみんな察していた……


(今度は真央の方だな……。俺はそう考えつつ、4時間目の授業を受ける…)

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