第6話 彼女の策略 (2)

「良輔……。何度も言うけど、私には彼氏居るんだ…」


 ……何度、聞いても衝撃的な言葉だ!!

 頭が真っ白に成り、胸に何かが突き刺さる感じがして、そして、真央の言葉が思い浮かぶ。


『でも、私の見る限り、日生には彼氏は居ないと思うよ!』

『私もあの子とは付き合い長いからね~~!』


 でも、ここで真央を恨んでも仕方ない。


「あの言葉、やはり本当だったのか…」


「うん…」

「夏休みの短期アルバイトの時に、今の彼氏と知り合って、私のアルバイトの終わり頃、向こうから告白されたの……」


「そうなんだ…」


 夏休み……


 日生がアルバイトをしていたのは知ってはいたが、まさかそんな展開に成っているとは思いも依らなかった。


 もう、どうしたら良いか分らない……

 このまま『そうなんだ。ごめん…』と言って立ち去るべきか、それとも食い下がるべきか。

 しかし日生は、この場では思いにも依らない言葉を言う。


「でも、一番好きなのは良輔だよ…」


「えっ!?」


 日生は悲しそうな笑顔で言う。

『好きなのは良輔だよ…』は嬉しいけど、素直に喜べない!


「……」


(なにそれ!)

(彼氏が居るのに俺の事好き? それって、二股じゃん!!)


 嬉しいような悲しいような感情。どうしたら良いのだろう? 

 今すぐ真央を、此所に連れて来たい!!


「日生ちゃん。真央には何て言ったの? さっきの事みんな話した?」

「でも、そうしたら真央は彼処まで、からかえんよな?」

「俺、二股だもん!」


「真央には言ってない…」


 また、衝撃の事実を聞かされる!!

 何か、もう嫌になってきた……


「今朝『言った』って言ったよね!」


 俺は問い詰める様に聞いてしまう。

 優しい言葉とか、思いやりとか、そんな余裕は今の俺には無い!!


「真央には、良輔の事が好きとしか言ってない」

「彼氏の事も真央には一切話していない…」


「俺、昼ドラマの主人公の気分だわ…」


 俺は捨て台詞を吐くように言ってしまう。実際、昼ドラマは殆ど見た事無いが……


「そうだね…」


 そして、それを認める日生。彼女は昼ドラマを見ているのだろうか?

 だけど日生は、俺と真央を騙している。一体どうしたいのだろう?

 何が彼女をそうさせた!?


「日生ちゃん…。授業もう間に合わないね」

「2人とも遅刻じゃなくて欠課だね」


「うん……」


 3時間目の授業は『情報』。まぁ、欠課に成ってもあまり大きな影響はないが……彼女の気持ちは分った。

 俺の事が好きでも、彼氏が居るという事が…。でも、これでは何も解決にならない。

 まず、どうしたいか日生の気持ちを聞いて見る。


「日生ちゃんはどうしたい。この関係?」


「どうしたい?」

「改めて友達……じゃ、流石にもう駄目だよね?」


 関係を捨てたいと言った割にはえんを求めて来る!?

 流石に、この子は何がしたいのか分からない。だけど、これがれた縁なのか…?


「友達……何か、俺が告白した時と似ているね」


「有ったね!」


 告白した時も似た様なやり取りが有った。俺に好きと言った事で吹っ切れたのか? 

 日生に笑顔が少しずつ戻って来ていた…。ここは少し、妥協点を探ってみる。


「まぁ、彼氏が居るなら、俺も下手に手出しは出来ないけど、日生はその人の事本当に好きなの?」


 そうすると意外に日生は首を振る。


「好きじゃないの?」


“こくん”と日生は首をうなずかせる。


「別れようとは思わないの?」


「便利なんだ……」


『はっ? 何だ!』

 その『便利なんだ』の言葉!? 便利屋さんか! 

 色々と突っ込みたいが、俺はもう少し深く聞いて見る。


「えっ、便利とは…?」


「うん。彼氏年上なんだ……」

「車も持っていて、私の言うとおりに動いてくれる。なんか、勿体ないじゃん!」


 その言葉を聞いて俺は頭がクラッとする。俺の愛していた人が、まさかそんな子だったとは!?

 さっきの言葉も、嫌な顔せずにスラスラ喋っていたから、恐らく本音だろう……


「でも、やっぱり好きなのは俺?」


「うん! 良輔が一番好き!!」

「だから、良輔とは卒業したら付き合いたい!」

「それまでは友達で居よう!」


 満面の笑顔で答える日生。これが彼女の本性か……

 仮に卒業後、俺が日生と付き合っても本当に愛してくれるのか?

 アッシー君・貢ぐ君に為る可能性が非常に高い!?


「だからね良輔。真央にはこの事言わないで!」

「真央、正義感強いから怒ると思う…」


「いや、俺でも怒るよ」

「いくら、相手から告白されたと言っても、その人が哀れだよ」


「そんな事無いよ!!」

「何時もニコニコ私の言う事聞いてくれるよ! 私の側に居るだけで幸せだって!!」


 けろっと言う日生。もう、何が何だか分らなくなっていた。

 大人しい感じの女の子がここまで狡猾こうかつだと、何を信用して良いか分らなくなる。


 俺はこのまま日生との関係を続けて良いのか?

 それとも本性を見た以上、この子は捨てるべきか!


 俺の中では大きな決断が迫られていた。

 どの選択と結果が、お互いが幸せになれるかの……

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